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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第405話 遊牧民と川の民と
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そして翌日になったところで、街道には寄り添うように川が流れるところまで来た。
平原で多くの人間が住むには当然、水の手は欠かせないから、この川が当面の目的地であるパップスの水源となっているのだろう。
よく見ると川の周囲にはいくつかの村が点在している。
遊牧民とは別に川で漁をしたり、河川交通で物資を運搬したりで生計を立てている川の民だろう。
ただ集落はいずれも周囲を土の壁で覆っており、中央にはかなり頑丈そうな石作の建築物がそびえ、遊牧民の襲撃に備えている様子がうかがえる。
この平原において遊牧民は定住民を略奪の対象とするのが当たり前らしいので、川の民と言えど武装は必須のようだ。
「あれは川の民の集落ですね」
「ああ。その通りだ」
ターダは明らかに感心がなさそうだ。川の民には興味が無いのだろうな。
もっとも襲撃する場合には、喜々としてやるかもしれないけど。
しかしこういう人達は河川交通を利用して、この世界の基準では結構、情報通のはずだ。
「とりあえずあそこで話を伺いましょう」
ひょっとしたらターダを追いかけている連中の足取りだとか、目的地のパップスについての情報とかを知る機会になるかもしれないぞ。
「辞めておけ。あの連中はこちらを嫌っている」
言われて見れば外で魚を干したり、網を手入れしたりしている人達も手を止めて、こちらに険しい視線を注いできているな。
まあこの世界、基本的によそ者には不寛容なのでそこは仕方ないか。
「そうかもしれませんけど、話ぐらいはいいでしょう。ターダはそこで待っていて下さい」
「面倒な事になるかもしれんぞ」
「ちょっと話をするだけですから、大丈夫ですよ」
そう言ってオレは川の民の方に足を向ける。
前もって【調和】をかけて暴力的な行動に出られないようにしておけば、この川の民が相手ならば危険はあるまい。
「すみません。少し話よろしいですか?」
「……」
オレは川岸近くで干し魚の見張りをしている中年の女性に声をかけるが、相手は露骨に視線を逸らした。
やっぱりあからさまに警戒されているな。
仕方ないのでオレは懐から銅貨を取り出す。
「これでそこの干し魚を売ってくれませんかね?」
「それはいいけど、買ったらすぐに立ち去ってくれよ」
またとんでもなく冷たい扱いだな。
確かに今のオレは男装して、フードを目深くかぶっているから結構怪しい外見ではあるけど、交易路に近い場所で旅人にここまで嫌悪感を示すものなのだろうか。
「あのう。何か気に障る事でもしましたか?」
「あんたはともかくそっちのツレがね……」
そう言って女性は少し離れたところにいるターダに蔑んだ視線を向ける。
「あいつは遊牧民だろう?」
やっぱり川の民にとっては交易路を通る商人はまだしも、襲撃しにくる遊牧民は警戒というよりも嫌悪の対象なのか。
馬にも乗らず、オレを加えてたった二人でも襲撃前の偵察に来ているかもしれないと思われているのかもしれないな。
「心配しなくてもパップスまでの旅の途中ですから、すぐに立ち去りますよ」
それを聞いて川の民の女性は僅かに眉をひそめる。
「あんたはパップスに行くのは初めてだね」
「その通りですけど……」
「行ってみれば分かるよ。あたしら川の民にとってあいつらの犯した罪がね」
それだけ言うと女性はオレの差し出した銅貨を受け取り、干し魚を突き出してきた。
「ほうらこれを持って、あいつと一緒にとっとと行っとくれ」
「……分かりました」
川の民が遊牧民と対立しているのは知っていたが、どうも遊牧民よりも川の民の方が相手を敵視する度合いが強いらしい。
もちろんこの両者は遊牧民がほぼ常に襲う側だから、そういう関係になっても不思議ではないけど、それだけではなく遊牧民の唯一の大規模な定住地であるパップスにその根本原因があるようだ。
そんなわけでオレは再度、合流したところでターダに問いかける。
「随分と川の民から遊牧民は嫌われているようですけど、パップスで何があったんですか?」
「奴らは我ら『定めし者』の行った偉業を憎んでいるのだ。困った事にな……」
そう言うとターダは街道の先に視線を向ける。
「これより少し進めばすぐに見えてくるだろう」
ターダの言葉に従い、先に進むと単調な光景の続く平原ではちょっとばかり意外なものがオレ達の前に広がった。
「これは……そういうことですか」
大きな運河が掘られて、川の流れがねじ曲げられていたのだ。
平原を穿つ涸れた流れだけが、元の流れの痕跡となっていた。
「そうだ。これが我らの始祖たる『定めし者』の成し遂げた偉業の一つである『恩恵の運河』だ。これによって聖地パップスに水が引き入れられ、我ら遊牧民がいつでも集まれる場所となったというわけだ」
なるほど。本来、定住しない遊牧民にとってこんな土木工事はそりゃ凄い偉業だろう。
最初は単純にこの川が向かう先のパップスの水源になっているのかと思ったら、運河で水を引き込んでいたんだな。
だけど川の民にとっては、神の身である川の流れを一方的に変えられたわけだから、それを成し遂げた『定めし者』とその信徒をよく思うわけがない。
川の民にすれば、遊牧民は襲撃してくるだけでなく、自分達の神への冒涜者でもあったというわけか。
「だけど川に住む連中は、この偉業を理解しないどころか『川を汚した』と怒っているという寸法だ」
どっちも言っている事は分かるんだけど、やっぱり面倒な話だな。
しかしオレはこの時、まだまだこの先にある厄介事について、それを十分には理解していなかったのだ。
平原で多くの人間が住むには当然、水の手は欠かせないから、この川が当面の目的地であるパップスの水源となっているのだろう。
よく見ると川の周囲にはいくつかの村が点在している。
遊牧民とは別に川で漁をしたり、河川交通で物資を運搬したりで生計を立てている川の民だろう。
ただ集落はいずれも周囲を土の壁で覆っており、中央にはかなり頑丈そうな石作の建築物がそびえ、遊牧民の襲撃に備えている様子がうかがえる。
この平原において遊牧民は定住民を略奪の対象とするのが当たり前らしいので、川の民と言えど武装は必須のようだ。
「あれは川の民の集落ですね」
「ああ。その通りだ」
ターダは明らかに感心がなさそうだ。川の民には興味が無いのだろうな。
もっとも襲撃する場合には、喜々としてやるかもしれないけど。
しかしこういう人達は河川交通を利用して、この世界の基準では結構、情報通のはずだ。
「とりあえずあそこで話を伺いましょう」
ひょっとしたらターダを追いかけている連中の足取りだとか、目的地のパップスについての情報とかを知る機会になるかもしれないぞ。
「辞めておけ。あの連中はこちらを嫌っている」
言われて見れば外で魚を干したり、網を手入れしたりしている人達も手を止めて、こちらに険しい視線を注いできているな。
まあこの世界、基本的によそ者には不寛容なのでそこは仕方ないか。
「そうかもしれませんけど、話ぐらいはいいでしょう。ターダはそこで待っていて下さい」
「面倒な事になるかもしれんぞ」
「ちょっと話をするだけですから、大丈夫ですよ」
そう言ってオレは川の民の方に足を向ける。
前もって【調和】をかけて暴力的な行動に出られないようにしておけば、この川の民が相手ならば危険はあるまい。
「すみません。少し話よろしいですか?」
「……」
オレは川岸近くで干し魚の見張りをしている中年の女性に声をかけるが、相手は露骨に視線を逸らした。
やっぱりあからさまに警戒されているな。
仕方ないのでオレは懐から銅貨を取り出す。
「これでそこの干し魚を売ってくれませんかね?」
「それはいいけど、買ったらすぐに立ち去ってくれよ」
またとんでもなく冷たい扱いだな。
確かに今のオレは男装して、フードを目深くかぶっているから結構怪しい外見ではあるけど、交易路に近い場所で旅人にここまで嫌悪感を示すものなのだろうか。
「あのう。何か気に障る事でもしましたか?」
「あんたはともかくそっちのツレがね……」
そう言って女性は少し離れたところにいるターダに蔑んだ視線を向ける。
「あいつは遊牧民だろう?」
やっぱり川の民にとっては交易路を通る商人はまだしも、襲撃しにくる遊牧民は警戒というよりも嫌悪の対象なのか。
馬にも乗らず、オレを加えてたった二人でも襲撃前の偵察に来ているかもしれないと思われているのかもしれないな。
「心配しなくてもパップスまでの旅の途中ですから、すぐに立ち去りますよ」
それを聞いて川の民の女性は僅かに眉をひそめる。
「あんたはパップスに行くのは初めてだね」
「その通りですけど……」
「行ってみれば分かるよ。あたしら川の民にとってあいつらの犯した罪がね」
それだけ言うと女性はオレの差し出した銅貨を受け取り、干し魚を突き出してきた。
「ほうらこれを持って、あいつと一緒にとっとと行っとくれ」
「……分かりました」
川の民が遊牧民と対立しているのは知っていたが、どうも遊牧民よりも川の民の方が相手を敵視する度合いが強いらしい。
もちろんこの両者は遊牧民がほぼ常に襲う側だから、そういう関係になっても不思議ではないけど、それだけではなく遊牧民の唯一の大規模な定住地であるパップスにその根本原因があるようだ。
そんなわけでオレは再度、合流したところでターダに問いかける。
「随分と川の民から遊牧民は嫌われているようですけど、パップスで何があったんですか?」
「奴らは我ら『定めし者』の行った偉業を憎んでいるのだ。困った事にな……」
そう言うとターダは街道の先に視線を向ける。
「これより少し進めばすぐに見えてくるだろう」
ターダの言葉に従い、先に進むと単調な光景の続く平原ではちょっとばかり意外なものがオレ達の前に広がった。
「これは……そういうことですか」
大きな運河が掘られて、川の流れがねじ曲げられていたのだ。
平原を穿つ涸れた流れだけが、元の流れの痕跡となっていた。
「そうだ。これが我らの始祖たる『定めし者』の成し遂げた偉業の一つである『恩恵の運河』だ。これによって聖地パップスに水が引き入れられ、我ら遊牧民がいつでも集まれる場所となったというわけだ」
なるほど。本来、定住しない遊牧民にとってこんな土木工事はそりゃ凄い偉業だろう。
最初は単純にこの川が向かう先のパップスの水源になっているのかと思ったら、運河で水を引き込んでいたんだな。
だけど川の民にとっては、神の身である川の流れを一方的に変えられたわけだから、それを成し遂げた『定めし者』とその信徒をよく思うわけがない。
川の民にすれば、遊牧民は襲撃してくるだけでなく、自分達の神への冒涜者でもあったというわけか。
「だけど川に住む連中は、この偉業を理解しないどころか『川を汚した』と怒っているという寸法だ」
どっちも言っている事は分かるんだけど、やっぱり面倒な話だな。
しかしオレはこの時、まだまだこの先にある厄介事について、それを十分には理解していなかったのだ。
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