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第16章 破滅の聖者
第595話 助けと新たな出会いと
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身体のあちこちに激痛が走っているが、腕をつかまれ地面に叩きつけられた時にいろいろと深刻なダメージを受けたらしい。
このままでは今この場でゾンビに達に八つ裂きにされるか、良くても捕まって縛り上げられ連行され『虚ろなる者』の生け贄だろう。
しかしゾンビの怪力で地面に叩きつけられたオレは、魔法で自己回復力を強化していると言っても、動けるようになるまでまだしばらくかかるのは間違い無い。
意識が飛ばなかっただけマシと思うしかない状態だ。
この危機を乗り切るには、もうイロールの化身になるしかないな。
まさに『困った時の神頼み』だけど、命がかかっているのだから勘弁してもらいたい。
幾つもの血の気の通わない視線を受けつつ、オレはかの女神に呼びかけようとするが、その瞬間に思わぬ事が起きる。
オレの身を引き裂かんと伸びてくる手が動きを止めたのだ。
一斉に制止する有様はまるで時間が止まったかのような光景だった。
え? どういうこと?
ス○ー・プラ○ナのごとくオレは絶体絶命の危機にあって、秘められた能力を引き出して時間を止めた――なんて都合のいい事があるはずがない。
ゾンビ共の動きが止まったのは文字通り一瞬だった。
それからどういうわけか、まるで潮が引くかのように連中は引き下がる。
いったい何か起きたんだ?
見た限りではアンデッドの動きは何を恐れたかのように感じられた。
しかしそれはあり得ない。
奴らに僅かながら人間性は残っていたのは確かだけど、それが行動を左右するものではなかったし、何より一斉に逃げ出す動きをするのはどう考えておかしい。
そうすると今のはあいつらの命令者――つまり『虚ろなる者』の信徒――が何かしたと考えるのが自然だ。
いや。仮に『虚ろなる者』に何らかの意図があったとしても、そんな事を斟酌するよりも自分の身体を回復するのが先だ。
そんなわけでオレは痛む身体を何とか動かそうとするが、そこですぐ近くに誰かが立っているのに気がついた。
まさか先ほど奴らがまるで恐れるかのような動きを見せたのは、この相手の仕業なのか?
オレがどうにかそちらを見た時、そこには逆光の中にスラリとした少年が立っていた。
それは以前にウルハンガが『光の中から顕れた』と思えた時とどこか似ているようだけど、それでいて『闇を背負った』かのごとく正反対のようにも思える登場だった。
ぱっと見た限りでは、相手は十代後半で黒髪の少年だった。
そして少年は安堵の笑顔を浮かべつつ、オレに話しかけてくる。
「ご無事ですか? さぞかし大変でしたでしょう?」
「あなたはいったい?」
相手の言葉に対して、これがズレた反応だとは分かっていたがそれでも問わずにはいられなかったのだ。
その少年はオレが今まで出会って来た幾柱もの神々のいずれと比べても、オレの心に突き刺さるような存在感があった。
それでいて相手は『神の化身』ではなく、紛れもないこの世の存在である事はオレの『霊視』の魔法で察知する事が出来た。
まさか?
ひょっとしたらこの少年が、この近辺の村々で聞いていた『お方』なのだろうか。
だがオレ自身でも少々信じがたいことではあったけど、相手の放つオーラというか、威光というか、そういうものに対しどうしてよいのか分からず呆然となっていたのだ。
これまで幾度も神様やその化身、ドラゴン、怪物などなどいろいろな相手と出会ってきたけど、その中でもこの少年はどこか異質な存在のように思える。
だけどいったい何が変わっていて、どこが特別なのか、と問われてもにわかには言葉にするのは難しい。
その身に宿している魔力にしても、過去に出会った連中と比べて目を見張るほどのものではなく、外見も美形とは言っていいのだけどイケメン系の神様と比較すればとてつもなく凄いというわけでもない。
しかしそんな『この世を超越した人間以上』の存在と同列に考えてしまうような何かが、この相手にはあったのだ。
そして少年は倒れたオレに向けて、その手をさしのべてくる。
「私の名はメトゥサイラと言います。どうぞよろしく」
「わたしは……」
ここは正直と言うにはどうかと思うが『アルタシャ』と答えるべきだろうか。
それとも誤魔化すべきか、少しばかり躊躇する。
しかしそこでメトゥサイラと名乗った少年は柔らかい口調で問いかけてくる。
「あなたは名高き女英雄の『アルタシャ』ですよね?」
「え……なぜあなたがそれを?」
いや。まあオレの顔を直接見た事のある人間は大勢いるし、メトゥサイラが知っていたとしても特に不思議では無い。
ただ彼の態度は実に落ち着いたもので、その言葉には特に気負いも感じられなければ、敵視や警戒といった様子もない。
つまりメトゥサイラがオレのような相手と顔を合わせるのが当たり前であるかのように思える態度だった。
そしてここでメトゥサイラは何かに気付いたらしい様子で、その顔を背ける。
「おっとこれは失礼。ひょっとするとあなたは今のお姿を他人には見せたくはなかったのでしょうか」
言われてみると今のオレは地面に叩きつけられた結果として、はた目にはかなり無様な姿になっているんだな。
もちろんついさっき命の危機に直面していたのに、いちいち身だしなみなど心配などしていられない。
だけど改めて目の前の相手に指摘されると、確かに恥ずかしい気がしてくるのはオレの意識がやっぱり女性に傾いてしまっているからなのか。
いや。待て。今はそんな事を考えている場合では無い。
もっと確認すべき事があるだろう。
「先ほどのアンデッド達が下がっていったのは、あなたが何かをしたからなのですか?」
オレの問いかけを受けて、メトゥサイラは少しばかりイタズラっぽいどこか引っかかるような笑みを浮かべていた。
このままでは今この場でゾンビに達に八つ裂きにされるか、良くても捕まって縛り上げられ連行され『虚ろなる者』の生け贄だろう。
しかしゾンビの怪力で地面に叩きつけられたオレは、魔法で自己回復力を強化していると言っても、動けるようになるまでまだしばらくかかるのは間違い無い。
意識が飛ばなかっただけマシと思うしかない状態だ。
この危機を乗り切るには、もうイロールの化身になるしかないな。
まさに『困った時の神頼み』だけど、命がかかっているのだから勘弁してもらいたい。
幾つもの血の気の通わない視線を受けつつ、オレはかの女神に呼びかけようとするが、その瞬間に思わぬ事が起きる。
オレの身を引き裂かんと伸びてくる手が動きを止めたのだ。
一斉に制止する有様はまるで時間が止まったかのような光景だった。
え? どういうこと?
ス○ー・プラ○ナのごとくオレは絶体絶命の危機にあって、秘められた能力を引き出して時間を止めた――なんて都合のいい事があるはずがない。
ゾンビ共の動きが止まったのは文字通り一瞬だった。
それからどういうわけか、まるで潮が引くかのように連中は引き下がる。
いったい何か起きたんだ?
見た限りではアンデッドの動きは何を恐れたかのように感じられた。
しかしそれはあり得ない。
奴らに僅かながら人間性は残っていたのは確かだけど、それが行動を左右するものではなかったし、何より一斉に逃げ出す動きをするのはどう考えておかしい。
そうすると今のはあいつらの命令者――つまり『虚ろなる者』の信徒――が何かしたと考えるのが自然だ。
いや。仮に『虚ろなる者』に何らかの意図があったとしても、そんな事を斟酌するよりも自分の身体を回復するのが先だ。
そんなわけでオレは痛む身体を何とか動かそうとするが、そこですぐ近くに誰かが立っているのに気がついた。
まさか先ほど奴らがまるで恐れるかのような動きを見せたのは、この相手の仕業なのか?
オレがどうにかそちらを見た時、そこには逆光の中にスラリとした少年が立っていた。
それは以前にウルハンガが『光の中から顕れた』と思えた時とどこか似ているようだけど、それでいて『闇を背負った』かのごとく正反対のようにも思える登場だった。
ぱっと見た限りでは、相手は十代後半で黒髪の少年だった。
そして少年は安堵の笑顔を浮かべつつ、オレに話しかけてくる。
「ご無事ですか? さぞかし大変でしたでしょう?」
「あなたはいったい?」
相手の言葉に対して、これがズレた反応だとは分かっていたがそれでも問わずにはいられなかったのだ。
その少年はオレが今まで出会って来た幾柱もの神々のいずれと比べても、オレの心に突き刺さるような存在感があった。
それでいて相手は『神の化身』ではなく、紛れもないこの世の存在である事はオレの『霊視』の魔法で察知する事が出来た。
まさか?
ひょっとしたらこの少年が、この近辺の村々で聞いていた『お方』なのだろうか。
だがオレ自身でも少々信じがたいことではあったけど、相手の放つオーラというか、威光というか、そういうものに対しどうしてよいのか分からず呆然となっていたのだ。
これまで幾度も神様やその化身、ドラゴン、怪物などなどいろいろな相手と出会ってきたけど、その中でもこの少年はどこか異質な存在のように思える。
だけどいったい何が変わっていて、どこが特別なのか、と問われてもにわかには言葉にするのは難しい。
その身に宿している魔力にしても、過去に出会った連中と比べて目を見張るほどのものではなく、外見も美形とは言っていいのだけどイケメン系の神様と比較すればとてつもなく凄いというわけでもない。
しかしそんな『この世を超越した人間以上』の存在と同列に考えてしまうような何かが、この相手にはあったのだ。
そして少年は倒れたオレに向けて、その手をさしのべてくる。
「私の名はメトゥサイラと言います。どうぞよろしく」
「わたしは……」
ここは正直と言うにはどうかと思うが『アルタシャ』と答えるべきだろうか。
それとも誤魔化すべきか、少しばかり躊躇する。
しかしそこでメトゥサイラと名乗った少年は柔らかい口調で問いかけてくる。
「あなたは名高き女英雄の『アルタシャ』ですよね?」
「え……なぜあなたがそれを?」
いや。まあオレの顔を直接見た事のある人間は大勢いるし、メトゥサイラが知っていたとしても特に不思議では無い。
ただ彼の態度は実に落ち着いたもので、その言葉には特に気負いも感じられなければ、敵視や警戒といった様子もない。
つまりメトゥサイラがオレのような相手と顔を合わせるのが当たり前であるかのように思える態度だった。
そしてここでメトゥサイラは何かに気付いたらしい様子で、その顔を背ける。
「おっとこれは失礼。ひょっとするとあなたは今のお姿を他人には見せたくはなかったのでしょうか」
言われてみると今のオレは地面に叩きつけられた結果として、はた目にはかなり無様な姿になっているんだな。
もちろんついさっき命の危機に直面していたのに、いちいち身だしなみなど心配などしていられない。
だけど改めて目の前の相手に指摘されると、確かに恥ずかしい気がしてくるのはオレの意識がやっぱり女性に傾いてしまっているからなのか。
いや。待て。今はそんな事を考えている場合では無い。
もっと確認すべき事があるだろう。
「先ほどのアンデッド達が下がっていったのは、あなたが何かをしたからなのですか?」
オレの問いかけを受けて、メトゥサイラは少しばかりイタズラっぽいどこか引っかかるような笑みを浮かべていた。
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