異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第11章 文明の波と消えゆくもの達と

第296話 どうにか仲良くなれそうな糸口が

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 テルモーは別れた自分の部族と合流するつもりはなかったようだが、ミキューの方はどうなのだろうか。
 見ると相変わらず疲れているようで、かなり蒼い顔をしているな。
 まあ死にものぐるいで逃げ回っていたのだから、五分や十分で回復する方がおかしいのだけど。
 普段なら【疲労回復】スタミナをかけるところだけど、テルモーと喧嘩を再開されると面倒なのでそのままにしていたのだ。

「ミキューの方の仲間は――」
「……それについては何も言わないで」
「え?」

 彼女から立ち上る雰囲気はかなりヤバそうだ。全身から『その件については何も答えたく無い』と言わんばかりのオーラが漂っている。
 先ほどの話だと彼女の部族は人間に襲われてちりじりになったそうだけど、ただそれだけでは無い気がするぞ。
 ひょっとしたら--
 オレはなるだけテルモーには聞こえないよう、口を寄せて小声でミキューに話しかける。

「もしかして、あなたの部族から裏切り者が出たんじゃないですか?」
「!」

 ミキューは何も答えなかったが、反射的にこちらを振り向いた時の表情がなによりも雄弁に、彼女の部族に起きたことを物語っていた。
 恐らく彼女の部族からは、文明社会に寝返って同胞を狩るのを手伝う側に回った者が出たのだろう。
 狼と共に自然の中で厳しい狩猟生活をするよりも、文明社会での豊かな生活を望み、その対価として、開発に抵抗する同胞の命を差し出したに違いない。
 場合によってはちょっとした装身具だとか、酒だとか、オレから見たらバカバカしいほど僅かな報酬で仲間を売ったかもしれないぞ。

「やっぱり……そうでしたか」

 同じ『二本足の狼』として共に厳しい生活を送っていた仲間に売られ、一族がバラバラになり、下手をすればミキューが最後の一人になってしまったかもしれないのだ。
 そんな事は思い出すだけで苦痛だろう。
 何とも悲劇的だけど、やっぱりオレにはどうする事も出来ないに変わりはない。
 しかし元の世界の映像で見ると、こんな『二本足の狼』のように、文明から離れて貧しくとも自然と調和して暮らす民族はいかにも立派に描かれていたけど、実際に中に入ってみればそんな『清く正しく美しい』世界などあるはずもないんだ。
 だがここでテルモーが割って入ってきて叫ぶ。

「そうか! お前の部族は裏切り者にやられたのか!」
「え? 聞こえていたの?」
「当たり前だ」

 どうやらテルモーの感覚はかなり鋭いらしい。
 だけどこれはマズいな。テルモーとミキューのこれまでの対立からすると、彼女の心の傷をえぐって勝ち誇り、それでもっと関係が険悪になるだろう。

「ちょっと待って――」

 オレは慌ててテルモーが余計な事を口走る前に止めようとするも、間に合わなかった。
 しかしそこでテルモーが発した言葉もまた、オレの予想とはかけ離れていた。

「お前達の事はどうでもいいが『大いなる狼』への崇拝を捨てる輩は許せんな。そんな屑には必ずや復讐の牙が突き立つだろう」

 え? ひょっとしてテルモーはミキューを慰めているの?
 いや。ミキューに同情しているというよりは『裏切り者が許せない』といっているのか。
 なるほど。テルモーにとってはミキューの派閥は許されざる存在であるかもしれないが、それよりも更に許せないのは『大いなる狼』への信仰を捨てる事なんだな。
 そして落ち込んでいたミキューもどうやら少しは回復したらしく、その唇をかみしめて立ち上がる。

「裏切り者を見つけたら必ずわたしと銀月で仲間の無念を晴らし、心臓をえぐり出して『大いなる狼』に捧げてやるわ……」
「いいだろう。そのときは俺も協力するぞ。見かけたら是非教えてくれ。のど笛を食いちぎってやるからな」

 うう。オレもその裏切り者については好きにはなれないが、残虐な復讐で盛り上がるのはどん引きだよ。
 しかしテルモーとミキューがそれで仲良くなれるのなら、今は敢えて水をさすべきでもないか。
 まあその『裏切り者』と本当に運悪く出会ってしまったら、そのときは『調和』でどうにか争いを止めて後は逃げるしかないだろう。
 だけどやっぱりオレの思惑通りに話は進まない。

「よし! 今からソイツがいそうな所に行こうじゃないか! 俺たちで鉄槌を下してやろう」
「分かったわ。奴がわたしの群れを襲ったところに案内して――」
「ちょっと待ちなさい!」

 彼らにとって『大いなる狼を裏切った者への復讐』は過去の軋轢を棚上げする程にまで重要な事であって、忘れろと言っても無理だろう。
 しかしそんな事のために命を賭けるなど愚の骨頂だ。
 そんなわけでここは二人の思考を復讐ではなく別の方向に進ませて、そのまま仲良くさせたいところだな。
 微妙なバランスが要求されそうだが、先ほどまでの敵対関係のままでいるよりもずっとマシなのは間違いない。

「なんだ? お前も我らの復讐に参加するのか?」
「いえ。もっと別の事を考えていたところです」

 行き当たりバッタリでしかないが、とにかく今はこの二人が一緒になってやれることを探すべきだ。
 それはもちろん共通して崇拝している『大いなる狼』関係の事になる。それが互いに命を賭けて争い憎み合う要因ではあるが、同時に二人を繋ぐかすがいにもなるわけだから、何ともややこしい。

「あなた達にとって伝説になっている『大いなる狼』の聖地とか、聖遺物とかありますか? それを探し出して一族を再興しましょう」

 まあ聖遺物を見つけ出したところで、一族の再興に直結なんかしないとは思うけど、ここは二人が乗ってきそうな話題を振るべきだろう。
 そしてオレのこの問いがまたいろいろな冒険に繋がる事になるのだった。
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