異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
291 / 1,316
第11章 文明の波と消えゆくもの達と

第291話 『狼少年』とのあれこれ

しおりを挟む
 このテルモーという少年は自分達を『二本足の狼』だと考えていて、人間とは別の種族だって?
 ファンタジーでは人間と見た目はあんまり変わらない異種族も珍しくないけど、どう考えてもこの『狼少年』は人間だと思う ―― 狼少年というと『世界一有名な嘘つき』と勘違いされてしまいそうだ。
 あの狼少年は命を落としてしまったけど、こちらのテルモーは是非とも生き残って欲しいものだ。
 それはともかくテルモーの信仰を考えると。元の世界でも聖なる動物を崇拝している例はよくあったし、神話ならば動物が祖先という話も結構あったらしい。
 たぶんこっちの世界では魔法で自分の身をその動物に近づける事が出来るので、その能力故に『自分達は人間ではない』という発想になってしまうのだろう。
 そうか。『狼人間に変身する』のは一般人がその部族を『怪物』として排除する理由になると共に、テルモー達が文明や開発を拒む理由にもなっているんだな。

「とりあえず……テルモーが『二本足の狼』だと言うことは分かりました」
「それだけなのか? お前は俺が狼でも気にしないのか?」
「ええ。あなたが人間でも狼でも、どっちにしても傷を治した事に変わりはありませんよ」

 女の身のオレとしては『男は狼』と言えば、否応もなく別の危ない事を想像せざるを得ないわけだが、そうでないなら本人が狼を自称しようが何だろうがどうでもいいよ。

「お前……本当に変わっているな」
「そんな事よりもあなたの仲間はいまどこにいるのですか?」
「分からない。俺は群れからはぐれてしまったんだ」

 テルモーはいかにもつらそうに首を振る。

「その群れはテルモー以外に何人いたんです?」
「俺以外には子供を含めて一〇匹はいたな」

 数を数えるのも『匹』かよ。まあオレの場合は魔法で言語を変換しているから、言葉も通じているけどこっちの一般人とでは会話だけでも一苦労だろうな。
 意志疎通も困難で、文化や宗教、魔術もまるで異なっていて、しかも自分達が『二本足の狼』だと考えているとなると、わかり合うのは至難の業だなあ。

「俺たちの群れは、ご先祖様からずっとこの地で狩りをして生活をしていた。それなのに人間達がやってきて、勝手に森を切り開き動物を狩り、追い払い、そして俺たちまで狩ろうとするんだ」

 うう。思った通りだけど、これはオレにはどうする事も出来ない。

「あなたの言っている事は分かるつもりです。だけどこのままここにいても、大勢の人間に追い回されて最後には殺されてしまいますよ。テルモーもあなたの……群れに戻って、それからこの地を離れた方がいいです」

 もちろんテルモーからすれば、先祖代々この地にて貧しくとも誇り高く、自然と一体になってささやかに生きてきただけであり、それを一方的に追い払われるのは納得がいかないだろう。
 しかし文明社会に立ち向かったところで無駄死にするだけだ。
 残念ながらこの世界には『少数派の先住民が有する文化や権利を尊重する』などという考えは存在しないので、ここにいる農民や猟師達はテルモーを追い払うどころか殺す事すら良心の呵責もなく行うだろう。
 仮にファンタジーRPGの『冒険者』がいても、農民達の依頼で『二本足の狼』を殺して金を稼ぐ仕事になってしまうんだなあ。

「お前の言うことを聞くかどうかはともかく、確かに群れに戻るべき……」

 そう言ってテルモーは立ち上がり、そこでヘナヘナと崩れ落ちる。
 あれ? 傷は治っているはずだけど、疲労が激しいのだろうか。

「うう。腹が減った……」

 そういうことか。さすがのオレも怪我を治したり、疲労を回復させたりは出来るが、空腹だけはどうしようもない。
 しかし困ったな。
 オレの持っている食料は殆どが木の実や食べられる野草のたぐいだ。
 これは別にオレが菜食主義だからではなく、ドルイド魔術で探せる食料がそのタイプに限定されているのと、やっぱり魔法で友好的に近づいて来てくれる動物を殺すのは、何か『だまし討ち』に思えて気が引けるからなのだ。
 テルモーは本当に狼ではないはずだから、植物でも食べられるとは思うけど、ここは貴重な動物性タンパクとして買っておいた、僅かな干し肉を提供しよう。

「これを食べなさい」
「……」

 テルモーは警戒を解けないのか、渡された干し肉をしばし見つめ、それから匂いを嗅ぐなどしていたが、おもむろにかぶりついて、あっという間に平らげた。
 そしてそれからしばし、オレの方を物欲しげに見つめてくる。

「まだ……ないのか?」

 何とも現金だな。まあ干し肉一つで懐柔出来たわけではなく、テルモーの傷を治した事があったから信頼はしてもらえたのだろう。

「少しはありますけど、次の獲物を捕まえるまで、我慢して下さいよ」

 魔法で暴力的な行動に出られないようにしていなかったら、その『次の獲物』はオレになったかもしれないのだな。
 これは結構、怖いところでもあるな。

「ところでテルモーは人間を食べた事はあるんですか?」

 自分たちを『二本足の狼』だと言い切り、人間とは別の種族だと思っているテルモーの一族には当然、人肉食のタブーなどないだろう。
 そこはどうにか確認しておきたいところだ。

「残念だがまだ人間は食った事がないな」

 かなり本気で残念そうだが、まあ『二本足の狼』も食用にするだけなら、人間よりももっといい獲物がいるわけで、わざわざ食べるために人を襲ったりはしないか。
 それでも人肉食そのものが否定されているわけではなさそうだから、その話が針小棒大に取り上げられて、彼らを『害獣として駆除する』理由にはなっていそうだ。

「心配しなくてもお前はオレを助けてくれたから、食べたりはしないぞ」
「それはどうも」

 しかしこちらも大分、疲れてきた。
 何しろ長旅の最中だからな。魔法で疲労を回復させる事は出来るが、それにも限界はあるし、なによりも睡眠をとらなくていいわけではないのだ。

「ところで休むなら一緒に眠りましょう」

 さすがにテルモーにいつまでも同行する気は無いけど、一晩ぐらいは付き合ってもいいだろう。

「分かった」

 テルモーもどこか嬉しげだが、やっぱり一人ぼっちは心細かったのだろうな。
 オレとは『人間』と『二本足の狼』として別だと思ってはいるようだが、それでも一緒にいる相手がいたほうがよいのだろう。
 そんなわけでオレはただ一晩過ごすだけのつもりだったのだが、やっぱりそれだけで済まない事になるのだった。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...