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第17章 海と大地の狭間に
第703話 埋もれていたものは
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とりあえず今はここを探るに当たって、ヴェガには立ち退いてもらわねばならない。
「それではすみませんけど、ヴェガさんは一度ここを離れていただけますか?」
「どうするつもりなのだ?」
「少しばかりこの部屋を探りますが、ちょっとばかり危険が伴うかもしれないのですよ」
「……わかった」
ひとまずヴェガも離れたところで、オレは『精霊使い』の魔法でこの近隣にいる土の精霊に呼びかける。
この魔法は精霊に命令は出来ないが、友好的に呼びかけることが出来る。
そこでオレの場合は、魔力を提供する事である程度、頼みごとを聞いてもらえるのだ。
もちろん常人だったら、精霊に言うことを聞かせる程の魔力は提供できないか、卓越した魔法使いでもせいぜい一日に一体程度だが、オレならば寄ってきた精霊全てに頼みごとを聞いてもらえるだけの魔力を出せる――もっとも戦闘のような危険な事は幾ら魔力を代償としても無理だけどな。
要するに金の代わりに魔力で土木作業員を雇うようなものだから、報酬をどれだけ積んでも戦いまで頼むのは無理なのだ。
まあ精霊も千差万別だから、知性のある精霊なら戦いが好きだったりするのもいるだろうけど、出来ればそういう相手とはあんまりお友達にはなりたくない。
そんなわけでしばらくすると、周囲には大地の精霊が寄ってくる。
どれも大きな力は有していないけど、別に地形を変えるほどの事をする気はないので、これで十分だ。
魔力をいくばくか提供して、まずこの塔頂部に入り込んでいる土砂を残らず除けてもらうとしよう。
その前にまずガレリア達には警告の声をかけておく。
「すみませんがこれからかなり土煙が上がって、土が飛び散りますけど、わたしは大丈夫ですから気にしないで下さい」
「おい? それはどういうことだ?」
「とにかくわたしの事は心配せず、近づかないで下さいということです!」
オレがそう叫んだ瞬間、土の精霊が小さな部屋にあった土をかき回して吹き飛ばす。
うひゃあ。
もちろん土の精霊はオレに被害を及ぼさないようにしてくれるはずだけど、それでも殆ど爆発でも起きたのかと思うかの勢いで土が飛び散るから、こっちにとってもちょっとばかり心配になる光景だった。
「お……だ……」
土塊が飛び散る合間に、ガレリアやヴェガがこちらに向けて何事か叫んでいるらしい声が途切れ途切れに響いてくる。
事前の説明が足りなくて彼らに無用な心配をさせてしまったかもしれないと、ちょっとばかり後悔した。
しかしそれもすぐだった。
狭い場所だったので見る見るあたりを覆っていた土は吹っ飛び、あっという間に正方形に切った石材を規則正しく並べた碁盤目模様の床が姿を現し、また隅には半ば埋もれていた下に続く階段も見えてきた。
下に続く道はどうにか通れそうで、少しはホッとしたところである。
これで完全に埋もれていたら、いくら土の精霊を使ったところで何日もかかる結構な『工事』になったかもしれないからな。
そして土に埋もれていて、いま姿を見せたものの中に、妙に光るものがあるのが目に入る。
それは本来の物品の輝きだけでなく、オレの『魔法眼』にも引っかかる魔力の輝きでもあったのだ。
そこに転がっていたのは一本の徳杖だった。
長さはだいたいオレの身長と同じぐらいで、片側の端には金で作られた円盤が取り付けられ、数多くの宝石で飾られている。
美術品の鑑定眼はオレにはないけど、それでも目の玉が飛び出るほどもの凄い価値があるのは一目で分かる代物だった。
間違い無く先ほどの大司祭が持っていたもので、この下にある都市が火山の噴火で埋もれたときからずっとここにあったに違いない。
たぶんこの都市における宗教的権威の象徴だったのだろう。
何よりこれをガレリア達に渡せば、双子神の教団に戻ったときに失われた秘宝を持ち帰ったと言う事で大きな功績になるはず。
本来の目的である『干拓地の地盤沈下を防ぐ』事にはまだまだ及ばないが、少なくとも最低限度の成果は挙げられたと言えるかも知れない。
とにかく本来の持ち主である大司祭は、先ほどエレリアに感謝しつつこの世を去っていったのだから、これを彼女が引き継いでも問題はないはずだ。
そんなわけでオレが徳杖を拾い上げたところで、駆け寄ってくるガレリア達の姿が見えた。
「アル! 大丈夫か!」
「もちろんですよ。それより皆さんも大丈夫でしたか?」
「ああ……ところでそれはいったい何だ?」
土煙に覆われて見えなくなった後、駆けつけたところ相手が黄金に輝く杖を持っていたらそりゃ気になるよな。
「ここにあったものですが、恐らくはこの下に埋もれている寺院のものだったのでしょう」
「ふうむ。それならばその杖は――」
ヴェガは少しばかり考え込んでいる。たぶん所有権が誰にあるのか考えているのだろう。
少なくとも数百年は前に失われた宝の権利が誰に属するのかなんて、考えるだけ無駄だろうとは思うけど、彼女にとってはそれが一番気にする事なんだな。
「コイツはどれだけ――」
ガレリアは宝の価値に目を丸くしているようだ。まあこれが普通の反応というものなんだろうなあ。
まあこれだけのお宝を目の前にして、欲に駆られいきなり剣を抜いて、お宝を奪わんとするような人間がいないのはホッとするところだあ。
「それではすみませんけど、ヴェガさんは一度ここを離れていただけますか?」
「どうするつもりなのだ?」
「少しばかりこの部屋を探りますが、ちょっとばかり危険が伴うかもしれないのですよ」
「……わかった」
ひとまずヴェガも離れたところで、オレは『精霊使い』の魔法でこの近隣にいる土の精霊に呼びかける。
この魔法は精霊に命令は出来ないが、友好的に呼びかけることが出来る。
そこでオレの場合は、魔力を提供する事である程度、頼みごとを聞いてもらえるのだ。
もちろん常人だったら、精霊に言うことを聞かせる程の魔力は提供できないか、卓越した魔法使いでもせいぜい一日に一体程度だが、オレならば寄ってきた精霊全てに頼みごとを聞いてもらえるだけの魔力を出せる――もっとも戦闘のような危険な事は幾ら魔力を代償としても無理だけどな。
要するに金の代わりに魔力で土木作業員を雇うようなものだから、報酬をどれだけ積んでも戦いまで頼むのは無理なのだ。
まあ精霊も千差万別だから、知性のある精霊なら戦いが好きだったりするのもいるだろうけど、出来ればそういう相手とはあんまりお友達にはなりたくない。
そんなわけでしばらくすると、周囲には大地の精霊が寄ってくる。
どれも大きな力は有していないけど、別に地形を変えるほどの事をする気はないので、これで十分だ。
魔力をいくばくか提供して、まずこの塔頂部に入り込んでいる土砂を残らず除けてもらうとしよう。
その前にまずガレリア達には警告の声をかけておく。
「すみませんがこれからかなり土煙が上がって、土が飛び散りますけど、わたしは大丈夫ですから気にしないで下さい」
「おい? それはどういうことだ?」
「とにかくわたしの事は心配せず、近づかないで下さいということです!」
オレがそう叫んだ瞬間、土の精霊が小さな部屋にあった土をかき回して吹き飛ばす。
うひゃあ。
もちろん土の精霊はオレに被害を及ぼさないようにしてくれるはずだけど、それでも殆ど爆発でも起きたのかと思うかの勢いで土が飛び散るから、こっちにとってもちょっとばかり心配になる光景だった。
「お……だ……」
土塊が飛び散る合間に、ガレリアやヴェガがこちらに向けて何事か叫んでいるらしい声が途切れ途切れに響いてくる。
事前の説明が足りなくて彼らに無用な心配をさせてしまったかもしれないと、ちょっとばかり後悔した。
しかしそれもすぐだった。
狭い場所だったので見る見るあたりを覆っていた土は吹っ飛び、あっという間に正方形に切った石材を規則正しく並べた碁盤目模様の床が姿を現し、また隅には半ば埋もれていた下に続く階段も見えてきた。
下に続く道はどうにか通れそうで、少しはホッとしたところである。
これで完全に埋もれていたら、いくら土の精霊を使ったところで何日もかかる結構な『工事』になったかもしれないからな。
そして土に埋もれていて、いま姿を見せたものの中に、妙に光るものがあるのが目に入る。
それは本来の物品の輝きだけでなく、オレの『魔法眼』にも引っかかる魔力の輝きでもあったのだ。
そこに転がっていたのは一本の徳杖だった。
長さはだいたいオレの身長と同じぐらいで、片側の端には金で作られた円盤が取り付けられ、数多くの宝石で飾られている。
美術品の鑑定眼はオレにはないけど、それでも目の玉が飛び出るほどもの凄い価値があるのは一目で分かる代物だった。
間違い無く先ほどの大司祭が持っていたもので、この下にある都市が火山の噴火で埋もれたときからずっとここにあったに違いない。
たぶんこの都市における宗教的権威の象徴だったのだろう。
何よりこれをガレリア達に渡せば、双子神の教団に戻ったときに失われた秘宝を持ち帰ったと言う事で大きな功績になるはず。
本来の目的である『干拓地の地盤沈下を防ぐ』事にはまだまだ及ばないが、少なくとも最低限度の成果は挙げられたと言えるかも知れない。
とにかく本来の持ち主である大司祭は、先ほどエレリアに感謝しつつこの世を去っていったのだから、これを彼女が引き継いでも問題はないはずだ。
そんなわけでオレが徳杖を拾い上げたところで、駆け寄ってくるガレリア達の姿が見えた。
「アル! 大丈夫か!」
「もちろんですよ。それより皆さんも大丈夫でしたか?」
「ああ……ところでそれはいったい何だ?」
土煙に覆われて見えなくなった後、駆けつけたところ相手が黄金に輝く杖を持っていたらそりゃ気になるよな。
「ここにあったものですが、恐らくはこの下に埋もれている寺院のものだったのでしょう」
「ふうむ。それならばその杖は――」
ヴェガは少しばかり考え込んでいる。たぶん所有権が誰にあるのか考えているのだろう。
少なくとも数百年は前に失われた宝の権利が誰に属するのかなんて、考えるだけ無駄だろうとは思うけど、彼女にとってはそれが一番気にする事なんだな。
「コイツはどれだけ――」
ガレリアは宝の価値に目を丸くしているようだ。まあこれが普通の反応というものなんだろうなあ。
まあこれだけのお宝を目の前にして、欲に駆られいきなり剣を抜いて、お宝を奪わんとするような人間がいないのはホッとするところだあ。
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