異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第18章 奇怪なる殺戮者?

第751話 ガザックが求めたのは

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 シドンはガザックと対面しているオレの姿を見て、一瞬驚愕しつつも叫ぶ。

「アルさん! 無事ですか?」

 申し訳ないがこれまでは無事だったけど、どう見ても今は面倒が増えてしまった。

「この化け物! とっとと出ていけ!」

 シドンは手当たり次第、近くにあったものをつかんで投げてくる。
 どうやら今の半人半獣の姿ではガザックだと気付いていないらしい。

「二人とも今は逃げて下さい!」
「もうそんなわけにはいかないでしょ!」

 オレが叫んだところでサレナも魔法を放つ。するとシドンが投げた置物がいきなりもの凄いスピードになって、ガザックを直撃して砕け散る。
 たぶん『弾丸』バレット系の初歩的な攻撃魔法だな。一般人なら一撃で昏倒させるぐらいの威力はあるだろう。

「ぐう……」

 ガザックの表情に苦痛が混じる。
 どうやら一応は効果があるようだけど、そんなもんで倒せるなら苦労は無い。
 そして疑似生命体ラザラと化したガザックは、爆ぜるかと思える勢いで、いきなりシドンの方に駆け出す。
 しまった! やはりあちらを狙ったか。

「こいつ!」

 サレナが咄嗟にシドンの前に立ったものの、一瞬ではね飛ばされて壁に叩きつけられる。

「うぐう!」
「姉さん!」

 嫌な音を立てて壁をヘコませつつ、サレナは口から血を吐いて床に倒れ伏す。
 どう見てもすぐに手当てせねば命に関わる重傷だ。
 そしてガザックは次の瞬間、その獣じみた腕でシドンを抱え込む。

「は、離せ! 姉さんが!」
「この後に及んで、血の繋がりも無い他人の心配か? 何とも愚かしい事だな」
「え? その声はまさか……」
「ああそうだ。こっちの顔の方がわかりやすいかね」

 ここでガザックは一瞬だがその獣じみた顔を、元の人間の顔に戻す。

「ガザックさん?! なぜ?」
「ここに来たのはあの娘を喰うためだったが、もう一つ用があったな。少しばかり順番が前後してしまったが……」

 そしてガザックはオレの方を向いて、ニヤリと笑う。

「余計な真似をしたら、この二人の命は無いぞ」

 なんて定番な悪役の行動だろう。しかし現実に有効だからこそ定番なのだ。
 こうなったら魔術師協会から助けが来るか、さもなければオレが女神の化身状態になるしかないか。
 もっともそのどちらでもシドンやサレナを助けられる保証は無い。
 どうするか? オレが悩んでいる間にもガザックはシドンに問いかける。

「お前の祖父、ノーズ翁の研究について教えてもらおうか」
「な、何を言っているんだよ! お爺ちゃんの資料はそっちが全部持っていったんだろう!」
「ああそうだ。だが肝心な部分は殆ど欠落していた。恐らくノーズ翁が自分の死期を悟ったときに破棄するか隠したのだろう」

 そしてここでガザックは威嚇するように、その口を開き長く伸びた牙をシドンに見せる。

「祖父からメルティナの名を聞いているだろう?」
「メルティナ? そんなの聞いてないよ! それより姉さんが――うぐ!」

 シドンが暴れるものの、ガザックはその身を締め上げる。

「いいや。間違い無く何かを残しているはずだ。それも疑似生命体メルティナに関する重大な情報を」
「どうしてそんな事が言えるんだよ!」
「僅かに残ったメモ書きの中に『メルティナは孫に託す』という記述があったのだ。だからお前は絶対に知っているはずだ」
「知らない! 本当に知らないんだよ!」

 そうか。ガザックはメルティナの存在について確信を持っていたが、先日死去したノーズ翁の資料の中に、匂わせるものがあったからに違いない。
 人間だった時にガザックが二人の立ち退きを迫ったのは、この屋敷にまだ何か隠されているかもしれないと思ったからなのだな。
 そしてシドンの祖父の死後に連続殺人が起きるようになったのは、ガザックが僅かな資料から疑似生命体の存在を確信し、魔術師協会の地下倉庫に眠っていたラザラを蘇らせてしまったからと言う事になる。
 そこまでは分かるが、問題なのは『水銀の女性』メルティナの方だ。
 いったい何を意図して行動しているのか。
 もちろん疑似生命体も個体差があるのは間違い無いから、メルティナにも何らかの目的があるのは確かだろう。
 僅かな可能性だが、オレはここでメルティナが助けに来てくれる事を期待していた。昨晩、出会った彼女の行動はシドンを助けようとしたように思えたからだ。
 そしてガザック=ラザラがここに来て、メルティナを探している理由を推測すると――

「あなたはメルティナを探して、一緒に人間を支配しようとでも考えているのですか?」
「……」

 オレの問いかけを受けた時のガザックの表情は、そんな事まるで考えもしなかったと言わんばかりの、少しばかり惚けたものだった。

「くくく……そうか。お前はそう思ったか……」
「どういうことですか?」
「愚か者め。疑似生命体にとっては、同族こそが最も忌むべき存在なのだ。なぜなら不滅の疑似生命体を倒せるのは同族だけなのだからな。まあ吸収するというのが正しいのだけどな」
「え? それではまさか?」
「ああそうだ。今のところ私にとって最大の脅威はメルティナだ。だからまずヤツを仕留める必要がある。そして次には魔術師協会の地下に封印されている他の疑似生命体を吸収して、私は全てを越える絶対者となってみせるとも」

 ただ『自分探し』で人間を喰っていたに過ぎないこれまでのラザラと違い、ガザックが同化した結果として、多くの知識を得た今は遥かに危険な存在になってしまったらしい。
 そしてメルティナの目的もラザラを吸収する事だったとすれば、結局はどちらも人間にとって脅威である事に変わりは無い。
 少しでも助けになる事を期待したオレがバカだったと言う事か。

「そんなの僕は知らないよ! 本当だよ! だから姉さんを早く――」
「ええい。耳元で騒ぐな。やかましい」

 いかにも面倒臭そうにガザックは呟く。

「もう分かった。お前の言葉は信じてやろう」
「え? そうなの?」
「そうだ。だからお前は用済みだ。とっと喰らってお前の記憶も生命も全て我が糧としてやろうぞ」

 そう言い切るとガザックの口が再び裂けて鋭い牙が延び、戦慄するシドンの頭をその顎が挟む。

「止め――」

 オレが叫けぼうとした瞬間、玄関口は耳を覆わんばかりの悲鳴と血しぶきで満たされた。
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