異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第13章 広大な平原の中で起きていた事

第436話 市場にて いきなりの混乱と急展開

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 パップスは遊牧民達が聖地として訪れる街であるが、突出した部分があってそこが湿原側から入る箇所になっているようだ。
 そこは外からでも明らかに別区画と分かる形になっているが、遊牧民と対立する湿原の住民達を迎え入れるには、これぐらいの事はしていないといけないらしい。
 門は開いているが、構造はかなり頑丈そうで、また迂闊に近づくと城壁から矢で狙い撃ちされる事になるだろう。
 中に入るとそこでは小さな市場が出来ていて、狭くともいろいろ活気のあるやり取りが行われていた。
 取引をしている相手もかなり色とりどりで、どうやらロニールのような獣神信仰だけでなく、たぶんボラボの『餓えし幽鬼』のように『定めし者』を崇拝する遊牧民から排除されている少数派の人間がここで取引をしているのだろう。

「どこで取引をすればいいんだ?」

 しばらくの間、興味深そうに周囲を見回していたロニールは問いかけてくる。
 オレもさすがにこの市場の事は何も知らないし、もちろん相場など見当もつかない。
 迂闊な事を言うわけにもいかないが、取引用の魔法である『誓言』オースなどはあるから、とりあえず良心的な商人を探すしかないだろう。
 そう思ってうろついていると、どうも周囲から視線がこちらに注ぎ込まれているのが感じられる。
 オレはフードでずっと顔を隠しているし、ターダを追ってきた連中でもないとすれば、たぶん荷物を背負ったロニールに用があるのだろう。
 よくよく注意していると、魔法で強化しているオレの聴覚にはボソボソと会話が聞こえてくる。

『おい……あいつが持っているのあれはひょっとしたら……』
『もしも本物なら凄いぞ』
『しかし……よく確認しないとな……』

 なんだ? ロニールの事で周囲の連中がかなり緊張している様子だぞ。
 どうやら何か凄い価値があるものを持っているらしいのだが、同時に警戒した様子もうかがえる。
 まあこの手の市場ではまがい物が出回る事は当たり前だろうから、疑いの目を向けられるのも分かるのだが、やや不穏な空気が感じられるな。
 不安になってきたので、いつものように『調和』をかけておくとしよう。少なくともこれならいきなり攻撃されることはないはずだ。
 しばらくすると一人の交易商らしき男が近づいてくる。
 少しばかり警戒して身構えたが、近寄ってくる姿には特に変わった様子は見られない。
 信頼できる商人ならいいのだが。

「ちょっとそこのお人。よろしいかな」
「わたしですか?」

 たぶんオレが目当てでは無いと思うけど、ここはちょっとばかりでしゃばらせてもらうとしよう。

「うん? 女かね? こんなところで何をしているんだ」
「わたしはこちらの人の連れでしてね。商売の手伝いをしているんですよ」
「生憎だがお前さんには用は無いんだよ」

 男は無愛想にオレを押しのけつつ、ロニールに近づく。オレを相手にする気も無いのか。

「俺に用か? それでは――」

 ロニールは少しばかり嬉しげに男に向き合い、手にしていた毛皮を持ち出そうとするが、相手は手でそれを制する。

「ああ。それはいいよ」

 え? どういうことだ?
 男はロニールの荷物にはまるで興味が無いらしい。
 そして男はロニールの背負っていた例の『お守り袋』を指差す。

「それの中身を見せてくれないか?」

 やっぱりそうか。あの『お守り袋』に何か秘密があるらしい。

「コイツは部族の宝だ。中身を見せるつもりはない」

 ああ。この場でそんな事をいうものじゃないぞ。
 まさに宝物だと言わんばかりの態度を示したら、余計に注目されるじゃないか。

「やっぱりそうか!」

 男の目には興奮が宿り、また周囲の商人達も一斉に色めき出す。
 おい? そんなに凄いお宝なのか?
 オレの見た限りでは魔力はもちろん信仰の力も特に込められているワケではないし、そもそも袋の外からだから中身が何なのか分からないはずだ。
 もちろんターダも全く無反応だから、この平原の住民に広く知られているものというワケでも無いらしい。

「それを売ってくれないか?」
「断る。これは売り物じゃ無い」
「そんな事を言って値をつり上げようと言う気かよ」

 なんだ? 男の態度が一変したぞ。それは『売らないなら力尽くで奪い取る』と言わんばかりのものだ。
 それどころか周囲の商人達も護衛を連れてこちらに迫ってくる。

「おい! 気を揉ませておいて偽物なんじゃないのか?」
「そうだな。中身を見せられないと言うのが怪しいぞ」
「ええい。じらすなよ。そいつを売りに来たんだろ? とにかく見せろよ」

 どいつもこいつも自分の商売をそっちのけで、ロニールに迫ってくる。

「これはどういうことなんだ? アルタシャは知っているのか?」
「いえ。わたしも分かりませんけど、ターダは何も知らないのですか」
「ああ……まるでワケが分からないぞ」

 ターダもこの状況が理解出来ないらしく目を丸くしつつ、かぶっていたローブから顔を出して周囲を見回している。
 だがロニールを注視していた連中が、ここでターダの方にも目を向ける。

「おい! お前は遊牧民か!」
「なんだと?! どうしてここにいるんだ! この区画、遊牧民は立ち入り禁止のはずだろうが」

 ええ?! そんな話聞いてないぞ。
 だいたいそれなら『遊牧民禁止』の看板ぐらい立てておけよ。
 しかもそれを切っ掛けにロニールの方に向けられる意識が急に高まる。

「遊牧民がいるということは『それ』は本物か!」
「間違いないな!」

 いったいあんたらは何の話をしているんだ?
 いや。この状況は相当にヤバいぞ。
 もしも『調和』をかけていなかったら、周囲の連中は文字通り『殺してでも奪い取る』と言わんばかりだ。

「二人とも今はここを離れましょう!」

 オレの呼び声を聞いて、ターダもロニールも困惑しつつ一緒に、市場から逃げるようにまた門を出て湿原へと駆け出した。
 しかし商人達とその用心棒らしい荒くれものたちが、何人もオレ達をしつこく追いかけてくる。
 ええい! これはどういう事なんだ! 誰でもいいから何が起きているのか説明してくれよ!
 オレが困惑していると、湿原の中から思わぬものが飛び出てきた。
 いきなり稲光と雷鳴が響き渡り、オレの視界と聴覚を満たしたのだ。
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