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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第290話 出会ったのは『狼少年』でした
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眼前に姿を見せた仮称『狼男』だが、荒い息をしながらオレを睨み付けている。
その姿はまさしく元の世界でよく見てきた『半人半獣』の狼男そのものだ。
しかしどうして最初にすれ違った後は攻撃してこないんだ?
いや。よくよく見ると、その背には何本も矢がつきたち、毛皮はあちこちに傷が開き、かなりの血が流れている。
息も荒くて、どうも立っているのがやっとらしい。
オレをすり抜けていった突進だけで、かなり消耗した様子が伺える。。
そうだ。この手にべっとりとついた血からして、オレはコイツに怪我をさせられたはずなんだけど、痛みは最初に少しばかり感じただけだ。
そう思って改めて見てみると、こちらの身体はちょっとばかりかすり傷がついているだけで、こびりついている血はオレのものじゃない。
そうか。この『狼男』の傷口から流れている血が、かすめたときにオレの身についたんだ。
だったら相当な重傷だぞ。
いや。この様子からしてほとんど致命傷なんじゃなかろうか。
「ううう……ぐぐぐ……」
どうする? 相手はオレに対して威嚇の声を挙げ続けているぞ。
もしも先ほど猟師達に追われていたのが、コイツだったとしたらオレもその追っ手の一人だとでも思っているのだろうか。
ドルイド魔術で野生動物から先制攻撃を受けないオレだけど、あんな事をしてきたのだから、特別な存在なのだろう。
その場合、下手に逃げようとしたら、こいつは最後の力を振り絞り襲いかかってこないとも限らない。
ええい。仕方ない。
ちょっとどころではなく怖いけど、相手に知性がある事を期待して、オレが敵でない事を分かってもらおう。
そう思って近づくと、狼男はガクリとその頭を垂れ、そこで倒れ伏した。
どうやら限界だったらしい。
う~ん。このまま見捨ててとっと逃げ出してもいいのだけど、やっぱり気になる。
オレはひとまず近づいて狼男の様子をうかがうと、眼前で驚くべき変化が起きる。
狼男の全身を覆っていた体毛が見る見る消えていき、その口も小さくなり、並んでいた鋭い牙もどんどん引っ込んでいく。
しばしの後、オレの眼前に倒れていたのは、ほぼ全裸の少年だった。
服の代わりに全身に入れ墨を施しているが、年齢はオレよりも少し年下ぐらいだろうか。
どことなくかつてファーゼストで出会った精霊信仰の少年、アカスタに似た雰囲気が漂っている。
そうか。あの狼男の姿は魔法で己の姿を狼と人間の狼の中間形態に変化させていたのだろうな。本人が力尽きたので、魔法の効果も切れたんだ。
たぶん同じ精霊崇拝と言っても、アカスタのように行く先々で幾つもの精霊を礼拝しているのではなく、狼の精霊だけを崇拝しているタイプなんだろうな。
この負傷具合からして、狼男の時は相当な負傷を受けても、どうにか動き回れるのだろうけど、このままでは確実に命を落とすに違いない。
もしも出会わなければ、何でもなかったのだけど、出会ってしまったからには、瀕死の相手を知らん顔して立ち去るわけにもいかないのだ。
仕方ないので倒れている少年に【肉体の治癒】をかけると、その傷はあっという間にふさがり、呼吸も穏やかなものになる。
この少年はおそらくは、この地域で狼を崇拝して、山で狩りをして生活していた狩猟民族だったのだろうが、この地域の開発と文明化が進んだ結果として、取り残され殆ど『害獣』も同然の扱いをされてしまっているのだろうな。
いま見せた『狼男に変化する』能力は、戦いの場では助けになるかもしれないが、彼らの排除を正当化する理由になっているのは間違いない。
少しばかり戦闘能力が得られたところで、数の上では圧倒的な差がある以上、とても勝ち目などないのだ。
この少年やその一族には不本意な事だろうけど、信仰を捨てて文明社会に飲み込まれるか、それともこの地を離れるかの二択しかないだろう。
念のために周囲の様子を伺うが、月光に照らされたあたり一面に人影はないようだ。
もしも日没がもう少し遅かったら、間違いなく先ほどの猟師や木こり達にトドメを刺されていただろうな。
しばらくすると少年は目を覚まして、起き上がろうとする。
おっと。とりあえず『調和』をかけておいて、攻撃は出来ないようにしておこう。
こちらに向けられた瞳は常人とはやや違って縦に長い肉食獣のように思えた。
最初はやや困惑した様子がうかがえたが、目の焦点がオレに合ったところで、大きく跳躍して後ろに跳んだ。
狼男でなくとも結構、身体能力は高いようだが、そこで自分の身を確認して少し驚いた様子を見せる。
「これは……傷が……」
命を失いかねない瀕死の重傷だったはずが、意識が戻ったら残らず回復していたらそりゃ驚くだろうな。
「あなたの傷は治しておきましたよ」
「なんだと? お前が?」
「わたしの事はアルタシャと呼んで下さい。あなたの名前は?」
「……」
少年は少しばかり疑わしそうな視線を注いでくるが、オレが傷を治した事を信じたらしくゆっくりと近寄ってくる。
「俺の名はテルモーだ。それでなぜ、お前は俺の傷を治したんだ?」
「同じ人間なんだから、怪我をしていたら助けるのが当たり前でしょう」
「うん? 『同じ人間』だと? 俺とお前は別だ」
「そう言ってくるとは思ってましたよ」
どうせこんなヒューマニズムなんて通用しないとは思っているけど、それでも『同じ人間』というのは紛れも無いオレの本音だよ。
しかしテルモーの返答はいつものようにオレの予想をぶっちぎっていた。
「お前は『人間』だろうが、俺は『二本足の狼』だぞ。だから種族からして別だ」
テルモーは完全に真顔で断言した。
その姿はまさしく元の世界でよく見てきた『半人半獣』の狼男そのものだ。
しかしどうして最初にすれ違った後は攻撃してこないんだ?
いや。よくよく見ると、その背には何本も矢がつきたち、毛皮はあちこちに傷が開き、かなりの血が流れている。
息も荒くて、どうも立っているのがやっとらしい。
オレをすり抜けていった突進だけで、かなり消耗した様子が伺える。。
そうだ。この手にべっとりとついた血からして、オレはコイツに怪我をさせられたはずなんだけど、痛みは最初に少しばかり感じただけだ。
そう思って改めて見てみると、こちらの身体はちょっとばかりかすり傷がついているだけで、こびりついている血はオレのものじゃない。
そうか。この『狼男』の傷口から流れている血が、かすめたときにオレの身についたんだ。
だったら相当な重傷だぞ。
いや。この様子からしてほとんど致命傷なんじゃなかろうか。
「ううう……ぐぐぐ……」
どうする? 相手はオレに対して威嚇の声を挙げ続けているぞ。
もしも先ほど猟師達に追われていたのが、コイツだったとしたらオレもその追っ手の一人だとでも思っているのだろうか。
ドルイド魔術で野生動物から先制攻撃を受けないオレだけど、あんな事をしてきたのだから、特別な存在なのだろう。
その場合、下手に逃げようとしたら、こいつは最後の力を振り絞り襲いかかってこないとも限らない。
ええい。仕方ない。
ちょっとどころではなく怖いけど、相手に知性がある事を期待して、オレが敵でない事を分かってもらおう。
そう思って近づくと、狼男はガクリとその頭を垂れ、そこで倒れ伏した。
どうやら限界だったらしい。
う~ん。このまま見捨ててとっと逃げ出してもいいのだけど、やっぱり気になる。
オレはひとまず近づいて狼男の様子をうかがうと、眼前で驚くべき変化が起きる。
狼男の全身を覆っていた体毛が見る見る消えていき、その口も小さくなり、並んでいた鋭い牙もどんどん引っ込んでいく。
しばしの後、オレの眼前に倒れていたのは、ほぼ全裸の少年だった。
服の代わりに全身に入れ墨を施しているが、年齢はオレよりも少し年下ぐらいだろうか。
どことなくかつてファーゼストで出会った精霊信仰の少年、アカスタに似た雰囲気が漂っている。
そうか。あの狼男の姿は魔法で己の姿を狼と人間の狼の中間形態に変化させていたのだろうな。本人が力尽きたので、魔法の効果も切れたんだ。
たぶん同じ精霊崇拝と言っても、アカスタのように行く先々で幾つもの精霊を礼拝しているのではなく、狼の精霊だけを崇拝しているタイプなんだろうな。
この負傷具合からして、狼男の時は相当な負傷を受けても、どうにか動き回れるのだろうけど、このままでは確実に命を落とすに違いない。
もしも出会わなければ、何でもなかったのだけど、出会ってしまったからには、瀕死の相手を知らん顔して立ち去るわけにもいかないのだ。
仕方ないので倒れている少年に【肉体の治癒】をかけると、その傷はあっという間にふさがり、呼吸も穏やかなものになる。
この少年はおそらくは、この地域で狼を崇拝して、山で狩りをして生活していた狩猟民族だったのだろうが、この地域の開発と文明化が進んだ結果として、取り残され殆ど『害獣』も同然の扱いをされてしまっているのだろうな。
いま見せた『狼男に変化する』能力は、戦いの場では助けになるかもしれないが、彼らの排除を正当化する理由になっているのは間違いない。
少しばかり戦闘能力が得られたところで、数の上では圧倒的な差がある以上、とても勝ち目などないのだ。
この少年やその一族には不本意な事だろうけど、信仰を捨てて文明社会に飲み込まれるか、それともこの地を離れるかの二択しかないだろう。
念のために周囲の様子を伺うが、月光に照らされたあたり一面に人影はないようだ。
もしも日没がもう少し遅かったら、間違いなく先ほどの猟師や木こり達にトドメを刺されていただろうな。
しばらくすると少年は目を覚まして、起き上がろうとする。
おっと。とりあえず『調和』をかけておいて、攻撃は出来ないようにしておこう。
こちらに向けられた瞳は常人とはやや違って縦に長い肉食獣のように思えた。
最初はやや困惑した様子がうかがえたが、目の焦点がオレに合ったところで、大きく跳躍して後ろに跳んだ。
狼男でなくとも結構、身体能力は高いようだが、そこで自分の身を確認して少し驚いた様子を見せる。
「これは……傷が……」
命を失いかねない瀕死の重傷だったはずが、意識が戻ったら残らず回復していたらそりゃ驚くだろうな。
「あなたの傷は治しておきましたよ」
「なんだと? お前が?」
「わたしの事はアルタシャと呼んで下さい。あなたの名前は?」
「……」
少年は少しばかり疑わしそうな視線を注いでくるが、オレが傷を治した事を信じたらしくゆっくりと近寄ってくる。
「俺の名はテルモーだ。それでなぜ、お前は俺の傷を治したんだ?」
「同じ人間なんだから、怪我をしていたら助けるのが当たり前でしょう」
「うん? 『同じ人間』だと? 俺とお前は別だ」
「そう言ってくるとは思ってましたよ」
どうせこんなヒューマニズムなんて通用しないとは思っているけど、それでも『同じ人間』というのは紛れも無いオレの本音だよ。
しかしテルモーの返答はいつものようにオレの予想をぶっちぎっていた。
「お前は『人間』だろうが、俺は『二本足の狼』だぞ。だから種族からして別だ」
テルモーは完全に真顔で断言した。
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