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第18章 奇怪なる殺戮者?
第725話 助けた少年の話とは
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ひとまずシドンを連れてオレは宿にこっそりと戻る。
幸か不幸か、オレが外に出ていたのは気づかれていなかった様子だ。
元の世界におけるホテルのように、しっかりしたチェックイン・アウトの施設があるわけではないので、気をつけていれば見つからずに部屋に戻るのはそう難しく無い。
まあシドンを泊めていたら、もう一人分の宿泊料を要求されるかもしれないけど、そのときはそのときだ。
「取りあえず今晩はここにいなさい。明日の朝になったらあなたの家に帰しましょう」
もしもシドンの出自が見た目通り、よいところのお坊ちゃんなら『知らない女と朝帰り』はいろいろと問題だろう。
それに加えてこの少年の外套や服も怪物の攻撃で引き裂かれていて、血もついている。
傷は治しているにせよ、これを見つかったらなおさら変に思われるのは確実だ。
しかし今から警邏隊に見つからないように改めて出歩くのも大変だし、万が一にもあの怪物とまた出くわしたら今度こそ命が危ない。
そんなわけで一晩付き合いつつ、シドンの知っている事を尋ねるとしよう。
とりあえず蝋燭の明かりの下で、オレはフードを外してシドンに対面する。
「……」
どういうわけか赤い髪の少年は、まるで魂を抜かれたのかのごとく、惚けた表情でマジマジとオレを見つめている。
「どうしました?」
「あ、あの……いえ……何でもありません」
シドンは急に赤面して、今度は恥ずかしげにモジモジする。
ああそうだった。
オレは『猫目』の魔法があるので、微かな光でもシドンの事はよく見えていたけど、この少年はいま初めてオレの容姿をまともに見たので、圧倒されていたのだな。
ついでに言えばオレの方はシドンの事を『異性』とは意識していなかったけど、もしもオレがあっちの立場だったら否応なしに意識させられてしまうだろうなあ。
こんな宿屋で二人っきりなら尚更だ。
しかしいつまでもこのままではラチがあかない。
そんなわけでここはシドンに近寄って問いかける。
「改めて聞きますけど、あなたは先ほど出会った怪物について何か知っていますね?」
「いえ……そんな事は……」
口ごもりつつ顔を背ける態度からして、何かを隠そうとしているのがバレバレだ。
オレの事をまだ信頼出来ないからなのか。
それとも何か別の意図があるのかは分からない。
だが少なくとも危険を承知でこの夜の町に出向いた以上、シドンにとってそれだけ重要な事のはず。
「確証が無いならそれでもいいです。シドンの知っている限りの事を教えてくれたらいいのですよ」
「実は……」
シドンは一度、口を開きかけるが、ここで何かを振り切るように首を激しく振る。
「やっぱりダメです。本当に申し訳ないのですけど……」
オレが信頼出来ないのか?
ついさっき見た目に呆然となっていた癖に、こんなところで気を取り直すんじゃないぞ。
「決してアルさんが信じられないわけではないのです。しかしこれ以上、あなたに迷惑をかけるわけにはいきませんから」
そういうわけか。オレが信じられないのでは無く、身を案じてくれたというわけか。
しかしとっくに関わっている上に、乗りかかった船であるからには、こんなところで中途半端に終わらせる事は出来ない。
「別に恩に着せる気はありませんけど、あなたを助けた時にもう無関係ではないのですよ。だから遠慮無く話して下さい」
「そう言って下さると本当に嬉しいのですけど……」
ええい。ハッキリしないヤツだな。
まあシドンは本当に優しい性格で、オレに危険がある事を心配しているのは間違い無いが、いい加減いらいらしてくるぞ。
「それではあなたの心配している事は、ひとりでどうにかなるものなのですか?」
「う……」
この問いかけにはシドンも明らかに返答に窮した様子が見える。
やっぱり後先は殆ど考えていなかったようだ。
「もう無関係ではないのですから、あなたの知っている事を教えてもらわないとこちらも引き下がりませんよ」
「分かりました……それではお教えします」
ようやく覚悟を固めた様子で、シドンは口を開く。
「僕の家はこの街でも結構、名の知れた魔法使いの家系なのです」
シドンの服装や態度、外見から裕福な出自なのは見当がついていたが魔法使いとはな。
この世界では大多数の人間は適切な教育と訓練を受ければ、ある程度は魔法が使えるようになるが、大半は一生そんな機会などない。
もちろん『ただ使える』という程度では無く、職業として魔法を使うのはごく一握りの高度な訓練を受けた人間だけだ。
つまり魔法使いを生業にしているというだけで特権階級であり、シドンもその端くれという事か。
「だけど僕は魔法の才能が無かったので、家名を継ぐ資格が無いと見なされました。だから今のところ僕の名前はあくまでも『シドン』であって、家名は無いのです」
うう。何かいきなり重い話になってきたぞ。
「跡を継ぐ能力の無いものを家にいつまでも置いておくわけにはいきませんからね。悲しかったですけど、それは仕方ない事だと受け入れました」
有力な家であればこそ、才覚の無い人間に家名を継がせるわけにいかないのは、正しい事ではあるのだけど――逆だったらそれこそ目も当てられない――それで切り捨てられてしまった人間を目の当たりにすると『その通りだ』とはとても言えないなあ。
「それで僕は隠居していた祖父の元に預けられていたんですけど、その祖父も先日亡くなってしまって……」
ここまで話が来るとオレだってピンと来るものはある。
「その亡くなったあなたのお爺さんが現役の頃は、さぞかし優れた魔法使いとして、名を馳せていたのでしょうね」
「ええ……祖父は一線を退いた後でも、ずっと魔法の研究は続けていたのですけど……」
「そのお爺さんの遺したものの中に今回の連続殺人事件と何か関係のあるものが見つかったのですか?」
ここでシドンはその唇をかみしめる。
「すみません! 本当に申し訳ないのですけど、これ以上は……ちょっと……」
むう。肝心なところまで来て、そこでヘタれるなと言いたいが、つい先日まで一緒に暮らしていた祖父の遺産がらみでこんな大事件が起きた可能性があるとなれば、出会ったばかりに相手にそうそう何もかも打ち明ける事が出来ない気持ちも分かる。
まだまだ色々とシドンが隠している事はありそうだ。
これはもしかすると容易ならぬ事態かもしれないな。
幸か不幸か、オレが外に出ていたのは気づかれていなかった様子だ。
元の世界におけるホテルのように、しっかりしたチェックイン・アウトの施設があるわけではないので、気をつけていれば見つからずに部屋に戻るのはそう難しく無い。
まあシドンを泊めていたら、もう一人分の宿泊料を要求されるかもしれないけど、そのときはそのときだ。
「取りあえず今晩はここにいなさい。明日の朝になったらあなたの家に帰しましょう」
もしもシドンの出自が見た目通り、よいところのお坊ちゃんなら『知らない女と朝帰り』はいろいろと問題だろう。
それに加えてこの少年の外套や服も怪物の攻撃で引き裂かれていて、血もついている。
傷は治しているにせよ、これを見つかったらなおさら変に思われるのは確実だ。
しかし今から警邏隊に見つからないように改めて出歩くのも大変だし、万が一にもあの怪物とまた出くわしたら今度こそ命が危ない。
そんなわけで一晩付き合いつつ、シドンの知っている事を尋ねるとしよう。
とりあえず蝋燭の明かりの下で、オレはフードを外してシドンに対面する。
「……」
どういうわけか赤い髪の少年は、まるで魂を抜かれたのかのごとく、惚けた表情でマジマジとオレを見つめている。
「どうしました?」
「あ、あの……いえ……何でもありません」
シドンは急に赤面して、今度は恥ずかしげにモジモジする。
ああそうだった。
オレは『猫目』の魔法があるので、微かな光でもシドンの事はよく見えていたけど、この少年はいま初めてオレの容姿をまともに見たので、圧倒されていたのだな。
ついでに言えばオレの方はシドンの事を『異性』とは意識していなかったけど、もしもオレがあっちの立場だったら否応なしに意識させられてしまうだろうなあ。
こんな宿屋で二人っきりなら尚更だ。
しかしいつまでもこのままではラチがあかない。
そんなわけでここはシドンに近寄って問いかける。
「改めて聞きますけど、あなたは先ほど出会った怪物について何か知っていますね?」
「いえ……そんな事は……」
口ごもりつつ顔を背ける態度からして、何かを隠そうとしているのがバレバレだ。
オレの事をまだ信頼出来ないからなのか。
それとも何か別の意図があるのかは分からない。
だが少なくとも危険を承知でこの夜の町に出向いた以上、シドンにとってそれだけ重要な事のはず。
「確証が無いならそれでもいいです。シドンの知っている限りの事を教えてくれたらいいのですよ」
「実は……」
シドンは一度、口を開きかけるが、ここで何かを振り切るように首を激しく振る。
「やっぱりダメです。本当に申し訳ないのですけど……」
オレが信頼出来ないのか?
ついさっき見た目に呆然となっていた癖に、こんなところで気を取り直すんじゃないぞ。
「決してアルさんが信じられないわけではないのです。しかしこれ以上、あなたに迷惑をかけるわけにはいきませんから」
そういうわけか。オレが信じられないのでは無く、身を案じてくれたというわけか。
しかしとっくに関わっている上に、乗りかかった船であるからには、こんなところで中途半端に終わらせる事は出来ない。
「別に恩に着せる気はありませんけど、あなたを助けた時にもう無関係ではないのですよ。だから遠慮無く話して下さい」
「そう言って下さると本当に嬉しいのですけど……」
ええい。ハッキリしないヤツだな。
まあシドンは本当に優しい性格で、オレに危険がある事を心配しているのは間違い無いが、いい加減いらいらしてくるぞ。
「それではあなたの心配している事は、ひとりでどうにかなるものなのですか?」
「う……」
この問いかけにはシドンも明らかに返答に窮した様子が見える。
やっぱり後先は殆ど考えていなかったようだ。
「もう無関係ではないのですから、あなたの知っている事を教えてもらわないとこちらも引き下がりませんよ」
「分かりました……それではお教えします」
ようやく覚悟を固めた様子で、シドンは口を開く。
「僕の家はこの街でも結構、名の知れた魔法使いの家系なのです」
シドンの服装や態度、外見から裕福な出自なのは見当がついていたが魔法使いとはな。
この世界では大多数の人間は適切な教育と訓練を受ければ、ある程度は魔法が使えるようになるが、大半は一生そんな機会などない。
もちろん『ただ使える』という程度では無く、職業として魔法を使うのはごく一握りの高度な訓練を受けた人間だけだ。
つまり魔法使いを生業にしているというだけで特権階級であり、シドンもその端くれという事か。
「だけど僕は魔法の才能が無かったので、家名を継ぐ資格が無いと見なされました。だから今のところ僕の名前はあくまでも『シドン』であって、家名は無いのです」
うう。何かいきなり重い話になってきたぞ。
「跡を継ぐ能力の無いものを家にいつまでも置いておくわけにはいきませんからね。悲しかったですけど、それは仕方ない事だと受け入れました」
有力な家であればこそ、才覚の無い人間に家名を継がせるわけにいかないのは、正しい事ではあるのだけど――逆だったらそれこそ目も当てられない――それで切り捨てられてしまった人間を目の当たりにすると『その通りだ』とはとても言えないなあ。
「それで僕は隠居していた祖父の元に預けられていたんですけど、その祖父も先日亡くなってしまって……」
ここまで話が来るとオレだってピンと来るものはある。
「その亡くなったあなたのお爺さんが現役の頃は、さぞかし優れた魔法使いとして、名を馳せていたのでしょうね」
「ええ……祖父は一線を退いた後でも、ずっと魔法の研究は続けていたのですけど……」
「そのお爺さんの遺したものの中に今回の連続殺人事件と何か関係のあるものが見つかったのですか?」
ここでシドンはその唇をかみしめる。
「すみません! 本当に申し訳ないのですけど、これ以上は……ちょっと……」
むう。肝心なところまで来て、そこでヘタれるなと言いたいが、つい先日まで一緒に暮らしていた祖父の遺産がらみでこんな大事件が起きた可能性があるとなれば、出会ったばかりに相手にそうそう何もかも打ち明ける事が出来ない気持ちも分かる。
まだまだ色々とシドンが隠している事はありそうだ。
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