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第14章 拳の王
第477話 法の境目は
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ここでビネースはオレをかばうようにマクラマンの前に立ちはだかって宣言する。
「我が神、ガイザーの神命ではイロールの信徒は守らねばなりませんからな。あなたの言うとおりには出来ませんよ」
すみません。実はオレはイロールの信徒じゃありません。それどころかかの女神への信心など欠片も無いのです。
しかしオレはその英雄とされていて、その化身になった事も何度もあるのだから、何段階吹っ飛ばしているのだろうか。
内心でビネースに少しばかり申し訳ない気持ちでいると、マクラマンは警告の声を発する。
「断っておきますが、これは愚僧が勝手に主張しているわけではありません。もしもあなたが邪魔をするならば、犯罪者となりますよ」
「それは脅しですかな?」
「単なる事実の指摘です。何よりも司祭であるあなたが犯罪者となれば、周囲にいる信徒達も困るのは間違い無いでしょう。聞くところによるとガイザー神の司祭は極めて珍しく、年に一度の崇拝儀式以外では滅多に会えないそうではないですか。愚僧はそのような事はなるだけ避けたいのですよ」
この言葉にガイザー信徒達も互いに顔を見合わせる。
マクラマンは一騎打ちにはまるで興味など無いが、法を守る事に関して譲るつもりも無いのは明らかだ。
たぶん彼らイーヒルムの神官は、この地域では警察官に近い立場でもあるのだろうな。
そうするとガイザーの信徒達に、オレの事で迷惑をかけるわけにもいかないし、ここはいったんマクラマンに同行して、途中で逃げるしかないか。
しかしここでビネースはマクラマンの手にして布告文書をその太い指で指し示す。
「生憎ですがその通達の地域から、この地は外れていますよ。つまり効力はありません。だから彼女を連れて行く資格はあなたにもありませんな」
「なんですと?!」
マクラマンは羊皮紙を見返しつつ、改めてビネースに向き直る。
「いいえ。このあたり一帯までが通達地域です」
「それは見解の相違と言うヤツですな」
そういうことか。
こっちの世界では領域もはっきりしていないからな。何しろ正確な地図など存在せず、いいところ大雑把に山や川、町と街道を描いた絵地図ぐらい存在しない。
当然、川のように明確に線を引ける場合ならともかく、そうでないと境目はかなり曖昧なものにならざるをえないのだ。
もっと言えば仮に川で線引きしても、その流域が洪水などでしばしば変わるから、トラブルになることも結構あるのだろう。
そんな境目で起きる問題をどうするか決めるのは、やっぱり力のある方なんだろうけどさ。
「どうしても彼女を引き渡せというならば、この私と一騎打ちをして勝てばこちらは引きましょう」
「その場合、愚僧は何を賭ければ良いのですかな?」
「もちろんその剣を賭けてもらいましょうか。鎧でも構いませんがね」
おい。ビネースはやっぱりマクラマンに一騎打ちを断られたのを根に持っていて、オレの事はダシでしかないのか?
いや。それはあまりにも短絡的か。
たぶんビネース自身もそのあたりに厳密な区別はつけていないのだろう。
しかし平和主義を掲げるビネースが腕力にものを言わせるとは、やっぱりいろいろと倒錯しているとしか言いようが無いな。
それにオレの感覚では法の執行を一騎打ちでどうにか出来るというのもピンとこないけど、信仰次第では『一騎打ちで勝った者が正しい』という理屈でそういう行為が認められるのもありそうだ。
「そうですか……やむを得ません」
マクラマンは覚悟した様子でため息をつく。
どうするつもりだ? 一騎打ちに応じるのか。
オレの事でたくましい男同士が命がけで一騎打ちに挑むというのは、何も知らない人間が聞いたら間違い無く勘違いされるだろうなあ。
もちろんオレとしてはそういうことはなるだけ避けて欲しいが、マクラマンといったん同行し、そこで逃げたら確実に彼に追い回されるだろう。
マクラマンがすぐに諦めてくれるならいいけど、彼の崇拝するイーヒルムの教団は秩序を重んじるようなので、下手をすると教団組織を挙げて追跡されかねない。
大陸を股にかけたストーカーのミツリーンだけでなく、こんな武装した教団に追われるのはたまったもんじゃないぞ。
そうなるとやっぱりここで『法』で持ってマクラマンには引いてもらうしかない。
そしてマクラマンはオレの方に向き直る。
「あなたも愚僧に同行はして下さらないのですね?」
「マクラマンさんが決して理不尽な事を主張しているわけで無いのは分かっています。しかしここがあなたの言う『布告』の場所から離れていると言うなら、従うワケにはいきません。この場所にこれから集まる人達を治癒する必要がありますから」
「おお。ありがとうございます。そう言って下さると私も助かりますよ」
ビネースに庇ってもらった借りは、これで返させてもらうとしよう。
「……」
そして孤立無援となったマクラマンは、その鎧の面甲に覆われた顔にどんな表情を浮かべているのか分からない状態で動きを止めている。
いったいどうするつもりなのだろうか。
アッサリ引くとも思えないが、この場で武器にものを言わせるほど短絡的でも無いはずだ。
ただ一番、困るのはマクラマンが一度引いた上で、仲間を大勢引き連れて来る事だ。
そうなったらオレが逃げたからと言って、ハイそうですかでは終わらないだろう。
その場合はビネースが逮捕されてしまいかねない。
「こうなったら仕方ないですね」
オレが固唾を呑んで見守っていると、マクラマンはその面甲を外して静かに語り始めた。
「我が神、ガイザーの神命ではイロールの信徒は守らねばなりませんからな。あなたの言うとおりには出来ませんよ」
すみません。実はオレはイロールの信徒じゃありません。それどころかかの女神への信心など欠片も無いのです。
しかしオレはその英雄とされていて、その化身になった事も何度もあるのだから、何段階吹っ飛ばしているのだろうか。
内心でビネースに少しばかり申し訳ない気持ちでいると、マクラマンは警告の声を発する。
「断っておきますが、これは愚僧が勝手に主張しているわけではありません。もしもあなたが邪魔をするならば、犯罪者となりますよ」
「それは脅しですかな?」
「単なる事実の指摘です。何よりも司祭であるあなたが犯罪者となれば、周囲にいる信徒達も困るのは間違い無いでしょう。聞くところによるとガイザー神の司祭は極めて珍しく、年に一度の崇拝儀式以外では滅多に会えないそうではないですか。愚僧はそのような事はなるだけ避けたいのですよ」
この言葉にガイザー信徒達も互いに顔を見合わせる。
マクラマンは一騎打ちにはまるで興味など無いが、法を守る事に関して譲るつもりも無いのは明らかだ。
たぶん彼らイーヒルムの神官は、この地域では警察官に近い立場でもあるのだろうな。
そうするとガイザーの信徒達に、オレの事で迷惑をかけるわけにもいかないし、ここはいったんマクラマンに同行して、途中で逃げるしかないか。
しかしここでビネースはマクラマンの手にして布告文書をその太い指で指し示す。
「生憎ですがその通達の地域から、この地は外れていますよ。つまり効力はありません。だから彼女を連れて行く資格はあなたにもありませんな」
「なんですと?!」
マクラマンは羊皮紙を見返しつつ、改めてビネースに向き直る。
「いいえ。このあたり一帯までが通達地域です」
「それは見解の相違と言うヤツですな」
そういうことか。
こっちの世界では領域もはっきりしていないからな。何しろ正確な地図など存在せず、いいところ大雑把に山や川、町と街道を描いた絵地図ぐらい存在しない。
当然、川のように明確に線を引ける場合ならともかく、そうでないと境目はかなり曖昧なものにならざるをえないのだ。
もっと言えば仮に川で線引きしても、その流域が洪水などでしばしば変わるから、トラブルになることも結構あるのだろう。
そんな境目で起きる問題をどうするか決めるのは、やっぱり力のある方なんだろうけどさ。
「どうしても彼女を引き渡せというならば、この私と一騎打ちをして勝てばこちらは引きましょう」
「その場合、愚僧は何を賭ければ良いのですかな?」
「もちろんその剣を賭けてもらいましょうか。鎧でも構いませんがね」
おい。ビネースはやっぱりマクラマンに一騎打ちを断られたのを根に持っていて、オレの事はダシでしかないのか?
いや。それはあまりにも短絡的か。
たぶんビネース自身もそのあたりに厳密な区別はつけていないのだろう。
しかし平和主義を掲げるビネースが腕力にものを言わせるとは、やっぱりいろいろと倒錯しているとしか言いようが無いな。
それにオレの感覚では法の執行を一騎打ちでどうにか出来るというのもピンとこないけど、信仰次第では『一騎打ちで勝った者が正しい』という理屈でそういう行為が認められるのもありそうだ。
「そうですか……やむを得ません」
マクラマンは覚悟した様子でため息をつく。
どうするつもりだ? 一騎打ちに応じるのか。
オレの事でたくましい男同士が命がけで一騎打ちに挑むというのは、何も知らない人間が聞いたら間違い無く勘違いされるだろうなあ。
もちろんオレとしてはそういうことはなるだけ避けて欲しいが、マクラマンといったん同行し、そこで逃げたら確実に彼に追い回されるだろう。
マクラマンがすぐに諦めてくれるならいいけど、彼の崇拝するイーヒルムの教団は秩序を重んじるようなので、下手をすると教団組織を挙げて追跡されかねない。
大陸を股にかけたストーカーのミツリーンだけでなく、こんな武装した教団に追われるのはたまったもんじゃないぞ。
そうなるとやっぱりここで『法』で持ってマクラマンには引いてもらうしかない。
そしてマクラマンはオレの方に向き直る。
「あなたも愚僧に同行はして下さらないのですね?」
「マクラマンさんが決して理不尽な事を主張しているわけで無いのは分かっています。しかしここがあなたの言う『布告』の場所から離れていると言うなら、従うワケにはいきません。この場所にこれから集まる人達を治癒する必要がありますから」
「おお。ありがとうございます。そう言って下さると私も助かりますよ」
ビネースに庇ってもらった借りは、これで返させてもらうとしよう。
「……」
そして孤立無援となったマクラマンは、その鎧の面甲に覆われた顔にどんな表情を浮かべているのか分からない状態で動きを止めている。
いったいどうするつもりなのだろうか。
アッサリ引くとも思えないが、この場で武器にものを言わせるほど短絡的でも無いはずだ。
ただ一番、困るのはマクラマンが一度引いた上で、仲間を大勢引き連れて来る事だ。
そうなったらオレが逃げたからと言って、ハイそうですかでは終わらないだろう。
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