異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第18章 奇怪なる殺戮者?

第737話 夜闇の中を進んでいると

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 背負ったシドンはちょっとばかりためらいつつオレに問いかけてくる。

「あの……アルさん。姉さんがどこに行ったのか分かるのですか?」

 周囲は既に日が暮れて暗く、先ほどのやり取りでサレナはもうとっくに視界からは消えている。
 彼女が向かった方角は分かるにしても、追跡するのは難しいだろう--普通だったら。

「ええ。何とか……」

 オレが普段使っている『霊視』ソウルサイト『魔法眼』ウィザード・アイも魔力を増幅してかければいろいろと効果が上がる。
 しかし『霊視』の効果が上がりすぎると、小動物や昆虫の霊体まで見えてしまうし『魔法眼』もこの世界にはあちこちに魔法が存在し、またこんな町中では使用後に残留した微弱な魔力まで感知してしまうと、結局は何が何やら分からなくなる。

 もちろん視力や聴力を上げる魔法も同様だ。
 小さなゴミまで細部がくっきり見えたり、離れたところの昆虫の羽音まで聞こえたりするようになったら、こっちの神経がもたない。
 そんなわけで感知系の魔法は特段、必要な場合を除き強化して使う事は無いのだ。
 だが今回は特別だ。オレは『霊視』を強化して、サレナの残留している霊力を探りつつ移動する。

 残念ながらこのやり方でも犬の嗅覚のごとく、特定個人の霊力を探すということは出来ないし、少し時間が経てばすぐに見えなくなってしまう。
 後を追えるのはせいぜい数分に過ぎず、どちらかと言えばこれは『体温を追う』に近いだろう。
 当然だが町中において人通りが多い時間帯であれば、大勢の人間の霊力が漂っているので、とても追跡など不可能だが、今は人通りが殆ど無いのでどうにかなるはずだ。
 そんなわけでオレは細々と続く、サレナの霊力の残滓を追い続ける。
 今のところ彼女の目的地がどこなのか、いったい何が目当てなのかは見当もつかないが、既に暗くなった町中を明かりもつけずに移動している事は間違い無い。
 警邏隊に出会わないようにか、辺鄙なところを移動しているようでオレとしてもちょっとばかり緊張に身を固めるところだ。

「あの。アルさん……」

 霊力の残滓など見えないシドンにすれば、オレ達は文字通り『闇雲』に移動しているだけにしか思えないらしく、不安げに問いかけてくる。

「大丈夫です。まだサレナさんを見失ってはいませんから」

 あまり近づいて、サレナに追跡を気付かれては元も子もない。
 だがつかず離れず移動するのはこちらも神経をかなり削るものだ。
 しかしこれまでのところサレナが何を目的として、どこに向かっているのかはサッパリ分からない。
 オレはこのヒュールの町の地理には詳しくは無いが、背負っているシドンの方も何か思い当たる事はないらしい。

 いくら何でもサレナが連続殺人に関わっているとは思えないが、それにしても全く不可解な行動だ。
 ひょっとしたら彼女が出歩いているのは、本当に馬鹿げた下らないことなのかもしれず、客観的に見てオレ達は本当に愚かで滑稽な真似をしているだけなのかという考えが少しばかり脳裏に浮かぶ。
 まあそれならそれでシドンの疑問と不安を解消出来るからいいか。

 そんな事を考えつつ移動していると他の霊力も視覚に入ってくる。
 むう。これは面倒になってきたな。
 オレには霊力の残滓そのものが誰のものか区別がつかない。
 つい先ほど警邏隊員でも通過していたのなら、もうサレナのものとは混線してしまって追跡は困難になってしまう。

「どうしたんですか?」

 オレが歩みを止めたところで、改めてシドンが問いかけてくる。
 心配なのかオレの身にギュッとしがみついてくるが、まさか意識してやっているんじゃあるまいな。
 いくら何でもシドンにそんな下心はないよな?
 いかに『筋力強化』をかけていても、シドンを背負って動き回ったのでかなり疲れてきた。
 もちろん『疲労回復』スタミナを自分にかければ、まだまだ移動は出来るけど、何しろ警邏隊に見つかったら完全な不審人物だ。
 警邏隊も数人ならどうにかなるけど、仲間を呼ばれて集団で追い回されたらたまったもんじゃない。
 シドンを背負ったままでは『蜘蛛登り』スパイダー・クライムで壁をよじ登って逃げ回るわけにもいかないからな。
 捕まってしまった場合でも町の神の神託をすれば、オレ達が犯罪者で無い事は分かるだろうし、最悪の場合は聖女教会を頼るという選択肢もある――オレ一人ならともかくシドンが罪に問われかねないのなら、仕方ないだろう。
 だがそんな事態を迎えるのは可能な限り避けたい。
 ここはもうこっそり隠れて後をつけるのは諦めて、サレナと合流した上でシドンと共に事情を問い詰めた方がいいかもしれないな。

「シドン。いまは――」

 そこまで口にしたところで、オレの視界に暗闇の中で静かに佇む誰かの姿が目に入った。
 なんだ? ついさっきまで誰もいなかったはずだ。
 いや。まさか?
 相手はオレと同じくフードをかぶってその容姿を見せていない。だがつい先日感じたばかりの、その身から漂う空気を忘れる筈がなかった。

「どうしたんですか?」
「シドン……降りて下さい。それで近くにいる警邏隊を呼んできて――」

 オレが背中に張り付いていたシドンを降ろしたところで、暗がりにいた相手はゆっくりとこちらに近づいてきて、そして夜のしじまの中でくぐもった笑いが響いた。

「くくくく……会いたかったよ」

 それは地獄の底から届いてくるのかと思えるほど、おぞましい喜びに満ちたものだった。
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