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第12章 強奪の地にて
第343話 『卵さらい』を訪れて
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槍の男と別れてしばしの後、オレはロブ・エッグの廃墟の近くに寄っていた。
崩れかけた城壁の外にへばりつくように、大きいとは言えないが活気のある市場が出来ているようだ。
もともとここは河川交易の拠点としてつくられたわけで、物はそれなりに潤沢に出回っているらしい。
「おおい! この店にあるのはロブ・エッグから掘り出してきた、世にも珍しいドラゴンの殻でつくった逸品だぜ! この機会を逃したら二度と手に入らねえぞ!」
オレは物品や場所にかけられた魔力を見る【魔法眼】の魔法を自分にかけているが、どう見てもその店に並んでいる品物に魔力などかけられていない。
廃虚から適当に拾ってきたガラクタをそう言って売っているのだろう。
「よお! ドラゴンの牙や鱗、骨からつくった武器はどうだい! 矢尻ぐらいなら安くしておくぞ」
あんたはそのドラゴンの骨とやらをどこで手に入れたんだよ。
どう見ても適当な動物の骨や牙を加工したものであって、ドラゴンのものでない事だけは間違いないな。
さっきの槍の男はロブ・エッグの廃虚には『もの珍しさで近づくな』と憤っていたけど、全くの観光客とまではいかなくとも、河川交通の途中でここに立ち寄って廃虚を見て回っている人間は結構いるのだろう。
この手の店はそういう相手向けの土産物店らしい。
もちろん普通の食料や衣類を売っている店もあるけど、ドラゴン関係を名乗っているものは、いずれも見るからにいかがわしいものばかりだ。
まあこの街が繁栄していた時ですら、目の玉が飛び出る程高かった品が、こんな青空市場で、そこらの旅人でも買える値段で売られていたらそっちの方がビックリだ。
たぶん買っている人間の殆どだって、ただの土産物としか思っていないだろう。
もちろんこの市場の裏手ではもっといかがわしく、大金が動く取引が行われていたって何の不思議もないけどね。
よくあるファンタジーなら、偽物に混じって本物のドラゴンに関わる品物が存在していてそれが主人公の運命を大きく変えたりするんだけど、この世界では良くも悪くもそんな出来事は起きっこない。
この市場を見る限り、ドラゴンによるバラストール襲撃と虐殺は、本当に『過去の一コマ』になってしまっている人間も多いらしい。
たぶんバラストールが廃虚と化しロブ・エッグと呼ばれるようになってからこの地域にやってきた者が殆どなのだろうな。
そんな連中がこの廃虚をネタにして金儲けをしている事に対して憤る遺族の気持ちも、少しは理解出来るな。
そして市場の端に位置する建物の群れは、この市場とはまた別の雰囲気が漂っていた。
その屋根にはドラゴンをかたどった大きな像が周囲を睥睨しており、そこがドラゴンを崇拝している場所である事を示していた。
たぶんドラゴンの力を崇拝する教団なんだろうけど ―― そのドラゴン教団がどうも複数あるように見受けられるのだ。
おそらくめいめいが勝手な教義を唱え、それで信者を獲得して細々とやりくりしているのだろうな。
オレもそんなのを信仰する気はまるで無いけど、ちょっと近づいて見てみるか。
すると威勢のいい声がいきなり飛んできた。
「おおい! そこの坊主、ここに来たのならドラゴン様を拝んでおけよ! さもないとお前さんも焼き尽くされてしまうかもしれねえぞ」
おいおい。何とも物騒な教義を掲げているんだな。その割には威勢がいいけど、どこまで本気で信じているんだか。
「世界はいつかドラゴン様によって支配される。そのときに生き残れるのは我が教団に入っている人間だけなんだぞ」
こりゃまた典型的な、不安を煽って信者を獲得するタイプのロクでもない教団だなあ。
いや。物珍しさで来ている程度の人間には、それぐらい派手な事を言って気を引く必要があるのかもしれないな。
しかしオレが断りを入れる前に、横合いから別のダミ声が響く。
「これ。いつもデタラメばかり言っているんじゃないぞ。それこそドラゴン様のお怒りを買う行為じゃ」
そこには質素な身なりをした初老の男性がいた。
「なんだと?!」
「ドラゴン様は我ら寄る辺なき人間を見守って下さっているんじゃ。この町が焼き尽くされたのは道を踏み外したからであって、正しく生きるものはドラゴン様を恐れる必要はないんじゃぞ。さあこちらに来るがええ」
そう言って後から来た男はオレを誘おうとする。
だがここでまた別の静かな声が響いてくる。
「またあなた方はデタラメを唱えて、何も知らない旅のお方を騙そうとしているのですか」
今度は中年の女性が出て来た。
どうやらかなり熾烈な客引きならぬ、参拝者引きがここでは行われているらしい。
「ドラゴンの心は凡人には分かりません。だからこそ、その真の心を感じ取れる者が人々を善導せねばならないのです」
ああ。やっぱりここの人達は ―― ここの人達も ―― ドラゴンについてめいめい勝手に教義を唱え、それでいて『自分達こそが正当』だと言い張っているんだな。
ただ出来てからせいぜい数年で、規模が小さいもの同士だからこんなところで通りすがりの人間を巡って口論するぐらいしか出来ないところだけど、歴史が続き規模も大きくなったらこれまで出会ってきたような、時には流血すら引き起こすような対立を産むかもしれないし、人気のあるものに収斂していくかもしれないし、忘れられていって消えるかもしれない。
まあこのまま参拝者引きをやっている程度なら、大した事もないだろう ―― この時のオレはそう考えていた。
崩れかけた城壁の外にへばりつくように、大きいとは言えないが活気のある市場が出来ているようだ。
もともとここは河川交易の拠点としてつくられたわけで、物はそれなりに潤沢に出回っているらしい。
「おおい! この店にあるのはロブ・エッグから掘り出してきた、世にも珍しいドラゴンの殻でつくった逸品だぜ! この機会を逃したら二度と手に入らねえぞ!」
オレは物品や場所にかけられた魔力を見る【魔法眼】の魔法を自分にかけているが、どう見てもその店に並んでいる品物に魔力などかけられていない。
廃虚から適当に拾ってきたガラクタをそう言って売っているのだろう。
「よお! ドラゴンの牙や鱗、骨からつくった武器はどうだい! 矢尻ぐらいなら安くしておくぞ」
あんたはそのドラゴンの骨とやらをどこで手に入れたんだよ。
どう見ても適当な動物の骨や牙を加工したものであって、ドラゴンのものでない事だけは間違いないな。
さっきの槍の男はロブ・エッグの廃虚には『もの珍しさで近づくな』と憤っていたけど、全くの観光客とまではいかなくとも、河川交通の途中でここに立ち寄って廃虚を見て回っている人間は結構いるのだろう。
この手の店はそういう相手向けの土産物店らしい。
もちろん普通の食料や衣類を売っている店もあるけど、ドラゴン関係を名乗っているものは、いずれも見るからにいかがわしいものばかりだ。
まあこの街が繁栄していた時ですら、目の玉が飛び出る程高かった品が、こんな青空市場で、そこらの旅人でも買える値段で売られていたらそっちの方がビックリだ。
たぶん買っている人間の殆どだって、ただの土産物としか思っていないだろう。
もちろんこの市場の裏手ではもっといかがわしく、大金が動く取引が行われていたって何の不思議もないけどね。
よくあるファンタジーなら、偽物に混じって本物のドラゴンに関わる品物が存在していてそれが主人公の運命を大きく変えたりするんだけど、この世界では良くも悪くもそんな出来事は起きっこない。
この市場を見る限り、ドラゴンによるバラストール襲撃と虐殺は、本当に『過去の一コマ』になってしまっている人間も多いらしい。
たぶんバラストールが廃虚と化しロブ・エッグと呼ばれるようになってからこの地域にやってきた者が殆どなのだろうな。
そんな連中がこの廃虚をネタにして金儲けをしている事に対して憤る遺族の気持ちも、少しは理解出来るな。
そして市場の端に位置する建物の群れは、この市場とはまた別の雰囲気が漂っていた。
その屋根にはドラゴンをかたどった大きな像が周囲を睥睨しており、そこがドラゴンを崇拝している場所である事を示していた。
たぶんドラゴンの力を崇拝する教団なんだろうけど ―― そのドラゴン教団がどうも複数あるように見受けられるのだ。
おそらくめいめいが勝手な教義を唱え、それで信者を獲得して細々とやりくりしているのだろうな。
オレもそんなのを信仰する気はまるで無いけど、ちょっと近づいて見てみるか。
すると威勢のいい声がいきなり飛んできた。
「おおい! そこの坊主、ここに来たのならドラゴン様を拝んでおけよ! さもないとお前さんも焼き尽くされてしまうかもしれねえぞ」
おいおい。何とも物騒な教義を掲げているんだな。その割には威勢がいいけど、どこまで本気で信じているんだか。
「世界はいつかドラゴン様によって支配される。そのときに生き残れるのは我が教団に入っている人間だけなんだぞ」
こりゃまた典型的な、不安を煽って信者を獲得するタイプのロクでもない教団だなあ。
いや。物珍しさで来ている程度の人間には、それぐらい派手な事を言って気を引く必要があるのかもしれないな。
しかしオレが断りを入れる前に、横合いから別のダミ声が響く。
「これ。いつもデタラメばかり言っているんじゃないぞ。それこそドラゴン様のお怒りを買う行為じゃ」
そこには質素な身なりをした初老の男性がいた。
「なんだと?!」
「ドラゴン様は我ら寄る辺なき人間を見守って下さっているんじゃ。この町が焼き尽くされたのは道を踏み外したからであって、正しく生きるものはドラゴン様を恐れる必要はないんじゃぞ。さあこちらに来るがええ」
そう言って後から来た男はオレを誘おうとする。
だがここでまた別の静かな声が響いてくる。
「またあなた方はデタラメを唱えて、何も知らない旅のお方を騙そうとしているのですか」
今度は中年の女性が出て来た。
どうやらかなり熾烈な客引きならぬ、参拝者引きがここでは行われているらしい。
「ドラゴンの心は凡人には分かりません。だからこそ、その真の心を感じ取れる者が人々を善導せねばならないのです」
ああ。やっぱりここの人達は ―― ここの人達も ―― ドラゴンについてめいめい勝手に教義を唱え、それでいて『自分達こそが正当』だと言い張っているんだな。
ただ出来てからせいぜい数年で、規模が小さいもの同士だからこんなところで通りすがりの人間を巡って口論するぐらいしか出来ないところだけど、歴史が続き規模も大きくなったらこれまで出会ってきたような、時には流血すら引き起こすような対立を産むかもしれないし、人気のあるものに収斂していくかもしれないし、忘れられていって消えるかもしれない。
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