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第14章 拳の王
第514話 危機における神様の分裂事情
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これがオレにとって文字通り最後の力だ。
本物の英雄ならば、こういう大ピンチの時に相手の『本体』が姿を現して、自らの過去と正体を語ってきたのだからそこでこっちが放つ一撃で逆転勝利は約束されているよね?
そうでないと確実にこっちがおしまいなんだから。
しかもそれでただ死ぬどころか、魂も肉体も取り込まれ、しかも身体の方は現世における『器』として戦乱を引き起こすのに利用されるというのだから、もうたまったもんじゃない。
そんな非道を許す程、この世界は悪には寛容じゃ無いはずだ――別に正義に力を貸せとは言わないけどさ。
そしてオレの身に取り憑き、精神までも乗っ取ろうとする『地獄の轟き』はこの魔力を受けて動きを止める。
おお?! やはりこれでどうにかなるのか。
『素晴らしいぞ。この身に宿る力はもう思い出せぬ程、遥か昔のものだ。そなたが我を癒やしてくれたのだな』
そうか。これで正気に戻ってくれたのか。
ああ。イロールに呆れられてまで、命を賭けたかいがあったというものだ。
しかし安堵した次の瞬間、オレの心臓をわしづかみにされるような感覚が走り、意識が一気に遠のく。
『これで我は力を取り戻し、そなたの身を完全に掌握出来る。感謝するぞ』
ええ?! オレがその身を回復させた事で、あんたは平和を望んでいた時にもどったんじゃないのか?
ただ単に力が増しただけ?
完全にやぶ蛇だったというのかよ。
『そなたにもう力は残っておらぬようだな。だが心配するな。この身は我の器として大事に使わせてもらうぞ。どうやら数多くの者どもに大きな影響があるようだからな』
そんな事まで分かるのか?
いや。『地獄の轟き』の信徒の意識を見ているのなら、オレの評判ぐらいは知っていて当然か。
『そなたが我の一部となれば、その記憶も力も全て我がものとなる。だから何の心配もいらぬ。他の無数のもの達と共にこの世の全てを戦乱で埋め尽くそうではないか』
そんな事を言うならオレが異世界出身で、元男だという記憶まで得てもいいんだな。
いや。ヤケになってどうする。
オレの身体を奪い、記憶を得て、その上で知り合いの皇帝だの王子だのをたきつけるなら、本当にそれは可能になるかもしれない。
これまで出会ったテマーティン王子とかウァリウス皇帝とか、プロポーズしてきた相手ともそれほど深い付き合いではなかったから簡単に引っかかるだろう。
残念ながらあの連中に『本物のアルタシャがそんな事を言うはずが無い!』などと中身がオレでは無い事を見抜いてくれる事は全く期待出来ない。
しかもあの連中は平和主義でも何でも無いから、マジでオレに煽られて戦乱でも何でも引き起こすかもしれないぞ。
まずい。曲がりなりにも神様を相手に、あまりにもオレの行動は軽率に過ぎたか。
そしていつの間にかオレの全身の感覚もなくなり、何もかもが暗黒に塗りつぶされようとしていた。
ああ。こんなところでオレは消えてしまうのか。
そうなると分かっていたら、プロポーズしてきた連中にもっとサービスしてやってもよかったかもしれないな。だがこの時、思いもかけぬ声が脳裏に響く。
『いや。そうでもない。そなたは実によくやってくれた。感謝する』
どういうわけかたくましく威厳ある男の声が響く。
それはビネースを少しばかり思い起こさせたが、ただのその秘められた力は別次元のものだった。
え? これはいったい?
そしてそれと共にオレの身に『地獄の轟き』とは別の何かが流れ込んできて、一気に身体の感覚が戻る。
『うぐう……邪魔をするな!』
『そのような連れない事を言うものではなかろう。吾らは元は一つでは無いか』
なんだって? それではさっきオレに語りかけたのは、もしやガイザー神なのか?
そうか。先ほどからイロールの声が聞こえないのはここは『地獄の轟き』の領域だからだろうけど、かつては同じ存在だったとしたらそこにガイザー神が入り込む事も出来るのだな。
しかしそれならそれでもっと早く助けに来いと、ついつい内心で突っ込みたくなるが、もちろんそれをこの場で口にするワケにもいかないか。
『そうだ。そなたが癒やしたのは遠い昔に砕け、散り散りとなった吾の一部だった……そして砕けたそちらは争いを止める事が出来なかった、その無念を受け継いだ存在だったのだ』
何だって?
つまりたまたま砕けた結果として平和主義の神であるガイザーと、戦乱を煽る『地獄の轟き』に別れたのでは無く、ガイザーが平和主義を貫くために敢えて、その信念を裏切られた無念の部分を切り離していたというのか。
人間が手術で病巣を切除するように、神様は己の教義にとって都合の悪い部分を切り離し、それがまた別の神になったりする事もあると言う事か。
いや。それが本当にガイザーの意図したものなのか、打ち砕かれた結果がたまたまそうなったのかは分からない。
さしずめ現実世界にて同じ神を崇めていても教義の違いで教団が分裂するように、神がその信仰と食い違う意識を有してしまうと、それが分裂して別の存在となってしまうのかもしれない。
『もう我らは既に別の存在だ。そして無力な平和を掲げるお前など我の前ではただ蹂躙されるだけに過ぎん』
『確かに長らく我らは異なる存在どころか、むしろ相容れぬ関係だったな』
ええい。自分同士で喧嘩するな。
しかもその舞台はオレの身体の中なんだから、スケールが大きいのかみみっちいのかよく分からない。
本物の英雄ならば、こういう大ピンチの時に相手の『本体』が姿を現して、自らの過去と正体を語ってきたのだからそこでこっちが放つ一撃で逆転勝利は約束されているよね?
そうでないと確実にこっちがおしまいなんだから。
しかもそれでただ死ぬどころか、魂も肉体も取り込まれ、しかも身体の方は現世における『器』として戦乱を引き起こすのに利用されるというのだから、もうたまったもんじゃない。
そんな非道を許す程、この世界は悪には寛容じゃ無いはずだ――別に正義に力を貸せとは言わないけどさ。
そしてオレの身に取り憑き、精神までも乗っ取ろうとする『地獄の轟き』はこの魔力を受けて動きを止める。
おお?! やはりこれでどうにかなるのか。
『素晴らしいぞ。この身に宿る力はもう思い出せぬ程、遥か昔のものだ。そなたが我を癒やしてくれたのだな』
そうか。これで正気に戻ってくれたのか。
ああ。イロールに呆れられてまで、命を賭けたかいがあったというものだ。
しかし安堵した次の瞬間、オレの心臓をわしづかみにされるような感覚が走り、意識が一気に遠のく。
『これで我は力を取り戻し、そなたの身を完全に掌握出来る。感謝するぞ』
ええ?! オレがその身を回復させた事で、あんたは平和を望んでいた時にもどったんじゃないのか?
ただ単に力が増しただけ?
完全にやぶ蛇だったというのかよ。
『そなたにもう力は残っておらぬようだな。だが心配するな。この身は我の器として大事に使わせてもらうぞ。どうやら数多くの者どもに大きな影響があるようだからな』
そんな事まで分かるのか?
いや。『地獄の轟き』の信徒の意識を見ているのなら、オレの評判ぐらいは知っていて当然か。
『そなたが我の一部となれば、その記憶も力も全て我がものとなる。だから何の心配もいらぬ。他の無数のもの達と共にこの世の全てを戦乱で埋め尽くそうではないか』
そんな事を言うならオレが異世界出身で、元男だという記憶まで得てもいいんだな。
いや。ヤケになってどうする。
オレの身体を奪い、記憶を得て、その上で知り合いの皇帝だの王子だのをたきつけるなら、本当にそれは可能になるかもしれない。
これまで出会ったテマーティン王子とかウァリウス皇帝とか、プロポーズしてきた相手ともそれほど深い付き合いではなかったから簡単に引っかかるだろう。
残念ながらあの連中に『本物のアルタシャがそんな事を言うはずが無い!』などと中身がオレでは無い事を見抜いてくれる事は全く期待出来ない。
しかもあの連中は平和主義でも何でも無いから、マジでオレに煽られて戦乱でも何でも引き起こすかもしれないぞ。
まずい。曲がりなりにも神様を相手に、あまりにもオレの行動は軽率に過ぎたか。
そしていつの間にかオレの全身の感覚もなくなり、何もかもが暗黒に塗りつぶされようとしていた。
ああ。こんなところでオレは消えてしまうのか。
そうなると分かっていたら、プロポーズしてきた連中にもっとサービスしてやってもよかったかもしれないな。だがこの時、思いもかけぬ声が脳裏に響く。
『いや。そうでもない。そなたは実によくやってくれた。感謝する』
どういうわけかたくましく威厳ある男の声が響く。
それはビネースを少しばかり思い起こさせたが、ただのその秘められた力は別次元のものだった。
え? これはいったい?
そしてそれと共にオレの身に『地獄の轟き』とは別の何かが流れ込んできて、一気に身体の感覚が戻る。
『うぐう……邪魔をするな!』
『そのような連れない事を言うものではなかろう。吾らは元は一つでは無いか』
なんだって? それではさっきオレに語りかけたのは、もしやガイザー神なのか?
そうか。先ほどからイロールの声が聞こえないのはここは『地獄の轟き』の領域だからだろうけど、かつては同じ存在だったとしたらそこにガイザー神が入り込む事も出来るのだな。
しかしそれならそれでもっと早く助けに来いと、ついつい内心で突っ込みたくなるが、もちろんそれをこの場で口にするワケにもいかないか。
『そうだ。そなたが癒やしたのは遠い昔に砕け、散り散りとなった吾の一部だった……そして砕けたそちらは争いを止める事が出来なかった、その無念を受け継いだ存在だったのだ』
何だって?
つまりたまたま砕けた結果として平和主義の神であるガイザーと、戦乱を煽る『地獄の轟き』に別れたのでは無く、ガイザーが平和主義を貫くために敢えて、その信念を裏切られた無念の部分を切り離していたというのか。
人間が手術で病巣を切除するように、神様は己の教義にとって都合の悪い部分を切り離し、それがまた別の神になったりする事もあると言う事か。
いや。それが本当にガイザーの意図したものなのか、打ち砕かれた結果がたまたまそうなったのかは分からない。
さしずめ現実世界にて同じ神を崇めていても教義の違いで教団が分裂するように、神がその信仰と食い違う意識を有してしまうと、それが分裂して別の存在となってしまうのかもしれない。
『もう我らは既に別の存在だ。そして無力な平和を掲げるお前など我の前ではただ蹂躙されるだけに過ぎん』
『確かに長らく我らは異なる存在どころか、むしろ相容れぬ関係だったな』
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