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第19章 神気の山脈にて
第789話 襲撃とその裏にあるものは
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山賊連中の言葉を聞いてフォラジの顔色が変わる。
「何だと? それではボクの研究成果はどうなったんだ?!」
そこで『砦はどうなった』と聞かないのが、この男のぶれないところだな。
もしも砦が攻め滅ぼされても、自分の社が無事ならあからさまに安堵するのだろうな。
「はあ? 『けんきゅうせいか』だと? なんだそりゃ?」
「ひょっとして何か凄いお宝なのか?!」
フォラジが顔色を変えたのを見て、山賊達も欲得尽くの表情を浮かべる。
こいつらも何とも分かりやすい連中だ。
「何の事だか分からんが、今から見せてやるぜ。俺たちと一緒に来るならな」
「そうだ。お宝があるというならオレ達を案内しやがれ」
そう言って男の一人は狩猟用と思しき、手作りの弓を構える。
「おいおい。その前に女の方は俺たちで味わおうぜ」
「生贄になっちまった後でやるわけにはいかねえからな」
「へえ。お前だったら入れるところだけあれば十分かと思っていたぜ」
少しは情報が得られるかと思って話だけは聞いてみたが、これ以上は反吐の出るような話題で下卑た笑いを浮かべる連中と付き合うのは真っ平である。
「もう。黙ってなさい!」
オレは再び連中に『平静』をかけて動きを止める。
どうせ改心の見込みも無さそうだけど、さすがに殺すわけにもいかないし先を急ぐべきなので、ここは置き去りにしていこう。
「ど、どうしたのですか?」
連中がいきなり停止したのを見て、ハラーダは困惑した声を挙げる。
「むう。そういえば昨日から、何度かこんな事が起きているが……ひょっとすると――」
フォラジは僅かに考え込んだ様子を見せる。
初対面の時からオレが『平静』で精神を硬直させる事を何度もやっているから、いい加減フォラジも気付くだろうな。
「これは我がマークホール神がボクを助力してくれているに違いない」
そっちかい?! いくら何でも都合よく考えすぎだ。
それで下手に暴走されたらこちらもヤバいので釘を刺しておかねばなるまい。
だがここでフォラジはオレの方に向き直る。
「昨日から幾度もボクを助けてくれていたのだね。感謝するよ」
「え?」
「アル君がボクのところに来たのは、マークホール神のお導きだろう。さすがに我が賢神は全てをお見通しであられる」
そんなに何でもお見通しなら、この危機も事前に教えていてくれと言いたくなるな。
「君がその若さでそれだけの魔法が使えるとは、昨日言ったように女神の血を引いているからかもしれないな」
「神様の血筋? やっぱりそうなのですか?!」
ハラーダもあっさりと同意しているな。
この場合、フォラジはオレの容姿よりも魔力を重視しているわけだが、ハラーダの方はイロールの外見も知らなくとも、容姿から想像しているのだろうなあ。
「とにかくこの場を急いで離れて、砦の様子を確認しましょう」
「あのう……あたしはどうすればいいですか?」
ハラーダからすれば武器も持たないオレ達と一緒に、燃えている砦に向かうなんて危なすぎる話だな。
もっとも正直に言えばオレ一人で行くべきなんだろうけど、自分の『研究成果』を確認しようとするフォラジを制止しても無駄だな。
だがハラーダは一人でも早く逃げた方がいいだろうか?
しかし砦に向かうのは危険だが、彼女一人で逃げても大丈夫とは言いがたい。
「ここは一緒に行きましょう」
「そうだ! ボクの研究を何としても守らねば!」
「分かりました」
そんなわけでオレ達は稜線を越えて、砦に向かう。
ひょっとすると万に一つ、ちょっとした火事だけで砦は無事だとか、下手をするとフォラジの社だけ燃えているとか――ギャグではよくあるが、本当にそんな事になったらさすがにフォラジが気の毒だ――そんな事もありうるかと希望を抱いていた。
しかしそれはやっぱり儚い希望でしかなかった。
砦とその近くの建物のあちこちから火の手が上がり、武器を手に手に取った連中がざっと見ただけでも数十人が周囲を動き回っている。
そして周囲には守備兵と攻撃した連中、双方の死体が幾つも転がっていた。
それは短時間でもかなり激しい戦闘が行われた事の証だった。
「ああ! ボクの血と汗の結晶が!」
その光景にフォラジは頭を抱える。たださすがにこの状況で慌てて駆け出したりするほど非常識では無かったか。
「あれを集めるためにボクがどれだけ――」
「生きていたら何度でもやり直せますけど、死んでしまったら全部お終いですから落ち着いて下さい」
数人の相手なら『平静』の魔法でどうにかなるし、暴力的活動を抑止する『調和』も使えるが、相手が数十人となるとそうはいかない。『調和』は魔法をかけたときに、オレの視界内にいない相手には効かないし、そいつらが暴力に訴えた時点で魔法が破れてしまうので、こんな状況では効果が期待出来ないのだ。
しかしあの連中はいったい何のためにこの砦を襲撃したのだろうか?
もちろんそんな連中にとって、警備目的の砦が目障りなのは分かる。だが確実に犠牲が出て、かつお宝があるわけでもないところを攻撃するのはおかしい。
山賊の目当てはあくまでも金品であり、弱い旅人や交易商を襲って奪うのが普通の行動だからだ。
そうするとこの裏には何ものかの意図があるはずだ。
しかもその相手はバラバラだった山賊共を束ねて、命を賭けさせているのだから、かなりの指導力がある事になるぞ。
これは容易ならぬ状況だ。オレにとってはいつもの事でもあるのだけど。
「何だと? それではボクの研究成果はどうなったんだ?!」
そこで『砦はどうなった』と聞かないのが、この男のぶれないところだな。
もしも砦が攻め滅ぼされても、自分の社が無事ならあからさまに安堵するのだろうな。
「はあ? 『けんきゅうせいか』だと? なんだそりゃ?」
「ひょっとして何か凄いお宝なのか?!」
フォラジが顔色を変えたのを見て、山賊達も欲得尽くの表情を浮かべる。
こいつらも何とも分かりやすい連中だ。
「何の事だか分からんが、今から見せてやるぜ。俺たちと一緒に来るならな」
「そうだ。お宝があるというならオレ達を案内しやがれ」
そう言って男の一人は狩猟用と思しき、手作りの弓を構える。
「おいおい。その前に女の方は俺たちで味わおうぜ」
「生贄になっちまった後でやるわけにはいかねえからな」
「へえ。お前だったら入れるところだけあれば十分かと思っていたぜ」
少しは情報が得られるかと思って話だけは聞いてみたが、これ以上は反吐の出るような話題で下卑た笑いを浮かべる連中と付き合うのは真っ平である。
「もう。黙ってなさい!」
オレは再び連中に『平静』をかけて動きを止める。
どうせ改心の見込みも無さそうだけど、さすがに殺すわけにもいかないし先を急ぐべきなので、ここは置き去りにしていこう。
「ど、どうしたのですか?」
連中がいきなり停止したのを見て、ハラーダは困惑した声を挙げる。
「むう。そういえば昨日から、何度かこんな事が起きているが……ひょっとすると――」
フォラジは僅かに考え込んだ様子を見せる。
初対面の時からオレが『平静』で精神を硬直させる事を何度もやっているから、いい加減フォラジも気付くだろうな。
「これは我がマークホール神がボクを助力してくれているに違いない」
そっちかい?! いくら何でも都合よく考えすぎだ。
それで下手に暴走されたらこちらもヤバいので釘を刺しておかねばなるまい。
だがここでフォラジはオレの方に向き直る。
「昨日から幾度もボクを助けてくれていたのだね。感謝するよ」
「え?」
「アル君がボクのところに来たのは、マークホール神のお導きだろう。さすがに我が賢神は全てをお見通しであられる」
そんなに何でもお見通しなら、この危機も事前に教えていてくれと言いたくなるな。
「君がその若さでそれだけの魔法が使えるとは、昨日言ったように女神の血を引いているからかもしれないな」
「神様の血筋? やっぱりそうなのですか?!」
ハラーダもあっさりと同意しているな。
この場合、フォラジはオレの容姿よりも魔力を重視しているわけだが、ハラーダの方はイロールの外見も知らなくとも、容姿から想像しているのだろうなあ。
「とにかくこの場を急いで離れて、砦の様子を確認しましょう」
「あのう……あたしはどうすればいいですか?」
ハラーダからすれば武器も持たないオレ達と一緒に、燃えている砦に向かうなんて危なすぎる話だな。
もっとも正直に言えばオレ一人で行くべきなんだろうけど、自分の『研究成果』を確認しようとするフォラジを制止しても無駄だな。
だがハラーダは一人でも早く逃げた方がいいだろうか?
しかし砦に向かうのは危険だが、彼女一人で逃げても大丈夫とは言いがたい。
「ここは一緒に行きましょう」
「そうだ! ボクの研究を何としても守らねば!」
「分かりました」
そんなわけでオレ達は稜線を越えて、砦に向かう。
ひょっとすると万に一つ、ちょっとした火事だけで砦は無事だとか、下手をするとフォラジの社だけ燃えているとか――ギャグではよくあるが、本当にそんな事になったらさすがにフォラジが気の毒だ――そんな事もありうるかと希望を抱いていた。
しかしそれはやっぱり儚い希望でしかなかった。
砦とその近くの建物のあちこちから火の手が上がり、武器を手に手に取った連中がざっと見ただけでも数十人が周囲を動き回っている。
そして周囲には守備兵と攻撃した連中、双方の死体が幾つも転がっていた。
それは短時間でもかなり激しい戦闘が行われた事の証だった。
「ああ! ボクの血と汗の結晶が!」
その光景にフォラジは頭を抱える。たださすがにこの状況で慌てて駆け出したりするほど非常識では無かったか。
「あれを集めるためにボクがどれだけ――」
「生きていたら何度でもやり直せますけど、死んでしまったら全部お終いですから落ち着いて下さい」
数人の相手なら『平静』の魔法でどうにかなるし、暴力的活動を抑止する『調和』も使えるが、相手が数十人となるとそうはいかない。『調和』は魔法をかけたときに、オレの視界内にいない相手には効かないし、そいつらが暴力に訴えた時点で魔法が破れてしまうので、こんな状況では効果が期待出来ないのだ。
しかしあの連中はいったい何のためにこの砦を襲撃したのだろうか?
もちろんそんな連中にとって、警備目的の砦が目障りなのは分かる。だが確実に犠牲が出て、かつお宝があるわけでもないところを攻撃するのはおかしい。
山賊の目当てはあくまでも金品であり、弱い旅人や交易商を襲って奪うのが普通の行動だからだ。
そうするとこの裏には何ものかの意図があるはずだ。
しかもその相手はバラバラだった山賊共を束ねて、命を賭けさせているのだから、かなりの指導力がある事になるぞ。
これは容易ならぬ状況だ。オレにとってはいつもの事でもあるのだけど。
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