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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第292話 狼の掟とは
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寝る前にオレはドルイド魔術で周囲に植物の結界を張る。
結界と言っても、敵意ある侵入者が入ったらオレに警戒のメッセージを送る程度の代物だけど、寝首をかかれる心配はない。
野生動物の類いはドルイド魔術によって、オレの方から攻撃しないと敵対はしてこないのでこの魔法では反応しないから、ゆっくりと眠れるのだ。
そして同じく魔法で植物を操作して寝床をつくるが、その間にもテルモーは既に草むらで丸くなって眠りについたようだ。
たぶん猟師達に追い回されて疲れていたんだろうな。そうやって丸まって眠っている姿を見るとどこか守ってあげたいという気にもなってくる。
まあこっちもとっとと眠るとしよう。
そしてしばしの後 ―― 妙な感触を受けてオレが目を覚ますと、そこには思わぬものがあった。
いつの間にやらテルモーがオレの寝床に忍び込んできていて、しかもこっちの胸に顔を埋めていたのだ。
おい! こら! 何を考えているこのエロガキ!
一瞬、ムカッときたがテルモーが心地よさそうに寝息を立てているのを見ると、オレの怒りも少し収まる。
どういうわけかちょっとばかりこのままでいてもいいかな、と言う気持ちがわき上がってくるのだ。
いやいや。それはマズいだろう。
今はただ寝ているだけだが、コイツが欲情して本当に『男は狼』だって事になればたまったものではない。
仕方ない。少しばかり名残惜しいような気もするが、テルモーを起こすとしよう。
「ちょっとテルモー……起きなさい」
「なんだ?」
さすがに野宿が当たり前の狩猟民族らしく、ちょっとした事ですぐ目を覚ますのだな。
しかしすぐ目の前に女の胸 ―― オレのだけど ―― があるのを見ているはずだがまるで動揺しないな。
寂しさからオレの寝床に忍び込んで来たのは分かるが、コイツにそっちの方の欲望はないのか?
「テルモーは……その……何も感じないの?」
オレが通じるかどうか分からない曖昧な質問をすると、テルモーは急に真顔になる。
「なんだ? お前は俺が『獣姦』するとでも思っているのか?」
「はあ?」
「断っておくが我ら『二本足の狼』にとって、獣姦は死に値する大罪だ」
ああそうか。こいつらは自分達を人間とは別種だと思っているんだった。
だから見た目が同じでも、人間と交わるのはタブーと見なしているんだ。しかしそれでも死罪とは厳しすぎるだろ。
そしてここでテルモーは急に赤面する。
「もしも……お前が望むなら『二本足の狼』に入れてやってもいいぞ」
え? 彼らの認識では別種族のはずなんだけど、人間でも部族に入れるの?
「そんな事が出来るですか?」
「我らが与えし試練をくぐり抜け、始祖精霊たる『大いなる狼』に魂を捧げれば、精霊がその魂を鍛え上げて『二本足の狼』にしてくれるのだ」
なるほど。彼らの始祖精霊を崇拝すれば、さきほどテルモーが見せたように『狼形態』へと変身できる能力が得られるので、それで彼らと同じ『二本足の狼』になったと見なされるわけか。
偏狭なようでそれなりに寛容な部分もあるらしい。
「試練というのはどういう事をするんですか?」
「なあに大した事では無い。我らと共に野山を駆け巡り、共に狩りをして暮らし、その後で始祖精霊と対面するだけだ」
まあ彼らの同族となるなら、当然かもしれないけど簡単な事じゃないだろうな。
いや。始祖精霊との対面となると失敗したらどうなるか――
「その試練に合格しなかったら……」
「もちろん死ぬ。もしも『大いなる狼』に気に入られなかったら、その身は貪り喰われる」
うげえ。予想通りではあるけど、やっぱりどん引きだ。
そしてオレの表情に気付いたのかテルモーは安心させるように言い切る。
「仮に試練に失敗しても心配する事は無いぞ。我らが『大いなる狼』は、それでもその魂を受け入れるからな」
「それって……もしかして……」
「そうだ。試練に失敗して命を落としても、そのものは次こそ我ら『二本足の狼』として生まれ変わる。だからその死はむしろ喜ぶべき事なのだ」
やっぱりそうくるか。
まあ現実に『二本足の狼』に生まれていないのに、彼らの同族になろうとする人間は殆どいないだろうけど、こんな過酷な入信条件では新規加入者なんかないに等しいだろう。
今まで出会った信徒組織の多くは、勢力の拡大を望んでいたけど彼らにはそんなつもりはさらさらないということか。
「どうだ。アルタシャ。お前も我らの同族とならないか?」
善意で勧めてくれているのは明らかだけど、そんなの真っ平です。
ここで正面から否定するのも角が立ちそうなので、適当に話題をすり替えよう。
「ところで他にもあなた達には犯してはならない罪は幾つもあるんでしょうね?」
ホンの少しの怖い物見たさと、あと迂闊にテルモーを怒らせる事が無いようにちょっとばかり確認が必要だな。
「そうだな。死に値する罪はさっき言った獣姦以外に、同族殺しに『共食い』と――」
予想はしていたけど、彼らにとって『共食い』のタブーは人間ではなく狼に対して適用されるらしい。
「後は……大いなる狼への裏切りだ」
それはつまり自分達の信仰を捨てて『人間』となるのも罪だということか。
「特に許しがたいのは――」
ここでテルモーの表情が一気に険しくなり、弾けるように跳び上がる。
なんだ? オレが何か怒らせるような事でも言ったのか?
いや。違うぞ。
テルモーはオレとは全く別方向を睨んでいるが、その身は見る見る毛皮に覆われ、牙が伸びで先ほどの『狼男』モードへと変化する。
「ウォォォォォ!」
牙の並んだ口から発せられる、テルモー威嚇の叫びが夜空に高らかに響き渡る。
そしてオレがテルモーの視線の方向に目をやると、その先の小高い丘では月光を浴びて、銀色に輝く一頭の獣がそびえていたのだった。
結界と言っても、敵意ある侵入者が入ったらオレに警戒のメッセージを送る程度の代物だけど、寝首をかかれる心配はない。
野生動物の類いはドルイド魔術によって、オレの方から攻撃しないと敵対はしてこないのでこの魔法では反応しないから、ゆっくりと眠れるのだ。
そして同じく魔法で植物を操作して寝床をつくるが、その間にもテルモーは既に草むらで丸くなって眠りについたようだ。
たぶん猟師達に追い回されて疲れていたんだろうな。そうやって丸まって眠っている姿を見るとどこか守ってあげたいという気にもなってくる。
まあこっちもとっとと眠るとしよう。
そしてしばしの後 ―― 妙な感触を受けてオレが目を覚ますと、そこには思わぬものがあった。
いつの間にやらテルモーがオレの寝床に忍び込んできていて、しかもこっちの胸に顔を埋めていたのだ。
おい! こら! 何を考えているこのエロガキ!
一瞬、ムカッときたがテルモーが心地よさそうに寝息を立てているのを見ると、オレの怒りも少し収まる。
どういうわけかちょっとばかりこのままでいてもいいかな、と言う気持ちがわき上がってくるのだ。
いやいや。それはマズいだろう。
今はただ寝ているだけだが、コイツが欲情して本当に『男は狼』だって事になればたまったものではない。
仕方ない。少しばかり名残惜しいような気もするが、テルモーを起こすとしよう。
「ちょっとテルモー……起きなさい」
「なんだ?」
さすがに野宿が当たり前の狩猟民族らしく、ちょっとした事ですぐ目を覚ますのだな。
しかしすぐ目の前に女の胸 ―― オレのだけど ―― があるのを見ているはずだがまるで動揺しないな。
寂しさからオレの寝床に忍び込んで来たのは分かるが、コイツにそっちの方の欲望はないのか?
「テルモーは……その……何も感じないの?」
オレが通じるかどうか分からない曖昧な質問をすると、テルモーは急に真顔になる。
「なんだ? お前は俺が『獣姦』するとでも思っているのか?」
「はあ?」
「断っておくが我ら『二本足の狼』にとって、獣姦は死に値する大罪だ」
ああそうか。こいつらは自分達を人間とは別種だと思っているんだった。
だから見た目が同じでも、人間と交わるのはタブーと見なしているんだ。しかしそれでも死罪とは厳しすぎるだろ。
そしてここでテルモーは急に赤面する。
「もしも……お前が望むなら『二本足の狼』に入れてやってもいいぞ」
え? 彼らの認識では別種族のはずなんだけど、人間でも部族に入れるの?
「そんな事が出来るですか?」
「我らが与えし試練をくぐり抜け、始祖精霊たる『大いなる狼』に魂を捧げれば、精霊がその魂を鍛え上げて『二本足の狼』にしてくれるのだ」
なるほど。彼らの始祖精霊を崇拝すれば、さきほどテルモーが見せたように『狼形態』へと変身できる能力が得られるので、それで彼らと同じ『二本足の狼』になったと見なされるわけか。
偏狭なようでそれなりに寛容な部分もあるらしい。
「試練というのはどういう事をするんですか?」
「なあに大した事では無い。我らと共に野山を駆け巡り、共に狩りをして暮らし、その後で始祖精霊と対面するだけだ」
まあ彼らの同族となるなら、当然かもしれないけど簡単な事じゃないだろうな。
いや。始祖精霊との対面となると失敗したらどうなるか――
「その試練に合格しなかったら……」
「もちろん死ぬ。もしも『大いなる狼』に気に入られなかったら、その身は貪り喰われる」
うげえ。予想通りではあるけど、やっぱりどん引きだ。
そしてオレの表情に気付いたのかテルモーは安心させるように言い切る。
「仮に試練に失敗しても心配する事は無いぞ。我らが『大いなる狼』は、それでもその魂を受け入れるからな」
「それって……もしかして……」
「そうだ。試練に失敗して命を落としても、そのものは次こそ我ら『二本足の狼』として生まれ変わる。だからその死はむしろ喜ぶべき事なのだ」
やっぱりそうくるか。
まあ現実に『二本足の狼』に生まれていないのに、彼らの同族になろうとする人間は殆どいないだろうけど、こんな過酷な入信条件では新規加入者なんかないに等しいだろう。
今まで出会った信徒組織の多くは、勢力の拡大を望んでいたけど彼らにはそんなつもりはさらさらないということか。
「どうだ。アルタシャ。お前も我らの同族とならないか?」
善意で勧めてくれているのは明らかだけど、そんなの真っ平です。
ここで正面から否定するのも角が立ちそうなので、適当に話題をすり替えよう。
「ところで他にもあなた達には犯してはならない罪は幾つもあるんでしょうね?」
ホンの少しの怖い物見たさと、あと迂闊にテルモーを怒らせる事が無いようにちょっとばかり確認が必要だな。
「そうだな。死に値する罪はさっき言った獣姦以外に、同族殺しに『共食い』と――」
予想はしていたけど、彼らにとって『共食い』のタブーは人間ではなく狼に対して適用されるらしい。
「後は……大いなる狼への裏切りだ」
それはつまり自分達の信仰を捨てて『人間』となるのも罪だということか。
「特に許しがたいのは――」
ここでテルモーの表情が一気に険しくなり、弾けるように跳び上がる。
なんだ? オレが何か怒らせるような事でも言ったのか?
いや。違うぞ。
テルモーはオレとは全く別方向を睨んでいるが、その身は見る見る毛皮に覆われ、牙が伸びで先ほどの『狼男』モードへと変化する。
「ウォォォォォ!」
牙の並んだ口から発せられる、テルモー威嚇の叫びが夜空に高らかに響き渡る。
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