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第17章 海と大地の狭間に
第674話 たどり着いた風呂場にて
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とりあえずオレ達一行の四人は温泉の村に足を踏みいれる。
見たところあんまり栄えているとは言えないけど、まあ温泉を売り物にして観光客を呼び込むような事はこの世界ではまず無いので、湯治目当てで僅かに訪れる人間と後は精霊をなだめるシャーマンぐらいしかこないのだろう。
まあお金持ちの湯治客を大勢呼び込んでいるようなところをヴェガは毛嫌いしているらしいので、こんないわゆる『秘湯』しか紹介出来ないのは確かだな。
そんなわけでオレはエレリアに近づいて問いかける。
この地が目当てとしていた双子神生誕の聖地なら、まさにラッキーと大喜びするところだ。もっともそんなに楽に事が進むのなら苦労はないが。
「ここは目的の場所でしょうか?」
「残念ですが……」
エレリアは小さく首を振る。どうやらここは外れだったようだ。
いきなり目的地にたどり着ける可能性はほとんど無いとは思っていたから、そんなに落胆はしていないけど、他の問題が浮上してくるのは避けられない。
「まあそれならそれでいいさ」
そう言ってガレリアはまたしてもオレの肩に手を伸ばしてくる。
偽装恋人に過ぎないのにドンドンと大胆になって来る気がするぞ。
まあ偽装恋人がいつの間にか本当の恋人になってしまうのは、定番中の定番ではあるし、ガレリアもそれを期待していそうだがオレにそんな気は全くありません。
しかしガレリアがそれを期待しているのは、火を見るよりも明らかだった。
「ここにはエレリアさんの湯治に来ている事になっているのを忘れないで下さいよ」
「もちろんだとも。しかしアルを守るのも『恋人』である俺の役目だろう?」
「もともと何をしにきたのか分かっているのでしょうね?」
干拓地の地盤沈下がその守護神たる双子神の力の衰えに根ざすものとして、遥か昔に失われたその生誕の地を探り出す事が目的だったはずだろう。
仮にこの地が直接関係なくとも、ここの温泉の精霊が双子神と父神を同じくする兄弟であるのなら、何らかの手がかりが得られるかもしれない事を期待して来たのだ。
湯治というのはあくまでもヴェガに警戒されないための建前だったはず。
だがガレリアを見ているとまるで『新婚旅行』にでも来たかのごとく、浮かれているように感じられるぞ。
「……そんな事は分かっているさ。両親や教団と袂を分かったのも、全ては我らが双子神のためであり、干拓地を救うためだ」
なんだ。最初のその微妙な間は。
そしてここでガレリアは、少し離れて馬の手綱を握っているヴェガに対して問いかける。
ヴェガもさすがに『恋人同士の語らい』にいちいち口を挟まないが、距離を置いているのはやっぱり本人の性格故にだろうか。
「改めて聞くが、ここの湯は身体に良いのだろう?」
「ああ。そう聞いてはいる。ただ詳しい事を知りたいのならば、あちらにある精霊の社の方で調べたらどうだ?」
ここでヴェガは村の片隅にある小さな祠を指差す。
見たところ管理人が常駐しているのではなく、普段は村人が管理していて、ときどきシャーマンか父神の司祭が訪れては礼拝して精霊をなだめているような場所である。
それでも住民に聞けばある程度の事は分かるだろう。
「いや。そんなまだるっこしい事はいいさ。そんなわけで早いところ入ろうじゃないか」
「そうか……妹の湯治をそこまで急いでいるというのならいいのだが」
ところでいくら何でもここは混浴じゃないよな?
いや。文化圏によっては混浴なんてむしろ当たり前だったりするところもあるらしいけど、まあヴェガが勧めるところだから、そんな事は無いと思いたい。
そんなこんなでオレ達、一行は村の外れにある小さな湯屋に向かう。
特に繁盛してはおらず、もちろん立派な設備があるわけでもない。
たぶん村の人間が交代で掃除して入れるようにはしているのだろうけど、積極的に客を呼び込むような事はしていないのは確かだ。
「それでは一緒に入ろう……いや。すまん。俺は外で待っているとしよう」
ガレリアはまたしても何かを恐れた様子で引き下がる。どうやら本人は混浴する気、満々だったらしいが妹にテレパシーで叱られたのだと分かっていないと、こちらも少しばかり反応に困るよ。
そしてエレリアの方がオレに対して頭を下げてくる。
「兄がいろいろとすみませんね」
「いえ。気にはしていませんから」
レリアは少々、申し訳なさそうだ。まあ呼んでもいないのに男に付きまとわれるのは慣れっこではあるが、さすがに少々精神的に疲れていたところではある。
そんなわけでオレとエレリア、ヴェガの三人は服を脱いで風呂に向かう。
しかしオレもいつの間にか、女性と一緒に風呂に入る事を何とも思わなくなってしまったな。むしろ男と一緒に入る方がよっぽど恥ずかしい気がしてしまう。
「「……」」
やはりというか、他の二人はオレの身体にちょっとばかり『同性』として興味があるようだな。
なお髪は魔法で黒く染めているので、他のところも同様に染めている。以前に髪だけ黒く染めていたら泉に入っていたのを覗かれ、染めていなかったあそこの髪を見られて、金髪だと見抜かれた失敗は繰り返さないぞ。
そんなわけで湯気に覆われた温泉に向かうと、そこは結構広い露天風呂だった。
そしてオレ達、三人以外には今のところ人影もなく少しはホッとする。
湯船は定期的に掃除はされているらしく清潔ではあるが、それ以外には何の飾りもない実に素朴なものだ。
まあオレにとってはゆっくりと風呂に浸かることが出来ればそれで十分だけどな。
だがこのとき湯気の中に浮かび上がるものがあって、そこでオレの身は緊張に固まる。霊体を見る『霊視』に引っかかったそれは明らかに『人間ではない何か』だったのだ。
見たところあんまり栄えているとは言えないけど、まあ温泉を売り物にして観光客を呼び込むような事はこの世界ではまず無いので、湯治目当てで僅かに訪れる人間と後は精霊をなだめるシャーマンぐらいしかこないのだろう。
まあお金持ちの湯治客を大勢呼び込んでいるようなところをヴェガは毛嫌いしているらしいので、こんないわゆる『秘湯』しか紹介出来ないのは確かだな。
そんなわけでオレはエレリアに近づいて問いかける。
この地が目当てとしていた双子神生誕の聖地なら、まさにラッキーと大喜びするところだ。もっともそんなに楽に事が進むのなら苦労はないが。
「ここは目的の場所でしょうか?」
「残念ですが……」
エレリアは小さく首を振る。どうやらここは外れだったようだ。
いきなり目的地にたどり着ける可能性はほとんど無いとは思っていたから、そんなに落胆はしていないけど、他の問題が浮上してくるのは避けられない。
「まあそれならそれでいいさ」
そう言ってガレリアはまたしてもオレの肩に手を伸ばしてくる。
偽装恋人に過ぎないのにドンドンと大胆になって来る気がするぞ。
まあ偽装恋人がいつの間にか本当の恋人になってしまうのは、定番中の定番ではあるし、ガレリアもそれを期待していそうだがオレにそんな気は全くありません。
しかしガレリアがそれを期待しているのは、火を見るよりも明らかだった。
「ここにはエレリアさんの湯治に来ている事になっているのを忘れないで下さいよ」
「もちろんだとも。しかしアルを守るのも『恋人』である俺の役目だろう?」
「もともと何をしにきたのか分かっているのでしょうね?」
干拓地の地盤沈下がその守護神たる双子神の力の衰えに根ざすものとして、遥か昔に失われたその生誕の地を探り出す事が目的だったはずだろう。
仮にこの地が直接関係なくとも、ここの温泉の精霊が双子神と父神を同じくする兄弟であるのなら、何らかの手がかりが得られるかもしれない事を期待して来たのだ。
湯治というのはあくまでもヴェガに警戒されないための建前だったはず。
だがガレリアを見ているとまるで『新婚旅行』にでも来たかのごとく、浮かれているように感じられるぞ。
「……そんな事は分かっているさ。両親や教団と袂を分かったのも、全ては我らが双子神のためであり、干拓地を救うためだ」
なんだ。最初のその微妙な間は。
そしてここでガレリアは、少し離れて馬の手綱を握っているヴェガに対して問いかける。
ヴェガもさすがに『恋人同士の語らい』にいちいち口を挟まないが、距離を置いているのはやっぱり本人の性格故にだろうか。
「改めて聞くが、ここの湯は身体に良いのだろう?」
「ああ。そう聞いてはいる。ただ詳しい事を知りたいのならば、あちらにある精霊の社の方で調べたらどうだ?」
ここでヴェガは村の片隅にある小さな祠を指差す。
見たところ管理人が常駐しているのではなく、普段は村人が管理していて、ときどきシャーマンか父神の司祭が訪れては礼拝して精霊をなだめているような場所である。
それでも住民に聞けばある程度の事は分かるだろう。
「いや。そんなまだるっこしい事はいいさ。そんなわけで早いところ入ろうじゃないか」
「そうか……妹の湯治をそこまで急いでいるというのならいいのだが」
ところでいくら何でもここは混浴じゃないよな?
いや。文化圏によっては混浴なんてむしろ当たり前だったりするところもあるらしいけど、まあヴェガが勧めるところだから、そんな事は無いと思いたい。
そんなこんなでオレ達、一行は村の外れにある小さな湯屋に向かう。
特に繁盛してはおらず、もちろん立派な設備があるわけでもない。
たぶん村の人間が交代で掃除して入れるようにはしているのだろうけど、積極的に客を呼び込むような事はしていないのは確かだ。
「それでは一緒に入ろう……いや。すまん。俺は外で待っているとしよう」
ガレリアはまたしても何かを恐れた様子で引き下がる。どうやら本人は混浴する気、満々だったらしいが妹にテレパシーで叱られたのだと分かっていないと、こちらも少しばかり反応に困るよ。
そしてエレリアの方がオレに対して頭を下げてくる。
「兄がいろいろとすみませんね」
「いえ。気にはしていませんから」
レリアは少々、申し訳なさそうだ。まあ呼んでもいないのに男に付きまとわれるのは慣れっこではあるが、さすがに少々精神的に疲れていたところではある。
そんなわけでオレとエレリア、ヴェガの三人は服を脱いで風呂に向かう。
しかしオレもいつの間にか、女性と一緒に風呂に入る事を何とも思わなくなってしまったな。むしろ男と一緒に入る方がよっぽど恥ずかしい気がしてしまう。
「「……」」
やはりというか、他の二人はオレの身体にちょっとばかり『同性』として興味があるようだな。
なお髪は魔法で黒く染めているので、他のところも同様に染めている。以前に髪だけ黒く染めていたら泉に入っていたのを覗かれ、染めていなかったあそこの髪を見られて、金髪だと見抜かれた失敗は繰り返さないぞ。
そんなわけで湯気に覆われた温泉に向かうと、そこは結構広い露天風呂だった。
そしてオレ達、三人以外には今のところ人影もなく少しはホッとする。
湯船は定期的に掃除はされているらしく清潔ではあるが、それ以外には何の飾りもない実に素朴なものだ。
まあオレにとってはゆっくりと風呂に浸かることが出来ればそれで十分だけどな。
だがこのとき湯気の中に浮かび上がるものがあって、そこでオレの身は緊張に固まる。霊体を見る『霊視』に引っかかったそれは明らかに『人間ではない何か』だったのだ。
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