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第15章 とある御家騒動の話
第555話 明かされた真相とそして……
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考えてみるとオレがミリンサと同行して来たのは、いろいろと不可解な点があったのでそれを知りたいという事でもあったな。
かなり本末転倒な話の気もするが、好奇心で首を突っ込むのもオレの性分なんだから仕方ない。
「あと領主選びにはドズ・カム市民の成人女性が投票すると聞いています」
「仰る通り投票出来るものの基準はその通りなのですが、その中で投票を認められないものがいるのです」
「それは犯罪者や追放者とその親族などですか?」
当人はともかくその親族もダメというのは、二一世紀の感覚では受け入れ難いけど、こっちの世界の基準では仕方のない事なのだろう。
しかしそれでもミリンサの一票が領主の座を左右する程にはならないはずだ。
「もちろんそれもあります。しかしそれとは別に『領主候補者に近しい女』は投票が認められないのです」
「つまり領主候補の家族……たとえば奥さんや娘、母親は投票出来ないということでしょうか?」
「そのあたりは当然ですが、領主候補が三代に渡って市民である必要があるように、三代遡って領主候補者と血縁関係の無い女しか投票出来ません。それは直接の血縁だけでなく、結婚などで縁戚になった場合も含まれます」
そこまで来るとオレにもミリンサの票がどういう意味を持つのか、見当はついてくる。
「ひょっとして領主候補者が大勢出たので、殆どの女性が投票出来なくなってしまったのですか?」
「ええ……今回の領主選挙で投票出来るものは、このミリンサを含めて十七人しかいないのです」
え? いくら何でもそれは少なすぎない?
「市民の女性は数百人いるのに、投票出来るのはそれだけなのですか?」
「はい。間違いありません。我らの方でも何度も調査・確認したのです。もちろん過去にも投票者が少ない事はしばしばありましたが、ここまで減るのはこの町が始まって以来の事なのですよ」
本当に困ったと言わんばかりにドロムはこぼす。
そしてオレがついつい視線をミリンサに向けると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「大司祭様の仰る通りです……この件は決して誰にも口外してはならないと言われていましたので……」
そういうことか! 彼女の実家は領主とは殆ど関わりが無いと言っていたが、それこそが今回の領主選びにとって重要な要素だったのだな。
候補者が八人で投票出来るのが十七人ではそりゃミリンサ一人の票を巡って目の色を変えるのは当たり前だ。実家が彼女の票を立候補者達に売り込むのも何ら不思議では無い。
そして領主の地位がかかっているわけだから、彼女を捕まえるために金や人手をつぎ込んでいたのだな。
そしてミリンサの立場がそういう微妙で重要なものだったとしたら、部外者が聞いた時によからぬ事を考える可能性は否定出来ない。
彼女を捕まえて身代金を要求するとか、その手の可能性を考えれば『詳しい事情は戻ってくるまで決して口外するな』と家族が釘を刺すのはむしろ当然と言うものだ。
代々伝えられてきたルールが今回は予想外の人数が立候補した事で、余計な混乱を招いているということか。
まあルールそのものが破綻してしまっていた、先日の遊牧民の族長選びに比べればずっとマシではあるが、それでも厄介な事に変わりは無い。
「投票出来る者の数が少ないものですから、それぞれの候補者の一門が自分達に近しい投票者を抱え込んでしまって、投票まで屋敷に隔離して外に出られないようにしています」
「それはいくら何でも問題なのではないですか?」
「もちろん家族からの苦情も出ています……しかしいずれの候補者も『彼女達は自分の意志で屋敷にいる。丁重に接しているので心配は無い』と繰り返すばかりです。そして何より彼女達を解放して自由にすればいいのかと言えば…………お察し下さい」
なるほどな。ミリンサ一人でも人手を繰り出すだけで無く、魔法使いまで送り込んでいたからな。
下手をすれば町中で流血の惨事になりかねない。
しかもそれで全部の候補者が抱え込んでいる女性を解放するとも限らないので、下手をすれば解放した候補者だけが自分の票を切り崩されて損をしかねないわけで、そのためにどの勢力も隔離している女性を手放さないのだろう。
「ひょっとすると各勢力が抱え込んでいる女性の数は同じなのですか?」
「ええ……何とも困った事にそれぞれ二人ずつなのですよ」
本当にミリンサ一人の票で領主が決まる状況なのか!
しかもそれぞれ屋敷に囲っていて、他人の票の切り崩しも望めないわけだ。
もちろんミリンサが領主選びに大きな影響はあるとは思っていたが、ここまで重要な存在だったとはさすがに想像もしていなかったよ。
「まさか……そこまでだったとは……すみません。私も知りませんでした……」
ミリンサもどうやらここまで自分が重要、かつ危ない立場にあるとは思っていなかったらしい。
まあひょっとするとそれぞれの立候補者同士で話し合い――というよりは裏取引――をして票を譲る代わりに利権の確保を目論むところもあるだろう。
しかしそれもミリンサの票がどこにいくのか、それがハッキリしてからになるので動くに動けないのかもしれないな。
「そして失礼ながら、アルタシャ様がミリンサを連れてお越しになられた事で、この私を含めて町の将来について皆が新たな不安を感じているのです……」
ここでドロムはオレに対して少しばかり恨めしそうな視線を注ぐ。
そうか。ただでさえ危うい均衡にあったところで、しかもそこで最後の一票であるミリンサをよりによって『皇帝と昵懇な関係』とされているオレが連れてきたのは、誰もが深読みするには十分過ぎる要素だよな。
てっきりミリンサをこのドズ・カムの町に連れてくればそれで全部解決で、後の事は町の人の投票で穏便に済むかと思っていたけど、まさかオレのその行為そのものが問題をややこしくするものだったとは、まるで想像もしていなかったよ。
かなり本末転倒な話の気もするが、好奇心で首を突っ込むのもオレの性分なんだから仕方ない。
「あと領主選びにはドズ・カム市民の成人女性が投票すると聞いています」
「仰る通り投票出来るものの基準はその通りなのですが、その中で投票を認められないものがいるのです」
「それは犯罪者や追放者とその親族などですか?」
当人はともかくその親族もダメというのは、二一世紀の感覚では受け入れ難いけど、こっちの世界の基準では仕方のない事なのだろう。
しかしそれでもミリンサの一票が領主の座を左右する程にはならないはずだ。
「もちろんそれもあります。しかしそれとは別に『領主候補者に近しい女』は投票が認められないのです」
「つまり領主候補の家族……たとえば奥さんや娘、母親は投票出来ないということでしょうか?」
「そのあたりは当然ですが、領主候補が三代に渡って市民である必要があるように、三代遡って領主候補者と血縁関係の無い女しか投票出来ません。それは直接の血縁だけでなく、結婚などで縁戚になった場合も含まれます」
そこまで来るとオレにもミリンサの票がどういう意味を持つのか、見当はついてくる。
「ひょっとして領主候補者が大勢出たので、殆どの女性が投票出来なくなってしまったのですか?」
「ええ……今回の領主選挙で投票出来るものは、このミリンサを含めて十七人しかいないのです」
え? いくら何でもそれは少なすぎない?
「市民の女性は数百人いるのに、投票出来るのはそれだけなのですか?」
「はい。間違いありません。我らの方でも何度も調査・確認したのです。もちろん過去にも投票者が少ない事はしばしばありましたが、ここまで減るのはこの町が始まって以来の事なのですよ」
本当に困ったと言わんばかりにドロムはこぼす。
そしてオレがついつい視線をミリンサに向けると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「大司祭様の仰る通りです……この件は決して誰にも口外してはならないと言われていましたので……」
そういうことか! 彼女の実家は領主とは殆ど関わりが無いと言っていたが、それこそが今回の領主選びにとって重要な要素だったのだな。
候補者が八人で投票出来るのが十七人ではそりゃミリンサ一人の票を巡って目の色を変えるのは当たり前だ。実家が彼女の票を立候補者達に売り込むのも何ら不思議では無い。
そして領主の地位がかかっているわけだから、彼女を捕まえるために金や人手をつぎ込んでいたのだな。
そしてミリンサの立場がそういう微妙で重要なものだったとしたら、部外者が聞いた時によからぬ事を考える可能性は否定出来ない。
彼女を捕まえて身代金を要求するとか、その手の可能性を考えれば『詳しい事情は戻ってくるまで決して口外するな』と家族が釘を刺すのはむしろ当然と言うものだ。
代々伝えられてきたルールが今回は予想外の人数が立候補した事で、余計な混乱を招いているということか。
まあルールそのものが破綻してしまっていた、先日の遊牧民の族長選びに比べればずっとマシではあるが、それでも厄介な事に変わりは無い。
「投票出来る者の数が少ないものですから、それぞれの候補者の一門が自分達に近しい投票者を抱え込んでしまって、投票まで屋敷に隔離して外に出られないようにしています」
「それはいくら何でも問題なのではないですか?」
「もちろん家族からの苦情も出ています……しかしいずれの候補者も『彼女達は自分の意志で屋敷にいる。丁重に接しているので心配は無い』と繰り返すばかりです。そして何より彼女達を解放して自由にすればいいのかと言えば…………お察し下さい」
なるほどな。ミリンサ一人でも人手を繰り出すだけで無く、魔法使いまで送り込んでいたからな。
下手をすれば町中で流血の惨事になりかねない。
しかもそれで全部の候補者が抱え込んでいる女性を解放するとも限らないので、下手をすれば解放した候補者だけが自分の票を切り崩されて損をしかねないわけで、そのためにどの勢力も隔離している女性を手放さないのだろう。
「ひょっとすると各勢力が抱え込んでいる女性の数は同じなのですか?」
「ええ……何とも困った事にそれぞれ二人ずつなのですよ」
本当にミリンサ一人の票で領主が決まる状況なのか!
しかもそれぞれ屋敷に囲っていて、他人の票の切り崩しも望めないわけだ。
もちろんミリンサが領主選びに大きな影響はあるとは思っていたが、ここまで重要な存在だったとはさすがに想像もしていなかったよ。
「まさか……そこまでだったとは……すみません。私も知りませんでした……」
ミリンサもどうやらここまで自分が重要、かつ危ない立場にあるとは思っていなかったらしい。
まあひょっとするとそれぞれの立候補者同士で話し合い――というよりは裏取引――をして票を譲る代わりに利権の確保を目論むところもあるだろう。
しかしそれもミリンサの票がどこにいくのか、それがハッキリしてからになるので動くに動けないのかもしれないな。
「そして失礼ながら、アルタシャ様がミリンサを連れてお越しになられた事で、この私を含めて町の将来について皆が新たな不安を感じているのです……」
ここでドロムはオレに対して少しばかり恨めしそうな視線を注ぐ。
そうか。ただでさえ危うい均衡にあったところで、しかもそこで最後の一票であるミリンサをよりによって『皇帝と昵懇な関係』とされているオレが連れてきたのは、誰もが深読みするには十分過ぎる要素だよな。
てっきりミリンサをこのドズ・カムの町に連れてくればそれで全部解決で、後の事は町の人の投票で穏便に済むかと思っていたけど、まさかオレのその行為そのものが問題をややこしくするものだったとは、まるで想像もしていなかったよ。
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