622 / 1,316
第16章 破滅の聖者
第622話 誤れる信仰と正しい信仰と
しおりを挟む
彼らはザスターニックの信徒でありながら、メトゥサイラの導きで『正しい信仰に至った』とは、いったいどういう意味なのだろうか?
この発言からして、少なくとも彼らは以前に話を聞いた剣神ザスターニックとは異なる教義を有しているのは間違いないらしい。
ここは少々、危険が伴うかもしれないがその中身を尋ねて見るべきだろう。
ただし面倒な事ではあるが、彼らが本当にメトゥサイラの導きを受けたとしても、その中身が額面通りとは限らない。
以前に出逢った『物事は相対的に考えるべき』という思想の神だったウルハンガの場合は『正義は人の数だけある』との教えを有していたが、それを上っ面だけ聞いた結果、短絡的に『悪行も認められる』と歪んだ受け止め方をする連中が大勢いた。
しかもウルハンガ自身はあくまでも思想が顕現した存在にすぎなかったので、そういう連中に対して頓着していなかったのだ。
このため敵対する勢力からは『狡猾な手口で人間を悪に誘導する邪神』と見なされ、それを聞いてまた『自分たちの悪行を手助けしててくれる神』と思って崇拝するロクでもない人間が出てくるので、実際に邪神という側面も有しているという困ったことにもなっていた。
それと同様に『この世界は苦痛に満ちているからこそ、死後の世界に安寧を求める事なく生きねばならない』と言っていたメトゥサイラの教えを都合よくねじ曲げて、たとえば『生きている間に、悪行でもなんでもやりたい事をやれ』なんて意味に受け止めている人間だっていてもおかしくはない。
しかし連中も警戒している様子だから、ここはオレの方から少しばかり話を振るとしよう。
「すみません。先ほど見かけたのですが、少し離れたところでアンデッドを滅ぼしていたのはあなた方ですか?」
「その通りだ。ザスターニック神は勇気と誇りを重んじる。だからそのような意識など欠片も持たぬアンデッド共を滅ぼすべきと、我らに説いておられるのだ」
そのあたりは神様の性格からすれば当然か。
もっともアンデッドを戦士として使うのは、戦士の教団からすれば商売敵なので、見つけ次第滅せというのが本音でも不思議ではないけどな。
しかしこれはたぶんザスターニックの普通の教義だろう。
先ほどの話からすれば、もっと何か違う点があるはずだ。
ここは警戒を解くためにも、ちょっとばかりおだててみよう。
「それは素晴らしいですね。これからもみなさんは是非ともその神様の尊い教えの通りに、汚らわしいアンデッド共を滅ぼし尽くして下さい」
「言われるまでもないことだ。この苦痛に満ちた世界を救わねばならないのだからな」
むう。ここはやっぱり引っかかるな。
オレが以前に聞いた限りでは、ザスターニックは戦闘での勇猛果敢な戦いを重んじるが、世界を救うなどというご大層な使命を唱えてはいなかった。
「あのう。差し支えなければ、あなた方の神はどのように世界を救うのか教えてくれないでしょうか?」
「そんなものは部外者のお前には関係ないだろう」
「我らは飾りで武器を持っているのでは無いぞ。危ないからとっとと失せろ」
やっぱりどこか警戒している様子がうかがえるな。
ただし敵対してくるわけでもないから、少なくともいきなり無防備の人間を攻撃するような悪行に手を染めているわけではないらしい。
しかしこのままでは話が進まないし、ここはオレもメトゥサイラに関係があることを伝えて話を聞くべきだろう。
「すみません。先ほどあなた方は『メトゥサイラ』とおっしゃっておられましたね?」
「むう!」
「なぜその名を知っている?」
明らかにオレの言葉に緊張が走る。まあメトゥサイラは官憲のお尋ね者でもあったし、大概は『あのお方』と呼ばれていた様子だからな。
名前を知っていたら、敵か味方のどちらかとすれば、やっぱり敵だと考えて身構えるのが先になるのだろう。
オレが『調和』をかけていなかったら、やっぱり切りつけてきたかもしれないな。
「わたしもメトゥサイラと直接会って話を聞いているのですよ」
「本当か?」
「もちろんです。メトゥサイラ本人がおられるなら、すぐにそれが分かるのですけどね」
「そうか。それなら話をしてもよかろう」
オレの態度に相手は少しばかり考え込んだ様子を見せるが、こちらが武器も持たない一人だけであることから、ことさら敵視する必要は無いと思ったのだろう。
リーダーらしい男がオレの前に来て話を始めた。
「今までの信仰はザスターニック神の本当の姿とは異なる誤ったものだったのだ」
この世界では表向き同じ神を崇めていても、時代や場所によって違いはいろいろとあるのでその異なった信仰を『誤り』と断罪する事は何度も見てきた。
しかし今までオレが見てきたのは『自分達の信仰こそが正しく、それ以外は誤り』だとするものだったのだ。
だがどうやら今、オレの目の前にいるのは『自分達のこれまでの信仰は誤っていた』としてかつての教義を断罪しているらしいのだ。
それはオレの経験からすれば、この世界では極めて珍しい筈だが、ひょっとするとそのように導いたのがメトゥサイラなのかもしれない。
もしかするとそれがあの奇妙な少年の有する力の一端なのだろうか?
そしてたぶんそれは彼らの人生を変えるだけでなく、この世界においても少なからぬ影響を与えるものではないかという気がしてきた。
この発言からして、少なくとも彼らは以前に話を聞いた剣神ザスターニックとは異なる教義を有しているのは間違いないらしい。
ここは少々、危険が伴うかもしれないがその中身を尋ねて見るべきだろう。
ただし面倒な事ではあるが、彼らが本当にメトゥサイラの導きを受けたとしても、その中身が額面通りとは限らない。
以前に出逢った『物事は相対的に考えるべき』という思想の神だったウルハンガの場合は『正義は人の数だけある』との教えを有していたが、それを上っ面だけ聞いた結果、短絡的に『悪行も認められる』と歪んだ受け止め方をする連中が大勢いた。
しかもウルハンガ自身はあくまでも思想が顕現した存在にすぎなかったので、そういう連中に対して頓着していなかったのだ。
このため敵対する勢力からは『狡猾な手口で人間を悪に誘導する邪神』と見なされ、それを聞いてまた『自分たちの悪行を手助けしててくれる神』と思って崇拝するロクでもない人間が出てくるので、実際に邪神という側面も有しているという困ったことにもなっていた。
それと同様に『この世界は苦痛に満ちているからこそ、死後の世界に安寧を求める事なく生きねばならない』と言っていたメトゥサイラの教えを都合よくねじ曲げて、たとえば『生きている間に、悪行でもなんでもやりたい事をやれ』なんて意味に受け止めている人間だっていてもおかしくはない。
しかし連中も警戒している様子だから、ここはオレの方から少しばかり話を振るとしよう。
「すみません。先ほど見かけたのですが、少し離れたところでアンデッドを滅ぼしていたのはあなた方ですか?」
「その通りだ。ザスターニック神は勇気と誇りを重んじる。だからそのような意識など欠片も持たぬアンデッド共を滅ぼすべきと、我らに説いておられるのだ」
そのあたりは神様の性格からすれば当然か。
もっともアンデッドを戦士として使うのは、戦士の教団からすれば商売敵なので、見つけ次第滅せというのが本音でも不思議ではないけどな。
しかしこれはたぶんザスターニックの普通の教義だろう。
先ほどの話からすれば、もっと何か違う点があるはずだ。
ここは警戒を解くためにも、ちょっとばかりおだててみよう。
「それは素晴らしいですね。これからもみなさんは是非ともその神様の尊い教えの通りに、汚らわしいアンデッド共を滅ぼし尽くして下さい」
「言われるまでもないことだ。この苦痛に満ちた世界を救わねばならないのだからな」
むう。ここはやっぱり引っかかるな。
オレが以前に聞いた限りでは、ザスターニックは戦闘での勇猛果敢な戦いを重んじるが、世界を救うなどというご大層な使命を唱えてはいなかった。
「あのう。差し支えなければ、あなた方の神はどのように世界を救うのか教えてくれないでしょうか?」
「そんなものは部外者のお前には関係ないだろう」
「我らは飾りで武器を持っているのでは無いぞ。危ないからとっとと失せろ」
やっぱりどこか警戒している様子がうかがえるな。
ただし敵対してくるわけでもないから、少なくともいきなり無防備の人間を攻撃するような悪行に手を染めているわけではないらしい。
しかしこのままでは話が進まないし、ここはオレもメトゥサイラに関係があることを伝えて話を聞くべきだろう。
「すみません。先ほどあなた方は『メトゥサイラ』とおっしゃっておられましたね?」
「むう!」
「なぜその名を知っている?」
明らかにオレの言葉に緊張が走る。まあメトゥサイラは官憲のお尋ね者でもあったし、大概は『あのお方』と呼ばれていた様子だからな。
名前を知っていたら、敵か味方のどちらかとすれば、やっぱり敵だと考えて身構えるのが先になるのだろう。
オレが『調和』をかけていなかったら、やっぱり切りつけてきたかもしれないな。
「わたしもメトゥサイラと直接会って話を聞いているのですよ」
「本当か?」
「もちろんです。メトゥサイラ本人がおられるなら、すぐにそれが分かるのですけどね」
「そうか。それなら話をしてもよかろう」
オレの態度に相手は少しばかり考え込んだ様子を見せるが、こちらが武器も持たない一人だけであることから、ことさら敵視する必要は無いと思ったのだろう。
リーダーらしい男がオレの前に来て話を始めた。
「今までの信仰はザスターニック神の本当の姿とは異なる誤ったものだったのだ」
この世界では表向き同じ神を崇めていても、時代や場所によって違いはいろいろとあるのでその異なった信仰を『誤り』と断罪する事は何度も見てきた。
しかし今までオレが見てきたのは『自分達の信仰こそが正しく、それ以外は誤り』だとするものだったのだ。
だがどうやら今、オレの目の前にいるのは『自分達のこれまでの信仰は誤っていた』としてかつての教義を断罪しているらしいのだ。
それはオレの経験からすれば、この世界では極めて珍しい筈だが、ひょっとするとそのように導いたのがメトゥサイラなのかもしれない。
もしかするとそれがあの奇妙な少年の有する力の一端なのだろうか?
そしてたぶんそれは彼らの人生を変えるだけでなく、この世界においても少なからぬ影響を与えるものではないかという気がしてきた。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる