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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第430話 遊牧民と獣神信仰者と
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かなり面倒な状況ではあるが、いまはこのロニールにとって少し前まで、瘴気を噴き出していたこの地をどうして聖地と認識しているのか聞かねばなるまい。
「とりあえずロニールさんが獅子の眷族なのは分かりましたけど、それでこのくぼ地には何があったのですか?」
「ここはかつて我らの始祖たる 獅子神が殺した敵が責め苦を受けている土地だった」
ロニールたちはあの瘴気を吹き出している肉片の方を信仰しているのかと思っていたら、逆だったのか。
彼らにとっては、あの腐りゆく神の欠片は、自らの神の勲功の証明だったらしい。
以前に出会ったシャーマンのアカスタに同行していた師匠の霊体は『英雄が怪物を倒した結果、その汚れで不毛となった土地を聖地として崇拝することもある』と言っていたが、それに近いものがあるのだろう。
「それが消えてしまったということは……まさか!」
急にロニールの表情が前にも増して、深刻なものになる。
「我らの敵が復活したのか!」
「それはありません!」
思わず叫んでしまったが、ロニールの気持ちはわかるよ。
ファンタジーにおいて、かつて倒された邪神ゆかりの存在に異変があったら、そりゃその神が復活する兆しだったりするのは定番中の定番だ。
もちろんロニールが、オレのいた元の世界のファンタジーを知っているはずがないが、人間の考えることにそんな違いはないだろう。
「なんだ? 今の言い方からすると、お前はここで何があったのか知っているのか?」
しまった。ついついツッコミを入れたせいで、こちらの様子に気付かれてしまったらしい。
「それは……」
さすがに正直に答える事には躊躇せざるを得ないが、ここはどうにかごまかそう。
そう思った瞬間、ターダが誇らしげに口を挟んでくる。
「ここにあったのは汚らわしい瘴気の発生源でしかなかった。それをこのアルタシャが消したのであって、お前達の敵だの何だの関係は無いぞ」
おいこら! 余計な口を挟むんじゃ無い!
「何だと! はやりお前達は邪悪な者どもの手先だったか!」
やっぱり話がややこしくなったか。
本当に『調和』をかけていなかったら、殺し合いになりかねない状況だぞ。
「待って下さい。確かにここにあった瘴気の元を消しましたけど、その相手はこの世界から去っただけであって、復活したわけではありませんよ」
「そんな事を言って、俺を騙そうとしても信じられん。本当だというならなぜ最初から、そう言わなかった」
元からロニールにはあからさまに疑われていたからな。
彼らにとって神聖な土地に手をつけたとなると、敵視されるのは当然だろう。
「アルタシャ。こんな奴をお前が相手をすることは無い。俺が追い払ってやる」
「待って下さい。ここはわたしに任せて」
「お前はそういうが――」
「お願いしますから。今は黙っていて下さい」
「ふう……『餓えし幽鬼』の時といい、お前の寛大さには際限がないのか」
ターダは諦めたというか、呆れた様子で引き下がる。
まあ取りあえず今は、ロニールの相手が優先だ。
「わたしたちは本当にあなた方にとって聖なる土地だと知らなかったし、ここにあったものがロニールの言う獅子神様ゆかりの存在だと思いもしなかったんです」
「それが本当だとしても、知らなかったで済むと思っているのか」
「もちろんそんな事はいいません。とにかくあなた方の神話について教えてくれませんか? ひょっとしたらどうにか出来るかもしれませんから」
ああ。いつものように出たとこ勝負だな。
もちろん消えた神の肉片をオレがどうにか出来るとも思わないし、仮に可能だとしても瘴気を吹き出すようなものを元通りにする気も無い。
しかし代わりになるものを用意する事は出来るかも知れないのだ。
「いいだろう……お前達に教えてやろう」
「その話は少し待って下さい」
この世界ではどいつもこいつも自分達の神話こそが紛れも無い真実で、相容れないものは全てウソというのが当たり前だ。
そうするとロニールの唱える神話を聞いたら、ターダがムキになるのはほぼ確実である。
「ターダは下がっていてくれませんか」
「むう……お前はそいつに興味があるのか?」
「まあそんなところです」
「分かった……」
あからさまにターダは不満げだが、ここは我慢してもらうしかない。
そしてロニールはどこか自慢げに話を始める。
「もともとこの地には大いなる獣がいくたりも存在し、我らはその眷族として共に狩りをして幸せに暮らしていたのだ。その時代には獣はどこにでもいて、どれも信じられぬ程に美味で、誰もが満足できる狩りと食事を楽しめたのだ」
この平原における神話が、唱える連中にとって理想的な話になるのは、ターダとロニールのどちらも現在の生活が厳しいが故のものだろうか。
「しかしそこで獣を狩るのでは無く、家畜として支配しようとする者達が現れた」
ああ。なるほど。ロニール達にとっては遊牧民こそが侵略者なのか。
これは予想通りではあったから、特に驚きはしなかった。
しかしそうするとターダとの関係は緊張関係ではあっても、滅ぼすべき仇敵ではなかった『餓えし幽鬼』よりもかなり深刻な敵対関係になるはずだな――本来ならば。
だがこの『草食獣を家畜とする遊牧民』と『肉食獣の眷族として狩りをする獣神信仰者』の争いはとっくの昔に決着がついてしまっていて、勝利した遊牧民の方は今では相手の存在すら覚えていないのだ。
ロニール達にとっては気の毒かもしれないが、これも少しは安堵出来る要素かもしれない――などというオレの希望はやっぱり裏切られる事となるのだが。
「とりあえずロニールさんが獅子の眷族なのは分かりましたけど、それでこのくぼ地には何があったのですか?」
「ここはかつて我らの始祖たる 獅子神が殺した敵が責め苦を受けている土地だった」
ロニールたちはあの瘴気を吹き出している肉片の方を信仰しているのかと思っていたら、逆だったのか。
彼らにとっては、あの腐りゆく神の欠片は、自らの神の勲功の証明だったらしい。
以前に出会ったシャーマンのアカスタに同行していた師匠の霊体は『英雄が怪物を倒した結果、その汚れで不毛となった土地を聖地として崇拝することもある』と言っていたが、それに近いものがあるのだろう。
「それが消えてしまったということは……まさか!」
急にロニールの表情が前にも増して、深刻なものになる。
「我らの敵が復活したのか!」
「それはありません!」
思わず叫んでしまったが、ロニールの気持ちはわかるよ。
ファンタジーにおいて、かつて倒された邪神ゆかりの存在に異変があったら、そりゃその神が復活する兆しだったりするのは定番中の定番だ。
もちろんロニールが、オレのいた元の世界のファンタジーを知っているはずがないが、人間の考えることにそんな違いはないだろう。
「なんだ? 今の言い方からすると、お前はここで何があったのか知っているのか?」
しまった。ついついツッコミを入れたせいで、こちらの様子に気付かれてしまったらしい。
「それは……」
さすがに正直に答える事には躊躇せざるを得ないが、ここはどうにかごまかそう。
そう思った瞬間、ターダが誇らしげに口を挟んでくる。
「ここにあったのは汚らわしい瘴気の発生源でしかなかった。それをこのアルタシャが消したのであって、お前達の敵だの何だの関係は無いぞ」
おいこら! 余計な口を挟むんじゃ無い!
「何だと! はやりお前達は邪悪な者どもの手先だったか!」
やっぱり話がややこしくなったか。
本当に『調和』をかけていなかったら、殺し合いになりかねない状況だぞ。
「待って下さい。確かにここにあった瘴気の元を消しましたけど、その相手はこの世界から去っただけであって、復活したわけではありませんよ」
「そんな事を言って、俺を騙そうとしても信じられん。本当だというならなぜ最初から、そう言わなかった」
元からロニールにはあからさまに疑われていたからな。
彼らにとって神聖な土地に手をつけたとなると、敵視されるのは当然だろう。
「アルタシャ。こんな奴をお前が相手をすることは無い。俺が追い払ってやる」
「待って下さい。ここはわたしに任せて」
「お前はそういうが――」
「お願いしますから。今は黙っていて下さい」
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ターダは諦めたというか、呆れた様子で引き下がる。
まあ取りあえず今は、ロニールの相手が優先だ。
「わたしたちは本当にあなた方にとって聖なる土地だと知らなかったし、ここにあったものがロニールの言う獅子神様ゆかりの存在だと思いもしなかったんです」
「それが本当だとしても、知らなかったで済むと思っているのか」
「もちろんそんな事はいいません。とにかくあなた方の神話について教えてくれませんか? ひょっとしたらどうにか出来るかもしれませんから」
ああ。いつものように出たとこ勝負だな。
もちろん消えた神の肉片をオレがどうにか出来るとも思わないし、仮に可能だとしても瘴気を吹き出すようなものを元通りにする気も無い。
しかし代わりになるものを用意する事は出来るかも知れないのだ。
「いいだろう……お前達に教えてやろう」
「その話は少し待って下さい」
この世界ではどいつもこいつも自分達の神話こそが紛れも無い真実で、相容れないものは全てウソというのが当たり前だ。
そうするとロニールの唱える神話を聞いたら、ターダがムキになるのはほぼ確実である。
「ターダは下がっていてくれませんか」
「むう……お前はそいつに興味があるのか?」
「まあそんなところです」
「分かった……」
あからさまにターダは不満げだが、ここは我慢してもらうしかない。
そしてロニールはどこか自慢げに話を始める。
「もともとこの地には大いなる獣がいくたりも存在し、我らはその眷族として共に狩りをして幸せに暮らしていたのだ。その時代には獣はどこにでもいて、どれも信じられぬ程に美味で、誰もが満足できる狩りと食事を楽しめたのだ」
この平原における神話が、唱える連中にとって理想的な話になるのは、ターダとロニールのどちらも現在の生活が厳しいが故のものだろうか。
「しかしそこで獣を狩るのでは無く、家畜として支配しようとする者達が現れた」
ああ。なるほど。ロニール達にとっては遊牧民こそが侵略者なのか。
これは予想通りではあったから、特に驚きはしなかった。
しかしそうするとターダとの関係は緊張関係ではあっても、滅ぼすべき仇敵ではなかった『餓えし幽鬼』よりもかなり深刻な敵対関係になるはずだな――本来ならば。
だがこの『草食獣を家畜とする遊牧民』と『肉食獣の眷族として狩りをする獣神信仰者』の争いはとっくの昔に決着がついてしまっていて、勝利した遊牧民の方は今では相手の存在すら覚えていないのだ。
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