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第18章 奇怪なる殺戮者?
第724話 また新たな連れが出来て
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とりあえずしばらく走って街区を幾つか離れたところで、周囲の様子を伺う。
万が一にも先ほどの相手が追ってくる事を警戒したのだ。
警報はまだあちこち鳴っているが、何が起きているのかまではさすがによく分からない。
警邏隊があの化け物を捕らえるなり、退治するなりしてくれたらよいのだが、正直に言ってあんまり期待はしていない。
こんな町の警邏隊は指揮官を除けば専門職では無く、民兵などと同様に町の住民を招集して結成しているもので、武装も練度も素人に毛が生えた程度のものだ。
あんな怪物の相手など出来るとはとても思えない。
むしろ警邏隊が戦って犠牲が出る方が心配だ。
もっとも相手はオレの『陽光』による目つぶしを受けて数分は視界を損なっていただろうから、知性があるなら警邏隊に見つかる前に逃げ出した可能性が高い。
もちろんその場合、またあの怪物が殺人を行うだろうから、結局は急場を凌いだだけで何の解決にもなっていないわけだ。
しかもあの相手にはオレの『調和』や『平静』が効かなかった。
過去にもドラゴンの卵の殻でつくったアイテムを身につけている相手に効かなかった事があったが、理由は分からないにしても魔法の効かない相手はオレにとっては非常に困った存在だ。
そして現時点では別の問題が目の前にいる。
「あ……あの……助けていただいて、痛っ」
赤い髪の少年はどうにか荒い息を整えつつ、オレに対してペコリと頭を下げたところで苦痛に顔をゆがめる。
どうやらオレがさっきかけた『応急手当』で傷は完治していなかったけど、必死で逃げていたので忘れていた痛みが、落ち着いたところでぶり返したらしい。
「少し待っていなさい」
大した負傷では無いはずだが、さっき地面を這い回って汚れているから万一にも化膿したら大事だ。
そんなわけで改めて『傷の治癒』をかけて傷を治す。
「これでもう大丈夫でしょう」
「本当にありがとうございました。僕の名前はシドンと言います」
「わたしの事はアルと呼んで下さい」
改めてシドンと名乗った少年を見ると、年齢はだいたい十三歳ぐらい。
華奢な体格と整った容貌、汚れているとはいえ身なりもかなり良さそうで『いいところのお坊ちゃん』と思しき雰囲気が漂っている。
だがそうするとなおさら、外出禁止令が出ているにもかかわらずこんな夜更けに出歩いている理由が分からない。
よくあるパターンの『堅苦しい家に反発して飛び出した不良少年』などとはほぼ正反対の空気をまとっているのだ。
「あの……アルさんは聖女教会のお方ですよね?」
当然の質問だな。
まあ聖女教会所属の聖女が旅装束でフードを被って、夜更けに出歩いているとしたら、シドンから見ればこちらが立派な『不審人物』だろう。
もちろん警戒まではしていないようだが、疑問に思うのは当たり前だ。
しかしオレは不本意ながら同じ守護女神がいて『英雄』と称えられているが、それでも聖女教会に所属した事は一度も無いのだ。
そんなわけでここは一番当たり障りの無い返答をするとしよう。
つくづくこんなことに慣れてしまったものだ。
「わたしは旅の途中で立ち寄っただけで、この町の聖女教会とは無関係なのです」
「そういうことですか」
これだとシドンは『赴任地に向かう途中にいっときこのヒュールの町に滞在しているだけなので、ここの聖女教会とは無関係』の意味に勘違いするだろうけど、嘘をついてはいないので勘弁してもらおう。
「泊まっていた宿の二階からあなたが歩いている姿がたまたま見えたので、気になって後を追ってみたのですよ。助けられてよかった」
「そうですか……本当にありがとうございます」
「ところでこちらから聞いていいですか?」
「な、何でしょうか?」
シドンは明らかに緊張に身を固める。
「どうしてシドンはこんな夜更けに、一人で出歩いていたのです?」
「それは……」
シドンはバツが悪そうに視線を逸らすが、やはりその態度から不自然なものが感じられた。
「あなたは先ほど出会ったあの怪物について何か心当たりがあるのではないですか?」
「え?!」
咄嗟に少年の顔に浮かんだ表情は『まさかそれに気付かれるとは』という驚愕の色だった。
やはりそうか。シドンは命からがら逃げ出したにも関わらず、怪物の事よりもオレの事を聞きたがったからな。
どう考えても不自然だ。
怪物に出会う前、誰かを探すようにキョロキョロしていた様子からも、ひょっとしたらと思っていた。
「あの……その……」
シドンの困惑した態度からすると、確証があるわけではないらしく、どう説明してよいのか苦慮している様子がうかがえる。
「わたしは決してシドンが困るような事はしませんよ。だから知っている事があれば包み隠さず話してくれませんか?」
オレの問いかけに対し、シドンは少しばかり考えるが、
「実は――」
シドンがそこまで口にしたところで、淡い光がオレ達を照らす。
「おい! そこにいるのは何者だ?!」
「止まれ! 外出禁止令違反だぞ!」
しまった。シドンと怪物の事ばかり考えていたけど、警邏隊がこの周辺に集まってきたら当然、オレ達も拘束の対象になりうるんだった。
もちろん何も悪い事はしていないのだが、オレの事を調べられるといろいろと面倒だ。何しろあの出しゃばりな守護女神様は、オレの事をこの町にある聖女教会に伝えてしまっている可能性があるからな。
ええい。仕方が無い。
迫ってくる警邏隊の二人に対し、立て続けに『平静』をかけると、とたんに相手は動きを止める。
「あの……どうしましょう……」
もちろんシドンはそんな事など知らないので、怯えているようだ。いずれにしてもここで別れるわけにはいかないな。
「とにかく今はこちらに来なさい」
「は、はい!」
怪物相手の次は警邏隊との悶着といろいろ困った展開だが、そんなわけでオレはシドンと共に宿屋に引き返すこととなった。
やれやれ。夜間外出禁止令に逆らって出歩いた上に、男まで連れ込むとは我ながら『不良娘』になってしまったものだ。
万が一にも先ほどの相手が追ってくる事を警戒したのだ。
警報はまだあちこち鳴っているが、何が起きているのかまではさすがによく分からない。
警邏隊があの化け物を捕らえるなり、退治するなりしてくれたらよいのだが、正直に言ってあんまり期待はしていない。
こんな町の警邏隊は指揮官を除けば専門職では無く、民兵などと同様に町の住民を招集して結成しているもので、武装も練度も素人に毛が生えた程度のものだ。
あんな怪物の相手など出来るとはとても思えない。
むしろ警邏隊が戦って犠牲が出る方が心配だ。
もっとも相手はオレの『陽光』による目つぶしを受けて数分は視界を損なっていただろうから、知性があるなら警邏隊に見つかる前に逃げ出した可能性が高い。
もちろんその場合、またあの怪物が殺人を行うだろうから、結局は急場を凌いだだけで何の解決にもなっていないわけだ。
しかもあの相手にはオレの『調和』や『平静』が効かなかった。
過去にもドラゴンの卵の殻でつくったアイテムを身につけている相手に効かなかった事があったが、理由は分からないにしても魔法の効かない相手はオレにとっては非常に困った存在だ。
そして現時点では別の問題が目の前にいる。
「あ……あの……助けていただいて、痛っ」
赤い髪の少年はどうにか荒い息を整えつつ、オレに対してペコリと頭を下げたところで苦痛に顔をゆがめる。
どうやらオレがさっきかけた『応急手当』で傷は完治していなかったけど、必死で逃げていたので忘れていた痛みが、落ち着いたところでぶり返したらしい。
「少し待っていなさい」
大した負傷では無いはずだが、さっき地面を這い回って汚れているから万一にも化膿したら大事だ。
そんなわけで改めて『傷の治癒』をかけて傷を治す。
「これでもう大丈夫でしょう」
「本当にありがとうございました。僕の名前はシドンと言います」
「わたしの事はアルと呼んで下さい」
改めてシドンと名乗った少年を見ると、年齢はだいたい十三歳ぐらい。
華奢な体格と整った容貌、汚れているとはいえ身なりもかなり良さそうで『いいところのお坊ちゃん』と思しき雰囲気が漂っている。
だがそうするとなおさら、外出禁止令が出ているにもかかわらずこんな夜更けに出歩いている理由が分からない。
よくあるパターンの『堅苦しい家に反発して飛び出した不良少年』などとはほぼ正反対の空気をまとっているのだ。
「あの……アルさんは聖女教会のお方ですよね?」
当然の質問だな。
まあ聖女教会所属の聖女が旅装束でフードを被って、夜更けに出歩いているとしたら、シドンから見ればこちらが立派な『不審人物』だろう。
もちろん警戒まではしていないようだが、疑問に思うのは当たり前だ。
しかしオレは不本意ながら同じ守護女神がいて『英雄』と称えられているが、それでも聖女教会に所属した事は一度も無いのだ。
そんなわけでここは一番当たり障りの無い返答をするとしよう。
つくづくこんなことに慣れてしまったものだ。
「わたしは旅の途中で立ち寄っただけで、この町の聖女教会とは無関係なのです」
「そういうことですか」
これだとシドンは『赴任地に向かう途中にいっときこのヒュールの町に滞在しているだけなので、ここの聖女教会とは無関係』の意味に勘違いするだろうけど、嘘をついてはいないので勘弁してもらおう。
「泊まっていた宿の二階からあなたが歩いている姿がたまたま見えたので、気になって後を追ってみたのですよ。助けられてよかった」
「そうですか……本当にありがとうございます」
「ところでこちらから聞いていいですか?」
「な、何でしょうか?」
シドンは明らかに緊張に身を固める。
「どうしてシドンはこんな夜更けに、一人で出歩いていたのです?」
「それは……」
シドンはバツが悪そうに視線を逸らすが、やはりその態度から不自然なものが感じられた。
「あなたは先ほど出会ったあの怪物について何か心当たりがあるのではないですか?」
「え?!」
咄嗟に少年の顔に浮かんだ表情は『まさかそれに気付かれるとは』という驚愕の色だった。
やはりそうか。シドンは命からがら逃げ出したにも関わらず、怪物の事よりもオレの事を聞きたがったからな。
どう考えても不自然だ。
怪物に出会う前、誰かを探すようにキョロキョロしていた様子からも、ひょっとしたらと思っていた。
「あの……その……」
シドンの困惑した態度からすると、確証があるわけではないらしく、どう説明してよいのか苦慮している様子がうかがえる。
「わたしは決してシドンが困るような事はしませんよ。だから知っている事があれば包み隠さず話してくれませんか?」
オレの問いかけに対し、シドンは少しばかり考えるが、
「実は――」
シドンがそこまで口にしたところで、淡い光がオレ達を照らす。
「おい! そこにいるのは何者だ?!」
「止まれ! 外出禁止令違反だぞ!」
しまった。シドンと怪物の事ばかり考えていたけど、警邏隊がこの周辺に集まってきたら当然、オレ達も拘束の対象になりうるんだった。
もちろん何も悪い事はしていないのだが、オレの事を調べられるといろいろと面倒だ。何しろあの出しゃばりな守護女神様は、オレの事をこの町にある聖女教会に伝えてしまっている可能性があるからな。
ええい。仕方が無い。
迫ってくる警邏隊の二人に対し、立て続けに『平静』をかけると、とたんに相手は動きを止める。
「あの……どうしましょう……」
もちろんシドンはそんな事など知らないので、怯えているようだ。いずれにしてもここで別れるわけにはいかないな。
「とにかく今はこちらに来なさい」
「は、はい!」
怪物相手の次は警邏隊との悶着といろいろ困った展開だが、そんなわけでオレはシドンと共に宿屋に引き返すこととなった。
やれやれ。夜間外出禁止令に逆らって出歩いた上に、男まで連れ込むとは我ながら『不良娘』になってしまったものだ。
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