異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第17章 海と大地の狭間に

第650話 干拓地を歩いていると

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 テマーティン達から別れてから数日後、オレは大陸南部の海岸線にほど近くの街道を移動していた。
 オレの場合は一日で常人の数倍は軽く移動できるし、地形もあんまり関係ないから、魔法で脳内に収容している地図では目的地としていた大陸の東部までもう少しというところだ。
 船に乗ってもいいのだが、その場合は素顔を晒さねばならないだろうからな。
 下手をすると海の上で船員たちに襲われかねないので、一日、二日ぐらいならいいけど、長期の船旅は避けざるを得ない。
 どっちにしろフードで常時顔を隠しているので傍目には怪しい人間なのは確かだ。
 何よりオレの偽者が大陸のあちこちに出没していて、下手に名乗っただけで追われる現状では安心して旅など出来るものではない。
 そんな事を考えていても、何かあったら知らん顔が出来ないのがオレの性分なのだが。
 どうせ見て見ぬ振りができない以上、もう何かあったら突撃あるのみと開き直ってやるしかないな。

 そんなわけでいまオレが通過しているのは、海岸線近くのだだっ広い平野だ。
 本当に平らなのであちこちに村々が点在しているのまでハッキリ分かる。
 よくよく見ると海岸線の近くには巨大な堤防が延々と続いている。
 どうやら堤防で浅瀬を仕切ってそこを干拓しているらしいのだが、見渡す限りの堤防が続いているのだからその規模は相当なものだ。
 これほどの堤防を作るだけでも、もの凄い大事業だったのは間違い無い。
 また今でも干拓は続けられているらしく、あちこちに水が残っている様子も伺える。
 元の世界だと、こういう大規模な干拓は自然破壊だの何だのいろいろと文句が出るものだが、こちらの世界でも海の精霊や神の信徒達の反発があったりして、面倒な対立が巻き起こる事もしばしばだ。
 もっとも文明の名の下に開発を進める側が多くの場合で優勢なのも、世界を問わない現象である。

 まあどっちにしてもオレに何か出来るはずも無く、そのまま進むだけなのだが。
 そんなわけでオレは平野の中にポツンと存在する小さな村に足を踏みいれた。
 村のありようそのものは、この世界における他の村と同じぐらいのものだ。
 だが漂っている空気はちょっとばかり慌ただしい様子が感じられる。
 殺気だっているという程でもないが、何か問題が発生しているらしい。
 そこで村人らしい男がひとりがこちらに近づいてくる。

「お前さんは旅のもんだな?」

 特別警戒している様子ではないし、敵意を示してくるわけでもないので取りあえず適当に応じることにした。

「ええ。ちょっと立ち寄っただけですが、何かあったのでしょうか」
「別に大した事じゃ無いが……お前さん二人組の旅人を見かけなかったかい?」
「二人組というだけでは何とも言えませんけど、どんな人たちなのですか」
「若い男女の二人連れだ。ただ顔は隠しているかもしれないけどな」

 むう。それはちょっと厄介だな。
 もちろんオレは――少なくとも現時点では――全く無関係だけど、それだからといって安心は出来ないのだ。
 男女二人組はいつでも男ひとり、女ひとりに別れられるし、オレもフードを深く被って顔を隠しているからその片割れと勘違いされる危険性があるじゃないか。
 この世界にはもちろん写真など無いので、正確な外見などそうそう分からないから、疑われたら潔白を証明するのはいろいろと面倒臭い事になりそうだ。
 さほど緊迫している様子は無いから、凶悪犯というわけではないようだが、こそ泥の二人組とかそういう類いだろうか。
 それなら一人だけで行動して、様子を伺う事も十分にありそうだな。
 そう思っていると、別の男が近寄ってくる。

「おい。そいつも顔を隠しているじゃないか。確かめたらどうだ?」

 うわあ。やっぱりそうなるか。
 いつものように髪は黒く染めているがオレの場合、外見が目立ち過ぎる上に、否応なく男の感情を刺激するからな。
 お陰でこれまで何度トラブルに直面してきた事か数え切れないよ。
 しかしここで顔を見せるのを拒否したら、余計に面倒な事になるのは必定だ。
 仕方ないのでゆっくりとフードをはずそうと手を伸ばすが、ここで思わぬ声が最初の男から発せられる。

「たぶんそれはないな。あの『お二人』が別行動するとは思えないからな」
「そうなのか……」

 問うてきた男の方は少しばかり不満げな様子だが、初めの男には確信があるようだ。
 助かったと言うべきだろうけど『お二人』と言う事は、結構な地位らしい。少なくともこそ泥コンビとかそういうものでないのは間違い無い。
 あとこの雰囲気からして別行動する事が無いのと同じく、メンツが増える事もあまり考えられていないらしい。

「それで改めて聞くけど、お前さんは今の話の二人を見かけなかったか?」
「いえ。そんな人たちは存じません。ただよろしければその『お二人』について教えて下さいませんか?」
「知らないなら別にいいよ。よそもんが関わるべきこっちゃないからな。ただ若い男女の二人連れということだけ覚えていて、見かけたら近くのもんに教えてくれさえすればいい」

 この発言からしてやはり、早急に探し出さねばならない凶悪犯の類いではないが、それでいてこの地域全体で探している相手でもあるようだ。
 若い男女の二人組で顔を隠していて、住民から『お二人』と呼ばれ、また常に一緒にいるのが間違い無いと思われているとなると一番ありそうなのは――まさか! 貴族の駆け落ちか?!
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