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第12章 強奪の地にて
第384話 戦いを止めようとして、引き金をひく事も……
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とりあえず【陽光】の魔法を終わらせたところで、周囲の連中はオレの姿を注視しているようだ。
それでドラゴンへの注意と敵視がそれてくれるなら、喜ぶべき事なんだろうけど、いろいろと複雑な気分だ。
いまのところドラゴンは至近距離で【陽光】を浴びた結果として、まだ目が見えていないらしく立ちすくんでいる。
ちょっと申し訳ない気がするけど、動かないように頼んだお陰で、とりあえず行動しないでいてくれるのはありがたい。
だがここでダンギムの発した問いかけは、オレの意表をついた。
「それであのドラゴンはいったい何なのですか?」
え? 川を流れてきたドラゴンの卵とオレが一緒にいた事は知ってるだろ?
常識的にはその卵が孵ったとしか考えようがないだろうに、ダンギムはいったい何を言っているんだ。
何か重大な勘違いが生じているのだろうか。
「ひょっとしたら卵を守りに来たのでしょうか? それならば一体だけとはいえ、この近辺を焼け野原にするだけの力があるはずです」
この言葉に、周囲の兵士達の緊張は一気に高まる。
そうか。ダンギムは賢者なのである程度、ドラゴンの卵についての知識があるので、こんなに早く生まれるとは思っていなかったんだ。
しかもその身体もかなり成長しているらしいから、あの卵から生まれたと考えなくても不思議じゃないな。
例えるなら『数日前に母親の胎内にいた赤子が、今では元気に歩き回っている』ようなものなんだろうな。
ええい。またムダに話がややこしくなっているが、そこから説明が必要か。
「すみませんが、あの卵から孵ったのがあちらにいるドラゴンなんです」
「ええ?! そんなバカな? 記録では卵から孵るのもまだ先ですし、あれだけ成長するには、まだ何年もかかるはずですよ!」
いったいどうやってその記録を取ったんだ?
精霊から聞いた話とも符合するので、いい加減なものでないのは間違いない。
たぶん過去何百年にも渡って、多大な犠牲を出しながらドラゴンの記録をとり続けたのだろうなあ。
しかし以前にダンギムに聞いたところだと、そうやって命がけで実地に記録を取る人間は崇拝する神『本の司マルキウス』の教団では卑しい立場とされているそうだから、何とも理不尽な話である。
「普通のドラゴンの卵だったらその通りでしょうけど、あの卵は違うのですよ」
「それは種族ですか? それとも環境でしょうか?」
ダンギムが勢い込んで問いかけてくるのは、やっぱり知識に貪欲だからなんだろう。
ここは嘘をついても仕方ないので、正直に答えるしかないだろうな。
「それはわたしがずっと魔力を与えていた結果なんです。だから通常よりも遥かに早く成長してあんな姿になっているのです」
「なんと! そのような事があったとは!」
ダンギムはかなり嬉しそうだな。
そうやって喜べるのは、正直に言って少しはうらやましい。
「アルタシャ様ほどの強大な魔力を注ぐと、ドラゴンは急速に成長するのですな。これは何とも素晴らしい発見です」
いや。興奮するところそこじゃないでしょ。
もっとも兵士達はオレの姿を見て、かなり興奮しているみたいだけどな。
「とにかくそれであのドラゴンはこちらを襲っているわけでもありませんし、人間に危害を加えるつもりもないのです。だから皆さんは戦う必要はありません」
オレがハッキリと言い切ると、周囲の兵士達にはどこか安堵の空気が流れた。
やはり彼らも怖かったに違いない。
しかし一部にはまだ武器を掲げて、ドラゴンに狙いをつけている連中が残っていた。
そしてダンギムもまた動けなくなったコロニウス達を横目にしてまだ食い下がってくる。
「お言葉ではありますが、あちらの有様を見ると、あのドラゴンは決して人間に無害な存在というわけではないようですが」
「それはダンギムさんの言うとおりです。だからこそわたしが相手をしますので今は皆さん、引き下がってくれませんか」
「あなた様のお言葉は分かりますが……」
あれ? あんまりダンギムは安堵していないらしい。
ひょっとするとオレの言葉を信じていないのか?
それともオレが自己犠牲精神を発揮して、危険な事をしようとしていると思っているかもしれない。
まあ知識に貪欲だったら相手の言う事を鵜呑みにしないのも当然だろうな。
「本当に大丈夫ですよ。あのドラゴンはさっきの魔法で目が見えていないようですけど、それが回復したらすぐにここを去るように説得しますから」
オレがそう口にしたところで、周囲から妙な声があがる。
「なんだと? それは本当か?!」
なぜか急に色めき立った奴らがいるぞ。
なぜだ? 幾ら目が見えないと言っても命がけでドラゴンと戦って何の益がある?
いや。考えてみたらドラゴンの卵を巡っても、守ろうとする相手もいれば、金のために略奪しようとする奴らもいた。
ここにいる連中の中にも卵の略奪希望者がいてもおかしくないけど、卵から孵ったドラゴンを見て更に欲をかき立てられる場合があるとしたら。
まさか?! よくよく考えてみればファンタジーだったら『ドラゴン殺し』というのは、もの凄い栄誉の称号じゃないか。
それを望んでいる奴らにとってドラゴンの目が見えないとしたら、それは絶好の好機ということになる。
ひょっとしたら卵から孵ったばかりの――つまりもっとも弱い状態の――ドラゴンを討ってその称号を得ようと考えていた奴らが、最初から混じっていたかもしれないぞ。
ただそのドラゴンが思っていたより大きかったから、今まで攻撃を躊躇していたけど、目が見えないと聞いてまたとないチャンスと受け止めたに違いない。
しまった! そっちの事は考えていなかった!
オレは争いを止めようとして、最後に引き金をひいてしまったのか?!
それでドラゴンへの注意と敵視がそれてくれるなら、喜ぶべき事なんだろうけど、いろいろと複雑な気分だ。
いまのところドラゴンは至近距離で【陽光】を浴びた結果として、まだ目が見えていないらしく立ちすくんでいる。
ちょっと申し訳ない気がするけど、動かないように頼んだお陰で、とりあえず行動しないでいてくれるのはありがたい。
だがここでダンギムの発した問いかけは、オレの意表をついた。
「それであのドラゴンはいったい何なのですか?」
え? 川を流れてきたドラゴンの卵とオレが一緒にいた事は知ってるだろ?
常識的にはその卵が孵ったとしか考えようがないだろうに、ダンギムはいったい何を言っているんだ。
何か重大な勘違いが生じているのだろうか。
「ひょっとしたら卵を守りに来たのでしょうか? それならば一体だけとはいえ、この近辺を焼け野原にするだけの力があるはずです」
この言葉に、周囲の兵士達の緊張は一気に高まる。
そうか。ダンギムは賢者なのである程度、ドラゴンの卵についての知識があるので、こんなに早く生まれるとは思っていなかったんだ。
しかもその身体もかなり成長しているらしいから、あの卵から生まれたと考えなくても不思議じゃないな。
例えるなら『数日前に母親の胎内にいた赤子が、今では元気に歩き回っている』ようなものなんだろうな。
ええい。またムダに話がややこしくなっているが、そこから説明が必要か。
「すみませんが、あの卵から孵ったのがあちらにいるドラゴンなんです」
「ええ?! そんなバカな? 記録では卵から孵るのもまだ先ですし、あれだけ成長するには、まだ何年もかかるはずですよ!」
いったいどうやってその記録を取ったんだ?
精霊から聞いた話とも符合するので、いい加減なものでないのは間違いない。
たぶん過去何百年にも渡って、多大な犠牲を出しながらドラゴンの記録をとり続けたのだろうなあ。
しかし以前にダンギムに聞いたところだと、そうやって命がけで実地に記録を取る人間は崇拝する神『本の司マルキウス』の教団では卑しい立場とされているそうだから、何とも理不尽な話である。
「普通のドラゴンの卵だったらその通りでしょうけど、あの卵は違うのですよ」
「それは種族ですか? それとも環境でしょうか?」
ダンギムが勢い込んで問いかけてくるのは、やっぱり知識に貪欲だからなんだろう。
ここは嘘をついても仕方ないので、正直に答えるしかないだろうな。
「それはわたしがずっと魔力を与えていた結果なんです。だから通常よりも遥かに早く成長してあんな姿になっているのです」
「なんと! そのような事があったとは!」
ダンギムはかなり嬉しそうだな。
そうやって喜べるのは、正直に言って少しはうらやましい。
「アルタシャ様ほどの強大な魔力を注ぐと、ドラゴンは急速に成長するのですな。これは何とも素晴らしい発見です」
いや。興奮するところそこじゃないでしょ。
もっとも兵士達はオレの姿を見て、かなり興奮しているみたいだけどな。
「とにかくそれであのドラゴンはこちらを襲っているわけでもありませんし、人間に危害を加えるつもりもないのです。だから皆さんは戦う必要はありません」
オレがハッキリと言い切ると、周囲の兵士達にはどこか安堵の空気が流れた。
やはり彼らも怖かったに違いない。
しかし一部にはまだ武器を掲げて、ドラゴンに狙いをつけている連中が残っていた。
そしてダンギムもまた動けなくなったコロニウス達を横目にしてまだ食い下がってくる。
「お言葉ではありますが、あちらの有様を見ると、あのドラゴンは決して人間に無害な存在というわけではないようですが」
「それはダンギムさんの言うとおりです。だからこそわたしが相手をしますので今は皆さん、引き下がってくれませんか」
「あなた様のお言葉は分かりますが……」
あれ? あんまりダンギムは安堵していないらしい。
ひょっとするとオレの言葉を信じていないのか?
それともオレが自己犠牲精神を発揮して、危険な事をしようとしていると思っているかもしれない。
まあ知識に貪欲だったら相手の言う事を鵜呑みにしないのも当然だろうな。
「本当に大丈夫ですよ。あのドラゴンはさっきの魔法で目が見えていないようですけど、それが回復したらすぐにここを去るように説得しますから」
オレがそう口にしたところで、周囲から妙な声があがる。
「なんだと? それは本当か?!」
なぜか急に色めき立った奴らがいるぞ。
なぜだ? 幾ら目が見えないと言っても命がけでドラゴンと戦って何の益がある?
いや。考えてみたらドラゴンの卵を巡っても、守ろうとする相手もいれば、金のために略奪しようとする奴らもいた。
ここにいる連中の中にも卵の略奪希望者がいてもおかしくないけど、卵から孵ったドラゴンを見て更に欲をかき立てられる場合があるとしたら。
まさか?! よくよく考えてみればファンタジーだったら『ドラゴン殺し』というのは、もの凄い栄誉の称号じゃないか。
それを望んでいる奴らにとってドラゴンの目が見えないとしたら、それは絶好の好機ということになる。
ひょっとしたら卵から孵ったばかりの――つまりもっとも弱い状態の――ドラゴンを討ってその称号を得ようと考えていた奴らが、最初から混じっていたかもしれないぞ。
ただそのドラゴンが思っていたより大きかったから、今まで攻撃を躊躇していたけど、目が見えないと聞いてまたとないチャンスと受け止めたに違いない。
しまった! そっちの事は考えていなかった!
オレは争いを止めようとして、最後に引き金をひいてしまったのか?!
応援ありがとうございます!
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