異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
750 / 1,316
第18章 奇怪なる殺戮者?

第750話 襲撃してきた相手は

しおりを挟む
 なんだ? いったい何事だ?
 考えられるのはやはり例の殺人鬼がオレを狙ってやってきたことだろう。
 身体を乗り移っても一日は自由に出来ないと会長は言っていたが、それをあまり簡単に鵜呑みにしすぎたかもしれない。
 そうだ。あの事なかれ主義でタヌキな会長なら、口先で大丈夫だと言い切ってあの場を凌ごうとするぐらいのことはやるだろう。
 とにかく今はサレナやシドンに危害が及ばないようにせねばならない!

「わたしが行きます。サレナさんはシドンと一緒に避難して下さい!」
「やっぱりあんたは疫病神ね」
「文句は後で聞きますから!」

 オレはそれだけ叫ぶと、玄関に向かって走る。
 だがそこにいたのはオレの予想をまたしても裏切る相手だった。

「ガザック……さん? なぜここに?」

 オレが入った後、鍵がかかっていた玄関の扉をぶち壊して入り込んでいたのは、魔術師協会で別れたガザックだったのだ。

「……」

 だがその血走った目が向けられた瞬間、オレは直感した。
 コイツはガザックでは無い。いや。正確に言えば『かつてガザックだったもの』だ。

「あなたはまさか疑似生命体にその身体を……」
「ああそうだとも。思っていたよりなかなかいいぞ」

 そう言って疑似生命体と同化したガザックは笑う。
 ちょっと前までは『善人面しているが出世欲に駆られた小悪党』程度の存在だったけど、今ではもう立派に人間を辞めてしまったというわけか。
 そしてせいぜい数時間で、ガザックが疑似生命体と一体となっている理由もだいたい見当がつくぞ。

「取り憑かれた……のではないのですね。あなたは自らの意志で見つけ出した疑似生命体に身体を差し出した」
「そういうことだ。さすがに名高い女英雄だけだって落ち着いているのだな」

 昨晩出会った時にも霊力では遥かに下でありながら、オレが同意していれば憑依できると言っていたからな。
 もちろん『乗り移るのに同意せねば殺す』とかそんな強制による口約束では意味は無いのだろうけど、ガザックは心から疑似生命体に身体も魂も捧げてしまったのか。

「いったい何のためにそんな事を? あなたの言っていた疑似生命体メルティナに乗っ取られる事を選ぶなんて――」
「それはいくつか誤っているな」

 どこか獣めいた印象を漂わせつつ、ガザックはジリジリと迫ってくる。

「私が追っていたのはメルティナでは無かったと言う事だ。何とも滑稽な話だがな」
「それならばいまあなたが同化していて、わたしが会話している疑似生命体は何という名前なのですか?」

 ここは無駄話でもなんでも時間を稼ぐべきだ。
 サレナとシドンが一緒にこの屋敷から逃げる時間は最低でも必要だし、魔術師協会だってガザックを追っているはずだ。
 時間があればオレの方が有利になると期待しておこう。
 逆に不利な要素は暴力的活動を抑止する『調和』が疑似生命体には通用しないことだ。
 知性の無い動物の補食活動には効果が無いのと同様、疑似生命体には人間を喰う事が当たり前なので『暴力的活動』という意識そのものが無いのではないか。

「魔術師協会の記録ではこれの――いや、今の我が名はラザラだな」
「地下の保管庫に封印されていたのが、それだったと言う事ですか?」
「てっきりメルティナだと思っていたのだが、どうやらヤツはもう一体の方らしい。そうすると先代会長が死んだ後で十年間どこで何をしていたのだか……」

 そうするとあの『水銀の女性』がメルティナの方なのか。
 サレナの父である先代会長の残した資料は殆ど失われていたので、ガザックは勘違いしていたと言う事になる。
 しかしこの言い方からすると、一つの疑惑が出てくるぞ。

「あなたはもしかして……魔術師協会の地下に封印されていた疑似生命体を解き放ったのではないのですか?」
「あの老いぼれ共は禁忌だなどと抜かし、避けていたからな。もっとも我が手の者が乗っ取られて、これだけ面倒な事になるとは思ってもいなかったが」

 さすがにガザック本人が直接、地下の保管庫から盗み出したわけでは無く、誰か手先を送り込んで盗もうとしたのか。
 だけど会長が言っていたように『休眠状態』だった疑似生命体ラザラはその盗人に取り憑いて逃げ出したのだろう。
 断片的な情報しか得ていなかったガザックは、そこまで知らなかったのだな。
 そしてラザラは言わば『本能の赴くまま』『自分探しの旅』と言う事で殺人行為を繰り返していたに違いない。

「いったいなぜそんな事をしたのですか?」
「決まっているだろう。『永遠の命』そして何よりも力に憧れぬ者がいるのか? 大陸にその名を馳せ、皇帝や王ですらひれ伏すというお前のような存在になりたいと思って何が悪い」

 いや。オレは全くそんな事を望んではいなかったんだけど、それは言うだけ無駄だって事ぐらいは分かる。

「しかしお前には感謝はしているぞ。魔術師協会であの屈辱を受けなかったら、ラザラと一つになる覚悟は固まらなかったろう」

 そもそもその原因は全部、そちらの方でしょう、などと指摘したところで改心するような相手なら苦労は無い。

「そしてもう一つ感謝しているぞ。いまお前を喰ってその力を得れば、私は一気に神にも届く力を得られるだろうからな!」

 ガザックがそう叫んだ瞬間、その爪は一気に延び、口からは牙が延び、全身が獣じみた外見と化す。
 どうやら無駄話はここまでのようだ。だがオレが身構えたそのとき、これまた思わぬ声が背後から響いて来た。

「ちょっと待ちなさい! 危ないから!」
「ダメだよ! アルさんを置いて逃げられないよ!」

 廊下の向こうにシドンとサレナが姿を見せたのだった。
 おい。オレを気遣ってくれたのは分かるし、勇気があるのは結構だが、向こう見ずにも程があるだろうが!
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...