異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第14章 拳の王

第468話 決闘と決着

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 ビネースはその拳を握りしめ、戦いの構えを取る。
 オレには格闘技の心得などないので、どういうものなのかはよく分からない。こんな時は格闘もの漫画定番の解説役が欲しいところだな。

「それでは決闘を始めましょうか」

 もう戦うの?
 いくら何でもせっかちじゃないか。
 幾らルールのある決闘とは言えど危険はもちろんあるし、お互いの人生がかかっているんじゃないのか。
 そんなビネースに対して苛立った様子でミーリアは叫ぶ。

「おい! 神聖な決闘をこんな場所で行うのか。ここはお前達の神の寺院跡なのだろう。決闘ならば神前で行うべきだろう。名誉と命を賭けた戦いは神に捧げねばならん」

 この言葉に対しビネースは困った様子でそのたくましい肩をすくめる。

「戦いのような醜く見苦しいものを、我が神に見せるワケには参りませんよ。何よりこの神聖なる地を戦いの血で汚すわけにもいきません」
「何だと! 決闘まで侮辱するのか!」

 ああ。決闘に対する考え方もまたお互いに違いすぎて、ますますミーリアの敵愾心が煽られてしまっているな。

「とにかく……お二人とも決闘をする事で納得されているのでしょう? 今はお互いに出来る事だけを考えて下さい」
「くう……もともとコイツがこのような輩だとは分かっていたつもりだが、こんな男に父上が敗れたとは……」

 この決闘はお互いに『誇り』や『人生』がかかっているはずなんだけど、その一方でビネースは『決闘そのもの』に関して何の誇りも名誉意識も抱いていない。
 そのあたりは何とも面倒だ。
 そこでビネースは改めてオレに向き直る。

「それではアルタシャ、あなたがこの決闘について証人になってくれますか? そちらも文句はありませんな?」
「アルタシャだと……」

 ここでミーリアはオレに対して少しばかり困惑と疑念のこもった視線を向ける。
 う~ん。ミーリアの方はオレの名を聞いているのかもしれないな。

「どうしました?」
「私の方は構わんぞ。どうせ勝敗は明白だろうからな」

 ミーリアの同意を受けて、ビネースはその拳を固める。

「それでは改めて……決闘を始めましょうか」
「覚悟するがいい!」

 ミーリアは剣を閃かせて斬りかかるが、雑作もなくかわし続ける。

「その程度では私には通じませんよ」

 ビネースはどうやら余裕らしい。ミーリアもかなりの訓練を受けている様子だが、ビネースの方はそれをずっと凌駕しているようだ。
 ミーリアの父親はきっと一族きっての戦士だったのだろうから、そりゃまあまだ若い娘がそれより強いはずも無いか。

「生憎ですけど、そのような武器に頼っている限り『拳の王』たるガイザー神の加護を受けしこの私に勝つ事は出来ませんよ」
「ふざけるな! 剣神ザスターニックの寵愛を受けし我が一族の剣に斬れぬものなど存在しないのだ!」

 よくよく見るとミーリアの持っている剣にもいろいろと魔力がかかっているらしい。
 もっともこの決闘のような『血が流れたら負け』ルールだと、剣の切れ味や耐久力など殆ど関係無いはずだ。
 もしも負けたらビネースは間違い無く剣を破壊するのだから、適当にそこらの剣でいいはずなんだけど、そんなわけにいかないのが彼女達剣神の信徒なんだろう。
 そのせいである意味『カモ』にされてしまっている面もあるのかもしれない。
 しかしビネースは防具など一切身につけておらず、当たり所次第では命を落としたり、一生不虞の身になったりしかねないのに、それを恐れている様子はまるで見られない。
 実際、これがオレだったらたとえ怪我をしても魔法で回復出来ると分かっていても、自分に向けて剣を振るわれるのは真っ平なので一刻も早く終わらせようとするだろう。
 これも幼い頃からの教育と修練の結果だとすると、結構怖いものがある。
 しばしの後、ミーリアはいったん攻撃を止めて、間合いを取る。どうやら疲れてきたらしい。

「ぐう……さすがに父上に勝っただけの事はあるということか……」
「それが分かったなら、負けを認めてその剣を差し出しなさい。そうすればこの無益な戦いで意義のない血を流さずに済みますよ」
「神聖な決闘を無益で意義がないだと!」

 ミーリアは激発してまた攻撃に出るが、それも先ほどまでの繰り返しでビネースは軽くかわし続ける。
 別にビネースは挑発しているつもりはないのだろうけど、ミーリアの方は随分と感情的になって疲労も蓄積し、攻撃も単調になっているように感じられる。
 もちろんこれはオレが当事者ではないから、冷静に見ていられるのであって、自分が攻撃されていたら、とても落ち着いてはいられなかったろうけどな。
 こうしてみるとミーリアは確かに訓練は受けているが、実戦経験が少ないのは明らかだ。
 そしてこの決闘の勝敗もまた、素人のオレの目にも明白だった。

「仕方ありませんな。それではいきましょうか」

 ビネースの言葉と共に、その身を激しく振ってミーリアの懐に飛び込み、そこで拳の一撃を彼女の腕にたたき込む。

「うがあ!」

 苦痛の叫びと共にミーリアは剣を取り落とし、地面に倒れ伏す。

「どうやら血が出たようですね」

 ミーリアが地面に転がった事で、その身はあちこち擦り傷が出来て血が流れている。

「アルタシャ……ご覧の通り勝敗は決しましたね?」
「ええ。確かに見届けました」

 両者の実力差は明白で何とも呆気なく、ついでに言えば味気ない決着だけど、死人が出なかったのだからオレとしては胸をなで下ろすところだろう。

「待て……私はまだ……」

 苦痛の中でうわごとのようにミーリアは言葉を絞り出しているが、もちろんビネースは聞き入れる事は無く、落ちた剣を拾い上げる。

「約束通りこの剣はこちらがいただきますよ。それとすみませんがアルタシャは彼女を手当してくれますか?」
「分かりました」

 オレはひとまず了承してミーリアの方に駆け寄った。
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