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第17章 海と大地の狭間に
第673話 偏見といろいろ
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ヴェガと出会ってから二日ほど旅を続けると、周囲の景色もそれまでの農地から山地へと変わっていく。
ちなみにガレリアはやっぱりオレに迫ってくるけど、さすがに妹とヴェガの目があると身体を求めてくるとかそこまで出来ないようだ。
油断はならないけど、建前上は相変わらず『恋人』のままなので、邪険にするわけにもいかずいろいろとややこしい。
旅の途中もヴェガは通りすがりの村に目を光らせている。
もちろんそんなにあからさまな犯罪が行われているはずは無いが、それでも細かい事が気になるらしく、ヴェガはすぐに駆け寄っては文句を言っている。しかし――
「うるせえな。よそもんの女はすっこんでいろ」
「女の司法官だと? 賄賂でも配ったのか?」
「どうせ身体を使ったんだろうよ。司法官様も落ちたもんだ」
魔法で知覚を強化しているオレの耳には極めて希だという『女性の司法官』であるヴェガの存在に対する聞くに堪えない陰口が届いてくるのだ。
さすがに武装していて『神の法』を掲げる司法官たるヴェガに対して、正面から逆らう相手はそうそういないが、彼らの不満げな態度は遠目にも明らかだった。
もちろんヴェガだって直接耳にはしていなくとも、自分の周囲を覆う空気を察していない筈が無い。
あと元の世界でも警察官のような公僕は、まずは見た目の第一印象が大事だと言われていた。
普段どれほど仕事を真面目にこなしていても、そんな事は訴えを持ち込んだだけの相手には分からない。
そのため見た目が他の公僕と異なるのなら、ただそれだけで『真面目にこちらの訴えを聞いていないのではないか』という疑惑を抱かれてしまう危険がある。『外見で判断せず中身を見てくれ』などと言っても『そんなもんまでいちいち見ていられるか』という人間が圧倒的多数なのは、オレ自身過去に何度も体験してきたことだ。
そして残念ながらこの地域では女性と言うだけで、司法官としての働きに疑念の目が向けられてしまうのは間違いない。
そんな偏見故に、女性が司法官になるのも、その職務を果たすのも両方ハードルが高くなり、ますます女性が遠のくという状況になっているに違いない。
だからこそヴェガは敢えて意地を張っているのかもしれないが、もう少し力を抜かないとこのままでは いつかパンクしてしまいかねないと心配になってくる。
悲しいかな長年に渡り培われてきたこの手の偏見は、ちょっとやそっとで無くなるようなものではないのだ。
それを考えるとオレとしてもヴェガには頑張って欲しい、という意識もチョッピリ心の片隅にはある。
ただこの地域の治安は決して悪くはないようで、少なくとも旅の間に追い剥ぎの類に出会う事はなかった。
もっともそれで現状が問題ないのなら、やっぱり『異分子』は受け入れがたいわけで、そのあたりがヴェガにとってはマイナスに働いているという皮肉はあるのだろう。
元の世界でも二〇世紀に女性の社会進出が急速に進んだのは、二度の大戦で男手が不足した結果だというけど、それほどの惨事が起きるぐらいなら現状維持の方がまだマシだろう。
そんなこんなで『楽しい旅』ではないにしろ、岩が露出するあたりになってきたところで、ヴェガが先を指し示す。
先には湯気が上がっていてどうやら本当に温泉があるらしい。
「とりあえずあの辺りで熱湯が地面から出ていて、医療目的で訪れる者のために小さな村が出来ているとは聞いている」
ヴェガ本人が実際に訪れたわけではないのは明らかだが、やっぱり温泉療養はそれなりに知られてはいるのは確かだろう。
「ところでその温泉にも守護の精霊はおられるのですか?」
「詳しい事は知らない。だがあちらの火山の神ボルカの子供がいくたりか温泉の精霊として住民達の崇拝を集めている事は知っている」
どうもヴェガの態度は少々つっけんどんだな。ひょっとするとその温泉の精霊が気にくわないのかもしれない。
「ヴェガさんは温泉の精霊がお嫌いなのですか?」
「温泉の精霊の父である火山の神ボルカは太陽のかけらである我がアンティリウス神の兄神であって、太陽とは異なり光を持たぬ火と熱を司っている」
干拓地で聞いたところではそのボルカ神は、海と大地の双子神の父神であり、大地の象徴だったのだけど、こちらではむしろ火と熱の象徴なのか。
たぶん遥か遠くで山を仰ぎ見ている干拓地と、すぐ近くでその発する熱に晒される地元では意識が違うのだろうな。
「だが兄弟でありながら火山の神は法を司るアンティリウスとは大局で秩序とは無縁どころか、むしろそれを乱すわがままな神だ」
そりゃ火山の神なんだから、噴火したら秩序も何もなく何でも残らず破壊してしまうに決まっているよな。
「そして温泉の精霊の多くも父神からその性質を受け継いでいて、ふしだらで気まぐれだと聞いているぞ」
たぶんそれは間欠泉のような人間から見れば、いつ熱湯を吹き出すか分からない危険なものをさすのであって、普通の温泉の精霊だったらそこまでいかないと思うけどな。
いや。精霊だろうと人間だろうと、一つの例があるだけで全部が同じイメージと決めつけられてしまう事は珍しい話ではない。
小さな話ではあるけど、女だからと言うだけで偏見に晒されているヴェガもまた同じような偏見を抱いているのが、こういう問題のややこしいところなのだ。
ちなみにガレリアはやっぱりオレに迫ってくるけど、さすがに妹とヴェガの目があると身体を求めてくるとかそこまで出来ないようだ。
油断はならないけど、建前上は相変わらず『恋人』のままなので、邪険にするわけにもいかずいろいろとややこしい。
旅の途中もヴェガは通りすがりの村に目を光らせている。
もちろんそんなにあからさまな犯罪が行われているはずは無いが、それでも細かい事が気になるらしく、ヴェガはすぐに駆け寄っては文句を言っている。しかし――
「うるせえな。よそもんの女はすっこんでいろ」
「女の司法官だと? 賄賂でも配ったのか?」
「どうせ身体を使ったんだろうよ。司法官様も落ちたもんだ」
魔法で知覚を強化しているオレの耳には極めて希だという『女性の司法官』であるヴェガの存在に対する聞くに堪えない陰口が届いてくるのだ。
さすがに武装していて『神の法』を掲げる司法官たるヴェガに対して、正面から逆らう相手はそうそういないが、彼らの不満げな態度は遠目にも明らかだった。
もちろんヴェガだって直接耳にはしていなくとも、自分の周囲を覆う空気を察していない筈が無い。
あと元の世界でも警察官のような公僕は、まずは見た目の第一印象が大事だと言われていた。
普段どれほど仕事を真面目にこなしていても、そんな事は訴えを持ち込んだだけの相手には分からない。
そのため見た目が他の公僕と異なるのなら、ただそれだけで『真面目にこちらの訴えを聞いていないのではないか』という疑惑を抱かれてしまう危険がある。『外見で判断せず中身を見てくれ』などと言っても『そんなもんまでいちいち見ていられるか』という人間が圧倒的多数なのは、オレ自身過去に何度も体験してきたことだ。
そして残念ながらこの地域では女性と言うだけで、司法官としての働きに疑念の目が向けられてしまうのは間違いない。
そんな偏見故に、女性が司法官になるのも、その職務を果たすのも両方ハードルが高くなり、ますます女性が遠のくという状況になっているに違いない。
だからこそヴェガは敢えて意地を張っているのかもしれないが、もう少し力を抜かないとこのままでは いつかパンクしてしまいかねないと心配になってくる。
悲しいかな長年に渡り培われてきたこの手の偏見は、ちょっとやそっとで無くなるようなものではないのだ。
それを考えるとオレとしてもヴェガには頑張って欲しい、という意識もチョッピリ心の片隅にはある。
ただこの地域の治安は決して悪くはないようで、少なくとも旅の間に追い剥ぎの類に出会う事はなかった。
もっともそれで現状が問題ないのなら、やっぱり『異分子』は受け入れがたいわけで、そのあたりがヴェガにとってはマイナスに働いているという皮肉はあるのだろう。
元の世界でも二〇世紀に女性の社会進出が急速に進んだのは、二度の大戦で男手が不足した結果だというけど、それほどの惨事が起きるぐらいなら現状維持の方がまだマシだろう。
そんなこんなで『楽しい旅』ではないにしろ、岩が露出するあたりになってきたところで、ヴェガが先を指し示す。
先には湯気が上がっていてどうやら本当に温泉があるらしい。
「とりあえずあの辺りで熱湯が地面から出ていて、医療目的で訪れる者のために小さな村が出来ているとは聞いている」
ヴェガ本人が実際に訪れたわけではないのは明らかだが、やっぱり温泉療養はそれなりに知られてはいるのは確かだろう。
「ところでその温泉にも守護の精霊はおられるのですか?」
「詳しい事は知らない。だがあちらの火山の神ボルカの子供がいくたりか温泉の精霊として住民達の崇拝を集めている事は知っている」
どうもヴェガの態度は少々つっけんどんだな。ひょっとするとその温泉の精霊が気にくわないのかもしれない。
「ヴェガさんは温泉の精霊がお嫌いなのですか?」
「温泉の精霊の父である火山の神ボルカは太陽のかけらである我がアンティリウス神の兄神であって、太陽とは異なり光を持たぬ火と熱を司っている」
干拓地で聞いたところではそのボルカ神は、海と大地の双子神の父神であり、大地の象徴だったのだけど、こちらではむしろ火と熱の象徴なのか。
たぶん遥か遠くで山を仰ぎ見ている干拓地と、すぐ近くでその発する熱に晒される地元では意識が違うのだろうな。
「だが兄弟でありながら火山の神は法を司るアンティリウスとは大局で秩序とは無縁どころか、むしろそれを乱すわがままな神だ」
そりゃ火山の神なんだから、噴火したら秩序も何もなく何でも残らず破壊してしまうに決まっているよな。
「そして温泉の精霊の多くも父神からその性質を受け継いでいて、ふしだらで気まぐれだと聞いているぞ」
たぶんそれは間欠泉のような人間から見れば、いつ熱湯を吹き出すか分からない危険なものをさすのであって、普通の温泉の精霊だったらそこまでいかないと思うけどな。
いや。精霊だろうと人間だろうと、一つの例があるだけで全部が同じイメージと決めつけられてしまう事は珍しい話ではない。
小さな話ではあるけど、女だからと言うだけで偏見に晒されているヴェガもまた同じような偏見を抱いているのが、こういう問題のややこしいところなのだ。
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