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第12章 強奪の地にて
第345話 『滅びた街』の神様は
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オレの眼前に現れたバラストールの街神だけど、最初は立派な身なりの偉丈夫に見受けられた。
だが目をこらしてよくよく見ると、そのイメージは壊れかけたアナログテレビ画像のごとくハッキリとしない。
たぶん偉丈夫に見えるのは、まともに崇拝されていた時の姿なのだけど、信徒が殆ど滅んでしまった今ではその姿を維持するだけで精一杯なのだろう。
何というか『没落貴族がくたびれた礼服を持ち出して格好だけ調えている』という感じに近いものがあるな。
『そなたの目から今の吾はどう見える? おそらくはそなたに比べれば実にみすぼらしい存在に見えるであろうな』
「いえ……そんな事はありませんよ」
『同情の必要はないぞ……吾はこの街の守護神であったにもかかわらず、町が滅んだ時にはどうする事も出来なかったのだからな……』
バラストール神の表情は自嘲しているとも、怒りや悲しみを押し殺しているようにも見えるが、これは本当にこの神様自身がそのような表情をしているというよりは、オレの意識が反映されて、そのように感じられるのかもしれない。
『あの日が来るまで、吾はこの街の繁栄を受けて大いなる力を受けていた。そのときはこの街が豊かになると共に吾の力は大いに増し、誰もが我が名を称え、崇拝を捧げ、その栄光は永遠かと思えた程だ』
うう。元の世界でもバブルに踊って、その結果として破滅し『あれがずっと続くと思っていた』とこぼす人間は大勢いたけど、神様でもそれは同じようなものなのか。
『しかしあの日、吾の目の前で何もかもが滅びた……そして吾はそれを見ている事しか出来なかったのだ』
この世界の神様は基本的に自分の権能を通じてのみしか、世界には関われない。
強力な神様の場合は神話に沿う形であれば、化身を送り込んで実行させる事はできるらしい ―― こちらはそのために女好きという神話を持つアンブラール神にチョメチョメされかけた事もあるからな。
そして街の神様の場合は信徒に街を守るのに有益な魔法 ―― たとえば城壁や城門を強化する、街の中の状況をリアルタイムで察知するなど ―― を提供する、崇拝で捧げられた魔力を信徒に与える、と言った形で街の防衛に手を貸す事までは出来る。
しかしそんなものではドラゴンの群れに襲撃された時には、ひとたまりも無かったのだ。
それはバラストール神の責任では無かったかもしれないけど、街の守護神が結果としてその役目を果たす事が出来なかったという現実には変わりは無い。
だからたぶんこのロブ・エッグの廃虚と共に、バラストールの神は見捨てられたのだな。
『そしてそのときから吾の時も止まったままだ。吾はただかつての栄光の残骸に過ぎぬこの廃虚を漂い。ただ過去を思いだし、悲しむだけの存在と成り果てた』
そういってバラストール神は廃虚を寂しげに見回す。
たぶんかつての栄光を思い出し、またその都度心が痛んでいるのだろう。
『今や吾を崇拝するものは、そなたも見てきたであろうが……この廃虚に残っている、既に死したものたちばかりだ』
なるほど、この廃虚に今も残る霊体の多くは『生前の意識のまま』で同じ日々を繰り返しているから、生きていた時の意識のままに町の神様を崇拝しているというわけか。
しかし生前の行為を惰性で続けているだけの霊体に崇拝されたところで、本当の力が得られるはずもない。
だから今のバラストール神はかつての姿を垣間見せるだけの、影のごとき存在でしかないわけだ。
今まで出会った事は無いけどたぶん他に滅びた街の神も、似たような事になっているんだろうな。
『すまぬな。ここに不死者が来るのは本当に久しぶりだったから、愚痴を聞かせてしまった……よく見ればそなたは吾よりも遙かに格上の存在なのだな』
「いえ。お気になさらず」
どう答えていいのか分からず、オレは生返事をする。
ある程度は同情もするけど、ドラゴンの卵を略奪して、バラストールが繁栄していた時にはこの神様もその恩恵を受けていたわけだから、その結果として町が滅びた事について責任があるのも確かだろう。
「ところで一つ聞いていいですか? この街がドラゴンの卵を略奪して栄えていた時、あなたはどうしていたのですか?」
『残念だが吾は街の住民のやることには口を出せん。街の秩序を乱すような行為を止める事は出来ても、そうでない活動にはどうする事も出来んのだ』
言っている事は『神として正論』かもしれないが、当時はそれで恩恵を受けていて後になって『自分にはどうする事も出来なかったんだ』と言い訳しているようにも思えるな。
「しかしその時から警鐘を鳴らしていた人もいたのでしょう? 街の神であるあなたが力添えをしていれば、この街が滅びるのは避けられたかもしれませんよ」
警鐘を鳴らした時点で、かなりの数のドラゴンの卵を略奪していたのは間違いないので、手遅れだったかもしれない。
しかしそれでも街の神様たるもの何かリアクションの一つも無かっただろうか ―― いや。本当に無かったんだろうなあ。
ついさっきバラストール神も『この繁栄が続くと思っていた』と言っていたし、人間も神様も一度調子に乗ってしまうとそういうものなんだろう。
チートを得ていい気分でいたら聖女教会で女にされてしまったオレ自身も他人事ではないんだけどさ。
だが目をこらしてよくよく見ると、そのイメージは壊れかけたアナログテレビ画像のごとくハッキリとしない。
たぶん偉丈夫に見えるのは、まともに崇拝されていた時の姿なのだけど、信徒が殆ど滅んでしまった今ではその姿を維持するだけで精一杯なのだろう。
何というか『没落貴族がくたびれた礼服を持ち出して格好だけ調えている』という感じに近いものがあるな。
『そなたの目から今の吾はどう見える? おそらくはそなたに比べれば実にみすぼらしい存在に見えるであろうな』
「いえ……そんな事はありませんよ」
『同情の必要はないぞ……吾はこの街の守護神であったにもかかわらず、町が滅んだ時にはどうする事も出来なかったのだからな……』
バラストール神の表情は自嘲しているとも、怒りや悲しみを押し殺しているようにも見えるが、これは本当にこの神様自身がそのような表情をしているというよりは、オレの意識が反映されて、そのように感じられるのかもしれない。
『あの日が来るまで、吾はこの街の繁栄を受けて大いなる力を受けていた。そのときはこの街が豊かになると共に吾の力は大いに増し、誰もが我が名を称え、崇拝を捧げ、その栄光は永遠かと思えた程だ』
うう。元の世界でもバブルに踊って、その結果として破滅し『あれがずっと続くと思っていた』とこぼす人間は大勢いたけど、神様でもそれは同じようなものなのか。
『しかしあの日、吾の目の前で何もかもが滅びた……そして吾はそれを見ている事しか出来なかったのだ』
この世界の神様は基本的に自分の権能を通じてのみしか、世界には関われない。
強力な神様の場合は神話に沿う形であれば、化身を送り込んで実行させる事はできるらしい ―― こちらはそのために女好きという神話を持つアンブラール神にチョメチョメされかけた事もあるからな。
そして街の神様の場合は信徒に街を守るのに有益な魔法 ―― たとえば城壁や城門を強化する、街の中の状況をリアルタイムで察知するなど ―― を提供する、崇拝で捧げられた魔力を信徒に与える、と言った形で街の防衛に手を貸す事までは出来る。
しかしそんなものではドラゴンの群れに襲撃された時には、ひとたまりも無かったのだ。
それはバラストール神の責任では無かったかもしれないけど、街の守護神が結果としてその役目を果たす事が出来なかったという現実には変わりは無い。
だからたぶんこのロブ・エッグの廃虚と共に、バラストールの神は見捨てられたのだな。
『そしてそのときから吾の時も止まったままだ。吾はただかつての栄光の残骸に過ぎぬこの廃虚を漂い。ただ過去を思いだし、悲しむだけの存在と成り果てた』
そういってバラストール神は廃虚を寂しげに見回す。
たぶんかつての栄光を思い出し、またその都度心が痛んでいるのだろう。
『今や吾を崇拝するものは、そなたも見てきたであろうが……この廃虚に残っている、既に死したものたちばかりだ』
なるほど、この廃虚に今も残る霊体の多くは『生前の意識のまま』で同じ日々を繰り返しているから、生きていた時の意識のままに町の神様を崇拝しているというわけか。
しかし生前の行為を惰性で続けているだけの霊体に崇拝されたところで、本当の力が得られるはずもない。
だから今のバラストール神はかつての姿を垣間見せるだけの、影のごとき存在でしかないわけだ。
今まで出会った事は無いけどたぶん他に滅びた街の神も、似たような事になっているんだろうな。
『すまぬな。ここに不死者が来るのは本当に久しぶりだったから、愚痴を聞かせてしまった……よく見ればそなたは吾よりも遙かに格上の存在なのだな』
「いえ。お気になさらず」
どう答えていいのか分からず、オレは生返事をする。
ある程度は同情もするけど、ドラゴンの卵を略奪して、バラストールが繁栄していた時にはこの神様もその恩恵を受けていたわけだから、その結果として町が滅びた事について責任があるのも確かだろう。
「ところで一つ聞いていいですか? この街がドラゴンの卵を略奪して栄えていた時、あなたはどうしていたのですか?」
『残念だが吾は街の住民のやることには口を出せん。街の秩序を乱すような行為を止める事は出来ても、そうでない活動にはどうする事も出来んのだ』
言っている事は『神として正論』かもしれないが、当時はそれで恩恵を受けていて後になって『自分にはどうする事も出来なかったんだ』と言い訳しているようにも思えるな。
「しかしその時から警鐘を鳴らしていた人もいたのでしょう? 街の神であるあなたが力添えをしていれば、この街が滅びるのは避けられたかもしれませんよ」
警鐘を鳴らした時点で、かなりの数のドラゴンの卵を略奪していたのは間違いないので、手遅れだったかもしれない。
しかしそれでも街の神様たるもの何かリアクションの一つも無かっただろうか ―― いや。本当に無かったんだろうなあ。
ついさっきバラストール神も『この繁栄が続くと思っていた』と言っていたし、人間も神様も一度調子に乗ってしまうとそういうものなんだろう。
チートを得ていい気分でいたら聖女教会で女にされてしまったオレ自身も他人事ではないんだけどさ。
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