異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第13章 広大な平原の中で起きていた事

第452話 市長との対面で

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「おい。お前達、そこで止まれ」

 オレ達一行が寺院の奥に進むと、当然ながら警備員が前を塞ぐ。
 パップスの神様はいろいろな意味で小神だが、神殿はかなり大きく――街の神様なので神殿は世界に一つしかないけど――当然、警備は厳重だ。
 そしてここではヌリアが前に立つ。

「市長への面会をお願いしていた『白き貴婦人』のしもべたるヌリアです」
「分かりました。話は聞いています」

 この世界では『市長』というのは一般的に『街の神の大司祭』の事を指す。
 ヌリアがいなかったらそう簡単に面会など出来なかっただろうから、本人の腹の中身はおいておいて、ここは感謝すべきだろう。
 しばしの後、オレ達はカーペットが敷かれ、いろいろな文物が並べられた部屋に案内された。たぶんこの街ではもっとも豪華な部屋ではあるのだろけど、たぶん貢ぎ物を雑多に並べただけらしく、あまり上品とは言いがたい。
 そしてそれから少しの後、五〇歳前後とおぼしき男性が姿を見せる。
 身体にはいろいろと装身具を身につけているが、やっぱり適当に見せつけているだけでお世辞にもセンスがいいとは言いがたい。
 まあこの街ではそうやって自分の持っている宝を見せつける事で、富や権力を顕示するようになっているのだろうけど、オレとしてはあまり気分はよくないな。

「市長様。急な話で申し訳ありません」
「ヌリア殿、緊急の要件とはなんですかな?」

 そう言って市長はオレ達の方を少しばかり疑わしそうにジロリとねめつける。
 まあ普通に見ればかなり怪しい一行だろうな。
 そしてここでヌリアはオレに対して一礼する。

「どうぞお願いします」
「分かりました」

 こういうオッサンに対して、こちらの容姿を見せると大抵はロクな事にならないのだけど、それが分かっていてもやらねばならないのだ。
 そしてフードを外したオレを見て、市長は息を呑む。

「こ、これは……もしや!」

 市長は興奮した様子でヌリアに向き直る。

「この娘はあなたの神殿からの貢ぎ物ですかな」

 オイ! 何とも厚かましいオッサンだな!
 装身具のたぐいならまだしも、女を見ていきなりそんな発想をするか。

「はははは。市長様もご冗談を」
「……わざわざ呼び出した要件はそちらの娘の事ではないのですかな?」

 ヌリアはわざと大げさに笑って、やんわりと拒絶したが市長の方はかなり未練がありそうだ。
 街の神はいきなりプロポーズしてくるような相手ではなかったけど、その大司祭の方はかなりの俗物だな。
 本来なら遊牧民の聖地を守護する役目の人間なのに、交易の上がりですっかり欲に目がくらんでいるらしい。
 ひょっとするとこんなところもパップス神が嫌気を指した理由かもしれない。
 しかしこんな相手を説得して、今の取引を止めるとなるとかなり厄介だな。

「市長様もお聞き及びでございましょう。このお方こそ我らが女神『白き貴婦人』の新たな英雄アルタシャ様でございます」
「なんだと?!」

 この街は交易の拠点であって、多くの商人達が訪れるだけあって大司祭もオレの評判については聞いていたらしく、いきなり顔色を変えた。
 そして次に放った言葉は、オレの胸を貫くものだった。

「それでは彼女はパップス神に輿入れに? それは誇るべきというか、少々残念というか……いろいろと悩ましいですな」

 違うっつうの! いい加減、そこから離れろ!
 この平原ではそんな色ボケ野郎とは今まで無縁だったけど、どうしても説得せねばならない相手がこれだとは本当に先が思いやられるぞ。

「そのような要件ではありません。いつまでも話を逸らさず、そろそろ本題に入りましょう」
「そうか……ならば仕方ないな」

 はれ? いきなり市長が表情を引き締めたぞ。

「つまり彼女達はここでの遊牧民目当ての取引について、物申すために来たということなのですな」

 市長は覚悟を固めた様子で、オレとターダ達を交互に見つめる。
 なるほど。先ほどのエロ親父の顔はあくまでもこちらを欺く仮面だったのか。
 恐らくは最初からこちらが『パップスでは遊牧民の掟を悪用して暴利を貪っている』行為について話をしに来た事を察した上で、探りを入れてきたのだろう。

「あなた方は何か誤解されているようですが、我らは『定めし者』の決めた掟に反する事は何もしておりませんよ」
「それは分かっていますよ。しかし掟の条文には反していなくとも、掟の精神に反する事に手を染めているでしょう」
「よそ者が神代の頃から受け継がれてきた我らの掟の精神を語るのか?」

 この時、市長の顔からは先ほどの好色そうなオッサンの影は消え去り、その目に宿った鋭い光は一瞬だがオレの背筋が寒くなる程のものだった。
 正直に言って、ついさっき対面したパップス神よりも恐ろしいと思った程だ。
 しかしここで引き下がるようなら、オレはここまで来ていないよ。

「もちろんですとも。何しろわたしはつい先ほどパップス神とも話をさせてもらいましたからね」
「何だと?! それは本当か!」

 市長にして大司祭は今度こそ驚愕の表情を浮かべ、まるで尻を蹴られたかのように立ち上がる。
 それはオレの言葉を疑ったのではなく、むしろそれが真実だとした場合のものだと分かった。
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