異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第14章 拳の王

第513話 『地獄の轟き』の真相とは

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 いまのオレはまさに『地獄の轟き』に取り込まれる寸前だった。
 過去にはこの身を蹂躙されかけた事も一度や二度では無いけど、その時と比較しても身体どころか魂まで奪われてしまいかねない危機的状況だ。
 だがこの時、オレの脳裏ではこれまでとは一変した光景が広がる。
 どうやら精神が繋がった結果として『地獄の轟き』の記憶が流れ込んで来ているらしい。

 しかしそれは少なくとも普通の人間が耐えられるようなモノでは無い。
 たぶん殆どの人間はその光景に圧倒されて精神を粉砕され、一気に『地獄の轟き』に取り込まれてしまうのだろう。
 オレの脳裏に浮かび上がるものは何か全体像がハッキリしない、想像を絶する巨大な存在がぶつかり合っているかのように感じられる。
 それは実際に目にした通りの光景ではなく、強大な魔力や信仰の精力がぶつかり合っているところを人のスケールで感じたらそうなる――さしずめアリの視点で人間の争いを見たらこうなるかと思えるものだった。
 これは言わば『神々の戦い』なのだろうか。

『そうだ……この時、もともとの我は粉砕されて散り散りとなってしまった……』

 なるほど。どれほどいつの時代なのかも分からないが、この『地獄の轟き』の根源は過去において神々同士の戦いで打ち砕かれた神の残骸なのか。
 そのときの無念と恨みが、自分と同じ意識を有する戦乱の犠牲者を引きつけ、ドンドンと肥大していったらしい。
 たぶん元々有していた無念を互いに増幅し、その結果としてただ己が肥大化するために、更なる戦乱を求めるようになってしまったのかもしれないぞ。

『平和など全て偽り。事実、平和を求めていると常に口にしていた連中に対し、争いをやめて武器を捨てるよう望んでも決して聞き入れはしない』

 確かに元の世界でも戦争をしている国家の指導者が、平和を唱えつつ殺戮を繰り返していたし、そうでなくとも武器を捨てる事は殆ど無かった。
 残念ながらそれは人の世における悲しい現実だ。

『そして自分達で争いを望まぬと誰もが口にしておきながら、それを信じて争いを辞めるように唱える者は邪魔者として皆が責める』

 この話は少し前にビネースから聞いたガイザー神の神話に近いぞ。
 まさか?!

「あなたはその時に『邪魔者』として攻撃された存在だったのですか?」
『そうだとも。打ち砕かれた我は既にそのときに何があったのか詳しい事も覚えてはおらぬ。ただ皆に責められ、滅ぼされ、見捨てられたというだけだ』

 そうか。こいつの大元はビネース達が信仰しているガイザー神というか、その伝説の根源となった存在なのだろう。
 もっと言えば『平和を訴えて周囲から愚か者として袋だたきにされた時、砕けた存在の一部』と考えるべきか。
 周囲が望んでいたはずの平和を訴えたにも関わらず、その相手から集団で袋叩きにされた結果として、それでも平和を追求する部分と、平和に絶望し争いの種を蒔く部分に分かれてしまったに違いない。

「あなたの苦しみは分かりますし、それが世界の一面であることも確かでしょう。しかしそれだけではないのですよ」

 月並みとしか言いようがないが、ここはどうにかかの存在を抑えねばならない。
 オレは必死で手を伸ばし、そしてかつて平和を求めて裏切られた存在に近づこうとする。

『愚かな……それまで我の唱える平和に共鳴し、協力を申し出ていたもの達も誰一人として我を助ける事も無く見捨てたのだ』
「ええ? それはまさか?!」

 そうか。イロールは当時、治癒の権能を持つ女神が治療したのだろうと推測していたが、たぶんかつての戦いでガイザー神が打ち砕かれた時にこちらの存在は、見捨てられたというよりは、存在自体を見逃されてしまったのだな。
 もちろん普通だったらそんな欠片など、人間が負傷した時に飛び散った血程度でしかないはずだが、曲がりなりにも力ある神の一部であったから、その欠片もまた意識を有し独立した存在となったに違いない。
 それだけなら新たな崇拝を受ける事もなく朽ち果てているところだろうが、同じように争いの犠牲になった人々の意識を吸収して今までずっと存在し続けてきたのだろう。
 そうすると過去にガイザー信徒が幾度も虐殺され、今もまた『地獄の轟き』が襲撃しようとしているのは、平和を求めつつも現実に裏切られる絶望を知っていて、いま生きている人間たちを同じ道に引き込もうとしているのか。
 ひょっとすると自分の考えこそが揺るがぬ真実だと思い込み、平和を求める考えこそ、そのものを忌み嫌い滅ぼそうとしているのかもしれない。

『さあ。もう話はおしまいだ。お前も我の一部になるがいい』

 ここで相手の圧力が更に増してくる。
 それと共にオレ自身の意識が遠のき、全身の感覚も虚ろになってくる。

『過去に数多の者を取り込んできたが、現世における我の器となり得るような者などいなかった……お前のその身を得る事が出来れば、今度こそ――』

 今度こそ何をしたいんだ?
 このままでは確実に『地獄の轟き』の思い通りだろう。
 しかし! これでオレの覚悟は固まったよ!
 もしもこのオレが『最高の器』ならば、そのために中核となるところが出てきてくれると思っていたが、それを癒やす事が出来るこれが唯一の、そして最後の機会だ!
 オレは渾身の力を込めて、この身に迫り来る『地獄の轟き』に残された魔力を残らず注ぎ込んだ。
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