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第19章 神気の山脈にて
第772話 噂の主の正体とは
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民兵達は明らかにこの様子に怯えている。
それは先ほど彼らが叫んだ『噂』に関連しているのは明らかだろう。
「すみません。よろしければその噂について教えていただけませんか?」
「こんなところにわざわざ足を運ぶだけあって、本当に向こう見ずなヤツだな」
民兵はどこか呆れた様子で質問したオレを見る。
「命を縮めたくねえなら、余計な事に関わるもんじゃねえぞ」
「旅のもんはさっさとここを離れて、次の宿場にいけよ」
ううむ。やっぱり教えたくないらしい。
ただ悪意があって隠しているのではなく、相手を恐れるのと、オレの身を案じる気持ちの両方があるようだ。
「そう言わず教えて下さい。何も知らなかったら、旅の途中で気付かずに襲われてしまうかもしれないではありませんか」
オレが懇願すると、民兵達はしばし顔を見合わせ、そこでようやく口を開く。
「断っておくがあくまでも噂だからな。正しくなくとも責任は持てないぞ」
「それに噂だからって決して馬鹿にするなよ」
「後で間違っていたと化けて出てこられても困るからな」
この世界では『化けて出る』という言葉も冗談では済まないからな。この人達が心配する気持ちも分かる。
「ええ。それは結構ですよ」
もちろん噂を鵜呑みにするわけにいかないのは、これまで何度も身に染みてきたことだ。
しかしオレの経験では当てにならない噂でも、一片の真実は含まれている事が多いし、何も知らないよりは何らかの手がかりがある方がいいものだ。
「分かった。教えてやるが最近、この近くに『神様』が姿をお見せになったという噂が流れているんだ」
なんだって? 神様が姿を見せただって?
そんな事、よくある普通の事じゃないか、などと一瞬考えたけど、それはオレがあまりに特別だからか。
この場合は、オレの経験を元にしたら基準が違いすぎるのだな。
だがオレの表情を見て、民兵達は『やっぱりな』とでも言わんばかりの態度を見せる。
「ほうら。これだから旅のもんは……」
あれ? 何か気分を害するような事をしたっけ?
「おめえ。俺達を根も葉もない噂にビビっている田舎モンだとでも思って、内心で馬鹿にしているだろ」
ああ。そういうことか。
この世界だと『神様が姿を見せた』という話をすれば、もちろんそれを信じて畏怖する場合があるけど、もうひとつ『神様を騙るインチキ』だと信じない事も当然ある。
町々にその守護神がいるぐらい身近な存在ではあるが、それでも司祭のような特権階級でなければ神様に接する機会など一生ないのが殆どの人間なのだ。
あと神様だとか英雄を名乗って、金を巻き上げるようないかがわしい連中も大勢いる――オレの場合も『アルタシャ』の偽者についての話を何度聞かされたか分からない。
そんなわけで『神様』と聞いた時の反応が畏怖からほど遠いものだったから、民兵達はオレがデマだと決めつけていると思ったらしい。
「いえ。決して馬鹿になどしていません。むしろありがたい話なので、よろしければもっと聞かせて下さい」
「本当かよ……だけどこの話は決してありがたいものではないし、さっきも言ったように絶対に関わるんじゃねえぞ」
「それでその神様というのはどんなお名前なんですか?」
オレが関心あることを示すために聞いてはみたが、実のところこれはあんまり当てにならない質問だ。
この世界の場合、組織だった崇拝をされていない場合――もしくはされていても――場所によって神様の名前や神話が違うなど珍しい事では無い。
だから前に出会った『神造者』は自分達に都合のよい『公式神話』を作って神様を当てはめる事で『効率のよい崇拝』を目指していたのだった。
だからオレが聞いた事の無い名前の神様でも、実は過去に出会った事のある相手がこの地域ではそう呼ばれているだけという場合も当然ありうるのだ。
だがオレの質問に対し、民兵達はまた困った様子を見せる。
「いろいろな名前で呼ばれているんだが……このあたりでは『椀かづき』様で通っている」
「はあ……『椀かづき』様ですか?」
ここはちょっとばかりオレも意表をつかれる。この名前は要するに『お椀をかぶっている神様』という事だよな。
もちろんいろいろな事に守護神のいるこの世界だから、お椀をかぶっている神様がいても全然不思議でもなんでも無いが、想像してちょっとばかり微笑ましい気はしても、とても恐れられる外見ではないだろう。
ましてやそれが姿を見せたからと言って、殺し合いになるとはとても思えない。
だがオレのこの反応は、民兵達にとっても予想通りだったらしい。
「名前だけだったら、まるで怖くない神様に思えるだろうけどな。だが『椀かづき』様の掲げている椀が何のためにあるか聞けば、そんな気はしなくなるぜ」
「どういうことなんでしょうか?」
たとえば神様が出会った相手に財産を貢がせて、巻き上げた金品を椀に中に入れているとかだったら、その伝説を聞いた人間が欲望に駆られていろいろ争ったりもするだろうな。
だが民兵の語る『椀かづき』の伝説はそんなオレの予想など軽くぶっちぎるものだった。
「神様がかついでいる椀は、その上ではねた生け贄の首からあふれる生き血を受け止めて貯めるためにあるんだよ」
どうやらまだまだオレの考えは甘かったらしい。
それは先ほど彼らが叫んだ『噂』に関連しているのは明らかだろう。
「すみません。よろしければその噂について教えていただけませんか?」
「こんなところにわざわざ足を運ぶだけあって、本当に向こう見ずなヤツだな」
民兵はどこか呆れた様子で質問したオレを見る。
「命を縮めたくねえなら、余計な事に関わるもんじゃねえぞ」
「旅のもんはさっさとここを離れて、次の宿場にいけよ」
ううむ。やっぱり教えたくないらしい。
ただ悪意があって隠しているのではなく、相手を恐れるのと、オレの身を案じる気持ちの両方があるようだ。
「そう言わず教えて下さい。何も知らなかったら、旅の途中で気付かずに襲われてしまうかもしれないではありませんか」
オレが懇願すると、民兵達はしばし顔を見合わせ、そこでようやく口を開く。
「断っておくがあくまでも噂だからな。正しくなくとも責任は持てないぞ」
「それに噂だからって決して馬鹿にするなよ」
「後で間違っていたと化けて出てこられても困るからな」
この世界では『化けて出る』という言葉も冗談では済まないからな。この人達が心配する気持ちも分かる。
「ええ。それは結構ですよ」
もちろん噂を鵜呑みにするわけにいかないのは、これまで何度も身に染みてきたことだ。
しかしオレの経験では当てにならない噂でも、一片の真実は含まれている事が多いし、何も知らないよりは何らかの手がかりがある方がいいものだ。
「分かった。教えてやるが最近、この近くに『神様』が姿をお見せになったという噂が流れているんだ」
なんだって? 神様が姿を見せただって?
そんな事、よくある普通の事じゃないか、などと一瞬考えたけど、それはオレがあまりに特別だからか。
この場合は、オレの経験を元にしたら基準が違いすぎるのだな。
だがオレの表情を見て、民兵達は『やっぱりな』とでも言わんばかりの態度を見せる。
「ほうら。これだから旅のもんは……」
あれ? 何か気分を害するような事をしたっけ?
「おめえ。俺達を根も葉もない噂にビビっている田舎モンだとでも思って、内心で馬鹿にしているだろ」
ああ。そういうことか。
この世界だと『神様が姿を見せた』という話をすれば、もちろんそれを信じて畏怖する場合があるけど、もうひとつ『神様を騙るインチキ』だと信じない事も当然ある。
町々にその守護神がいるぐらい身近な存在ではあるが、それでも司祭のような特権階級でなければ神様に接する機会など一生ないのが殆どの人間なのだ。
あと神様だとか英雄を名乗って、金を巻き上げるようないかがわしい連中も大勢いる――オレの場合も『アルタシャ』の偽者についての話を何度聞かされたか分からない。
そんなわけで『神様』と聞いた時の反応が畏怖からほど遠いものだったから、民兵達はオレがデマだと決めつけていると思ったらしい。
「いえ。決して馬鹿になどしていません。むしろありがたい話なので、よろしければもっと聞かせて下さい」
「本当かよ……だけどこの話は決してありがたいものではないし、さっきも言ったように絶対に関わるんじゃねえぞ」
「それでその神様というのはどんなお名前なんですか?」
オレが関心あることを示すために聞いてはみたが、実のところこれはあんまり当てにならない質問だ。
この世界の場合、組織だった崇拝をされていない場合――もしくはされていても――場所によって神様の名前や神話が違うなど珍しい事では無い。
だから前に出会った『神造者』は自分達に都合のよい『公式神話』を作って神様を当てはめる事で『効率のよい崇拝』を目指していたのだった。
だからオレが聞いた事の無い名前の神様でも、実は過去に出会った事のある相手がこの地域ではそう呼ばれているだけという場合も当然ありうるのだ。
だがオレの質問に対し、民兵達はまた困った様子を見せる。
「いろいろな名前で呼ばれているんだが……このあたりでは『椀かづき』様で通っている」
「はあ……『椀かづき』様ですか?」
ここはちょっとばかりオレも意表をつかれる。この名前は要するに『お椀をかぶっている神様』という事だよな。
もちろんいろいろな事に守護神のいるこの世界だから、お椀をかぶっている神様がいても全然不思議でもなんでも無いが、想像してちょっとばかり微笑ましい気はしても、とても恐れられる外見ではないだろう。
ましてやそれが姿を見せたからと言って、殺し合いになるとはとても思えない。
だがオレのこの反応は、民兵達にとっても予想通りだったらしい。
「名前だけだったら、まるで怖くない神様に思えるだろうけどな。だが『椀かづき』様の掲げている椀が何のためにあるか聞けば、そんな気はしなくなるぜ」
「どういうことなんでしょうか?」
たとえば神様が出会った相手に財産を貢がせて、巻き上げた金品を椀に中に入れているとかだったら、その伝説を聞いた人間が欲望に駆られていろいろ争ったりもするだろうな。
だが民兵の語る『椀かづき』の伝説はそんなオレの予想など軽くぶっちぎるものだった。
「神様がかついでいる椀は、その上ではねた生け贄の首からあふれる生き血を受け止めて貯めるためにあるんだよ」
どうやらまだまだオレの考えは甘かったらしい。
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