異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第14章 拳の王

第516話 神の根源に対して

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 オレはひとまずガイザー神と『地獄の轟き』の両者に対して改めて話しかける。

「先ほど言った通り、あなた方が争う必要など無いのですよ」
『何を言っているのだ? もうそれは吾ではない。一つになるのを拒むならば消し去ってしまうしかないのだ』
『どれだけ裏切られても同じ事を繰り返す愚か者と、その信徒のどちらも我が滅ぼすだけだ』

 どちらも戦乱によって酷い目に遭い、武力を憎み、その犠牲になった弱きもの達の意志を汲んでいるところでは一緒なのに、結論が正反対で互いを滅ぼそうとして憎み合うのは確かに困ったものだ。
 しかしその行動原理の根本が同じなら、どうにか出来るはず。
 信心の無節操さには自信のあるオレだけど、ここはそれを信じるしかないのだ。

「だからあなた方は一つになる必要はありませんし、もちろん互いを滅ぼさなくてもいいのですよ」
『それでは今までと何も変わらず、吾らとその信徒が互いに相争うのが繰り返されるだけではないか』
『平和などと言う愚かな幻影を追い求める輩は人々を苦しめるだけだ』

 オレを責める時はなぜかこいつら一緒だな。
 元が一つだけあって、やっぱり共通点があると言う事か。
 まあ極端な話を言えば、オレはこの場で犠牲を出さずに切り抜けられればいいだけだから、現状維持のままで両者が引き下がってくれたらそれでも一向に構わないのだけど、ここはオレに出来る事をどうにかしたい。

「あなた方は協力出来るのです」
『そんな事は不可能だ』
「いいえ。可能です!」

 オレはとにかく叫んで、こちらの意志を両者に叩きつける。
 まあ今、オレの脳裏で喚いているのも神の本体では無く、この世に出て来たごく一部だけだからこういう事が出来るのだろう。

「え~と。『地獄の轟き』のあなただって、苦しむ人々の声を聞いて彼らの望みを可能な限り叶えたいと思っているのでしょう?」

 もともと『地獄の轟き』というのも正式な名前では無いだろうし、それでは呼びかけにくいけど今はそんな事にこだわっているわけにもいかない。

『だから何だ?』
「つまりあなたは今までずっと、戦乱で苦しむ人々の声を聞いてきたのでしょう? そして彼らを救う力が無いから、ただ彼らの望む通りの事をするしか無かったのですよね」

 たとえ『地獄の轟き』であろうと、いや、いかなる神であろうと数多くの戦没者の無念の声に応える事など出来るはずが無い。
 しかしそれでも可能な限り、彼らの無念に応えようとした結果が『更に戦乱を広めること』だったとしたら何とも皮肉としか言いようが無いが、十分にあり得る事だ。

『それがどうした。我は我に届いた声の通りに動く。そんな事は当たり前だ』
「いいえ。それは間違いです」

 オレが断言すると、相手は僅かだが沈黙する。
 たぶん今まで考えた事も無かった事なのかもしれない。
 しかし神様が信徒の声に一々応じているはずが無いのは当たり前だ。これまでに数多くの神様に出会ってきたが、そんな相手は一柱もいなかった。
 まあ『信徒が望んでいるから』という理由で、自分では何もしなかった――そのせいでロクでもない事になった――神様はチラホラいたけどな。

 それを考えるとこの『地獄の轟き』はもっとも信徒に近しく、その願いを叶えようと躍起になっているとすら言えるかもしれない。
 だがそれが逆に最もロクでもない部類の神様になってしまっているのだから、全く物事は一筋縄でいかないにも程がある。

「届いた声の通りに行動するのが決して正しくは無いという事を、あなたは最初から分かっているはずです」
『何を言うかこの我は――』
「太古の昔、あなたはその声の通りに戦乱を止めようとした結果、滅ぼされかけたのでは無いのですか?」
『……』

 どうやら図星だったようだ。かつてのガイザー神が争いをどうにか止めようとしたのも、その信徒達の平穏を望む声を聞いたからだろう。
 その結果として他の神々から愚か者と蔑まれ、叩きのめされたという神話が本当ならばそれが彼らの分裂の原因であり、また『地獄の轟き』の原点そのもののはずだ。
 もっともそれを意識などしていなかったのも間違い無い。
 たぶん打ち砕かれ、何もかも失ったかの神の破片に出来る事が『自分に届く声に可能な限り応える』というものだったのだろう。
 そしてそれにどうにか応えている内に、次第に方向性がねじ曲がっていったのだろう。こういうことは人間の世界でもよくある事だけど、神様でも似たところがあるんだな。

「断っておきますが、あなたが信じるもの達に向き合う姿勢が悪いわけではありませんよ。だからそのままでいて下さい」
『お前が何を言いたいのか分からんぞ。お前は我に逆らっていたのではないのか』
「わたしが望んでいるのは、あなたが戦乱で苦しみ、死んでいった人々の無念を受け入れ続け、それでも彼らの望みに応えるのは控えて欲しいと言う事です」
『何とも勝手な言いぐさだな』
「それは分かっているつもりです」

 何しろ『地獄の轟き』の根源がそれだからな。しかしそれでも敢えてその無理を今は押し通さねばならないのだ。
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