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第11章 文明の波と消えゆくもの達と
第298話 ミキューとの会話にて
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とりあえず『二本足の狼』の伝説の英雄である『吠え猛るもの』の足跡を辿るのならばテルモーとミキューの二人も異論は多分無いだろう。
一緒に旅をすれば二人の諍いも水に流れてくれるかもしれない。
そこまでいかずとも、途中で彼らと同じ信仰を持つ部族に出会って迎え入れてもらえるならひとまずは問題解決だ。
これが都合のいい想定でしかない事は分かっている。
下手をすればその英雄を巡る解釈の相違で、殺し合いにすらなりかねないのが、この世界の住民なのだ。
しかしこのままでも状況は何も変わらない。
ここで穏便に二人が分かれたとしても、結局のところ互いにいがみ合い、開拓者達に攻められ、最終的に滅ぼされる運命だろう。
もちろんこの世界において『伝説の英雄』の足跡をたどったところで、ものすごい聖遺物だとか、超絶魔術を手に入れて一発逆転という展開になるはずがないのは分かっている。
しかしそれでもささやかな希望の一欠片ぐらいは見つかるかもしれないのだ。
「とりあえずその『吠え猛るもの』の足跡を追うとしましょう」
「なぜアルタシャがそんな事をするの?」
「興味本位……だと言ったら信じてもらえますかね?」
「……」
あきらかにミキューは疑問を持っているな。
そりゃまあ普通に考えたらそうなるだろう。
ちょっとばかり手を貸したとは言え、どこの馬の骨ともわからないよそ者が、民族の伝説的英雄について首を突っ込んできたら、不可思議に思って当たり前だ。
この世界ではその手の少数民族の文化に興味を持ち、学術調査をする人間なんていたとしても例外的な少数派なんだ。
彼女は『人間なのに変な奴だ』と思ったに違いない。
しかしミキューもテルモーも金銀財宝の類には興味はない様子なので、そちらの面で疑いを持たれているわけでないのはありがたいと考えるべきかな。
「断っておくけど我らの始祖たる『大いなる狼』にとって『眷族以外の獣』は狩るべき獲物でしかないのよ。もしもあなたが出会っても躊躇無く襲いかかるからね」
そりゃまあ自然の精霊だったら、そういうものかもしれない。
だけど本当にその精霊が現実の世界で人間を狩る事が出来るのなら、そもそもその精霊の聖地が開発の波に呑み込まれて行くことは無いだろう。
悲しいけど他の自然精霊と同じく、現実世界のそんな変遷には何の力も有していないと考えるべきだな。
それでも危険はあるかもしれないけど、オレにとってはいつもの事だよ。
「そんな事は覚悟していますよ。その上であなた方の英雄について、いろいろと知りたいのです」
「分かったわ……後はどうなっても知らないわよ」
とりあえずミキューも納得してくれたらしいので、一安心と考えるべきかな。
冷静になると、状況はまるで好転していないし、将来の明るい見通しもないのだけど、まあそれはいつもの事だ。
そして何をするかを決めたら、心のどこかでワクワクしている自分がいることも毎度の話だった。
そしてここでオレはちょっと気になっていた事をミキューに問う。
「ところであなたの連れている狼の名は銀月でしたね」
「ええそうよ。我が『牙の兄弟』なの」
そういってミキューは誇らしげに、銀月の頭を撫でる。
「ずっとあなたと一緒なんですか?」
「もちろん。我らが一族では『牙の兄弟』がいなければ、一人前とは見なされないわ」
「それではあなたは銀月を子供の頃から飼っているんですか?」
「それは違う!」
ミキューはいきなり目をむいて抗議してくる。
「飼うなどと言うのは、人間が家畜に対して行う事でしょうが! 我らはさきほど言った通り『牙の兄弟』であって、家族であり同胞なのよ!」
「分かりました。謝りますから勘弁して下さい」
オレは別にこだわりなど無いので、頭を下げるとミキューも納得したようだ。
「分かればよろしい」
「それであなたと銀月はどんな風に出会って『牙の兄弟』になったのですか」
「私達は成人の儀式で聖地に入って七日間、祈りを捧げるの。そうすれば最後の日に『大いなる狼』がふさわしい兄弟を与えてくれるわ」
どうやらテルモーが精霊の力で狼人間形態に変身するように、ミキューの方は相棒となる狼を得るらしい。
「もしもその者が『牙の兄弟』を得る事が出来ずに戻ってくれば、成人したとは見なされないし、戻ってこなければその身を自らの兄弟の糧とし、その上で『大いなる狼』によって新たな生を与えられた事になるわ」
それって成人の儀式では時として、兄弟となるはずだった狼に食い殺される事もあるのか。
いや。ただ逃げ出しただけなのを、そんな風に表現しているだけだと思いたい。
しかしテルモーとミキューのどっちの一族も、生活と信仰のどちらも過酷なものなのは間違いない。
オレがその難しさを考えていると、そこでミキューの表情も陰る。
「本来なら私達『二本足の狼』にとって『牙の兄弟』は己の家族であり、半身のはず。それなのにその『牙の兄弟』を持たずに『二本足の狼』を名乗るものもいれば、兄弟を捨てて人間の群れに入るものもいる……本当にどうなっているのよ」
ミキューも貧しく厳しい狩猟生活ながら、それに強い誇りを持っているのは間違いない。
もっともその誇りが、自分と異なる相手を見下し、対立する要因になってしまっているのはこの世界の住民としては当たり前なんだけど、こっちにとっては困ったものだ。
一緒に旅をすれば二人の諍いも水に流れてくれるかもしれない。
そこまでいかずとも、途中で彼らと同じ信仰を持つ部族に出会って迎え入れてもらえるならひとまずは問題解決だ。
これが都合のいい想定でしかない事は分かっている。
下手をすればその英雄を巡る解釈の相違で、殺し合いにすらなりかねないのが、この世界の住民なのだ。
しかしこのままでも状況は何も変わらない。
ここで穏便に二人が分かれたとしても、結局のところ互いにいがみ合い、開拓者達に攻められ、最終的に滅ぼされる運命だろう。
もちろんこの世界において『伝説の英雄』の足跡をたどったところで、ものすごい聖遺物だとか、超絶魔術を手に入れて一発逆転という展開になるはずがないのは分かっている。
しかしそれでもささやかな希望の一欠片ぐらいは見つかるかもしれないのだ。
「とりあえずその『吠え猛るもの』の足跡を追うとしましょう」
「なぜアルタシャがそんな事をするの?」
「興味本位……だと言ったら信じてもらえますかね?」
「……」
あきらかにミキューは疑問を持っているな。
そりゃまあ普通に考えたらそうなるだろう。
ちょっとばかり手を貸したとは言え、どこの馬の骨ともわからないよそ者が、民族の伝説的英雄について首を突っ込んできたら、不可思議に思って当たり前だ。
この世界ではその手の少数民族の文化に興味を持ち、学術調査をする人間なんていたとしても例外的な少数派なんだ。
彼女は『人間なのに変な奴だ』と思ったに違いない。
しかしミキューもテルモーも金銀財宝の類には興味はない様子なので、そちらの面で疑いを持たれているわけでないのはありがたいと考えるべきかな。
「断っておくけど我らの始祖たる『大いなる狼』にとって『眷族以外の獣』は狩るべき獲物でしかないのよ。もしもあなたが出会っても躊躇無く襲いかかるからね」
そりゃまあ自然の精霊だったら、そういうものかもしれない。
だけど本当にその精霊が現実の世界で人間を狩る事が出来るのなら、そもそもその精霊の聖地が開発の波に呑み込まれて行くことは無いだろう。
悲しいけど他の自然精霊と同じく、現実世界のそんな変遷には何の力も有していないと考えるべきだな。
それでも危険はあるかもしれないけど、オレにとってはいつもの事だよ。
「そんな事は覚悟していますよ。その上であなた方の英雄について、いろいろと知りたいのです」
「分かったわ……後はどうなっても知らないわよ」
とりあえずミキューも納得してくれたらしいので、一安心と考えるべきかな。
冷静になると、状況はまるで好転していないし、将来の明るい見通しもないのだけど、まあそれはいつもの事だ。
そして何をするかを決めたら、心のどこかでワクワクしている自分がいることも毎度の話だった。
そしてここでオレはちょっと気になっていた事をミキューに問う。
「ところであなたの連れている狼の名は銀月でしたね」
「ええそうよ。我が『牙の兄弟』なの」
そういってミキューは誇らしげに、銀月の頭を撫でる。
「ずっとあなたと一緒なんですか?」
「もちろん。我らが一族では『牙の兄弟』がいなければ、一人前とは見なされないわ」
「それではあなたは銀月を子供の頃から飼っているんですか?」
「それは違う!」
ミキューはいきなり目をむいて抗議してくる。
「飼うなどと言うのは、人間が家畜に対して行う事でしょうが! 我らはさきほど言った通り『牙の兄弟』であって、家族であり同胞なのよ!」
「分かりました。謝りますから勘弁して下さい」
オレは別にこだわりなど無いので、頭を下げるとミキューも納得したようだ。
「分かればよろしい」
「それであなたと銀月はどんな風に出会って『牙の兄弟』になったのですか」
「私達は成人の儀式で聖地に入って七日間、祈りを捧げるの。そうすれば最後の日に『大いなる狼』がふさわしい兄弟を与えてくれるわ」
どうやらテルモーが精霊の力で狼人間形態に変身するように、ミキューの方は相棒となる狼を得るらしい。
「もしもその者が『牙の兄弟』を得る事が出来ずに戻ってくれば、成人したとは見なされないし、戻ってこなければその身を自らの兄弟の糧とし、その上で『大いなる狼』によって新たな生を与えられた事になるわ」
それって成人の儀式では時として、兄弟となるはずだった狼に食い殺される事もあるのか。
いや。ただ逃げ出しただけなのを、そんな風に表現しているだけだと思いたい。
しかしテルモーとミキューのどっちの一族も、生活と信仰のどちらも過酷なものなのは間違いない。
オレがその難しさを考えていると、そこでミキューの表情も陰る。
「本来なら私達『二本足の狼』にとって『牙の兄弟』は己の家族であり、半身のはず。それなのにその『牙の兄弟』を持たずに『二本足の狼』を名乗るものもいれば、兄弟を捨てて人間の群れに入るものもいる……本当にどうなっているのよ」
ミキューも貧しく厳しい狩猟生活ながら、それに強い誇りを持っているのは間違いない。
もっともその誇りが、自分と異なる相手を見下し、対立する要因になってしまっているのはこの世界の住民としては当たり前なんだけど、こっちにとっては困ったものだ。
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