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第15章 とある御家騒動の話
第556話 大司祭の申し出とは
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もちろんオレがミリンサを守って、ドズ・カムまで連れてきた事を間違っていたとは思わない。
あの場で理不尽に追い立てられている彼女を見捨てるという選択肢などオレには無かったのだ。
しかし結果的にそれがこの町の領主選びの問題をややこしくしてしまった事は否めない。
そしてドロムはオレに対して問いかけてくる。
「ところでアルタシャ様はいったい誰が領主になる事を望んでおられるのでしょうか? 出来ればお教え下さい」
オレはそもそも領主候補者について、ミリンサの幼なじみというアラズバン以外は名前すら知らないのだ。
当然、誰が領主になろうが知ったこっちゃ無い。
流血の事態にさえならなければそれでいいだけだ。
しかし現状ではミリンサの票が領主を決める状況にあって、どう見てもオレがその後ろ盾になってしまっている。
この状況が偶然だと言い張っても、他人にはあまりにも無理がある話なのはオレだって分かっているつもりだ。
オマケにこの帝国においてオレは皇帝と昵懇どころか、皇帝を尻に敷いているかのような扱いをされているわけで、当然ながらオレの発言が皇帝の意向として受け止められる危険性が高い。
何を言っても、深読みされてしまうのは確実だろう。しかしオレはどのみちすぐにこの町を出て行くのだから、全て正直に答えるしかないのだ。
「わたしはこの町の住民でもなく、すぐにいなくなる身です。領主がどなたになるかを決めるのは町の皆さんであって、その結果を尊重するだけですよ」
「そうですか……いえ。確かにお言葉の通りですが……」
ドロムの言葉の節々には『そんな綺麗事を聞きたいわけではない』と言わんばかりの様子がうかがえるな。
「本当ですよ。先ほど申し上げた通り、この町の領主選びについてはミリンサさんから聞くまで本当に何も知らなかったのですから」
そしてここでミリンサも合いの手を入れてくる。
「先ほども申し上げましたが、アルタシャ様はあくまでも私の身を案じて同行して下さっただけです。この町の領主選びについても私がお教えした事以外は殆どご存じなかったのですよ」
「それでは本当に……無関係と仰るのですか? 皇帝陛下の御意思も関係は無いと?」
「正直に言いますけど、皇帝陛下もわたしもこの町の領主選びについては大して関心はありません。繰り返しますが混乱が起きず、平穏無事に終わればいいだけなのです」
オレが真剣に見つめると、ドロムは小さくため息をつく。
「どうやらあなた様は本当にお噂の通り、富貴にも権力にも興味など持たぬお方なのですね……」
「分かっていただければいいのです」
「それではこれからすぐにこの町をお立ちになるおつもりなのですか?」
「もちろんですよ」
オレの事を誰も知らないのなら、しばらくこの町に滞在して領主選びの選挙がどうなるか見届けるのもいいが、あらぬ疑惑をかき立てるとなればすぐにいなくなった方がいいだろう。
しかしここで大司祭は思わぬ事を口にする。
「申し訳ありませんが……ご迷惑で無ければ、領主選びが終わるまでアルタシャ様はこの町に滞在していただけないでしょうか?」
「それはなぜですか?」
ついさっきまでドロムはオレをどうも『厄介事を持ち込んだ』とみていた様子がうかがえたのだが、どういうつもりでそんな事を言ってくるのだろうか。
「実のところ領主選びがこのまま行われた場合、何が起きるのか不安があります。一部の跳ね返りが厄介事を起こしかねないと危惧しているのです」
元の世界でも国によっては選挙に負けた側が、それを不満として暴力に訴えたという話は聞いた事がある。
立候補者が八人もいれば、当然ながら利害が深刻に対立していたり、感情的に険悪だったりする関係の相手もいるだろう。
そんな相手が領主になるぐらいならば、実力に訴えてひっくり返そうとする事は十分にありうる。
もちろん本来ならば『投票で決まった事だから』という大義名分が新しい領主の権威付けとなり、そういう暴力を抑える事になる。
そしてこの町では女性の投票で横暴な領主は解任出来るルールだから、投票結果を覆して無理矢理に領主となっても意味が無い。
どんな勢力であろうとも住民から正当性を認められていない人間を領主に掲げるなど、愚行でしか無い事は分かっているはずだ。
だが困った事に今回は投票出来る人間が圧倒的に少ない。
ひょっとすると女性達の多くも『自分が投票出来ずに選ばれた領主』を積極的に支えようとはしない可能性があるのだ。
大司祭のドロムがそこを危惧するのは当然だろう。
「お願いです。新しい領主が決まるまで結構ですので、この町に留まっていただけないでしょうか? もちろんその間のお世話は私どもがさせていただきます。高名なあなた様がおられるとなれば、跳ね返り共も愚かな行動に出る事をきっと躊躇するでしょう」
たぶんドロムだけでなく、この町の住民達は、オレの背後に皇帝の威光を見ていて――もちろん不本意だけど――それが暴力を抑止する事を期待しているだな。
オレとしては誰がドズ・カムの領主になろうと興味は無いが、それが流血の惨事を招く事だけは避けたい。
ここに留まる事で別の面倒が起こる危険性もあるが、乗りかかった船でもあるからには最後まで見届けるべきだろう。
あの場で理不尽に追い立てられている彼女を見捨てるという選択肢などオレには無かったのだ。
しかし結果的にそれがこの町の領主選びの問題をややこしくしてしまった事は否めない。
そしてドロムはオレに対して問いかけてくる。
「ところでアルタシャ様はいったい誰が領主になる事を望んでおられるのでしょうか? 出来ればお教え下さい」
オレはそもそも領主候補者について、ミリンサの幼なじみというアラズバン以外は名前すら知らないのだ。
当然、誰が領主になろうが知ったこっちゃ無い。
流血の事態にさえならなければそれでいいだけだ。
しかし現状ではミリンサの票が領主を決める状況にあって、どう見てもオレがその後ろ盾になってしまっている。
この状況が偶然だと言い張っても、他人にはあまりにも無理がある話なのはオレだって分かっているつもりだ。
オマケにこの帝国においてオレは皇帝と昵懇どころか、皇帝を尻に敷いているかのような扱いをされているわけで、当然ながらオレの発言が皇帝の意向として受け止められる危険性が高い。
何を言っても、深読みされてしまうのは確実だろう。しかしオレはどのみちすぐにこの町を出て行くのだから、全て正直に答えるしかないのだ。
「わたしはこの町の住民でもなく、すぐにいなくなる身です。領主がどなたになるかを決めるのは町の皆さんであって、その結果を尊重するだけですよ」
「そうですか……いえ。確かにお言葉の通りですが……」
ドロムの言葉の節々には『そんな綺麗事を聞きたいわけではない』と言わんばかりの様子がうかがえるな。
「本当ですよ。先ほど申し上げた通り、この町の領主選びについてはミリンサさんから聞くまで本当に何も知らなかったのですから」
そしてここでミリンサも合いの手を入れてくる。
「先ほども申し上げましたが、アルタシャ様はあくまでも私の身を案じて同行して下さっただけです。この町の領主選びについても私がお教えした事以外は殆どご存じなかったのですよ」
「それでは本当に……無関係と仰るのですか? 皇帝陛下の御意思も関係は無いと?」
「正直に言いますけど、皇帝陛下もわたしもこの町の領主選びについては大して関心はありません。繰り返しますが混乱が起きず、平穏無事に終わればいいだけなのです」
オレが真剣に見つめると、ドロムは小さくため息をつく。
「どうやらあなた様は本当にお噂の通り、富貴にも権力にも興味など持たぬお方なのですね……」
「分かっていただければいいのです」
「それではこれからすぐにこの町をお立ちになるおつもりなのですか?」
「もちろんですよ」
オレの事を誰も知らないのなら、しばらくこの町に滞在して領主選びの選挙がどうなるか見届けるのもいいが、あらぬ疑惑をかき立てるとなればすぐにいなくなった方がいいだろう。
しかしここで大司祭は思わぬ事を口にする。
「申し訳ありませんが……ご迷惑で無ければ、領主選びが終わるまでアルタシャ様はこの町に滞在していただけないでしょうか?」
「それはなぜですか?」
ついさっきまでドロムはオレをどうも『厄介事を持ち込んだ』とみていた様子がうかがえたのだが、どういうつもりでそんな事を言ってくるのだろうか。
「実のところ領主選びがこのまま行われた場合、何が起きるのか不安があります。一部の跳ね返りが厄介事を起こしかねないと危惧しているのです」
元の世界でも国によっては選挙に負けた側が、それを不満として暴力に訴えたという話は聞いた事がある。
立候補者が八人もいれば、当然ながら利害が深刻に対立していたり、感情的に険悪だったりする関係の相手もいるだろう。
そんな相手が領主になるぐらいならば、実力に訴えてひっくり返そうとする事は十分にありうる。
もちろん本来ならば『投票で決まった事だから』という大義名分が新しい領主の権威付けとなり、そういう暴力を抑える事になる。
そしてこの町では女性の投票で横暴な領主は解任出来るルールだから、投票結果を覆して無理矢理に領主となっても意味が無い。
どんな勢力であろうとも住民から正当性を認められていない人間を領主に掲げるなど、愚行でしか無い事は分かっているはずだ。
だが困った事に今回は投票出来る人間が圧倒的に少ない。
ひょっとすると女性達の多くも『自分が投票出来ずに選ばれた領主』を積極的に支えようとはしない可能性があるのだ。
大司祭のドロムがそこを危惧するのは当然だろう。
「お願いです。新しい領主が決まるまで結構ですので、この町に留まっていただけないでしょうか? もちろんその間のお世話は私どもがさせていただきます。高名なあなた様がおられるとなれば、跳ね返り共も愚かな行動に出る事をきっと躊躇するでしょう」
たぶんドロムだけでなく、この町の住民達は、オレの背後に皇帝の威光を見ていて――もちろん不本意だけど――それが暴力を抑止する事を期待しているだな。
オレとしては誰がドズ・カムの領主になろうと興味は無いが、それが流血の惨事を招く事だけは避けたい。
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