異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第17章 海と大地の狭間に

第689話 姿を見せた亡霊は

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 これはかなりマズい。
 ここにいるという亡霊がどの程度のものはか分からないが、結構大きなこの寺院を放棄させるほどの相手なのだ。
 オレが負けるとは思わないけど、ガレリア・エレリアの兄妹では取り憑かれてしまう可能性は十分にあり得る。
 とにかく急いで兄妹のところに戻らねばなるまい。

「すみません! 失礼します!」
『どこに行くのだ? まだ話は終わっていないぞ』

 ええい。久しぶりに話に付き合ってくれる相手に出会って、あんたが嬉しいのは分かるけどこっちはそれどころではないんだよ。

「すみません。それは後で聞かせてもらいます!」

 オレは急いで先ほど別れたばかりのガレリア達のところに引き返す。
 推測だがここにいる亡霊は双子神の教団が使役していた『地の底に呼ぶもの』コーラー・イン・デプスそのものではなく、火山の噴火によって彼らが息絶えた場所に縛られた、いわゆる地縛霊の筈だから、さほど大きな力は有していないはず。
 しかしそれが一般人の基準でどこまでのものなのかは分からない。

 そして駆けつけたところで、オレは愕然となった。
 ガレリア・エレリアの周囲には数多くの――恐らくは数十体はある――霊体がまるで埋め尽くすように、集まってきていたのだ。
 しまった! やはり二人のところを離れるべきでは無かったか!
 こうなったら霊体を追い払う『追放』バニッシュメントの魔法を乱打するしかない。
 そう思って魔法を唱えようとしたところで、エレリアから思わぬ声が飛んでくる。

「アルさん。待って下さい」
「え?」

 落ち着いた制止の声からすると、少なくともオレが思ったように生死に関わる状況だと思ってはいないらしい。

「すみません。最初に見た時には驚いて、つい声を挙げてしまったのですが、この方々は決して私達に危害を加えようとしているのではありませんよ」
「ああ。そうらしいな」
「どういうことですか?」

 とりあえず危機的状況では無いらしい。もちろん万一の事があるので、警戒は解けないがとりあえずガレリア達に近づくことにする。
 いま視界内にいる霊体は『霊視』ソウルサイトで確認したところ、全てオレより『弱い』のだが、何しろ殆どの霊体がそれに属するのであんまり比較の意味が無い。
 霊体の外見だがその輪郭はぼんやりしていて、大ざっぱに人型をしているという以上の事は分からない。たぶんその意識もまたハッキリとはしていないのではないか。
 少なくとも以前に見た『地の底に呼ぶもの』コーラー・イン・デプスは本当に焼けただれた外見がハッキリしていたから、あちらは双子神の教団に使役されると同時に、その礼拝の力を一部なりとて受けているので、存在が固定されているのだろう。
 そう考えるとやっぱり死んでからも使役され、その苦しみがずっと続いているとは、かなり気の毒な気がしてくるな。
 浮かばれぬ霊体として、この寺院に棲み着いている連中と比べてどちらがマシなのか何とも言えないけど。

「この人達はただ私達に助けを求めているだけなのです」
「ああ。そういうことらしいな」

 どうもエレリアは亡霊達と何らかの形で意志疎通をしているらしいが、ガレリアの方はそうでもないようで、あくまでも妹の言葉を信じているだけのようだ。
 以前からエレリアには何か特別な感覚があるように思えていたが、それがここでも現れているのかもしれない。
 エレリア達からどう見えているのかよく分からないけど、オレにすると周囲を亡霊に覆われているのは正直に言って気分がいいものではないな。

「それで彼らは何と言っているのですか?」
「どうやらこの建物の中に、この人達を押さえ込んでいるものがあるらしいです。それをどうにかすればここから離れられる。そう仰ってます」

 技術的な事はよく分からないけど、何らかの魔術的な防護が施され、本来ならば霊体の侵入を阻止するモノだったのが、何とも皮肉な事に彼らを閉じ込めてしまったのかもしれない。
 そうするとその防護を破壊すれば、彼らは解放されてこの廃虚から出ていってくれるかもしれないな。

「ここで少し待っていて下さい。わたしに心当たりがありますから」
「おい! どこに行くのだ?」
「説明は後です!」

 ガレリアを振り切って、オレは慌ただしく先ほどの守護精霊の元に引き返す。

『おお。戻ってきたか』

 オレの姿を見て妙に嬉しそうにはしているが、この精霊は本当に寺院内をうろついている亡霊には興味が無いらしい。

「すみません。急な話ですが、この寺院に魔法的な防護は一体、何によって形成されているのですか?」

 オレの『魔法眼』ウィザード・アイでは魔力を検知出来ないが、今でも亡霊が閉じ込められているとしたら、恐らく目に見えるところにないだけのはずだ。

『それを知ってどうするつもりだ?』
「その防護を解けば、この寺院にいる亡霊達が解放されるかもしれません」
『残念だが、我がこの寺院の守護精霊である以上、そのような事を認めるワケにはいかぬな』
「もうあなたが守るべき寺院の信徒はもうここには一人もいないのですよ!」
『それでも我は誓いを違えるわけにはいかぬ』

 ええい。それは本来の誓いの相手ではなくて、あんたはこの寺院に呪縛されているだけだろ。しかしそんな理屈が通じるなら、そもそもこの精霊が廃虚にずっと居座ってもいないはずだ。
 やむを得ない。この精霊は既にオレを妨害するだけの力ないのだから、この聖域を荒らしてでも探すしか無いか。
 それを知ったらヴェガが怒るのは間違い無いし、勘弁してくれないかもしれないが、オレにとってはこの廃虚に縛られた亡霊を救う方が優先だ。

『?!』

 そう思って霊の宿る聖像に背を向けようとしたところで、どういうわけか『霊が息を呑んだ』ようなそんな空気が周囲にあふれる。
 いったい何事だ?
 思わず振り向くとオレを追って来たらしい、ガレリア・エレリアの兄妹が姿を見せていたのだった。
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