異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第16章 破滅の聖者

第597話 メトゥサイラの呼びかけに……

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 メトゥサイラの唱える『世界を救う』という遠大すぎる理想に対し、オレは少しばかり困惑していた。
 しかしこの不可思議な少年の言葉が決して妄想でも無ければ、口からデカマセでもない事をオレは漠然と感じていた、

「あなたの言っている事は一面の真実だとは思いますけど、いくら何でも遠大すぎてわたしにはどうすればいいのか見当もつきません。いったい何をするつもりなのですか?」
「そうかな? 君ほどの存在であれば、簡単に気がつくと思うけどね」

 このメトゥサイラの言葉に、オレはかなり不吉な予感を抱く。
 こういう場合、よくあるパターンだとむしろトンデモナイ展開になるものだ。

「まさかと思いますけど、全ての人間がアンデッドになって、苦痛を感じない世界になればいいとかそんな事を考えていませんか?」

 そうだ。もしもメトゥサイラが『虚ろなる者』の高位の信徒だったりしたら、その理想の世界とはそういうものかもしれない。
 誰も死ぬ事は無く、苦痛を感じない状態になった事で『苦痛は永遠に無くなり、世界は救われた』などというホラー映画のようなオチこそが理想なのかもしれないぞ。
 この世界では自分達の神の唱えることが唯一絶対の真理だと考え、善意で他人に勧めるのは珍しい話ではないから、メトゥサイラもまるで悪意などなく、それどころか純粋に正しい事をしているつもりなのかもしれない。
 しかしメトゥサイラはオレの質問に対して、小さくほほえみつつ肩をすくめる。

「まさか。だいたいアンデッドになって永遠に虚ろな存在を続けるなど、むしろ『永遠の苦痛』というものだろう。それは私の目的にはまるで合致しないよ」

 この言葉からするとメトゥサイラは『虚ろなる者』をむしろ軽蔑しているらしい。
 しかし先ほどのアンデッド達の行動を見る限り、全く無関係とも思えないし、ひょっとしたらオレを騙そうとしているだけなのかもしれない。
 我ながら疑い深くなってしまったものだけど、この時のオレはどちらかと言えばメトゥサイラを信じたい気持ちがあったのも間違いなかった。

「それではあなたは何をするつもりなのですか? それにわたしがどう協力出来るのでしょうか?」
「いくら何でもこんなところでは詳しい話は難しいよ。だから一緒に来て欲しいのさ」

 確かにオレは自分の傷を治したとは言え、先ほどのアンデッドを送り込んで来た連中がまた新手を繰り出してくるかもしれない。
 ジックリ話をするためには、メトゥサイラと共にこの場を早々に離れるべきかもしれない。
 しかしこの少年の言葉通りにするべきだろうか?
 それは正直に言えばわからない。

 何しろ『苦痛に満ちた世界を救う』なんて話が大きすぎる。
 メトゥサイラがそんな遠大な理想をネタにして、他人を騙し利益を得ようとしている詐欺師ならまだいい。
 少なくともこの少年はそんな矮小な俗物ではなく、その口にしている理想と同じく途方もない事を考えているようにしか思えなかった。

「さあ早く行こう。このままではまた危険があるのは、君も分かっているはずだ」

 メトゥサイラは手をさしのべつつ改めて呼びかけてくる。
 そしてオレはなし崩しに手を伸ばしかけたが、ここでメトゥサイラの方が手を引っ込める。

「おや。残念だがここまでのようだ」
「え?」

 少年の視線の先を見ると、幾人もの人影が動いていた。
 最初は新手のアンデッドかと、一瞬ヒヤリとしたがその機敏な動きは明らかに違う。
 少なくとも生きている人間――しかもその動きを見ると、この前に見かけた民兵達ではなく、訓練を受けた本職の兵士らしい。

「今日のところはここまでにしておくよ。それではまた会いましょう」
「ちょ、ちょっと待って――」

 オレが制止しようとしたところで、いつの間にかメトゥサイラの姿はかき消すようになくなっていた。
 このあたりも以前に出会ったウルハンガにどことなく近い感じがするな。
 それはともかくメトゥサイラが去ったは、ただ単に兵士達と戦うつもりがなかっただけで、もしも本気でやり合ったら一人だけでも、蹴散らす事が出来たのでは無いか、オレにはそんな風に感じられた。
 いや。ひょっとしたらオレの意志など無視して力ずくでも連れ去る事も出来たのに、敢えてこちらの意志を重視したのかもしれないな。

 だが間違い無く、メトゥサイラはまたオレの前に姿を見せるだろう。
 詳しい事はそのときに聞けばいい。それは理屈で分かっているけど、どういうわけかオレは置いていかれたかのような寂寥感を抱いていた。
 そして今度、オレは目の前に迫ってきていた兵士達に相対する事となる。

「役儀によって正すがそなたは何者だ?」

 相手はあからさまに武器を向けはしないが、警戒のこもった声を発してくる。
 さてどうするか。
 普通に考えると兵士達は、この一帯で活動している病の精霊や『虚ろなる者』の信徒達を討伐するのが目的で行動していると見るのが自然だろう。
 そうすると是非とも協力したいところなのだが、オレの事を知られたらいろいろと面倒な事になるのも避けられない。
 疫病対策で聖女が同行しているのは当然考えられるし、何より先ほどのようにオレの素顔を直接見た事のある相手もいるかもしれないのだ。
 まあいい。もしも厄介な事になりかけたら、無責任ではあるがとっとと逃げさせてもらうとしよう。
 そう思ってオレは兵士に向けて歩むが、その見通しがやっぱり甘かった事に気付くのはすぐだった。
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