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第19章 神気の山脈にて
第771話 襲撃者が何者か
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とりあえず亡霊を追い払ったところで、オレは死体や他の奇怪なオブジェを取り除く。
推測だがここは村を襲撃した連中が『清め』た上で自分たちの崇拝する相手――それは場合によって神だったり精霊だったり英雄だったりするが、どれでも大差はない――に捧げた礼拝所とされていたのだろう。
この世界では大規模な寺院で組織的に礼拝されることもあれば、ただ適当に周囲の石を積み上げて作った『祭壇』で礼拝儀式を行う事もある。
後者と比較すれば殺した相手の死体で作った礼拝所は、おぞましくとも手が込んでいると言うべきかもしれない。
おそらく礼拝される側からすれば、信徒が霊力を捧げさえすればいいのであって、どんな形で礼拝しようが同じなのだろう――オレ自身そこらの神よりも礼拝を受けている身だけど、信仰を捧げる場所がどうなっているのかなど分からない。
壮麗な寺院や美しい宗教画、手の込んだ礼服をまとった司祭たちによる壮大な儀式は元の世界と同じく『信者たちのため』にあるものと言うべきか。
もっともこれはあくまでもオレ自身の経験によるものだから、中にはしちめんどうな儀式とか厳しい禁欲生活とか、悪くすれば人間の生贄を捧げたりしないと、信仰を受け付けない面倒な神様がいても不思議ではない。
人間でも神様でも『こだわり』というものは、なかなか他者には理解できないものだ。
何しろオレ自身、神界に足を踏み入れず、人の身のままであることを奇異に思われた事はしょっちゅうだからな。
しかしこの村には生存者はいないのか、それとも全員逃げたか、連れ去られたかのいずれだろうか。
ただ逃げたのならまだいいけど、連れ去られたとなるとどう考えても悲惨な末路しか想像できないぞ。
そんな事を考えていると、俺が今いる建物の周囲が騒がしくなってくる。
むう。逃げた村人が戻ってきたのならまだしも、襲撃した連中がまた来たのだったらたまったもんじゃない。
「誰かいないのか?!」
「おおい! 生きているものがいたら返事をしろ!」
定番の呼びかけを行っている相手は、武装した兵士の一団だった。
装備しているのは皮鎧と粗末な槍なので、恐らくは民兵だろう。
あたりを見回しつつ、おっかなびっくり死体を槍で突いたり、引っ張ったりしている様子からして、あまり士気は高くはないらしいが、少なくともここを襲撃した連中の仲間ではないはずだ。
そうなるとこちらから出ていくべきだろう。
オレがひとまず建物を出ると、民兵達が明らかに緊張を込めてこちらに槍の切っ先を突きつけてくる。
「何だお前は?!」
「気をつけろ! この村のものじゃないぞ!」
当然だけどあからさまに警戒されているようだ。
ひとまず暴力的活動を抑止する『調和』をかけた上で、話かけるとしよう。
「待って下さい。ただの旅の者です」
「本当か?!」
「とにかく武器を下げてもらえませんか。見ての通りこちらは丸腰ですから」
民兵はオレが一人だけで、武器も持っていないのを確認すると少しは落ち着いた様子を見せる。
「いいだろう。だがなんでここに来たんだ?」
「街道を歩いていたら、この村から火の手が上がっているのが見えたので、何が起きたのかと思って立ち寄っただけですよ」
「まあいいだろう。ところでここにいるのはお前だけか?」
「わたしもついさっきここに来たばかりなんですけど、他の人は見かけませんでした」
「そうか……」
オレの返答を聞いて、民兵達には少しばかり怯えの色が見える。
やはりここを襲撃した連中に心当たりがあるようだ。
「差し支えなければ、ここを襲ったのが何者なのか教えていただけないでしょうか?」
「お前……怖いもの知らずだな……」
「まあ旅のもんだから仕方ないだろうよ」
どうやら本当に恐れられているらしいな。ついさっきオレが出くわしたように、殺した相手を亡霊に変えてしまうような相手だったら、民兵達が恐れるのは当然か。
だがここで民兵達は困ったように答える。
「何者が襲ったのかなんて、俺達にも分からねえよ」
「こっちだって急いで駆けつけてきたのだからな」
それはまあその通りではあるが、ちょっとばかり気になる点があるぞ。
「あのう……もしかしてこの辺りでは、こんなことがしょっちゅう起きているのですか?」
「ああそうだ。だからお前も気をつけろよ。旅のもんもしばしば襲われているからな」
うげえ。地元の民兵でもこんなことをしでかす相手の心当たりが幾つもあって見当もつかないのか?
だけど彼らの怖れの意味はただ治安が悪いだけのようには思えない。
「そんなにこの地域は危険が多いのですか?」
「いや。少し前まではそうでもなかったんだがな……」
「おい! 見ろよ! やっぱりそうだ!」
ここで民兵の一人が転がっている死体を引っ張りつつ叫んだ。
「どうしたんです?」
オレは別に熱心に死体を見ていたわけではない――そもそも見たくも無い――がその民兵が指差しているのは、他に転がっている死体と比べても特に違いがあるようには見えない、
だからオレもそのままにしていたけど、地元に人間には分かる何かがあるのか?
「前に見かけた事があるから間違い無い。こいつは隣村のヤツだ!」
うん。それがそんなに驚く事なのか。
たまたま隣村の人間が来ていて、巻き添えを食って殺されただけ、ではない?
それが『不幸な巻き添え』でないとしたらそれが意味するものは――隣の村同士でこんな虐殺行為に手を染めている事になるぞ!
「あの噂は本当だったんだ!」
民兵達は戦慄した表情を浮かべつつ、お互いの顔を見合わせていた。
推測だがここは村を襲撃した連中が『清め』た上で自分たちの崇拝する相手――それは場合によって神だったり精霊だったり英雄だったりするが、どれでも大差はない――に捧げた礼拝所とされていたのだろう。
この世界では大規模な寺院で組織的に礼拝されることもあれば、ただ適当に周囲の石を積み上げて作った『祭壇』で礼拝儀式を行う事もある。
後者と比較すれば殺した相手の死体で作った礼拝所は、おぞましくとも手が込んでいると言うべきかもしれない。
おそらく礼拝される側からすれば、信徒が霊力を捧げさえすればいいのであって、どんな形で礼拝しようが同じなのだろう――オレ自身そこらの神よりも礼拝を受けている身だけど、信仰を捧げる場所がどうなっているのかなど分からない。
壮麗な寺院や美しい宗教画、手の込んだ礼服をまとった司祭たちによる壮大な儀式は元の世界と同じく『信者たちのため』にあるものと言うべきか。
もっともこれはあくまでもオレ自身の経験によるものだから、中にはしちめんどうな儀式とか厳しい禁欲生活とか、悪くすれば人間の生贄を捧げたりしないと、信仰を受け付けない面倒な神様がいても不思議ではない。
人間でも神様でも『こだわり』というものは、なかなか他者には理解できないものだ。
何しろオレ自身、神界に足を踏み入れず、人の身のままであることを奇異に思われた事はしょっちゅうだからな。
しかしこの村には生存者はいないのか、それとも全員逃げたか、連れ去られたかのいずれだろうか。
ただ逃げたのならまだいいけど、連れ去られたとなるとどう考えても悲惨な末路しか想像できないぞ。
そんな事を考えていると、俺が今いる建物の周囲が騒がしくなってくる。
むう。逃げた村人が戻ってきたのならまだしも、襲撃した連中がまた来たのだったらたまったもんじゃない。
「誰かいないのか?!」
「おおい! 生きているものがいたら返事をしろ!」
定番の呼びかけを行っている相手は、武装した兵士の一団だった。
装備しているのは皮鎧と粗末な槍なので、恐らくは民兵だろう。
あたりを見回しつつ、おっかなびっくり死体を槍で突いたり、引っ張ったりしている様子からして、あまり士気は高くはないらしいが、少なくともここを襲撃した連中の仲間ではないはずだ。
そうなるとこちらから出ていくべきだろう。
オレがひとまず建物を出ると、民兵達が明らかに緊張を込めてこちらに槍の切っ先を突きつけてくる。
「何だお前は?!」
「気をつけろ! この村のものじゃないぞ!」
当然だけどあからさまに警戒されているようだ。
ひとまず暴力的活動を抑止する『調和』をかけた上で、話かけるとしよう。
「待って下さい。ただの旅の者です」
「本当か?!」
「とにかく武器を下げてもらえませんか。見ての通りこちらは丸腰ですから」
民兵はオレが一人だけで、武器も持っていないのを確認すると少しは落ち着いた様子を見せる。
「いいだろう。だがなんでここに来たんだ?」
「街道を歩いていたら、この村から火の手が上がっているのが見えたので、何が起きたのかと思って立ち寄っただけですよ」
「まあいいだろう。ところでここにいるのはお前だけか?」
「わたしもついさっきここに来たばかりなんですけど、他の人は見かけませんでした」
「そうか……」
オレの返答を聞いて、民兵達には少しばかり怯えの色が見える。
やはりここを襲撃した連中に心当たりがあるようだ。
「差し支えなければ、ここを襲ったのが何者なのか教えていただけないでしょうか?」
「お前……怖いもの知らずだな……」
「まあ旅のもんだから仕方ないだろうよ」
どうやら本当に恐れられているらしいな。ついさっきオレが出くわしたように、殺した相手を亡霊に変えてしまうような相手だったら、民兵達が恐れるのは当然か。
だがここで民兵達は困ったように答える。
「何者が襲ったのかなんて、俺達にも分からねえよ」
「こっちだって急いで駆けつけてきたのだからな」
それはまあその通りではあるが、ちょっとばかり気になる点があるぞ。
「あのう……もしかしてこの辺りでは、こんなことがしょっちゅう起きているのですか?」
「ああそうだ。だからお前も気をつけろよ。旅のもんもしばしば襲われているからな」
うげえ。地元の民兵でもこんなことをしでかす相手の心当たりが幾つもあって見当もつかないのか?
だけど彼らの怖れの意味はただ治安が悪いだけのようには思えない。
「そんなにこの地域は危険が多いのですか?」
「いや。少し前まではそうでもなかったんだがな……」
「おい! 見ろよ! やっぱりそうだ!」
ここで民兵の一人が転がっている死体を引っ張りつつ叫んだ。
「どうしたんです?」
オレは別に熱心に死体を見ていたわけではない――そもそも見たくも無い――がその民兵が指差しているのは、他に転がっている死体と比べても特に違いがあるようには見えない、
だからオレもそのままにしていたけど、地元に人間には分かる何かがあるのか?
「前に見かけた事があるから間違い無い。こいつは隣村のヤツだ!」
うん。それがそんなに驚く事なのか。
たまたま隣村の人間が来ていて、巻き添えを食って殺されただけ、ではない?
それが『不幸な巻き添え』でないとしたらそれが意味するものは――隣の村同士でこんな虐殺行為に手を染めている事になるぞ!
「あの噂は本当だったんだ!」
民兵達は戦慄した表情を浮かべつつ、お互いの顔を見合わせていた。
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