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第14章 拳の王
第512話 絶体絶命の中で
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オレの全身が魔力どころか生命力まで奪われているかのようにキリキリ痛む。
もしも意識を失ったら一気に呑み込まれてしまうのは確実だろう。
しかも相手は今まで何度も出会ってきたような一山いくらの雑魚霊体ではなく、曲がりなりにも神様なのだ。
いまオレがイロールの化身となっているから、どうにか張り合えているけど普通の状態だったらひとたまりも無かったはずだし、さすがにオレもそんな状態でこんな無茶をする気にはならなかったろう。
『本当にあなたにはホトホト呆れましたよ』
オレの脳裏に同化している女神の事が響く。
あいにくだけど今は返答などしていられる余裕などない。
オレに殺到して、魔力を貪っている連中をどうにかせねばならないのだ。
『ひょっとすると自分の魔力ではないからと思って軽く考えていませんか? 幾らわたくしの化身になっていると言っても、無尽蔵に魔力が使えるワケではないのですよ』
そんなわけあるか!
失敗すれば死ぬどころか『地獄の轟き』に取り込まれて、あの轟く叫びの中に引き釣り込まれるんだぞ。
命どころか魂までかかっているのを軽く考えるヤツがいるか!
『わたくしも大勢の信徒を見てきましたが、ここまで無茶をする相手は初めてです。神の助力にも限界というものがある事は分かりませんか』
もちろんいまこの場でイロールに見捨てられたら、オレは確実に『地獄の轟き』に取り込まれ、この身は奴らの『器』としていうにおぞましい存在となり果てるだろう。
もっともさすがにそれは無いとは思っている。
正義感云々は抜きにして、損得勘定で考えても一応はイロールの英雄と言う事になっているオレが『地獄の轟き』などに乗っ取られてしまうような事になったら、この女神だって困るはずだ。
あと『地獄の轟き』を助けようとするオレに対して、呆れてはいるようだけど、特に怒っていたり憤慨したりしている様子は感じられない。
まあオレでも同じような『バカ』をやらかす相手を見かけたら、呆れつつも助力はするだろうから、そういう意味でオレ達は似たもの同士か。
あんまり嬉しくないけどな。
その一方でオレの身には、また別の『喜び』の感情が流れ込んでくる。
『嬉しいぞ。お前の身を我らの器とする事が出来るのならば、もっと大きな戦乱を、大陸を揺るがすほど戦争をも引き起こせるかもしれん……そうなれば我らの力はさらに増すこととなろう』
何だって?!
こいつらがオレの身を欲しがるのは、ただ生前のようにこの世で活動する肉体が欲しいというだけではなく、もっと大きな目的のためなのか。
オレの知り合いには王太子や皇帝など、戦争を引き起こせる相手が何人もいるからな。
この『地獄の轟き』が大勢の人間を、自分達が生きていた時と同じく戦乱による苦しみの中に叩き落としたいのならばオレの身を乗っ取って、そいつらを焚きつけて大戦争を引き起こす事も可能だろう。
そしてそれによって生まれた憎しみや悲しみを受けてまた力を得ようという魂胆か。
『喜ぶがいい。この大陸全土を戦乱で灰燼に帰す事で、この世に生きるあらゆる者がそなたを怖れ敬うだろう』
生憎だけどもともと敬って欲しいなんて思ってませんから!
しかしオレの身には現在、常人からすれば無尽蔵とも言える魔力があるはずで、たぶんファーゼストで出会った程度の霊体の群れだったら、とっくに全てに行き渡っていたはず。
それでもダメとなると、コイツは本当に現役の神様というだけの事はあるのか。
だけどもうここで辞めるワケにはいかないんだ!
いったいどれだけの時間が経ったのか、どれほどの魔力を使ったのか、オレには全く見当もつかないし、困った事にそれで相手がどこまで影響を受けているのかも分からない。
ひょっとして消耗戦どころか、ただ一方的にオレが喰われているだけだったりするのか?
一瞬だがヒヤリとした悪寒が背筋を走る。
だがオレのその精神の揺らぐに食いつくように、胸の内に響く声が大きくなる。
『そうだとも……抗っても無駄だ。平和や平穏など武器を持ち争う者どもの前では幻に過ぎん。我がどれだけ平和の尊さを語り、武器を捨てるように訴えても争いを望む者どもはそれを聞き入れる事など無い』
これは『地獄の轟き』の中で更に奥の方から響いてくるような声だな。
『さあ諦めよ。我と一つになるのだ』
そういえば一人称がいつの間にか『我ら』ではなく『我』になっているぞ。
ひょっとすると無数の霊体の核というか、本体というか、そういう存在が乗り出してきたのかもしれない。
その通りだとすれば、ただでさえヤバいところで殆どトドメを刺されてしまうかもしれないぞ。
そんなの真っ平だが『地獄の轟き』の影響が大きくなったからなのかイロールの声も聞こえなくなってきた。
いや。それどころか身体の感覚すらなくなってきたぞ。
自分の力を過信してしまったのか。
このままでは本当に乗っ取られてしまう――だがオレが絶望を感じかけたとき、脳裏に何か閃くものがあった。
それは先ほどから『地獄の轟き』がオレの心に呼びかけてきたのと変わらぬ、殺伐とした争いの光景なのだが、それでも何かが違う。
ひょっとしてこれが『地獄の轟き』が最初に生まれた争いの記憶なのか?
もしも意識を失ったら一気に呑み込まれてしまうのは確実だろう。
しかも相手は今まで何度も出会ってきたような一山いくらの雑魚霊体ではなく、曲がりなりにも神様なのだ。
いまオレがイロールの化身となっているから、どうにか張り合えているけど普通の状態だったらひとたまりも無かったはずだし、さすがにオレもそんな状態でこんな無茶をする気にはならなかったろう。
『本当にあなたにはホトホト呆れましたよ』
オレの脳裏に同化している女神の事が響く。
あいにくだけど今は返答などしていられる余裕などない。
オレに殺到して、魔力を貪っている連中をどうにかせねばならないのだ。
『ひょっとすると自分の魔力ではないからと思って軽く考えていませんか? 幾らわたくしの化身になっていると言っても、無尽蔵に魔力が使えるワケではないのですよ』
そんなわけあるか!
失敗すれば死ぬどころか『地獄の轟き』に取り込まれて、あの轟く叫びの中に引き釣り込まれるんだぞ。
命どころか魂までかかっているのを軽く考えるヤツがいるか!
『わたくしも大勢の信徒を見てきましたが、ここまで無茶をする相手は初めてです。神の助力にも限界というものがある事は分かりませんか』
もちろんいまこの場でイロールに見捨てられたら、オレは確実に『地獄の轟き』に取り込まれ、この身は奴らの『器』としていうにおぞましい存在となり果てるだろう。
もっともさすがにそれは無いとは思っている。
正義感云々は抜きにして、損得勘定で考えても一応はイロールの英雄と言う事になっているオレが『地獄の轟き』などに乗っ取られてしまうような事になったら、この女神だって困るはずだ。
あと『地獄の轟き』を助けようとするオレに対して、呆れてはいるようだけど、特に怒っていたり憤慨したりしている様子は感じられない。
まあオレでも同じような『バカ』をやらかす相手を見かけたら、呆れつつも助力はするだろうから、そういう意味でオレ達は似たもの同士か。
あんまり嬉しくないけどな。
その一方でオレの身には、また別の『喜び』の感情が流れ込んでくる。
『嬉しいぞ。お前の身を我らの器とする事が出来るのならば、もっと大きな戦乱を、大陸を揺るがすほど戦争をも引き起こせるかもしれん……そうなれば我らの力はさらに増すこととなろう』
何だって?!
こいつらがオレの身を欲しがるのは、ただ生前のようにこの世で活動する肉体が欲しいというだけではなく、もっと大きな目的のためなのか。
オレの知り合いには王太子や皇帝など、戦争を引き起こせる相手が何人もいるからな。
この『地獄の轟き』が大勢の人間を、自分達が生きていた時と同じく戦乱による苦しみの中に叩き落としたいのならばオレの身を乗っ取って、そいつらを焚きつけて大戦争を引き起こす事も可能だろう。
そしてそれによって生まれた憎しみや悲しみを受けてまた力を得ようという魂胆か。
『喜ぶがいい。この大陸全土を戦乱で灰燼に帰す事で、この世に生きるあらゆる者がそなたを怖れ敬うだろう』
生憎だけどもともと敬って欲しいなんて思ってませんから!
しかしオレの身には現在、常人からすれば無尽蔵とも言える魔力があるはずで、たぶんファーゼストで出会った程度の霊体の群れだったら、とっくに全てに行き渡っていたはず。
それでもダメとなると、コイツは本当に現役の神様というだけの事はあるのか。
だけどもうここで辞めるワケにはいかないんだ!
いったいどれだけの時間が経ったのか、どれほどの魔力を使ったのか、オレには全く見当もつかないし、困った事にそれで相手がどこまで影響を受けているのかも分からない。
ひょっとして消耗戦どころか、ただ一方的にオレが喰われているだけだったりするのか?
一瞬だがヒヤリとした悪寒が背筋を走る。
だがオレのその精神の揺らぐに食いつくように、胸の内に響く声が大きくなる。
『そうだとも……抗っても無駄だ。平和や平穏など武器を持ち争う者どもの前では幻に過ぎん。我がどれだけ平和の尊さを語り、武器を捨てるように訴えても争いを望む者どもはそれを聞き入れる事など無い』
これは『地獄の轟き』の中で更に奥の方から響いてくるような声だな。
『さあ諦めよ。我と一つになるのだ』
そういえば一人称がいつの間にか『我ら』ではなく『我』になっているぞ。
ひょっとすると無数の霊体の核というか、本体というか、そういう存在が乗り出してきたのかもしれない。
その通りだとすれば、ただでさえヤバいところで殆どトドメを刺されてしまうかもしれないぞ。
そんなの真っ平だが『地獄の轟き』の影響が大きくなったからなのかイロールの声も聞こえなくなってきた。
いや。それどころか身体の感覚すらなくなってきたぞ。
自分の力を過信してしまったのか。
このままでは本当に乗っ取られてしまう――だがオレが絶望を感じかけたとき、脳裏に何か閃くものがあった。
それは先ほどから『地獄の轟き』がオレの心に呼びかけてきたのと変わらぬ、殺伐とした争いの光景なのだが、それでも何かが違う。
ひょっとしてこれが『地獄の轟き』が最初に生まれた争いの記憶なのか?
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