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第12章 強奪の地にて
第346話 かつての神の願い事は
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ここでバラストール神はオレに近づいてくる。
こんな場合、次に何を言ってくるかはだいたい見当がついている。
『ところでひとつ頼みがあるのだが聞いてはくれぬか?』
「内容によりますよ。あと前もって言っておきますけど、あなたの妻になる気はありませんからね」
『それはやむをえんだろうな』
やっぱりその気あったんかい。もう慣れっこだからいいけどな。
『全盛期ならいざ知らず、今の吾は廃墟をうろついって過去の栄誉の残滓にすがるだけの存在だ。数多くの信徒より崇拝を捧げられているそなたとでは比較にもなるまい』
いや。仮にバラストール神が全盛期でも、こちらは妻になるなんて真っ平ですよ。
なにしろ天候と嵐の大神であるアンブラールの誘いだって断ったんですからね。
「それであなたの頼みとはなんですか」
『そなたは吾と共にこの街の再建を手伝ってはくれぬか?』
「具体的にどうしろと言うのです」
ここで何を頼んでくるかは予想は出来ているけどとりあえず確認はしておこう。
『そなたを崇拝する者たちに呼びかけ、この街を再建する助力をして欲しいのだ。もちろんタダで手伝えとは言わん。それで街が再建された暁には、市民にはこの吾と共にそなたを崇拝させようではないか』
まあそんなところか。
全く興味無いし、ありがたみもないけどバラストール神にとっては精一杯の誠意というところなんだろうな。
「申し訳ないですけど、それに応じるわけにはいきません」
『ぬう。ならばかつての我が神殿跡には、まだかなりの宝が埋もれたままになっている。それを全部そなたに譲ろうでは無いか』
「それも興味ありませんよ」
だいたいそのお宝の大半はドラゴンの卵を略奪して金に換えたか、さもなくば殻を加工したものでしょうが。
そりゃあんたにとっては『単なる信徒からの貢ぎ物』だったのだろうけど、こっちはそんなヤバいものに手を出す気はありません。
これから旅の最中にドラゴンに襲われたりするのは真っ平ですからね。
「だいたいもしもあなたが本当にかつての力を取り戻したいのならば、わたしのような通りすがりのよそ者に頼ったりせず、少しずつでも信者を獲得するところから始めるべきではないのですか?」
魔法も崇拝のいずれも望みもしないのにいきなり獲得してしまったオレが、そんな地道で堅実な方策を説教をするのもどうかと思うけどな。
「あなたが神の座から落ちてしまったのは、崇拝を捧げた人達を守れなかったからなのですよね? ならば改めて神となりたいのであれば、少数でも人間を助ける事から始めましょう」
少し前に出会った神造者テセルの言葉によると、神造者が神話を修正して崇拝されなくなって、うろつくようになった『元神』を廃神と呼んでいるそうだが、こっちは神話ではなく現実に信徒が全滅してしまって、そのために神の地位を失った存在なんだな。
さすがに人間を恨んで暴れるような愚かしい真似はしていないから、それだけでもマシだけど、そんな事になってしまった以上は一からやり直すしかないだろう。
しかしオレの場合は、人助けをした結果として望みもしないのに『女神』と崇拝されてしまっているけど、こっちのバラストール神は望んでも崇拝が全く得られないわけだ。
まったく世の中とはままならない。
そしてオレの言葉を聞いてバラストール神は悲しげにうつむく。
『そんなことは吾も分かっているつもりだ……』
絶頂からいきなり蹴落とされて、かつての栄光の残骸をうろつくだけの存在に落ちぶれてしまった身とすれば、藁にもすがりたい気持ちは分かるよ。
さきほど不死者が来たのは久しぶりと言っていたが、たぶんこの神は自分の街と信徒が滅んで以降、神々の世界でも相手にされていないのだろう。
これまで出会った神様からすれば、信徒を守れずに滅ぼしてしまった神の世界の落ちこぼれとでも見なしているかもしれない。
だからたまたま訪れたオレにすがりついて、何らかの助力を得たいのだろう。
いきなり襲いかかってこないだけまだマシとも言えるけど、どっちにしてもオレに出来る事は何も無い。
「この廃虚の城壁に張り付く形で市場が出来て、人々が集まっている事はご存じでしょう。そこをあなたが守るように努力すればいいのではありませんか? そうすれば少しでも信徒が得られるかもしれませんよ」
『そのような事は出来ぬ!』
何の気無しの問いかけだったが、バラストール神はここで怒りを示す。
『あそこにはドラゴンを崇拝する輩がはびこっている。あのような者どもと共に過ごすなど真っ平だ!』
ああそうか。原因はどうあれこの神にとってドラゴンは信徒と街を滅ぼして、自分を神の座から蹴落とした憎い相手なんだ。
そのドラゴンを崇拝する連中がいたら、そりゃ近づきたくもないか。
気持ちは分かるけど、それでは何も進まない。
こういう場面に出くわすのも、オレとしてはしょっちゅうだけど、どこかに落としどころはないものかな。
可能な限り穏便な解決方法を模索するのがオレの習い性だけど、この件でどうにか折り合いをつけるのはまた面倒な事になりそうだな ―― しかしその見込みはあまりにも甘かった。
この時、バラストールの廃虚を貫く河の上流からは、全てをひっくり返しかねない『もの』が流れてきていたのだ。
こんな場合、次に何を言ってくるかはだいたい見当がついている。
『ところでひとつ頼みがあるのだが聞いてはくれぬか?』
「内容によりますよ。あと前もって言っておきますけど、あなたの妻になる気はありませんからね」
『それはやむをえんだろうな』
やっぱりその気あったんかい。もう慣れっこだからいいけどな。
『全盛期ならいざ知らず、今の吾は廃墟をうろついって過去の栄誉の残滓にすがるだけの存在だ。数多くの信徒より崇拝を捧げられているそなたとでは比較にもなるまい』
いや。仮にバラストール神が全盛期でも、こちらは妻になるなんて真っ平ですよ。
なにしろ天候と嵐の大神であるアンブラールの誘いだって断ったんですからね。
「それであなたの頼みとはなんですか」
『そなたは吾と共にこの街の再建を手伝ってはくれぬか?』
「具体的にどうしろと言うのです」
ここで何を頼んでくるかは予想は出来ているけどとりあえず確認はしておこう。
『そなたを崇拝する者たちに呼びかけ、この街を再建する助力をして欲しいのだ。もちろんタダで手伝えとは言わん。それで街が再建された暁には、市民にはこの吾と共にそなたを崇拝させようではないか』
まあそんなところか。
全く興味無いし、ありがたみもないけどバラストール神にとっては精一杯の誠意というところなんだろうな。
「申し訳ないですけど、それに応じるわけにはいきません」
『ぬう。ならばかつての我が神殿跡には、まだかなりの宝が埋もれたままになっている。それを全部そなたに譲ろうでは無いか』
「それも興味ありませんよ」
だいたいそのお宝の大半はドラゴンの卵を略奪して金に換えたか、さもなくば殻を加工したものでしょうが。
そりゃあんたにとっては『単なる信徒からの貢ぎ物』だったのだろうけど、こっちはそんなヤバいものに手を出す気はありません。
これから旅の最中にドラゴンに襲われたりするのは真っ平ですからね。
「だいたいもしもあなたが本当にかつての力を取り戻したいのならば、わたしのような通りすがりのよそ者に頼ったりせず、少しずつでも信者を獲得するところから始めるべきではないのですか?」
魔法も崇拝のいずれも望みもしないのにいきなり獲得してしまったオレが、そんな地道で堅実な方策を説教をするのもどうかと思うけどな。
「あなたが神の座から落ちてしまったのは、崇拝を捧げた人達を守れなかったからなのですよね? ならば改めて神となりたいのであれば、少数でも人間を助ける事から始めましょう」
少し前に出会った神造者テセルの言葉によると、神造者が神話を修正して崇拝されなくなって、うろつくようになった『元神』を廃神と呼んでいるそうだが、こっちは神話ではなく現実に信徒が全滅してしまって、そのために神の地位を失った存在なんだな。
さすがに人間を恨んで暴れるような愚かしい真似はしていないから、それだけでもマシだけど、そんな事になってしまった以上は一からやり直すしかないだろう。
しかしオレの場合は、人助けをした結果として望みもしないのに『女神』と崇拝されてしまっているけど、こっちのバラストール神は望んでも崇拝が全く得られないわけだ。
まったく世の中とはままならない。
そしてオレの言葉を聞いてバラストール神は悲しげにうつむく。
『そんなことは吾も分かっているつもりだ……』
絶頂からいきなり蹴落とされて、かつての栄光の残骸をうろつくだけの存在に落ちぶれてしまった身とすれば、藁にもすがりたい気持ちは分かるよ。
さきほど不死者が来たのは久しぶりと言っていたが、たぶんこの神は自分の街と信徒が滅んで以降、神々の世界でも相手にされていないのだろう。
これまで出会った神様からすれば、信徒を守れずに滅ぼしてしまった神の世界の落ちこぼれとでも見なしているかもしれない。
だからたまたま訪れたオレにすがりついて、何らかの助力を得たいのだろう。
いきなり襲いかかってこないだけまだマシとも言えるけど、どっちにしてもオレに出来る事は何も無い。
「この廃虚の城壁に張り付く形で市場が出来て、人々が集まっている事はご存じでしょう。そこをあなたが守るように努力すればいいのではありませんか? そうすれば少しでも信徒が得られるかもしれませんよ」
『そのような事は出来ぬ!』
何の気無しの問いかけだったが、バラストール神はここで怒りを示す。
『あそこにはドラゴンを崇拝する輩がはびこっている。あのような者どもと共に過ごすなど真っ平だ!』
ああそうか。原因はどうあれこの神にとってドラゴンは信徒と街を滅ぼして、自分を神の座から蹴落とした憎い相手なんだ。
そのドラゴンを崇拝する連中がいたら、そりゃ近づきたくもないか。
気持ちは分かるけど、それでは何も進まない。
こういう場面に出くわすのも、オレとしてはしょっちゅうだけど、どこかに落としどころはないものかな。
可能な限り穏便な解決方法を模索するのがオレの習い性だけど、この件でどうにか折り合いをつけるのはまた面倒な事になりそうだな ―― しかしその見込みはあまりにも甘かった。
この時、バラストールの廃虚を貫く河の上流からは、全てをひっくり返しかねない『もの』が流れてきていたのだ。
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