異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
671 / 1,316
第17章 海と大地の狭間に

第671話 純粋培養な司法官様が

しおりを挟む
 何とも面倒な事に四人となってしまったオレ達一行は、それでも一応はこれまで通りに旅を続けていた。

「ところでお前達の目的地はどこなのだ?」

 普通は最初にそこを確認してから同行するもんでしょうが。
 向こう見ずにも程がある――と言いたいが、オレが人の事を言えた義理では全く無いのも分かっている。
 そして当然、この質問があると思っていたオレはちょっとばかり考えていた理由を唱える。
 珍しく事前の準備が図に当たったと考えるべきだろうか。

「実はそちらのエレリアさんは身体が丈夫では無いので、湯治を考えているのです」

 この先にかつて大噴火が引き起こした火山があるなら、温泉もあって不思議では無い。
 この世界では入浴は一般的では無く、風呂と言えば普通は蒸し風呂だけど、それでも湯にゆっくりとつかる例もあるからな。

「ふうむ……そのような事は聞いたことはあるが……」

 ヴェガは頭から否定しているわけでもないようだが、釈然としない様子でもある。
 まあこっちでは観光旅行はもちろん、病気の治療で温泉に入るという意識が無くても不思議では無いが、ここでオレは更にたたみかける。

「もしもヴェガさんがお詳しいのならば、よいところを紹介してもらえないでしょうか?」

 この問いかけに対しヴェガは眉をひそめる。

「確かに幾つか聞き及んではいるが……そのようなところは往々にしてふしだらな行為がまかり通っているのだ」

 ひょっとすると混浴の露天風呂とかあるのか?
 いや。風呂で一汗流した後で、今度は異性と一汗流す場所があってもおかしくはない。
 性的な禁忌が厳しくて抑圧の強そうなヴェガにとって、そういうところは不快感を抱く場所なんだろうなあ。

「しかし……まだマシなところは知っているからそこに案内してやろう」
「ありがとうございます」

 オレが礼を述べたところで、ガレリアは耳打ちしてくる。

「おい。大丈夫なのか?」
「そこで聖地探しの手がかりが得られるかもしれません。ここはひとまず従いましょう」

 温泉が湧くようなところは元の世界でもしばしば聖地として崇拝を集めるところでもあったからな。
 少なくとも双子神の父神である火山の神の聖地であれば、何らかの手がかりが得られるかもしれない。

 しかし幾ら偽装恋人とは言え、ガレリアはいちいちくっつきすぎだ。
 そう思った時に、ヴェガがまた不快そうに声を挙げる。

「おい。いくら恋人同士でも往来でそんなに身を寄せ合うな」
「これはすみません!」

 オレは格好の口実を得て距離を置くと、ガレリアはやっぱり残念そうな顔をする。

「本当に兄妹同士では何も無いとしても、公然とふしだらな行いをするのは問題だぞ」

 ヴェガがオレとガレリアがボソボトと話をしているのを『恋人同士の甘い語らい』と勘違いしてくれているのは、少しだけでもありがたい要素かな。

「あと改めて聞くが、お前達は恋人同士であっても結婚しているわけではないのだな?」
「もちろんですよ」
「ああ。今のところはな――」

 ガレリアの発言にはかなり含みがありそうに聞こえるが、敢えて無視しよう。

「それでは一つ聞くが……その……」

 またしてもヴェガの言葉はどこか歯切れが悪くなってきたな。
 ひょっとすると『駆け落ち』だとでも思っているのだろうか。
 普通に考えて、兄が恋人と駆け落ちしたとして、双子の妹が同行する事は無いだろう。
 そこでヴェガはやたらとぎこちなく問いかけてくる。

「お前達だが……まさか『こんぜんこうしょう』はしていないだろうな?」
「はあ? いま何と言われました?」

 いまいち意味が理解出来ず、オレが改めて問いかけるとヴェガは半ばやけっぱちな様子で叫び出す。

「だ、だから『婚前交渉』をしているのかどうか聞いているんだ!」

 そうか。要するにオレとガレリアがチョメチョメしているのかどうかを聞いているのか。
 しかもそれを口にするだけで『ひとりセクハラ』をしているのかのごとく、恥ずかしがっているのは何とも言いがたい。

「おい。『こんぜんこうしょう』とは一体何の事だ?」

 ガレリアはもちろんエレリアも意味が分からずにキョトンとしている。双子神の教団でそんな言葉を聞いた事が無いのだろう。

「それはだな……」

 ヴェガは説明を始めようとして、やっぱり赤面する。
 本当にこの人は潔癖なんだな。
 いままで性的な面では開放的というかあけすけな相手が多かったから、そういう意味ではむしろ新鮮にすら感じられるな。
 仕方ないのでここはオレの方から助け船を出すとしよう。

「それなら大丈夫です。わたしたちはそんな関係ではありませんから」
「しかし……お前達は人前でせ、せっぷんをするのも恥じない関係なのだろう……」
「違います!」

 これは本当に嘘では無いので敢えて力説する。

「あれはガレリアさんが『恋人だと証明する』ために必要だと思って口にしただけで、普段なら決してそんなことはしませんよ」
「それならばいいのだが……」

 最初に出会った時の凜々しいイメージも殆ど台なしの『純粋培養乙女ぶり』だな。
 しかしこんなことで大丈夫なのか?
 他人事ながら心配になってくるぞ。
 たぶんヴェガはこの若さで司法官になるために脇目もふらずに努力してきたので、そちらの面にはてんで免疫が無いのだろう。
 いままであの手この手で迫ってきた男達には何度も手を焼かされてきたが、面倒という点ではヴェガも大して変わらないのだ。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...