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第19章 神気の山脈にて
第769話 街道の途中でまたも面倒が
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ヒュールの町を出て、オレは『龍の背』山脈へと足を踏み入れる。
この山脈の名前も地域や文化によって様々だが、大陸をほぼ南北に縦断する巨大な山岳地帯であり、大陸東部と中部を分ける地理的な境界線である事には変わりはない。
重なる山嶺の中にもいくつか盆地や、高原もあり、それだけで他の地域では小国がすっぽりと収まるほど巨大なしろものだ。
その細分化された地域ごとに宗教や文化が微妙に異なっているのも、この世界ではよくあることだ。
あと山中の隘路を交易路がいくつも通っている事から、その途中には宿場町などもあり決して前人未到の山登りというわけではない。
しかし交易路には当然、高価な交易品目当ての山賊の類が出る。
隊商だったら護衛を雇っているけど、オレの場合は当然ひとり旅なので見つかるといろいろ面倒だ。
山賊ごときオレの魔法を使えばどうにでもなる、と言いたいが不意打ちで身体の自由を奪われたりするとやはり危ない。
もしも捕まったりすればどうなるか――想像するのは辞めておこう。
もちろんドルイド魔法を駆使すれば、普通は人の通らない場所を通過できるけど、この世界ではろくでもない精霊どころか場合によっては山の神様まで出てくるので、人がいないところだからといって安心できるわけでもない。
そんなわけでオレはそれなりに広い街道を歩んでいたが、そうすると視界の片隅にちょっとばかり見逃せないものが入ってきた。
街道から少し離れたところに小さな村が煙を上げていたのだ。
どう見ても炊事の煙ではないどころか、ただの火事でもない。
恐らくは焼き討ちを受けた直後だろう。
既に火は殆ど収まっていて、粗末なレンガ造りの建物はほぼ焼け焦げてしまっている。
これはいつものように関わったらロクでもない事になりそうではあるが、残念ながら見て見ぬふりも出来ない。
そんなわけでオレは街道を離れて、まだ煙がくすぶる廃虚に足を向けた。
村の周囲には山地を切り開いた粗末な畑が広がっており、また小さいながら家畜の囲いもあるようだ。
囲いの中は空っぽなので、家畜は残らず襲撃者に連れ去られてしまったのだろうな。
廃虚に近づくと無残な死体が幾つか否応なしに目に入ってきて胸が悪くなる。
この世界に来てから、人間の死体を見る事はしょっちゅうになったけどそれでも絶対に平気ではいられない。
オレが自分にかけている『霊視』の魔法で霊体を見る事が出来るので、本当に死体かそうでないか、そして幽霊だとかアンデッドの類いはすぐに分かるが、転がっているのは今のところ全て『ただのしかばね』のようだ。
せめて埋葬ぐらいはしたいところだが、今は生存者を探すのが優先だな。
まあどのみちオレ一人では死体をいちいち埋めるわけにはいかないので、土の精霊にでも頼み、まとめて土の中に埋めてもらうぐらいの大ざっぱな事しか出来ないけどな。
崩れかけた土塀を越えて廃虚となった村の中に入ると、予想していた通り凄惨な光景が展開していた。
どうやら襲撃者は逃げ惑う村人を追い回して次々に殺害した様子だ。ただ村の規模からすると住民は数十人いたはずだが、死体がやや少ない気がしてくる。
逃げ延びた生き残りがいるのか、それとも生き残りは全て襲撃者に連れ去られたのか。
どっちにしろこの襲撃者は単純な略奪目当てで、村を襲撃したのでないことは確かだろう。
実際に神様がいて、生活に密着しているこの世界だと宗教的に対立していると言うだけで、敵対勢力に属する集落を攻め滅ぼす事もしばしばある事だ。
ロクでもない神様の場合、信徒にそのような行為を推奨している事すらある。
幸か不幸か死体がアンデッドになっていないと言う事は、オレが以前に出会ったアンデッド教団『虚ろなる者』とかその類いではないはずだが、そんなのは惨殺された村人達には何も助けにもならない話だ。
とにかくそんな事を考えつつ、村長宅とおぼしき建物に足を踏みいれる。
ひょっとしたら誰かが隠れているかもしれないと思ったからだ。
だがそこに入ったオレは改めて胸が悪くなり、正直吐き気がしてきた。
建物の中は死臭が色濃く漂い、ハエが多数飛び回っている。
しかし異様なのはそんな事では無い。
肉体に対し彫刻でもするかのように奇妙な模様を刻まれた死体が幾つか、建物に入った正面のところの壁に杭で打ち付けられていたのだ。
その周囲には他の死体から切り取られた手や耳など身体の一部が飾り付けるかのように配置され、見るもおぞましいオブジェと化していたのだ。
オレにすれば気持ち悪いだけだが、これはいったい何のつもりだ?
正直に言えばすぐにでも出ていきたいのだが、魔法を見る『魔法眼』によるとこれらの死体には何らかの魔術がかかっているらしい。
ひょっとするとこれを成した相手は『神に捧げる神聖な儀式』として行ったものなのかもしれないぞ。
そう思った時、死体から霊体が立ち上る。
まさか亡霊の類いか? それならここで何が起きたのか話ぐらいは聞かせてもらえるかもしれない。
だがオレが固唾を飲んで見守る中、その亡霊は髪を振り乱し、狂気としか言えない表情でこちらに迫ってくる。
どう見ても話をしてくれるような状態ではない。
理不尽に殺害されてこの世を呪うあまり、生者を呪う悪霊となったのか?
いや違うぞ。恐らくこの死体に施された処置が、彼らの霊体をそのような生者を襲う悪霊へと変異させたのだ。
死者を冒涜するという言葉はよく聞くが、死んだ後の霊体をこんな風に使われるとはアンデッドにされるのと同様の酷すぎる仕打ちだな!
この山脈の名前も地域や文化によって様々だが、大陸をほぼ南北に縦断する巨大な山岳地帯であり、大陸東部と中部を分ける地理的な境界線である事には変わりはない。
重なる山嶺の中にもいくつか盆地や、高原もあり、それだけで他の地域では小国がすっぽりと収まるほど巨大なしろものだ。
その細分化された地域ごとに宗教や文化が微妙に異なっているのも、この世界ではよくあることだ。
あと山中の隘路を交易路がいくつも通っている事から、その途中には宿場町などもあり決して前人未到の山登りというわけではない。
しかし交易路には当然、高価な交易品目当ての山賊の類が出る。
隊商だったら護衛を雇っているけど、オレの場合は当然ひとり旅なので見つかるといろいろ面倒だ。
山賊ごときオレの魔法を使えばどうにでもなる、と言いたいが不意打ちで身体の自由を奪われたりするとやはり危ない。
もしも捕まったりすればどうなるか――想像するのは辞めておこう。
もちろんドルイド魔法を駆使すれば、普通は人の通らない場所を通過できるけど、この世界ではろくでもない精霊どころか場合によっては山の神様まで出てくるので、人がいないところだからといって安心できるわけでもない。
そんなわけでオレはそれなりに広い街道を歩んでいたが、そうすると視界の片隅にちょっとばかり見逃せないものが入ってきた。
街道から少し離れたところに小さな村が煙を上げていたのだ。
どう見ても炊事の煙ではないどころか、ただの火事でもない。
恐らくは焼き討ちを受けた直後だろう。
既に火は殆ど収まっていて、粗末なレンガ造りの建物はほぼ焼け焦げてしまっている。
これはいつものように関わったらロクでもない事になりそうではあるが、残念ながら見て見ぬふりも出来ない。
そんなわけでオレは街道を離れて、まだ煙がくすぶる廃虚に足を向けた。
村の周囲には山地を切り開いた粗末な畑が広がっており、また小さいながら家畜の囲いもあるようだ。
囲いの中は空っぽなので、家畜は残らず襲撃者に連れ去られてしまったのだろうな。
廃虚に近づくと無残な死体が幾つか否応なしに目に入ってきて胸が悪くなる。
この世界に来てから、人間の死体を見る事はしょっちゅうになったけどそれでも絶対に平気ではいられない。
オレが自分にかけている『霊視』の魔法で霊体を見る事が出来るので、本当に死体かそうでないか、そして幽霊だとかアンデッドの類いはすぐに分かるが、転がっているのは今のところ全て『ただのしかばね』のようだ。
せめて埋葬ぐらいはしたいところだが、今は生存者を探すのが優先だな。
まあどのみちオレ一人では死体をいちいち埋めるわけにはいかないので、土の精霊にでも頼み、まとめて土の中に埋めてもらうぐらいの大ざっぱな事しか出来ないけどな。
崩れかけた土塀を越えて廃虚となった村の中に入ると、予想していた通り凄惨な光景が展開していた。
どうやら襲撃者は逃げ惑う村人を追い回して次々に殺害した様子だ。ただ村の規模からすると住民は数十人いたはずだが、死体がやや少ない気がしてくる。
逃げ延びた生き残りがいるのか、それとも生き残りは全て襲撃者に連れ去られたのか。
どっちにしろこの襲撃者は単純な略奪目当てで、村を襲撃したのでないことは確かだろう。
実際に神様がいて、生活に密着しているこの世界だと宗教的に対立していると言うだけで、敵対勢力に属する集落を攻め滅ぼす事もしばしばある事だ。
ロクでもない神様の場合、信徒にそのような行為を推奨している事すらある。
幸か不幸か死体がアンデッドになっていないと言う事は、オレが以前に出会ったアンデッド教団『虚ろなる者』とかその類いではないはずだが、そんなのは惨殺された村人達には何も助けにもならない話だ。
とにかくそんな事を考えつつ、村長宅とおぼしき建物に足を踏みいれる。
ひょっとしたら誰かが隠れているかもしれないと思ったからだ。
だがそこに入ったオレは改めて胸が悪くなり、正直吐き気がしてきた。
建物の中は死臭が色濃く漂い、ハエが多数飛び回っている。
しかし異様なのはそんな事では無い。
肉体に対し彫刻でもするかのように奇妙な模様を刻まれた死体が幾つか、建物に入った正面のところの壁に杭で打ち付けられていたのだ。
その周囲には他の死体から切り取られた手や耳など身体の一部が飾り付けるかのように配置され、見るもおぞましいオブジェと化していたのだ。
オレにすれば気持ち悪いだけだが、これはいったい何のつもりだ?
正直に言えばすぐにでも出ていきたいのだが、魔法を見る『魔法眼』によるとこれらの死体には何らかの魔術がかかっているらしい。
ひょっとするとこれを成した相手は『神に捧げる神聖な儀式』として行ったものなのかもしれないぞ。
そう思った時、死体から霊体が立ち上る。
まさか亡霊の類いか? それならここで何が起きたのか話ぐらいは聞かせてもらえるかもしれない。
だがオレが固唾を飲んで見守る中、その亡霊は髪を振り乱し、狂気としか言えない表情でこちらに迫ってくる。
どう見ても話をしてくれるような状態ではない。
理不尽に殺害されてこの世を呪うあまり、生者を呪う悪霊となったのか?
いや違うぞ。恐らくこの死体に施された処置が、彼らの霊体をそのような生者を襲う悪霊へと変異させたのだ。
死者を冒涜するという言葉はよく聞くが、死んだ後の霊体をこんな風に使われるとはアンデッドにされるのと同様の酷すぎる仕打ちだな!
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