異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
525 / 1,316
第15章 とある御家騒動の話

第525話 結局は首を突っ込む事に

しおりを挟む
 一応は人が通れる山道を離れ、藪と枝に覆われた山の中を強行軍しつつ、オレは同行しているフードの人に話しかける。

「とりあえずわたしの後について来てください」
「ああ……」

 いろいろと疑問がわき出ている様子だが、逆らうこともなく相手はオレの後についてくる。
 オレが通ったところは少しの間は藪や木の枝が避けてくれているので、足元に注意していれば通る事は難しく無い。
 そして相手もすぐにそれには気づいたようだ。

「あなたはいったい何者なのだ? 先ほどからいくつも魔法を使っているようだが、普通ならばとてもその年齢で使えるものではないぞ」
「今はお互いの出自についてどうこう言っている場合ではありませんよ」
「う……分かった」

 思った通り、相手も自分が何者なのか詮索されたくないようだ。
 それについてはこちらも同じだから、なし崩しでお互いに正体を詮索しない事になったが、この人はいったい何者なんだろうか?
 これだけ大勢の相手に追われるとなると、尋常では無いだろう。
 ただ最初の検問の連中が何の事情も知らなかったところを見ると、通常のお尋ね者とは違うのは間違い無い。
 まあ詳しい事を聞ける状況でも無いし、今は逃げる事を優先させるとしよう。
 さっきの連中は合図の『烽火』の程度には魔法を使えたようだけど、ひょっとすると本職の魔法使いも同行している可能性もある。
 オレのように野外行動用のドルイド魔法を習得している人間までいるとは思えないけど、注意するに越した事は無いだろう。
 そんな事を考えつつしばらく進んでいると、背後から息も絶え絶えに声がかかる。

「申し訳ないが……少し休ませてくれまいか……」
「ああすみません。ちょっと急ぎすぎましたね」

 オレは改めて『疲労回復』スタミナをかけるが、これまでの経験からこの魔法は同じ相手に繰り返し何度もかけると効果が弱まってくる事は分かっている。
 追っ手もこちらを必死で探しているのは確実だけど、山の中を突っ切ってオレを追跡出来る相手はそうはいないはずだ。
 そんなわけで少しずつ移動し、オレ達が山を二つほど超えたところで日が暮れてきた。
 ひとまず『鷹の目』イーグル・アイで周囲に追っ手がいないことを確認し、オレはようやく一息つく。
 見たところこの山地を越えたところに結構大きな町があるが、今日のところはそこまでたどり着くのは無理だろうな。

「それではここで野宿をしましょう」
「ああ……ところであなたが何者なのか教えてくれまいか?」
「そういう事は人に尋ねる前にまず自分から教えるべきでしょう」

 オレのこの質問に相手は押し黙る。
 やっぱりいろいろと面倒な事がありそうだな。

「それでは質問を変えるが、どうして私を助けてくれたのだ? あなた一人だけで逃げるなど造作もなかったろう」
「ちょっとした気まぐれみたいなものです。気にしないで下さい。もちろん別に報酬もいりませんから」
「報酬も要求しないのか?」

 オレにとってはこんなのはいつもの事だからね。
 しかし相手は納得出来ない様子で首をひねっている。

「あなた程の魔法の使い手がそんな気まぐれで行動するものなのか」

 そりゃまあそうだろうな。
 この世界で本業の魔法使いは、厳しい訓練を受けてきた専門職の人間であって、そんな相手が出会ったばかりで、名前も知らない相手のためにホイホイ魔法を使って手助けをすけをする方がおかしい。
 それにこれまでこの女性に見せただけで、オレの魔力がそこらの魔法使いよりずっと上なのは明らかだからな。

「ひょっとすると……あなたは私の手助けのために雇われたのではないのか?」
「いいえ。それは違いますよ。本当にあなたの事は何も知りませんから」

 この言葉からすると、彼女を助けるべく腕の立つ魔法使いを雇うぐらいにその出自は裕福ということらしい。
 そうすると財産を巡る骨肉の争いとか何とかいろいろありそうだな。

「そうか……」

 どうにも釈然としない様子だが、そこで彼女は改めてオレに問いかけてくる。

「ひとつお願いしたいのだが、これからしばらく私と同行し、助力してもらえまいか?」
「それはつまり先ほどのような連中が今後もあなたを追ってくるのが予想出来るという事なんですか?」
「ああ……その通りだ……」

 ここで相手はフードを取って顔を見せる。
 改めて見ると年齢はオレよりやや年上で、十八歳ぐらいだろうか。
 話の通り『金髪の美人』なのは間違い無い。ただぱっと見では凜々しい系の美人だが、ちょっとばかり頼りなさそうというか、そんな雰囲気が漂っている。
 どうやらかなりの不安を感じているようだ。

「もちろんタダとは言わない。今は報酬として出せるものなど何も無いが、必ずあなたの満足できるだけの見返りを用意させてもらう」
「それでは事情を説明してくれますか?」

 正直に言えば報酬などどうでもいい。しかしどういう事情があるのかは聞いておかねばならないだろう。
 しかし相手は弱々しく首を振る。

「申し訳ない……詳しい事を話すわけにはいかないのだ」

 まあ幾ら手助けしたとは言え、あったばかりの相手を無条件で信頼するワケにはいかないだろうからな。
 そしてここで金色の頭を深々と下げて懇願してくる。

「事情も説明せず、自分の出自も明かさず、報酬も口約束だけ。それでいて危険が伴うのは確実なのに手助けをしろとは厚かましいにも程がある願いなのは分かっている。しかしどうしても私には行かねばならないところがある。だからそれまで同行してもらえまいか」

 ああ。オレっていつもこんなややこしい事に巻き込まれるのが運命なんだな。
 しかし乗りかかった船である以上、ここで見捨てるのも後味が悪い。

「分かりました。ただしその目的地についたらちゃんと全部説明してもらいますよ」
「おお! ありがとう! この恩義は忘れないぞ!」

 また自分で面倒事に首を突っ込んでしまった事は自覚しつつ、それでもオレは嬉しげに笑った彼女の顔を見て心が安らいではいた。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...