異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第19章 神気の山脈にて

第807話 首無しに攻められて

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 首無しの精霊はオレに迫りつつ、その太い腕を振り上げる。
 もちろん実体は無いはずなので、物理的な攻撃は出来ないからここは『霊体遮断』スピリット・スクリーンの魔法で食い止める。
 振り下ろされた腕は、オレの眼前で縫い止められたかのように動きを止める。だが――

「まさか?!」

 精霊の腕はジリジリとオレの防御壁に食い込んでくる。
 いったいどういうことだ?
 オレの魔法防御を破れる程の力は無いはずだが、そうするとコイツには『霊体遮断』では食い止められない実体があるのか?
 たぶん生け贄を捧げたり、山賊連中が無理矢理にでも霊力を与えたりしたので、急速に力を増して、ある程度まで肉体を持てるところまで来たのだろう。
 恐らく過去にも『椀かづき』への信仰が広まったときには、同様の事態があちこちで起きていたに違いない。
 だが肝心の首が見つかっていないのだから、どれだけ力を得ても精霊が満足する事は無く、それでいてその精霊の真意が伝わっていないままだとしたら、力を増しつつ精霊が我慢出来ずにいつしか何もかもがぶち壊しになるという事なのかもしれない。

 だが暢気に状況を分析している場合では無い。
 既にやっこさんの手はオレの眼前にまで迫ってきているのだ。
 まずい。『霊体遮断』の防御壁に魔力を提供し続けているから、どうにか食い止められているけど、いま打ち切ったらその瞬間に首を引きちぎられかねないぞ。
 これは相手を侮り過ぎたか。

『お前の首をよこせ!』
「だからダメだって言っているでしょうが!」
『ええい。首を渡せばいいだけなのに、なぜそこまで拒絶する』

 他人のものを勝手に私物化して、相手に対して理不尽に憤るとは、コイツとフォラジは同類かよ?!
 あんたに理屈が通じないのは、見ての通り首から上が無いからなのか?
 それとも元々の性格なのか?
 そもそも首どころか全身が遥か以前に打ち砕かれたのだから、とっとと死んでろと言いたいのだが、この世界では人間が死んでいないと信じていれば、神様は何度でも蘇る事もありうるのだ――逆に滅びていなくとも、人々から忘れられると神の資格どころか自我すら維持出来ない事もある。
 オレの首を狙っているのもそれが理由なのだから、本当に首を探してやらないと抜本的な解決は不可能だ――もちろん首を見つけても解決出来るかどうかは分からないけど。
 伝説では神代の昔にあの世の入り口ではねられたという『椀かづき』の首がどこにあるのか分かるのなら苦労は無い。

 とにかく今はどうにかコイツの攻撃を避けて逃げるだけだ。
 この首無しが精霊であることには変わりは無い。恐らくは先ほど山賊達から吸収した力を用いて一時的に実体化しているだけのはず。
 姿を現した台座から自由自在に動き回れるものではないだろうし、いつまでもこの形態を維持出来るとも思えない。
 いったん距離を置けば、コイツも諦めて再び台座に戻ってくれる筈だ。
 しかしそれでは何の解決にもならないのも確かだろう。

「落ち着いて下さい。あなたの首がどこにあるのか、自分では分からないのですか?」
『ああそうだ。分からないからこそ、探しているのだ』

 確かに首を切られた胴体の方が、どこに首があるのか分かる方がおかしいか。いや。そんなところだけなんで妙に現実的なんだ?
 やっぱりそのあたりは『信者達がそう思っている』事の反映なのかもしれない。

『我が首を探す事に協力するものも大勢いる。そやつらは多くの首を我に差し出し、それを悦びとしてきたのだ』
「だからそれは違いますって!」

 やっぱりコイツは自分に生け贄の首を捧げる行為の意味を勘違いしていたのか。
 これまでにも神様と信徒の食い違いには何度も直面してきたけど、その勘違い故にこそ太古の昔から信仰が受け継がれてきたのかもしれない。
 何とも面倒な話だな。
 いや。ひょっとしたらシャーマン達も本当の事を知っていた上で、自分達の信仰を維持するためにそれを隠していたかもしれないぞ。
 ああややこしい。
 しかし目の前に首を求める精霊が暴れ回っていて、命の危機にあるはずなのにこんな事に頭を回していられるオレも随分と、慣れてしまったものだな。

『それならばお前が吾の本当の首を探して、差し出すとでも言うのか?』

 この場をやり過ごすだけなら、ウソでも何でもいいから同意するべきなんだろうな。
 だけどそんな約束はどうしても出来ない。
 今まで何度もウソをついてオレだけど、ここでウソをつけないところがやっぱりヘタレなんだろう。

「申し訳ないですけど、そんな約束は出来ません!」
『ならば――』

 改めて首無しがオレに向けて迫ってきた瞬間、周囲にまばゆい閃光が走ってオレの視界が白一色に奪われる。
 なんだ? これはただの光じゃ無い、魔力の閃光だ。
 まさかこの首無しにこんな力があったのか?
 目が無いから、光で他者の視覚を奪っても自分は大丈夫だということなのか!
 オレが慄然とした瞬間、耳には別の叫びが響いて来た。

「ア……アル君! 今です! 早く逃げなさい!」

 思わず振り向くと、そこには先ほど置いてきたはずのフォラジが息を荒げていたのだった。
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