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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第438話 求められていたものとは何か
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カウワイミは手にした稲妻を放つ魔法の品である『雷鳴鳥の卵』を突きつけつつ、ロニールに要求する。
「さあ。お前の持ち物を渡せ」
「なんのつもりだ! いくら稲妻があろうと、そんなものを怖れはせんぞ!」
どう見ても理不尽でかつ強引な要求に、当たり前だがロニールは従う気もなく、その身をいからせる。
ええい。なんでいつもいつも、オレの周囲はややこしい事になるのかね。
「待って下さい。いったいどういう事なんですか?」
毎度のごとく暴力的活動を抑止する『調和』をかけて、ひとまず争いを止めると、オレはカウワイミとロニールの間に割り込む。
いきなり稲妻を放ってこなかったのは幸いだが、魔力を見る限りたぶんそんなに何発も打てるものではないはず。
今日の内ではあと一発か二発が限界なのだろう。
この距離で放ったとして一撃で決められなければ反撃されるのは確実なので、脅しをかけてきたに違いないが、それがこちらには幸いしたよ。
「そうだ。族長の試練のために、ここに来た兄者がなぜそんなことをするんだ?」
ターダも納得がいかない様子で、オレとともにカウワイミを問い詰める。
もちろんターダはロニールをかばう気などさらさらなく、ただ兄の行動に納得がいかないだけだろうが、今はありがたい味方というべきか。
「すみませんが、ロニールは下がっていて下さい。話はこちらでしますから」
「お前がそう言うなら……」
ロニールもどうにか引き下がる。たぶんカウワイミの要求を聞くつもりはなくとも、やっぱりあの魔法は怖かったのだろうな。
そしてカウワイミは『雷鳴鳥の卵』を握った手を下ろし、ターダに対して何とも言えない複雑な表情を見せる。
「兄者? どういうことなんだ? 説明してくれ。どうして部族に帰ってきてくれなかったんだよ? なぜ連絡の一つも入れずに、湿原をいつまでもうろついているんだ?」
「ターダ……そうだな……お前はなにも知らないのだな……」
同じ遊牧民のターダにもカウワイミの行動は理解出来ないようだが、どうもかなりややこしく面倒な事情があるのは間違いない。
そしてそれは先ほどパップスでオレ達、と言うよりロニールが追われた事と深い関係があるのは確かだろう。
そうするとここはロニールにどうしても聞かねばならない事があった。
あの『お守り』という袋の中身だ。
「ロニール……すみませんがその袋には本当に何が入っているのですか?」
「前にも言ったが、これは大事なお守りなんだ」
ロニールは隠すようにその袋を抱きすくめる。
「それは分かっています。もちろんわたしは手出しする気もありませんから、見せてくれるだけでいいんです」
「……分かった。いいだろう」
オレの問いかけを受けて、ロニールは『お守り』の袋の口をゆっくりと開き、その中身を皆に示した。
「やっぱりそうか!」
中身を見てカウワイミは目の色を変える。だが――
「なんだそれは?」
「これが……あなたの部族の宝なのですか?」
このときカウワイミの興奮とは別に、オレだけでなくターダも困惑していた。
なぜこれが商人達が目の色を変えて追い求め、また行方不明だったカウワイミが『殺してでも奪い取る』と言わんばかりの代物だったのか見当もつかなかったからだ。
ロニールの『お守り』というのは、袋の中に肉食獣のものと思しき白く鋭い牙が数本入っていただけだった。
牙は一応、粗末な加工が施され、穴を開けて紐で繋がれている。
本来は首にかける装身具だったのだろうけど、たぶん旅先で紐が切れたりして大事な牙を落とさないよう、袋に入れていたのだろう。
だがオレが思っていた通り魔力だとか、信仰の精力だとかが込められている様子はない。本当にただ単なる『動物の牙の装身具』でしかなかったのだ。
いったいどういうことだ?
獅子神信仰者であるロニールが持っているのだから、たぶんこの一帯では絶滅したと思しきライオンの牙なんだろう。
確かにロニールにとっては『部族の宝』であり、お守りになるのも分かる。
そして先ほどのロニールの言葉によれば、カウワイミはこの一年、獅子神信仰者の聖地近くをうろついていたそうだが、その目的がこのライオンの牙だとしたら、確かにそれぐらいしか手がかりは無いだろう。
だけどいったい何のために、このライオンの牙を皆が追い求めるのだ?
既に絶滅した動物の身体の一部となれば、それはそれで貴重な品なのは確かだけど、そんなものに商人達が目の色を変える程の価値があるのか?
元の世界でも、ある国でありふれた普通の壺が別の国では『一国に値する価値がある』として目の玉が飛び出る程の高値で取引された例があったらしいし、希少な品であるのは間違いないのだけど、何かが違う。
少なくともそんな事のために、族長候補だったカウワイミが部族に帰らず、この湿原を一年も放浪するのは不自然極まり無いだろう。
だが待てよ。
カウワイミがこの湿原に来た理由、そしてこのライオンの牙に対する周囲の反応からすると――あ?! まさか!
これはひょっとしたらひょっとするぞ!
この時、オレが導き出した結論はターダやカウワイミにとってある意味で残酷で、そしてまたある意味で滑稽なものだった。
「さあ。お前の持ち物を渡せ」
「なんのつもりだ! いくら稲妻があろうと、そんなものを怖れはせんぞ!」
どう見ても理不尽でかつ強引な要求に、当たり前だがロニールは従う気もなく、その身をいからせる。
ええい。なんでいつもいつも、オレの周囲はややこしい事になるのかね。
「待って下さい。いったいどういう事なんですか?」
毎度のごとく暴力的活動を抑止する『調和』をかけて、ひとまず争いを止めると、オレはカウワイミとロニールの間に割り込む。
いきなり稲妻を放ってこなかったのは幸いだが、魔力を見る限りたぶんそんなに何発も打てるものではないはず。
今日の内ではあと一発か二発が限界なのだろう。
この距離で放ったとして一撃で決められなければ反撃されるのは確実なので、脅しをかけてきたに違いないが、それがこちらには幸いしたよ。
「そうだ。族長の試練のために、ここに来た兄者がなぜそんなことをするんだ?」
ターダも納得がいかない様子で、オレとともにカウワイミを問い詰める。
もちろんターダはロニールをかばう気などさらさらなく、ただ兄の行動に納得がいかないだけだろうが、今はありがたい味方というべきか。
「すみませんが、ロニールは下がっていて下さい。話はこちらでしますから」
「お前がそう言うなら……」
ロニールもどうにか引き下がる。たぶんカウワイミの要求を聞くつもりはなくとも、やっぱりあの魔法は怖かったのだろうな。
そしてカウワイミは『雷鳴鳥の卵』を握った手を下ろし、ターダに対して何とも言えない複雑な表情を見せる。
「兄者? どういうことなんだ? 説明してくれ。どうして部族に帰ってきてくれなかったんだよ? なぜ連絡の一つも入れずに、湿原をいつまでもうろついているんだ?」
「ターダ……そうだな……お前はなにも知らないのだな……」
同じ遊牧民のターダにもカウワイミの行動は理解出来ないようだが、どうもかなりややこしく面倒な事情があるのは間違いない。
そしてそれは先ほどパップスでオレ達、と言うよりロニールが追われた事と深い関係があるのは確かだろう。
そうするとここはロニールにどうしても聞かねばならない事があった。
あの『お守り』という袋の中身だ。
「ロニール……すみませんがその袋には本当に何が入っているのですか?」
「前にも言ったが、これは大事なお守りなんだ」
ロニールは隠すようにその袋を抱きすくめる。
「それは分かっています。もちろんわたしは手出しする気もありませんから、見せてくれるだけでいいんです」
「……分かった。いいだろう」
オレの問いかけを受けて、ロニールは『お守り』の袋の口をゆっくりと開き、その中身を皆に示した。
「やっぱりそうか!」
中身を見てカウワイミは目の色を変える。だが――
「なんだそれは?」
「これが……あなたの部族の宝なのですか?」
このときカウワイミの興奮とは別に、オレだけでなくターダも困惑していた。
なぜこれが商人達が目の色を変えて追い求め、また行方不明だったカウワイミが『殺してでも奪い取る』と言わんばかりの代物だったのか見当もつかなかったからだ。
ロニールの『お守り』というのは、袋の中に肉食獣のものと思しき白く鋭い牙が数本入っていただけだった。
牙は一応、粗末な加工が施され、穴を開けて紐で繋がれている。
本来は首にかける装身具だったのだろうけど、たぶん旅先で紐が切れたりして大事な牙を落とさないよう、袋に入れていたのだろう。
だがオレが思っていた通り魔力だとか、信仰の精力だとかが込められている様子はない。本当にただ単なる『動物の牙の装身具』でしかなかったのだ。
いったいどういうことだ?
獅子神信仰者であるロニールが持っているのだから、たぶんこの一帯では絶滅したと思しきライオンの牙なんだろう。
確かにロニールにとっては『部族の宝』であり、お守りになるのも分かる。
そして先ほどのロニールの言葉によれば、カウワイミはこの一年、獅子神信仰者の聖地近くをうろついていたそうだが、その目的がこのライオンの牙だとしたら、確かにそれぐらいしか手がかりは無いだろう。
だけどいったい何のために、このライオンの牙を皆が追い求めるのだ?
既に絶滅した動物の身体の一部となれば、それはそれで貴重な品なのは確かだけど、そんなものに商人達が目の色を変える程の価値があるのか?
元の世界でも、ある国でありふれた普通の壺が別の国では『一国に値する価値がある』として目の玉が飛び出る程の高値で取引された例があったらしいし、希少な品であるのは間違いないのだけど、何かが違う。
少なくともそんな事のために、族長候補だったカウワイミが部族に帰らず、この湿原を一年も放浪するのは不自然極まり無いだろう。
だが待てよ。
カウワイミがこの湿原に来た理由、そしてこのライオンの牙に対する周囲の反応からすると――あ?! まさか!
これはひょっとしたらひょっとするぞ!
この時、オレが導き出した結論はターダやカウワイミにとってある意味で残酷で、そしてまたある意味で滑稽なものだった。
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