異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第12章 強奪の地にて

第342話 怒りと矛先と

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 この男の言っている事が本当だとしたら確かにお気の毒ではある。
 破滅の預言をした人間が迫害されたという神話は、元の世界でもよくあった話らしいが、どこであっても人間は悪い話を聞きたくはないものだ。
 それが自分達の生活を支えているものに関するものだったらなおさらだろう。

 バラストールの町はドラゴンの卵を略奪し、金に換える事で莫大な富を得て、僅か数年で急速に発展したのだから、それを辞めろと言っても聞き入れるはずがない。
 流れてくる『丸いもの』すなわちドラゴンの卵を諦めるということは、それによって繁栄を謳歌している住民達に、貧しい暮らしに戻れと言っているに等しいからな。
 一度、豊かになった人間に対し『そうなる前の生活に戻れ』と言っても、聞き入れてくれるものは希にしかいない。
 きっと『辞めろというなら代わりになるものを出せ』とかいった無理難題を突きつけた相手も大勢いたんだろう。

 このあたりスケールは段違いだけど、以前に読んだSFの巨匠ア○ザック・アシ○フの名作で、無尽蔵のエネルギーを得られる夢の動力が、実は地球どころか銀河系を破滅させかねない危険な代物だった話を思い出す。
 そこでは真実に気付いて警鐘を鳴らす学者に対して、利権を得ていた連中が潰そうとする姿が描かれていたけど、それに近い物があるな ―― もっともその小説では最終的に破滅は回避されるけど。
 しかしドラゴンの卵の殻を加工した槍を持っているところからして、自業自得までは言わないけど、やっぱり巻き込まれてしまったのも仕方の無い一面はあったろう。
 本人が納得出来ないのは当たり前なのが、ややこしいところなんだけど。

「しかし……あなたのお父さんは正しい事をしたと思いますよ」
「ああそうさ。俺だってそう思う。だけどな――」

 ここで男はオレに対して厳しい怒りのこもった視線を注ぐ。

「親父が正しかったからと言って、それが何を残したと言うんだ? 家族を犠牲にして、自分の命まで捨てて、それで誰か救えたのか? 感謝の一つもされたのか?」

 部外者ではあるけど、それを言われるとこっちも息がつまる思いがするな。
 父親が本当に命がけで人々のために尽くしたにも関わらず、助けようとした相手からも全く評価されず、むしろ非難され、挙げ句の果てには破滅も回避出来ずに命を落としてしまったのだ。
 せめて死後にその正しさが評価されていたら、この人の苦悩も少しは和らいだだろうけど、残念ながらその正しさを認めるべきバラストールの住民は根こそぎ殺されてしまった。
 勝手に『女神様』と礼賛・崇拝されているオレとは、まるで方向性は違うけど、正当に評価されない事の難しさはこちらも分かっているつもりだよ。

「何一つとして……骨の一本も残さず、あの町の愚か者共と一緒に焼き尽くされてしまっただけじゃないか……くそったれが……」
「それはそうかもしれませんけど……」
「俺は許せないんだ。俺達家族を迫害して、謝りもせずに根こそぎ死んだ街の連中が……家族の事も考えずにそんな連中のために身を挺して命を落とした親父が……そして何よりドラゴン共がな……」

 言っている事は分かるけど、たぶんその怒りの矛先を向ける相手がいない事が、この人にとって一番の憤りの原因なんだろうな。
 そりゃまあ憎い相手はもう死んでいるか、それ以外ではドラゴンという手も足も出ない存在なのだから、感情をぶつける相手がいないんだ ―― つまりこの男が愛用していて父の形見の『槍の矛先』ではどうする事も出来ないということである。
 この場合『憎しみなど何も産まない』とか『お父さんはそんな事を望んでいない』とか月並みな言葉なら幾らでも出てくるけど、見ず知らずの相手からそんな事を言われて受け入れるはずも無いか。
 しかたないのでここはちょっと方向性を変えてみよう。

「あなたは許せないからどうするというのです? まさかその槍でドラゴンを倒すつもりでもないでしょうに」
「そんな事は分かっているとも……」
「それなのにその槍がとてつもなく高価なのを知っていて、手放さないのはなぜです? うまくすれば一生遊んで暮らせるだけの金が入るはずですよ。それにただ日々の生活の糧として必要というなら、そんな凄い槍でなくてもいいでしょうに」
「お前はなにが言いたいんだ?」

 男はズイと迫ってくるが、これぐらいでひるむオレでは無い。

「その槍をずっと持ち歩いているのは、それがお父さんの形見だからではないですか。あなたがお父さんを許せないと言っているのは確かに本心の一部かもしれませんけど、それだけではないのでしょう?」
「利いた風な口をきくな! もういい!」

 男は怒った様子で叫ぶと、歩き出す。
 ああ。やっぱりこうなったか。自分でもちょっとズケズケと人の内面に踏み込み過ぎた気はするな。
 毎度のことながらお節介が過ぎたか。
 しかし今は怒ったとしても、後で僅かでいいから思い返して欲しいものだ。
 そしてこのときオレは去りゆく、名前も聞かなかった男の背中を見ながら、少しばかり安堵していた。
 珍しくオレの方から関わったのに、腐れ縁には発展しなかったと思ったからだ。
 だけどそれはやっぱり見込み違いだった事をすぐに思い知らされるのだが。
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