異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第12章 強奪の地にて

第381話 そしてドラゴンと人間は『乙女』を巡って……

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 もしかするとダンギムはオレがドラゴンに捕まって、いまにも頭からかじられるかもしれないと思っているのか。
 そりゃとんでもない誤解だよ。
 まあこのドラゴンも困った相手なのは間違いないのだけど、少なくとも今のところはオレに危害を加える気はないのだ。
 そんなわけでこれ以上は刺激しないでくれ。
 もしもコイツが本気で暴れ出したら、オレには止める術がないんだから。

「すみません。わたしの心配は結構ですから、ダンギムさんたちはすぐにこの場を離れて下さい。危ないですから」
「そんなわけにはいきません!」

 ええ?! 問答無用ですか!
 なんでこっちの頼みごとを聞いてくれないんだよ。
 そりゃオレの言う事に従う義理などダンギムがにはないだろうけど、頭から否定されるなんてちょっとガッカリだよ。
 そりゃまあ今まで、オレを持てはやす相手は結構いたけど、それでもオレの言う事を素直に聞いてもらった例しは殆ど無いから、それが当然の結果なのかもしれないけどな。

「我らの身を案じてくださっているのはわかります。しかしこの場で逃げるわけにはいかないのです」

 はれ? なにその台詞。
 まさかダンギムは今のオレの発言を『自分の身が危ういのを顧みず、一般人を逃す自己犠牲精神の表れ』と受け止めているの?
 そんなわけないだろ。
 そりゃオレは今までしょっちゅう嘘をついてきたことは認めるけど、人を死地に向かわせるようなことを口にしたことは一度もないぞ。

「お願いです。本当に危険なんです。もしもこのドラゴンと戦いになったら、皆さんにもここにいる人達にも大勢犠牲が出ます。だから今は引いて下さい」

 オレのこの言葉を聞いて、周囲に集まっている兵士達には動揺と恐怖が広がったようだ。
 このまま逃げてくれたら、それでいいんだけど今のところはかろうじて踏みとどまっているようだ。
 たぶん大多数はこの地の住民だから、ドラゴンから郷里を守ろうとしているのだろうな。
 あと距離を置いて遠巻きに包囲しているのと、ドラゴンが動かないのでどうにか持ちこたえいるというところだろうか。
 その覚悟は立派だけど、こっちにとっては激しく迷惑だ。

「聞いたか! 今のお言葉を!」

 はて? ダンギムの言葉にはどこかアジ演説な雰囲気が漂っているぞ。

「あのような美しき汚れ無き乙女をドラゴンの犠牲にして、それで一時の平穏を得たとして何になるというのだ! お前達は人の心を捨てて何を残すのだ!」

 おい! だから何でそこで煽っているんだよ!
 ダンギムは知識神『本の司イリピー』の信徒で田舎の社の守人だということだったけど、専門は扇動なのかと思うぐらいだ。
 しかし元々、知識を得るためにかなり無茶をする相手だとは思っていたけど、そういう向こう見ずなところをこんなところでムダな方向に発揮するんじゃない。
 やっぱり学者は『象牙の塔』にこもっているのが一番いいということか。

 だがこれはかなり困ったな。
 いまドラゴンがオレと共にこの場を立ち去ろうとしたら一斉攻撃されるのは確実だ。
 生まれたばかりのコイツが空を飛べるかどうかはまだ確認していなかったけど、いくら何でも攻撃の暇もなく瞬時に飛び去る何て真似は出来ないだろう。

《やっぱりあいつらこちらを攻撃してくるみたいだね。だったら先に潰そうじゃないか》

 だからお前も話を四捨五入して、物騒な方向に持っていこうとするな。
 だけどコイツの視点からすれば、人間は卵の時から何度も命を狙われていて、今も包囲して攻撃をかけてきそうな相手なのだから、尊重する理由など無いのだろう。

「お願いですから、人間には手を出さないで下さい」
《なんであいつらに手を出してはダメなの?》

 そこから話をしても、短時間でこのドラゴンに理解させる自信が無い。
 コイツにとって、ずっと魔力を提供してきたオレだけが特別であって、他の人間は小うるさい虫程度にしか思っていないのだ。
 とにかく今はドラゴンもダンギムも共に争う事無く、この場を切り抜けるのが最優先だ。

「いったん離してくれませんか? あの人間達とひとまず話をつけてきますから」

 ダンギムがあんな事を言っているのは、オレがドラゴンに捕まっていると思っているからだ――実際その通りなんだけど。
 だからオレがこの場を去るように伝えても『こちらが崇高な自己犠牲精神を発揮して、ドラゴンから遠ざけようとしている』と勘違いしてしまっているので、話が通じない。
 ファンタジーに限らず、ヒーローなら当然の発想かもしれないけど、ダンギムはそんなキャラじゃないのだから無理をしてもいい事にはならないんです。
 そんなわけで一度、解放してもらってじっくり話をすれば、ダンギムもきっと分かってくれるだろう。

《だめだよ。さっきから聞いていたけど、あいつらはアルタシャの言う事が全然伝わっていないじゃないよ。どんな事をしてくるか分からないじゃないか》

 おい! コイツは――と言うより、コイツも――オレを守っているつもりなのかよ!
 それでオレとダンギムの話が通じていない事は分かっている癖に、自分もそうだとは全然考えていないのだな。
 そしてたぶんダンギムの方も同じだろう。
 ぐう。人間とドラゴンのどっちも結局は同レベルの存在ということか。
 どうしてこう毎度毎度、オレはこんな板挟み状態に追いやられるだろうか。
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