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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第293話 巻き起こる『狼同士』の争いに
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月光を浴びてきらめくその獣の美しさは、オレも思わず目を奪われるものだった。
よくよく見ると相手はどうも『狼』ではあるらしい。
しかしそれ以外にはその身の発する威厳や美しさのいずれも、普通の野生動物とはまるで違う存在なのは明らかだった。
しかもその全身からほのかに発する燐光は何らかの魔法によるものだ。
テルモーがさきほどのから威嚇の声を上げているのは、あの銀色の狼に対するものなのは間違いないだろう。
しかし同じく狼のはずなのに、どうしてここまで警戒、というよりはむしろ敵視しているのだろうか。
「テルモー。あれはいったい……」
「ウォォォォ!」
オレが問いかけようとした時に、狼男形態のテルモーは弾けるように駆け出した。
おい。ちょっと待て。
どうみても久しぶりにあった同族との喜ばしい邂逅というわけではなさそうだな。
そう思った瞬間、二匹の獣、もとい一人と一匹はぶつかり合い、転げまわる。
周りにはどちらのものか分からない鮮血が飛び散り、激しい取っ組み合いと噛みつきあいが引き起こされる。
これはいったいどういうことなんだ?
わけが分からないけどけど、どう見ても『エサになる動物を狩っている』のではなく、お互いを敵として戦っているようだ。
だけどどうする?
オレが普段使っている『調和』は知性のあるもの同士での戦いは止められるけど、テルモーはともかく相手がただの獣ならばどうしようもないぞ。
いや。相手が本当にただの獣かどうかは分からない。
ここはこの銀色の狼に知性があることを期待しよう。
オレが精神を集中して『調和』を投射すると、テルモーと銀色狼は共に動きを止める。
おお。やっぱり効いてくれたか。
とにかく今はお互いにこれ以上、怪我をしないように引き離すしかないな。
「テルモー。とにかく下がりなさい」
オレは普段使っている『応急手当』の魔法をテルモーにかけ、次いで荒い息でこちらを睨み付けている銀色の狼にも同じものをかける。
これで双方ともに体についていた小さな傷が治ったが、テルモーは憤慨した様子だ。
ただ先ほどの激しい戦いの割には、お互いの傷は少ない。
テルモーは魔法で狼化する事で自分の身体を強化しているわけだが、銀色の狼も同じように感じられるな。
「なぜだ? どうしてお前はそんな奴まで助ける」
「いや。そもそもなぜテルモーはこの狼と戦っているんですか?」
そりゃまあ狼同士でも縄張りだとか異性を巡って争う事ぐらいはあるだろう。しかし先ほどの殺意むき出しの争いはそんな生やさしいものではなかった・
「こいつら偉大な『大いなる狼』を貶める輩の手先だ。許すワケにはいかん」
「え? 手先……という事はひょっとして……」
つまりこの『銀色狼のご主人様』がいるって事だよね。
オレが不吉な言葉を受けて不安を抱いたのとほぼ同時に、横合いから静かな声がかけられてくる。
「下がりなさい。銀月」
ここで『銀月』と呼ばれたらしい狼は駆け出し、その先には人影が一つ立っていた。
姿を見せたのはテルモーと同じくその全身に入れ墨を施した半裸の少女だ。
年齢はテルモーよりも少し上ぐらいだろうか。
それを見てテルモーは蔑みと敵意の混じった言葉を吐き捨てる。
「やはりいたか……道を踏み外した『惑し者ども』め」
「このようなところで『呪われし者』に出会うとは、これも我らが『大いなる狼』のお導きなのでしょうね」
「ふざけるな! お前たちのようなまがい物が始祖たる『大いなる狼』の名を口にするだけで虫唾が走るわ!」
なんだ? こいつら不倶戴天の仇敵関係というやつなのか?
テルモーが口にした『惑いし者ども』も少女が口にした『呪われし者』もあきらかに相手を蔑んだ言い方だ。
今は口論で済んでいるが、もしもオレが『調和』をかけていなかったら、間違いなくこの場で殺し合いになっていただろう。
とにかく今は状況を把握するしかあるまい。
「あのすみません。わたしはアルタシャと呼んで下さい。それであなたは一体どなたなんでしょうか?」
オレが割って入った事で、少女は怪訝な表情を浮かべる。
やはりこの『狼少年少女』に関わろうとする人間は、珍しいどころの騒ぎではないのだろうな。
しばしの沈黙の後、ようやく少女は口を開く。
「我が名はミキュー。そしてこちらは我が『狼の兄弟』である銀月よ」
ミキューと名乗った少女は自分の連れていた銀色の狼を指ししめす。
半裸で刺青に覆われた見た目といい、その振る舞いといい、やはりテルモーとどこか共通点を感じさせるものだ。
それに狼を引き連れ、自分の『兄弟』と呼んでいるところを見ても、同じ『二本足の狼』としか思えないのだがよく考えると違いもある。
テルモーの場合
・自らの身を魔法で狼と化す。狼に変化している間はその力を得て、かなりタフになるようだ。
ミキューの場合
・狼を同族として連れている。先ほどの銀月の様子からして魔法で狼を強化しているらしい。
猛烈に嫌な予感がしてくるが、こういう場合どんなパターンなのかこれまでの経験から明らかだ。
「あのう……ひょっとしてあなた方はどちらも自分達こそが『本当の二本足の狼』だと主張しているんですか?」
「当たり前だ!」
「当然の事でしょう!」
テルモーとミキューは揃って答える。
ああ。やっぱりこうなっているのか。
彼らはどちらも始祖精霊として『大いなる狼』を崇拝し、自分達を『二本足の狼』だと思っているが、テルモーの派閥は『魔法で自分達の身を狼に近づける』事を選択し、ミキューの派閥は『狼を友として、魔法で強化する』道を選んだんだ。
しかしその路線闘争の結果、どちらも自分達こそ正当だと信じ、お互いを『惑いし者』『呪われし者』と蔑み、憎み合っているという寸法か。
文明社会に追われ、かり出される悲劇的な少数民族なのに、オレから見れば実に下らないこと ―― しかし彼らにとっては命がけ ―― で互いに争っているなんて、よくある話なのかもしれないのだけど、どうにかならないのだろうか。
他人事ながら頭を抱えたくなったよ。
よくよく見ると相手はどうも『狼』ではあるらしい。
しかしそれ以外にはその身の発する威厳や美しさのいずれも、普通の野生動物とはまるで違う存在なのは明らかだった。
しかもその全身からほのかに発する燐光は何らかの魔法によるものだ。
テルモーがさきほどのから威嚇の声を上げているのは、あの銀色の狼に対するものなのは間違いないだろう。
しかし同じく狼のはずなのに、どうしてここまで警戒、というよりはむしろ敵視しているのだろうか。
「テルモー。あれはいったい……」
「ウォォォォ!」
オレが問いかけようとした時に、狼男形態のテルモーは弾けるように駆け出した。
おい。ちょっと待て。
どうみても久しぶりにあった同族との喜ばしい邂逅というわけではなさそうだな。
そう思った瞬間、二匹の獣、もとい一人と一匹はぶつかり合い、転げまわる。
周りにはどちらのものか分からない鮮血が飛び散り、激しい取っ組み合いと噛みつきあいが引き起こされる。
これはいったいどういうことなんだ?
わけが分からないけどけど、どう見ても『エサになる動物を狩っている』のではなく、お互いを敵として戦っているようだ。
だけどどうする?
オレが普段使っている『調和』は知性のあるもの同士での戦いは止められるけど、テルモーはともかく相手がただの獣ならばどうしようもないぞ。
いや。相手が本当にただの獣かどうかは分からない。
ここはこの銀色の狼に知性があることを期待しよう。
オレが精神を集中して『調和』を投射すると、テルモーと銀色狼は共に動きを止める。
おお。やっぱり効いてくれたか。
とにかく今はお互いにこれ以上、怪我をしないように引き離すしかないな。
「テルモー。とにかく下がりなさい」
オレは普段使っている『応急手当』の魔法をテルモーにかけ、次いで荒い息でこちらを睨み付けている銀色の狼にも同じものをかける。
これで双方ともに体についていた小さな傷が治ったが、テルモーは憤慨した様子だ。
ただ先ほどの激しい戦いの割には、お互いの傷は少ない。
テルモーは魔法で狼化する事で自分の身体を強化しているわけだが、銀色の狼も同じように感じられるな。
「なぜだ? どうしてお前はそんな奴まで助ける」
「いや。そもそもなぜテルモーはこの狼と戦っているんですか?」
そりゃまあ狼同士でも縄張りだとか異性を巡って争う事ぐらいはあるだろう。しかし先ほどの殺意むき出しの争いはそんな生やさしいものではなかった・
「こいつら偉大な『大いなる狼』を貶める輩の手先だ。許すワケにはいかん」
「え? 手先……という事はひょっとして……」
つまりこの『銀色狼のご主人様』がいるって事だよね。
オレが不吉な言葉を受けて不安を抱いたのとほぼ同時に、横合いから静かな声がかけられてくる。
「下がりなさい。銀月」
ここで『銀月』と呼ばれたらしい狼は駆け出し、その先には人影が一つ立っていた。
姿を見せたのはテルモーと同じくその全身に入れ墨を施した半裸の少女だ。
年齢はテルモーよりも少し上ぐらいだろうか。
それを見てテルモーは蔑みと敵意の混じった言葉を吐き捨てる。
「やはりいたか……道を踏み外した『惑し者ども』め」
「このようなところで『呪われし者』に出会うとは、これも我らが『大いなる狼』のお導きなのでしょうね」
「ふざけるな! お前たちのようなまがい物が始祖たる『大いなる狼』の名を口にするだけで虫唾が走るわ!」
なんだ? こいつら不倶戴天の仇敵関係というやつなのか?
テルモーが口にした『惑いし者ども』も少女が口にした『呪われし者』もあきらかに相手を蔑んだ言い方だ。
今は口論で済んでいるが、もしもオレが『調和』をかけていなかったら、間違いなくこの場で殺し合いになっていただろう。
とにかく今は状況を把握するしかあるまい。
「あのすみません。わたしはアルタシャと呼んで下さい。それであなたは一体どなたなんでしょうか?」
オレが割って入った事で、少女は怪訝な表情を浮かべる。
やはりこの『狼少年少女』に関わろうとする人間は、珍しいどころの騒ぎではないのだろうな。
しばしの沈黙の後、ようやく少女は口を開く。
「我が名はミキュー。そしてこちらは我が『狼の兄弟』である銀月よ」
ミキューと名乗った少女は自分の連れていた銀色の狼を指ししめす。
半裸で刺青に覆われた見た目といい、その振る舞いといい、やはりテルモーとどこか共通点を感じさせるものだ。
それに狼を引き連れ、自分の『兄弟』と呼んでいるところを見ても、同じ『二本足の狼』としか思えないのだがよく考えると違いもある。
テルモーの場合
・自らの身を魔法で狼と化す。狼に変化している間はその力を得て、かなりタフになるようだ。
ミキューの場合
・狼を同族として連れている。先ほどの銀月の様子からして魔法で狼を強化しているらしい。
猛烈に嫌な予感がしてくるが、こういう場合どんなパターンなのかこれまでの経験から明らかだ。
「あのう……ひょっとしてあなた方はどちらも自分達こそが『本当の二本足の狼』だと主張しているんですか?」
「当たり前だ!」
「当然の事でしょう!」
テルモーとミキューは揃って答える。
ああ。やっぱりこうなっているのか。
彼らはどちらも始祖精霊として『大いなる狼』を崇拝し、自分達を『二本足の狼』だと思っているが、テルモーの派閥は『魔法で自分達の身を狼に近づける』事を選択し、ミキューの派閥は『狼を友として、魔法で強化する』道を選んだんだ。
しかしその路線闘争の結果、どちらも自分達こそ正当だと信じ、お互いを『惑いし者』『呪われし者』と蔑み、憎み合っているという寸法か。
文明社会に追われ、かり出される悲劇的な少数民族なのに、オレから見れば実に下らないこと ―― しかし彼らにとっては命がけ ―― で互いに争っているなんて、よくある話なのかもしれないのだけど、どうにかならないのだろうか。
他人事ながら頭を抱えたくなったよ。
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