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第14章 拳の王
第476話 『アルタシャ』を名乗ると……
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マクラマンの言葉を受けて、周囲には困惑が広がる。
「アルタシャが取り調べを受けるとはどういうことです? イロール信徒の彼女が何か法を犯しているとでも言うのでしょうか」
ビネースは納得いかないと言わんばかりだ。
まあこの人は『アルタシャ』の名を聞いた事が無かったので、今の話ではオレが取り調べられる理由は分からなくて当然だ。
しかしこの発言はマズいぞ。
「ほう……やはり彼女は聖女教会に仕えているのですか……」
マクラマンはじっとオレを見つめる。
ビネースには全く悪気は無いのだけど、間違い無くやぶ蛇だ。そして――
「アルタシャ! お前は何をやらかしたんだ!」
ミーリアはいつものように激発してきた。
まあオレ達は会ったばかりで『友達』というわけでもないから、仕方ないかもしれないけど、こうして見るとミーリアにとってマクラマンの事は気にくわなくとも『法の執行者』という意識はあるのだな。
しかしここでマクラマンの方がむしろミーリアを制する。
「お待ちなさい。あくまでも『アルタシャ』という名前を名乗る者は取り調べを受けるだけで、現時点で彼女が罪を犯しているというワケではありません」
そしてここでマクラマンはオレの方にも向き直る。
「もしもあなたにやましい点が無いのなら、気にすることではないでしょう」
「あのう……取り調べと言っても具体的にどうなるのですか?」
もちろんこのまま連れていかれるわけにはいかないが、もしもそうなった時にどうなるのかは知っておかねばならないだろう。
「当然ですが愚僧が直接、取り調べをするワケではありません。この地を統べる領主の元に出頭してそこで調査されることになりますね」
ああそうか。この世界では『三権分立』なんて概念は無いか、あったとしても一般的では無いんだな。
だから殆どの地域では、権力者が司法も兼ねているんだ。
「なあに。あなたが法を犯していないのなら気にする事はありません。何と言っても聖女教会が身元を保証してくれるはずですからね」
何と言ってもそれが一番、ヤバイんだよ。
当然、オレはこの地の聖女教会とは直接繋がりは無いから、そのまま罪人扱いされる可能性もある。
そして何よりもオレが『選ばれしもの』だと分かったら確実に身柄を拘束されて、洗脳されてしまうか、さもなくば二度と日の目を見ないところに押し込められかねない。
こうなったらこの場からとっとと逃げ出すか。
それともいったんマクラマンに従うフリをして、隙を見て逃走するという選択肢もある。
オレの魔法を持ってすればそれぐらいは雑作もない。
だけどこのマクラマンの性格からして、間違い無くオレの事を執拗に追いかけてくるだろうな。
この場合『逃げたと言う事は何かやましい事があるからに違いない』『どこかで悪い事をする可能性が高い』と思って当然だからなあ。
それでマクラマン本人は間違い無く、正義と秩序のためにやっているつもりなのだから、これまた始末に負えん。
しかし『アルタシャ』を騙ってロクでもない事をしている人間がチラホラ存在するとなると、そういう法があるのは決して不当では無いのだからこれも困ったものだ。
そしてここでビネースが改めてマクラマンに問いかける。
「少し待って下さい。なぜ『アルタシャ』の名を名乗ると取り調べを受ける必要があるのですか? これまでの話からすると今の段階であなたが違法行為を目にしたわけでも無いし、彼女が犯罪者という根拠もないのですね?」
「その通りですよ」
「ならば『アルタシャ』と名乗った者が取り調べるのを法律で決まっているならば、その法を示して下さい」
「それもそうですね。分かりました」
そう言ってマクラマンは馬に載せた荷物をゴソゴソといじり、そこから羊皮紙を持ち出して広げる。
「断っておきますが、我らは法を増やす事は望みません。イーヒルムの神命には『望ましく無い法は対案を示して改正すべきだが、法を増やしてはならない』とあります。規則を増やす事は弱者を踏みにじる事に繋がりかねないのです」
なるほど。法や秩序の名の元に権力者が弱者を蹂躙する事に対しても、マクラマンは反対の立場を取るワケか。
それはそれで立派な心がけなんだけど、逆を言えば決まった法は絶対に守るということなんだろうか。
「これですよ。よくご覧なさい」
「……何と書いてあるのだ?」
ミーリアは顔を近づけるが、クビをひねる。
「あのう……ひょっとして……」
「悪かったな! 私はこんな難しい文章は読めないのだ!」
また彼女は癇癪を起こしているけど、まあこの世界では高等教育は普及していないからこれは仕方ないか。
取りあえずオレが『翻訳』の魔法で見ると、ごちゃごちゃと書いてある固有名詞は分からないが、確かにマクラマンの言葉は事実らしい。
詳しい経緯など分からないが、聖女教会からの追っ手であるミツリーンが言ったようにオレの名前を騙って有力者に取り入ったり、詐欺行為を働いたりした相手が出てきた結果なんだろうな。
「それで分かったでしょう。これで愚僧に同行して下さいますね?」
マクラマンがそういったところで、ビネースが割って入ってくる。
「ちょっと待ちなさい。やはりアルタシャを連れていかれるわけにはいきませんな」
「何ですと?」
ひょっとしてビネースはオレを守ってくれるのだろうか。
その気持ちはありがたいし、たぶん信仰するガイザー神の教義からして、納得しない事には従わない頑固者かもしれないが、それでビネースが罪人になったらこっちがたまったもんじゃないぞ。
しかしビネースはまるで恐れる様子も無く、マクラマンに正面から向き合っていた。
「アルタシャが取り調べを受けるとはどういうことです? イロール信徒の彼女が何か法を犯しているとでも言うのでしょうか」
ビネースは納得いかないと言わんばかりだ。
まあこの人は『アルタシャ』の名を聞いた事が無かったので、今の話ではオレが取り調べられる理由は分からなくて当然だ。
しかしこの発言はマズいぞ。
「ほう……やはり彼女は聖女教会に仕えているのですか……」
マクラマンはじっとオレを見つめる。
ビネースには全く悪気は無いのだけど、間違い無くやぶ蛇だ。そして――
「アルタシャ! お前は何をやらかしたんだ!」
ミーリアはいつものように激発してきた。
まあオレ達は会ったばかりで『友達』というわけでもないから、仕方ないかもしれないけど、こうして見るとミーリアにとってマクラマンの事は気にくわなくとも『法の執行者』という意識はあるのだな。
しかしここでマクラマンの方がむしろミーリアを制する。
「お待ちなさい。あくまでも『アルタシャ』という名前を名乗る者は取り調べを受けるだけで、現時点で彼女が罪を犯しているというワケではありません」
そしてここでマクラマンはオレの方にも向き直る。
「もしもあなたにやましい点が無いのなら、気にすることではないでしょう」
「あのう……取り調べと言っても具体的にどうなるのですか?」
もちろんこのまま連れていかれるわけにはいかないが、もしもそうなった時にどうなるのかは知っておかねばならないだろう。
「当然ですが愚僧が直接、取り調べをするワケではありません。この地を統べる領主の元に出頭してそこで調査されることになりますね」
ああそうか。この世界では『三権分立』なんて概念は無いか、あったとしても一般的では無いんだな。
だから殆どの地域では、権力者が司法も兼ねているんだ。
「なあに。あなたが法を犯していないのなら気にする事はありません。何と言っても聖女教会が身元を保証してくれるはずですからね」
何と言ってもそれが一番、ヤバイんだよ。
当然、オレはこの地の聖女教会とは直接繋がりは無いから、そのまま罪人扱いされる可能性もある。
そして何よりもオレが『選ばれしもの』だと分かったら確実に身柄を拘束されて、洗脳されてしまうか、さもなくば二度と日の目を見ないところに押し込められかねない。
こうなったらこの場からとっとと逃げ出すか。
それともいったんマクラマンに従うフリをして、隙を見て逃走するという選択肢もある。
オレの魔法を持ってすればそれぐらいは雑作もない。
だけどこのマクラマンの性格からして、間違い無くオレの事を執拗に追いかけてくるだろうな。
この場合『逃げたと言う事は何かやましい事があるからに違いない』『どこかで悪い事をする可能性が高い』と思って当然だからなあ。
それでマクラマン本人は間違い無く、正義と秩序のためにやっているつもりなのだから、これまた始末に負えん。
しかし『アルタシャ』を騙ってロクでもない事をしている人間がチラホラ存在するとなると、そういう法があるのは決して不当では無いのだからこれも困ったものだ。
そしてここでビネースが改めてマクラマンに問いかける。
「少し待って下さい。なぜ『アルタシャ』の名を名乗ると取り調べを受ける必要があるのですか? これまでの話からすると今の段階であなたが違法行為を目にしたわけでも無いし、彼女が犯罪者という根拠もないのですね?」
「その通りですよ」
「ならば『アルタシャ』と名乗った者が取り調べるのを法律で決まっているならば、その法を示して下さい」
「それもそうですね。分かりました」
そう言ってマクラマンは馬に載せた荷物をゴソゴソといじり、そこから羊皮紙を持ち出して広げる。
「断っておきますが、我らは法を増やす事は望みません。イーヒルムの神命には『望ましく無い法は対案を示して改正すべきだが、法を増やしてはならない』とあります。規則を増やす事は弱者を踏みにじる事に繋がりかねないのです」
なるほど。法や秩序の名の元に権力者が弱者を蹂躙する事に対しても、マクラマンは反対の立場を取るワケか。
それはそれで立派な心がけなんだけど、逆を言えば決まった法は絶対に守るということなんだろうか。
「これですよ。よくご覧なさい」
「……何と書いてあるのだ?」
ミーリアは顔を近づけるが、クビをひねる。
「あのう……ひょっとして……」
「悪かったな! 私はこんな難しい文章は読めないのだ!」
また彼女は癇癪を起こしているけど、まあこの世界では高等教育は普及していないからこれは仕方ないか。
取りあえずオレが『翻訳』の魔法で見ると、ごちゃごちゃと書いてある固有名詞は分からないが、確かにマクラマンの言葉は事実らしい。
詳しい経緯など分からないが、聖女教会からの追っ手であるミツリーンが言ったようにオレの名前を騙って有力者に取り入ったり、詐欺行為を働いたりした相手が出てきた結果なんだろうな。
「それで分かったでしょう。これで愚僧に同行して下さいますね?」
マクラマンがそういったところで、ビネースが割って入ってくる。
「ちょっと待ちなさい。やはりアルタシャを連れていかれるわけにはいきませんな」
「何ですと?」
ひょっとしてビネースはオレを守ってくれるのだろうか。
その気持ちはありがたいし、たぶん信仰するガイザー神の教義からして、納得しない事には従わない頑固者かもしれないが、それでビネースが罪人になったらこっちがたまったもんじゃないぞ。
しかしビネースはまるで恐れる様子も無く、マクラマンに正面から向き合っていた。
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