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第14章 拳の王
第515話 改めて『地獄の轟き』と向かい合う
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いまオレの意識の中ではいつの間にかガイザー神と『地獄の轟き』がぶつかり合っている。
神同士の争いなのに舞台がオレの身体の中とは、スケールが大きいのだか、小さいのだかよく分からんな。
『もう吾らは争っていても仕方あるまい。ここは改めて力を合わせ寄る辺なき人々を武器なき平和な世界へと導くのだ』
『そのような世迷言をいつまで唱えている。それが他の神々にも通用しなかったからこそ我がここに存在しているのだ』
ああ。お互いに自分自身の筈なのになんたる不毛な争いだろうか。
しかも『地獄の轟き』の方はオレが全力で癒してしまったせいか、今ではかなりの力が感じられる。
そしてよくよく感覚を研ぎ澄ませてみると、この両者のイメージが脳裏に浮かび上がる――このあたりはイロール神と似たところがあるな。
ガイザー神はビネースと同じように精悍で筋肉質で力強く、もちろん武器など持たない男性の姿をしている。
一方で『地獄の轟き』の方は確かに人型ではあるが、その身は先ほど見た『霊体の霧』のように人々の苦悶する顔が次から次へと浮かび上がる不気味な姿だ。
元々はひとつだったはずだが、別れてから長年に渡り全く別の道を歩んできたせいで、まるで異なる存在になってしまったのだな。
『確かにその通りだ。しかしそなたに吾の声が届くようになったと言う事は、そなたもかつての己を取り戻しつつあるのだろう』
『そんな事は関係無い。我はあくまでも戦乱で苦悩するもの達の声を受け入れ、彼らの願いを聞き届けるだけだ』
『だからこそ吾らは改めて力を合わせるべきなのだ。今でも戦乱で苦悩するもの達を救うためにな』
やっぱりかみ合っているようでかみ合っていないけど、しかしそれでも少しばかり『地獄の轟き』が理解出来る気がしてきた。
ガイザー神が戦乱で苦しむ人々を救わんとして武器の破壊を教義としているのに対し『地獄の轟き』はその苦しむ人々の声を受け入れ、彼らの願いをかなえようとしてきたのか。
しかしその多くは恨みや憎しみであり、あとは自分の受けた苦しみを他者に与えてやりたいと言ったたぐいのものだったが故にかの神はこんな存在になってしまったのだろう。
敢えて違いを言うならばガイザー神は《戦乱で苦しむ弱き人々》を救うのが目的だが『地獄の轟き』は《戦乱で蹂躙され苦しんで死んでいった弱き人々》の願いを叶えようとしているのか。
ただその願いは残念ながら他者をいたわるものでもなければ、平和を求めるものでもなかったということだ。
元の世界の紛争地域でも《憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖》が問題になっていたけど、どこの世界でも人間の考える事はさほど変わらない。
そのためにスタートラインは同じだったはずなのに、ここまで極端に別になってしまうとは、全く世の中は理不尽だな。
もっとも聖女教会に無理矢理女にされて逃げ出して放浪しているオレが、いつの間にやらイロールの英雄なんだから、この世界ではそんな皮肉こそが当たり前なのかもしれないが。
『そうか。ならば仕方が無い。どうしても聞き入れぬとあらば吾の一部ではあるが、戦乱を呼ぶ存在である以上は破壊せねばなるまいな』
ガイザー信徒が武器を持つ相手に対して、かなり過激な行動に出るのと同じかそれ以上にかつての自分自身に対しても容赦ないのか。
『そのような事を幾ら行っても無駄だ。我は何度滅び、またこの世界から放逐されようと幾らでも蘇る』
相変わらず不毛な争いだが、仕方ないのでオレにも口を挟ませてもらおう。
何しろこの両者がいま争っているのは、オレの肉体の中だからな。
つまりこっちもれっきとした当事者だ。文句の一つぐらい言う資格はあるだろう。
とにかく今は『地獄の轟き』の方をどうにかするしかない。
「待って下さい。あなたも結局は『戦乱で苦しむ弱き人々』を救うのが目的なのではないのですか?」
『そうだとも。そしてその人々の願いとは、他人を自分と同じ目に遭わせてやりたいというものだ』
「確かにそれも人間の一つのあり方なのは分かっています。しかしそれだけではないでしょう。彼らだってかなう事なら平和に生きたかったはずで、それを理不尽に奪った戦乱を喜んでいるはずがありません」
『そんな事など我の感知するところではない。我はあくまでも彼らの願い通りに行動しているに過ぎない』
やっぱり『死後の霊体』を吸収している『地獄の轟き』には生前の願いなどは関係無いのか。だけどそこまでは予想通りだ。
「確かにあなたが死後の彼らの不満を引き受けてきたのは分かります。そしてたぶんそれはあなたがやはりガイザー神と同じく『戦乱で苦しんだ弱き者』を救いたい気持ちの顕れだったのでしょう。だからそれを止める必要はありません」
『なんだと? ならばそなたは我が正しいと認めるのだな?』
どうやら『地獄の轟き』は少しばかり驚いた様子だな。
まあついさっき身体を乗っ取られかけたばかりなのに、そのオレが『地獄の轟き』を認めるかのような態度を取ったのはかの神にも意外なのだろう。
『これまでにも大勢の魂の声を聞いてきたが、そなたのような相手に出会ったのは初めてだ』
「そうでしょうね。よく言われますよ」
先ほどのまでと比べると、かなり話が通じるようにはなっている。
たぶんこれはオレが『癒やした』からだろう。
それで身体も魂も奪われかねない状況に自分を追い込んでしまったわけだけど、今は結果オーライと考えるとしよう。
神同士の争いなのに舞台がオレの身体の中とは、スケールが大きいのだか、小さいのだかよく分からんな。
『もう吾らは争っていても仕方あるまい。ここは改めて力を合わせ寄る辺なき人々を武器なき平和な世界へと導くのだ』
『そのような世迷言をいつまで唱えている。それが他の神々にも通用しなかったからこそ我がここに存在しているのだ』
ああ。お互いに自分自身の筈なのになんたる不毛な争いだろうか。
しかも『地獄の轟き』の方はオレが全力で癒してしまったせいか、今ではかなりの力が感じられる。
そしてよくよく感覚を研ぎ澄ませてみると、この両者のイメージが脳裏に浮かび上がる――このあたりはイロール神と似たところがあるな。
ガイザー神はビネースと同じように精悍で筋肉質で力強く、もちろん武器など持たない男性の姿をしている。
一方で『地獄の轟き』の方は確かに人型ではあるが、その身は先ほど見た『霊体の霧』のように人々の苦悶する顔が次から次へと浮かび上がる不気味な姿だ。
元々はひとつだったはずだが、別れてから長年に渡り全く別の道を歩んできたせいで、まるで異なる存在になってしまったのだな。
『確かにその通りだ。しかしそなたに吾の声が届くようになったと言う事は、そなたもかつての己を取り戻しつつあるのだろう』
『そんな事は関係無い。我はあくまでも戦乱で苦悩するもの達の声を受け入れ、彼らの願いを聞き届けるだけだ』
『だからこそ吾らは改めて力を合わせるべきなのだ。今でも戦乱で苦悩するもの達を救うためにな』
やっぱりかみ合っているようでかみ合っていないけど、しかしそれでも少しばかり『地獄の轟き』が理解出来る気がしてきた。
ガイザー神が戦乱で苦しむ人々を救わんとして武器の破壊を教義としているのに対し『地獄の轟き』はその苦しむ人々の声を受け入れ、彼らの願いをかなえようとしてきたのか。
しかしその多くは恨みや憎しみであり、あとは自分の受けた苦しみを他者に与えてやりたいと言ったたぐいのものだったが故にかの神はこんな存在になってしまったのだろう。
敢えて違いを言うならばガイザー神は《戦乱で苦しむ弱き人々》を救うのが目的だが『地獄の轟き』は《戦乱で蹂躙され苦しんで死んでいった弱き人々》の願いを叶えようとしているのか。
ただその願いは残念ながら他者をいたわるものでもなければ、平和を求めるものでもなかったということだ。
元の世界の紛争地域でも《憎しみが憎しみを呼ぶ負の連鎖》が問題になっていたけど、どこの世界でも人間の考える事はさほど変わらない。
そのためにスタートラインは同じだったはずなのに、ここまで極端に別になってしまうとは、全く世の中は理不尽だな。
もっとも聖女教会に無理矢理女にされて逃げ出して放浪しているオレが、いつの間にやらイロールの英雄なんだから、この世界ではそんな皮肉こそが当たり前なのかもしれないが。
『そうか。ならば仕方が無い。どうしても聞き入れぬとあらば吾の一部ではあるが、戦乱を呼ぶ存在である以上は破壊せねばなるまいな』
ガイザー信徒が武器を持つ相手に対して、かなり過激な行動に出るのと同じかそれ以上にかつての自分自身に対しても容赦ないのか。
『そのような事を幾ら行っても無駄だ。我は何度滅び、またこの世界から放逐されようと幾らでも蘇る』
相変わらず不毛な争いだが、仕方ないのでオレにも口を挟ませてもらおう。
何しろこの両者がいま争っているのは、オレの肉体の中だからな。
つまりこっちもれっきとした当事者だ。文句の一つぐらい言う資格はあるだろう。
とにかく今は『地獄の轟き』の方をどうにかするしかない。
「待って下さい。あなたも結局は『戦乱で苦しむ弱き人々』を救うのが目的なのではないのですか?」
『そうだとも。そしてその人々の願いとは、他人を自分と同じ目に遭わせてやりたいというものだ』
「確かにそれも人間の一つのあり方なのは分かっています。しかしそれだけではないでしょう。彼らだってかなう事なら平和に生きたかったはずで、それを理不尽に奪った戦乱を喜んでいるはずがありません」
『そんな事など我の感知するところではない。我はあくまでも彼らの願い通りに行動しているに過ぎない』
やっぱり『死後の霊体』を吸収している『地獄の轟き』には生前の願いなどは関係無いのか。だけどそこまでは予想通りだ。
「確かにあなたが死後の彼らの不満を引き受けてきたのは分かります。そしてたぶんそれはあなたがやはりガイザー神と同じく『戦乱で苦しんだ弱き者』を救いたい気持ちの顕れだったのでしょう。だからそれを止める必要はありません」
『なんだと? ならばそなたは我が正しいと認めるのだな?』
どうやら『地獄の轟き』は少しばかり驚いた様子だな。
まあついさっき身体を乗っ取られかけたばかりなのに、そのオレが『地獄の轟き』を認めるかのような態度を取ったのはかの神にも意外なのだろう。
『これまでにも大勢の魂の声を聞いてきたが、そなたのような相手に出会ったのは初めてだ』
「そうでしょうね。よく言われますよ」
先ほどのまでと比べると、かなり話が通じるようにはなっている。
たぶんこれはオレが『癒やした』からだろう。
それで身体も魂も奪われかねない状況に自分を追い込んでしまったわけだけど、今は結果オーライと考えるとしよう。
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