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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第408話 『聖地』と『汚れ』
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この地の伝説は、どうもターダ達遊牧民が『悪鬼』と呼ぶ存在が大きな影響を与えているらしい。
ただその『悪鬼』が何だったのか、今のところはよく分からないな。
他の地域からの侵略者というところまでは嘘ではないだろうけど、それ以上の事は軽々に決めつけられない。
ひょっとしたら遊牧民が『悪鬼』と忌み嫌う存在が、余所では神だったり偉大な英雄だったりするかもしれない。その場合はひょっとすると今でもその信者は『軍勢を率いて進軍していった我らの神がいつの日か凱旋してくる』のを待っていたりするかもしれないのだ。
いずれにせよ凄い力を有していて、その力の一部がしみ出ているので、それを川の水で流しているのは確かなのだろう。
川の民にすれば川筋を無理矢理変えて、そんな事をさせられたら怒って当たり前だな。
しかしその悪鬼の力を洗い流した後の水であるがゆえに、この不毛の荒野に湿地が生まれ出で、生命があるのだとしたら皮肉としか言いようがない。
「川の民はあの地を『川が恥辱のために頭を隠したところ』と呼び、その原因となったとして『定めし者』を嫌っているというわけだ」
「それではあなた方、遊牧民にはどうなのですか?」
普通に考えると仇敵であり、この地を破壊した元凶たる『悪鬼』の力がしみ出た場所なのだから『汚れ果てた土地』ということになるはずだ。
しかしターダの態度からは、そう思っているようには見えない。
「あの『悪鬼の湿地』は我ら遊牧民にとって、この聖なる土地の中でも、もっとも重要な場所とすら言えるところだぞ」
「そうなのですか……」
それはちょっと驚いた。
しかし大分前に知り合いのシャーマンのアカスタに憑いていた霊体の師匠が『英雄がモンスターを倒した結果、その汚れで不毛の地となったとされる場所を聖地と崇める事もある』と言っていたので、それに近いものがあるのだろうか。
「我ら遊牧民が部族の中で地位を得るにはあそこに足を踏みいれ、そこで成果を上げねばならない。それを成していない者は決して勇者とは認められないのだ」
それは『マサイの戦士は獅子を殺した事のないものは勇者と認めない』というアナクレト・ムガビなお話でしょうか。
そうすると誰でも思いつく事もある。
「遊牧民が族長になるためには、あそこで狩りをする必要があるのですか」
「当然だ。そしてただ獲物を狩るだけではない。持ち帰ったものが族長としてふさわしいものであると皆を納得させねばならない。候補者が複数いる場合もあるが、そのときにはもっとも素晴らしい獲物を狩ってきたものが族長になる資格を得る」
「その狩りは本人がやらないといけないのですね」
「もちろん族長候補者が一人だけで狩りをせねばならない。他人を代理にするなど論外だし、仲間を連れて狩りをしても、族長としては認められない」
理屈はわかるんだけど、別の疑問として不正をどうやって防ぐのだろうか。
族長の地位が絡むとなると、一筋縄ではいかないのは間違いない。
「たとえば候補者が他人に狩りをさせ、それを自分が獲った獲物だと主張した場合はどうなるのですか?」
仮に証人を同行させるとしても、その証人に対して『自分が族長になったら~』と言って買収を図ることは当然ありうる。
危険な場所なのは間違いないから、証人が命を落とすことだってあるだろう。
だがターダは胸を張って答える。
「それならば心配はない。この地は『定めし者』の聖地と言ったはずだ。常に我らの神が見ておられる場所で不正など見逃されるはずがなかろう」
そうか。こっちでは《神託》という手段があったんだな。
少なくともその狩りの中で、神の意志に背く真似をしても見破られるというワケか。
「むろん候補者に選ばれる段階で頑健な戦士であり、何年にも渡って部族に貢献した実績と人望を兼ね備えた優秀な男でなければならない」
あくまでも『男性限定』の話なのね。
「不正に手を染めるような輩が選ばれるなど、それ自体が『定めし者』への侮辱なのだ」
要するに遊牧民にとって族長の地位は『前族長の息子』というだけで継ぐ事は認められない実力至上主義ということか。
ただその実績というのは多くの場合『他の部族への略奪』だったりするわけだな。
同じ地に住み、同じ神を崇拝している人間同士で、そうやって相争い、その業績を神に認められて族長になるというのはオレにとってはかなり違和感がある。
しかしこの族長になるための試練はかなり厳しいものだな。
「それでも失敗して命を落とす人間は多いのではありませんか?」
部族を背負って立てる人間と認められるような、選りすぐりの戦士をこんな危険な試練に投じて無為に命を落とすような事になれば、それこそ部族の力を落とす事になりかねないだろう。
この問いに対しターダは明らかに表情を曇らせる。
「その通りだ……しかしそれが『定めし者』が決めた我らの掟であり、命を落としたのであれば、ただ単にそのものには族長の資格がなかったというだけだ」
ターダはまるで自分に言い聞かせるような口ぶりだな。
「川の民だけでなく、お前のような外の人間にとっても、あの『悪鬼の湿地』が近寄りがたい場所である事は分かっている。しかしそんな事は我らには関係無い」
これまでの話を総合しつつ、よくあるパターンを考えるとターダもどこかの部族の族長候補者で、ここまでやってきたのは『族長となるための狩り』をするのが目的なのか?
彼を追っていた連中は、対立する部族か、はたまた同じ部族で族長の座を巡って争っている派閥の手の者だったりするかもしれない。
いや。考えてみるとそれも変だな。
ターダの年齢はどう見てもオレと同年配の十代半ば。
それで先ほど言及されたような実績を上げているとはとても思えない。そうすると何のために危険を承知でターダは一人でここまでやってきたのだろうか?
いろいろと疑問が湧く中で、オレ達二人はパップスの城門近くまでたどり着いていた。
ただその『悪鬼』が何だったのか、今のところはよく分からないな。
他の地域からの侵略者というところまでは嘘ではないだろうけど、それ以上の事は軽々に決めつけられない。
ひょっとしたら遊牧民が『悪鬼』と忌み嫌う存在が、余所では神だったり偉大な英雄だったりするかもしれない。その場合はひょっとすると今でもその信者は『軍勢を率いて進軍していった我らの神がいつの日か凱旋してくる』のを待っていたりするかもしれないのだ。
いずれにせよ凄い力を有していて、その力の一部がしみ出ているので、それを川の水で流しているのは確かなのだろう。
川の民にすれば川筋を無理矢理変えて、そんな事をさせられたら怒って当たり前だな。
しかしその悪鬼の力を洗い流した後の水であるがゆえに、この不毛の荒野に湿地が生まれ出で、生命があるのだとしたら皮肉としか言いようがない。
「川の民はあの地を『川が恥辱のために頭を隠したところ』と呼び、その原因となったとして『定めし者』を嫌っているというわけだ」
「それではあなた方、遊牧民にはどうなのですか?」
普通に考えると仇敵であり、この地を破壊した元凶たる『悪鬼』の力がしみ出た場所なのだから『汚れ果てた土地』ということになるはずだ。
しかしターダの態度からは、そう思っているようには見えない。
「あの『悪鬼の湿地』は我ら遊牧民にとって、この聖なる土地の中でも、もっとも重要な場所とすら言えるところだぞ」
「そうなのですか……」
それはちょっと驚いた。
しかし大分前に知り合いのシャーマンのアカスタに憑いていた霊体の師匠が『英雄がモンスターを倒した結果、その汚れで不毛の地となったとされる場所を聖地と崇める事もある』と言っていたので、それに近いものがあるのだろうか。
「我ら遊牧民が部族の中で地位を得るにはあそこに足を踏みいれ、そこで成果を上げねばならない。それを成していない者は決して勇者とは認められないのだ」
それは『マサイの戦士は獅子を殺した事のないものは勇者と認めない』というアナクレト・ムガビなお話でしょうか。
そうすると誰でも思いつく事もある。
「遊牧民が族長になるためには、あそこで狩りをする必要があるのですか」
「当然だ。そしてただ獲物を狩るだけではない。持ち帰ったものが族長としてふさわしいものであると皆を納得させねばならない。候補者が複数いる場合もあるが、そのときにはもっとも素晴らしい獲物を狩ってきたものが族長になる資格を得る」
「その狩りは本人がやらないといけないのですね」
「もちろん族長候補者が一人だけで狩りをせねばならない。他人を代理にするなど論外だし、仲間を連れて狩りをしても、族長としては認められない」
理屈はわかるんだけど、別の疑問として不正をどうやって防ぐのだろうか。
族長の地位が絡むとなると、一筋縄ではいかないのは間違いない。
「たとえば候補者が他人に狩りをさせ、それを自分が獲った獲物だと主張した場合はどうなるのですか?」
仮に証人を同行させるとしても、その証人に対して『自分が族長になったら~』と言って買収を図ることは当然ありうる。
危険な場所なのは間違いないから、証人が命を落とすことだってあるだろう。
だがターダは胸を張って答える。
「それならば心配はない。この地は『定めし者』の聖地と言ったはずだ。常に我らの神が見ておられる場所で不正など見逃されるはずがなかろう」
そうか。こっちでは《神託》という手段があったんだな。
少なくともその狩りの中で、神の意志に背く真似をしても見破られるというワケか。
「むろん候補者に選ばれる段階で頑健な戦士であり、何年にも渡って部族に貢献した実績と人望を兼ね備えた優秀な男でなければならない」
あくまでも『男性限定』の話なのね。
「不正に手を染めるような輩が選ばれるなど、それ自体が『定めし者』への侮辱なのだ」
要するに遊牧民にとって族長の地位は『前族長の息子』というだけで継ぐ事は認められない実力至上主義ということか。
ただその実績というのは多くの場合『他の部族への略奪』だったりするわけだな。
同じ地に住み、同じ神を崇拝している人間同士で、そうやって相争い、その業績を神に認められて族長になるというのはオレにとってはかなり違和感がある。
しかしこの族長になるための試練はかなり厳しいものだな。
「それでも失敗して命を落とす人間は多いのではありませんか?」
部族を背負って立てる人間と認められるような、選りすぐりの戦士をこんな危険な試練に投じて無為に命を落とすような事になれば、それこそ部族の力を落とす事になりかねないだろう。
この問いに対しターダは明らかに表情を曇らせる。
「その通りだ……しかしそれが『定めし者』が決めた我らの掟であり、命を落としたのであれば、ただ単にそのものには族長の資格がなかったというだけだ」
ターダはまるで自分に言い聞かせるような口ぶりだな。
「川の民だけでなく、お前のような外の人間にとっても、あの『悪鬼の湿地』が近寄りがたい場所である事は分かっている。しかしそんな事は我らには関係無い」
これまでの話を総合しつつ、よくあるパターンを考えるとターダもどこかの部族の族長候補者で、ここまでやってきたのは『族長となるための狩り』をするのが目的なのか?
彼を追っていた連中は、対立する部族か、はたまた同じ部族で族長の座を巡って争っている派閥の手の者だったりするかもしれない。
いや。考えてみるとそれも変だな。
ターダの年齢はどう見てもオレと同年配の十代半ば。
それで先ほど言及されたような実績を上げているとはとても思えない。そうすると何のために危険を承知でターダは一人でここまでやってきたのだろうか?
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