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第12章 強奪の地にて
第385話 久しぶりの化身となって
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オレが『あのドラゴンは今、目が見えない』という話をしたときから、周囲はいきなり盛り上がっていた。
いや。よく見ると困惑しているのと、意気軒昂になっているのがいるが、たぶん兵士達もそのあたりの動機はバラバラだったに違いない。
考えてみればドラゴンやその卵について、ここにいる連中――もちろんオレも含めて――殆ど知らなかったわけで、それだからこそダンギムの言葉も聞き入れて一時なりと言えど従っていたのだろう。
しかしドラゴンの目が見えないのを聞いて、好機だと思った奴らに火がついてしまったらしい。
「なんだ? どうしたのだ?」
急な成り行きにダンギムにも動揺した様子が見えるが、そんな彼を兵士の一人が押しのける。
「あんたはもう邪魔だよ。どいてくれ」
「なんだと?」
「ドラゴンについて知っていると言うから、付き合ってやっていたけどもう用済みだ」
さっきまでかなり恐れていたくせに、好機というだけで目の色を変えるとは、何とも現金な連中だな。
いや。もともとダンギムの言う事を聞く義理があったわけではないところに、彼らの欲をかき立てるものが現れたので、一気にそちらに飛びついてしまったのだ。
そしてよりにもよってそれをやってしまったのが、このオレなのだ。
「みんなあのドラゴンの目が回復する前に、一斉に攻撃するぞ!」
うう。もうすぐにでも一斉攻撃が始まりそうだ。
確かにあのドラゴンはいま目が見えていない。
この状況で攻撃されて、泡を食って逃げ出すぐらいならいいが、闇雲に暴れ出す危険性がはるかに高いだろう。
それでもあのドラゴンが簡単に倒されるとはとても思えないが、どちらにしても多大な犠牲が出るのは避けられない。
もちろんあの巨体で動き回れば、いま周囲で魅入られて呆然となっているコロニウス達も巻き込まれて蹂躙されてしまう。
とりあえず今はそれを訴える事で、止めるしかない。
「待って下さい! いま攻撃したら周りいる人達まで巻き込んでしまいますよ! コロニウスさん達の命が危うくなります!」
この言葉で幾人かは、動きを止める。
たぶんコロニウスの配下だった連中だろう。
「お願いです。あのドラゴンにはすぐにでも立ち去ってもらいますから、皆さんも手を出さないで下さい!」
オレの訴えを聞いて一部にはホッとしたと言わんばかりの弛緩した空気が流れる。
しかしそう簡単にはいかなかった。
「うるせえ! そこをどきやがれ!」
「こんな機会はもう二度と無いんだよ! 仕官の道が開けるかもしれないんだ」
「そうだ。こんな出世のチャンスを見逃せるか」
一部の連中が目の色を変えて叫び声を上げる。
ドラゴンの卵が並の人間には一生働いても手に入れられない富をもたらすのと同様に、ここで『ドラゴンを倒した』という称号を得たら、それだけで出世の道に繋がるとなれば、引き下がらない連中も出るのだ。
くそう。どうやって止めればいい。
だがここでオレの耳には、またも女神の声が響き渡る。
『やはり。魔力だけでは足りなかったようですね』
なんか女神様がドヤ顔で、自分の出番を待っていたように感じられるのですけど、気のせいでしょうか。
「あなたは状況が分かっていたのですか」
『残念ながら、わたくしは己の権能か、信徒を通じてしか事態を把握出来ません。幾ら神でも何でも見ているわけではないのですよ』
「それではあなたは――」
『そうですよ。わたくしはあなたの魂を通じてしか状況が分からないのです』
今までオレがピンチの時だけしゃしゃり出てきたのは、そういう事情があったからですか。
『残念ながら殆どの信徒の力では、そもそもわたくしにまで声が届きませんが……』
以前に出会ったスケベ、もとい『天空と嵐の神であるアンブラール神』は美人と見れば化身を送り込んでチョメチョメしたがるような出しゃばりな神だったけど、イロールはそこまで図々しくないので、こちらの事情にもそれほど通じていないということか。
そういえばアンブラール神は落雷と共に化身を地上に送り込んでいたけど、この女神は人間に乗り移ってその相手を化身とするが、それも神様の性格の違いなのだろう。
だけどそれをいま考えるのは後回しだ。
つい先ほど助力を断ったばかりだけど、今はこの状況を打開出来るのならそれで構わない。
「お願いです。力を貸して下さい」
『もちろんですとも。あなたがそう言ってくれるのを待っていました』
やっぱり女神イロールはどこか嬉しそうだな!
しかしオレがその不満を口にする前に、この身に一気に力が流れ込み、それと共に身体が爆発するかのような感覚が全身を駆け巡った。
背や手足が伸び、胸が大きくなり、髪がまるで黄金の滝のように頭から流れる。
ライバンスの魔法学園以来、二ヶ月ぐらいしか経っていないけど、もうかなり昔の事のように感じられるなあ。
「そ、その姿は?! まさか?!」
イロールの化身となった、オレの姿を見て、今まさにドラゴンを攻撃しようとした連中達は、一気に目を奪われたかのように動きを止めていた。
いや。よく見ると困惑しているのと、意気軒昂になっているのがいるが、たぶん兵士達もそのあたりの動機はバラバラだったに違いない。
考えてみればドラゴンやその卵について、ここにいる連中――もちろんオレも含めて――殆ど知らなかったわけで、それだからこそダンギムの言葉も聞き入れて一時なりと言えど従っていたのだろう。
しかしドラゴンの目が見えないのを聞いて、好機だと思った奴らに火がついてしまったらしい。
「なんだ? どうしたのだ?」
急な成り行きにダンギムにも動揺した様子が見えるが、そんな彼を兵士の一人が押しのける。
「あんたはもう邪魔だよ。どいてくれ」
「なんだと?」
「ドラゴンについて知っていると言うから、付き合ってやっていたけどもう用済みだ」
さっきまでかなり恐れていたくせに、好機というだけで目の色を変えるとは、何とも現金な連中だな。
いや。もともとダンギムの言う事を聞く義理があったわけではないところに、彼らの欲をかき立てるものが現れたので、一気にそちらに飛びついてしまったのだ。
そしてよりにもよってそれをやってしまったのが、このオレなのだ。
「みんなあのドラゴンの目が回復する前に、一斉に攻撃するぞ!」
うう。もうすぐにでも一斉攻撃が始まりそうだ。
確かにあのドラゴンはいま目が見えていない。
この状況で攻撃されて、泡を食って逃げ出すぐらいならいいが、闇雲に暴れ出す危険性がはるかに高いだろう。
それでもあのドラゴンが簡単に倒されるとはとても思えないが、どちらにしても多大な犠牲が出るのは避けられない。
もちろんあの巨体で動き回れば、いま周囲で魅入られて呆然となっているコロニウス達も巻き込まれて蹂躙されてしまう。
とりあえず今はそれを訴える事で、止めるしかない。
「待って下さい! いま攻撃したら周りいる人達まで巻き込んでしまいますよ! コロニウスさん達の命が危うくなります!」
この言葉で幾人かは、動きを止める。
たぶんコロニウスの配下だった連中だろう。
「お願いです。あのドラゴンにはすぐにでも立ち去ってもらいますから、皆さんも手を出さないで下さい!」
オレの訴えを聞いて一部にはホッとしたと言わんばかりの弛緩した空気が流れる。
しかしそう簡単にはいかなかった。
「うるせえ! そこをどきやがれ!」
「こんな機会はもう二度と無いんだよ! 仕官の道が開けるかもしれないんだ」
「そうだ。こんな出世のチャンスを見逃せるか」
一部の連中が目の色を変えて叫び声を上げる。
ドラゴンの卵が並の人間には一生働いても手に入れられない富をもたらすのと同様に、ここで『ドラゴンを倒した』という称号を得たら、それだけで出世の道に繋がるとなれば、引き下がらない連中も出るのだ。
くそう。どうやって止めればいい。
だがここでオレの耳には、またも女神の声が響き渡る。
『やはり。魔力だけでは足りなかったようですね』
なんか女神様がドヤ顔で、自分の出番を待っていたように感じられるのですけど、気のせいでしょうか。
「あなたは状況が分かっていたのですか」
『残念ながら、わたくしは己の権能か、信徒を通じてしか事態を把握出来ません。幾ら神でも何でも見ているわけではないのですよ』
「それではあなたは――」
『そうですよ。わたくしはあなたの魂を通じてしか状況が分からないのです』
今までオレがピンチの時だけしゃしゃり出てきたのは、そういう事情があったからですか。
『残念ながら殆どの信徒の力では、そもそもわたくしにまで声が届きませんが……』
以前に出会ったスケベ、もとい『天空と嵐の神であるアンブラール神』は美人と見れば化身を送り込んでチョメチョメしたがるような出しゃばりな神だったけど、イロールはそこまで図々しくないので、こちらの事情にもそれほど通じていないということか。
そういえばアンブラール神は落雷と共に化身を地上に送り込んでいたけど、この女神は人間に乗り移ってその相手を化身とするが、それも神様の性格の違いなのだろう。
だけどそれをいま考えるのは後回しだ。
つい先ほど助力を断ったばかりだけど、今はこの状況を打開出来るのならそれで構わない。
「お願いです。力を貸して下さい」
『もちろんですとも。あなたがそう言ってくれるのを待っていました』
やっぱり女神イロールはどこか嬉しそうだな!
しかしオレがその不満を口にする前に、この身に一気に力が流れ込み、それと共に身体が爆発するかのような感覚が全身を駆け巡った。
背や手足が伸び、胸が大きくなり、髪がまるで黄金の滝のように頭から流れる。
ライバンスの魔法学園以来、二ヶ月ぐらいしか経っていないけど、もうかなり昔の事のように感じられるなあ。
「そ、その姿は?! まさか?!」
イロールの化身となった、オレの姿を見て、今まさにドラゴンを攻撃しようとした連中達は、一気に目を奪われたかのように動きを止めていた。
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