異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第13章 広大な平原の中で起きていた事

第439話 「真実」とは分かってみればたわいなく、悩ましい

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 オレは食い入るようにライオンの牙を見つめるカウワイミに問いかける。

「ひょっとして、この牙……いえ。獅子の身体を持ち帰らないと、あなたの部族では族長になれないのですか?」
「……ああ……そうだ」

 やっぱりそうか!
 遊牧民――少なくともターダの部族――では族長になるために狩りをせねばならない相手は、この湿原に住んでいたライオンだったんだ。
 遊牧民にとって家畜を襲う大型の肉食獣は大きな脅威だから、それを狩る事が族長の資格を得る必須条件となったのだな。
 いや。ひょっとすると元々はこの『悪鬼の湿原』での狩りすら必要では無く、平原に住んでいるライオンを狩ればよかっただけなのかもしれない。

 しかし平原のライオンが狩り尽くされて、この『悪鬼の湿原』に残ったのが最後のライオンとなったので、結果としてここが遊牧民にとって特に重要な場所になってしまった可能性もあるぞ。
 だけどこの地でもライオンは絶滅してしまい、その結果として狩りの対象を失ったカウワイミは、ライオンを探して、ずっとこの湿原をうろついていたということか。
 ターダ達の父親の場合、族長となったのは何十年も前だろうから、そのときはまだライオンが僅かでも生き残っていたのかもしれない。

「なんだって? 兄者。それは本当なのか?」

 ターダは勢い込んで、兄に問いかける。
 そうだ。ターダは狩りの対象がこの『悪鬼の湿原』に棲んでいるところまでは知っていたが、具体的にどのような相手なのかは知らなかったな。
 もちろん実物を見たことが無かったろうし、口伝で伝えられているだけとなれば、知らなくて当然だ。

 ここまではいいとして、先ほどの商人達が目の色を変えてロニールを追いかけたのはなぜだろうか。
 普通に考えれば、族長の資格となる品物を遊牧民に売りつけるためだろう。
 あのパップスは遊牧民の交易拠点でもあるわけだから、族長の資格が得られるとなれば相当な価値で取引されるはずだ。
 そうすると商人達が躍起になるのも分かるし、またそんな大事なものを扱うならば隔離された場所で、遊牧民を出禁にして取引するのも理解出来る。

 しかし解せないのは、以前にターダから聞いたところでは、族長の資格を得るための狩りに不正があれば即座に神託で分かるという事だったはずだ。
 その神託で不正が分かるという話がそもそもウソなのか?
 それともパップスは街の神様の領域なのでそのルールを決めた『定めし者』の目が行き届かないのか?
 いや。たぶんどれも違う。
 そうだ。ターダは神託で不正が分かると言っていたけど、それはあくまでも『族長候補者が一人でやらねばならない』というものであって、買い求める事が禁じられているとは言っていなかったな。

「ひょっとして、商人達がカウワイミさんに『族長の資格』となるものを買うように言ってきたのですか?」
「ああそうだ……奴らは俺に対し、対価としてこの『雷鳴鳥の卵』を渡すように言ってきた……だが部族の宝であるこれを売るわけにはいかなかった……」

 やっぱりそうだったのか。
 もちろん遊牧民にとって本来は敵であるはずの獅子神信仰者から、直接買い入れるのはさすがに問題があるだろうけど、パップスで商人を仲介に入れる事で、教義上の問題をごまかしたに違いない。
 当然ながら、このやり方が本来の族長選びの趣旨から外れているのは明らかだ。
 だけどたぶん彼らの神様である『定めし者』だって、そこまで考えてはいなかったのだな。
 その族長選びのルールが定められた時には、ライオンは結構多く住んでいただろうし、またこの平原に外部からの商人も殆ど来ておらず、商売で取引されるなど神様にとっても盲点だったのだろう。
 いや。ひょっとしたらそうやって取引をする連中が跋扈して、ライオンを大量に狩った事が絶滅を早めてしまった事すらありうるぞ。
 そしてライオンが絶滅した事で『族長の資格』は恐ろしく値上がりし、身体の一部ですら強欲な商人達が目の色を変える程になったのだろう。
 ひょっとするとターダの父親の時にも、売り買いはされていたかもしれないが、そのときは今よりもずっと安かったので簡単に手に入ったと言う事も考えられる。

 いずれにせよこの事実が広まるのは、族長達にとっても都合が悪い事は分かっているはずだ。
 だからターダが知らなかったのはもちろん、遊牧民の殆どがこの『族長や勇者となるための試練』がライオンの絶滅と共に形骸化してしまった実態を知らないのではなかろうか。
 そんなわけでカウワイミは族長の資格となるものを得る事も出来ず、また部族の宝を売るワケにもいかなかったので帰るに帰れず、僅かな望みをかけてこの湿原をさまよっていたんだな。
 獅子神を信仰している部族ならライオンの身体を持っているかもしれないけど、当然それは神聖なものであり、彼らも必死で守るだろうから、さすがにたった一人では部族を襲撃して奪うところまでは無理だったのだろう。
 ああ。神話や昔話では神様や巨人、怪物の決めたルールを逆手にとったり盲点をついたりして、人間が勝利する話はしばしばあるけど、まさかこんな事になっていようとは。
 これが人間の愚かさの現れなのか、それともしたたかさの証明なのか。
 それは今この場でオレに結論を出せる話では無かった。
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